オリエンタル系とは何なのか
オリエンタルとは、東洋志向という意味で、香水業界においては、東洋で産出しヨーロッパへと運ばれてきた香料(主にスパイス)が使われた香水になります。特に、ヨーロッパが抱く東洋(特にインドやアラビア)への幻想やイメージを香りにしており、ミステリアスで官能的、エキゾチックで温かみを感じる香りになっています。
西洋の香水におけるオリエンタル、「東」の世界の香調は、日本から見れば、むしろ「西」寄りなのです。
大沢さとり
オリエンタルノートの特徴
オリエンタルノートの特徴は、バニラ、アンバーノート、パチョリ、サンダルウッド、樹脂(ミルラ、ラブダナム、ベンゾインなど)、ムスクなどに、香辛料が加わっている点になります。
ここにフローラルの要素が加わるとフローラルオリエンタル(フロリエンタル)と呼ばれます。フロリエンタルは、アニマリックな要素やバルサミックな要素が少ないオリエンタルになります。ここにインセンスなどをブレンドするとソフトオリエンタルと呼ばれます。
他にもスパイシーオリエンタルやウッディオリエンタルなど呼ばれるものもあり、グルマンも広義ではオリエンタルに入ります。
ゲランのジッキー(1889)が香水史上、最初にオリエンタルの要素を加えた香水だと言われ、オリエンタルというカテゴリーを生み出すほど市場を動かしたのはゲランのシャリマー(1925)でした。
香水業界にとってのオリエンタル香水とは、建築にとってのバロック様式と同じです。
フレデリック・マル
オリエンタル香水には2種類ある?
専門的な話をすると、実はオリエンタルの香水はそのフォーミュラから大まかに2つのグループに分けることができます。「ambreine accord(アンブレイヌアコード)」と「mellis accord(メリスアコード)」を使ったグループです。
アンブレイヌアコードとは、化学者Samuelsonが作ったベルガモット、バニリン、クマリンに、温かみのあるシベットやウッディノート、ローズのエッセンスを加えたものです。アンブレイヌ(ambreine)は、アンバーグリスの主成分であるアンブレイン(ambrein)とは異なり、何の関係もないことに注意です。
この基本構造は、コティのL’Ambreine(1906)を最初に、ゲランのシャリマーやマストドゥカルティエ(1981)、オブセッション(1985、カルバンクライン)、ムスクラバジュール(2000、フレデリックマル)などに使われています。
一方、メリスアコードとは、濃いフローラルの香りがするベンジルサリシレイト、パチョリ、クローブ(≒オイゲノール)、スズランに、シナモンなどの他のスパイス、ウッディノート、クマリンを加えて作られる香りです。
このアコードは、エスティローダーのユースデュー(1953)、イヴサンローランのオピウム(1977)やシャネルのココ(1984)に使われています。これらはスパイシーオリエンタルと呼ばれることが多いです。
オリエンタルの香水は、ラグジュアリーな布で覆われた部屋を飾る真っ黒な木やコニャックのデカンターといいった、人間が逃げ込むことのできるセンシュアルな世界のイメージを私に想起させます。
トム・フォード
オリエンタル系→アンバー系へ
2021年6月末日、香水業界で世界的権威を持つマイケル・エドワーズが、オリエンタルというカテゴリーはあまりに曖昧で、誤解を与える可能性もあり、技術的な名前でもないということで、オリエンタルではなく「アンバー」というカテゴリーに変更することを提唱しました。オリエンタルは今の時流に乗っていないという考えです。今後は、多くの愛好家がアンバー系と言うようになると考えられます。
代表的な香水
ジッキー(ゲラン、1889、エメ・ゲラン)
ロリガン(コティ、1905、フランソワ・コティ)
エメロード(コティ、1921、フランソワ・コティ)
シャリマー(ゲラン、1925、ジャック・ゲラン)
ユースデュー(エスティローダー、1953、ジョゼフィン・カタパノ)
オピウム(YSL、1977、ジャン・ルイ・シュザック)
ココ(シャネル、1984、ジャック・ポルジュ、フランソワ・ドゥマシー)
ムスクラバジュール(フレデリックマル、2000、モーリス・ルーセル)
ノワールエピス(フレデリックマル、2000、ミシェル・ルドニツカ)
ローディベール(フレデリックマル、2003、ジャン・クロード・エレナ)
オリエンタルラウンジ(ディファレントカンパニー、2009、セリーヌ・エレナ)
ポートレイトオブアレディ(フレデリックマル、2010、ドミニク・ロピオン)
ハナヒラク(パルファンサトリ、2016、大沢さとり):日本人のために考案されたドライオリエンタル
ルリオン(シャネル、2020、オリヴィエ・ポルジュ)
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