Musk
ムスク

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ムスクはすべての香料の中で最も肉欲的な香料です。薄い肌のようなセンシュアリティがあり、容易にすべての感覚を高揚させます。

クリスティーヌ・ナジル

 香水が好きではない人でも知ってる最も有名な香料の一つがムスクではないでしょうか。しかし、最も誤解されている香料の一つがムスクでもあると考えます。ムスクは多くの人が思っているように、「セクシーな香り」として使われるだけではありません。

 ムスクは、たしかにセンシュアリティや温かい香りを持ち、肌のような香りを放ちますが、香水のコンポジションのバランスを取り、他の香料の蒸発を遅くし、より香りの持続時間を長持ちさせるためにも使われます。そして、香水だけでなく、石鹼やシャンプー、洗剤など様々な香りの中に使われています(これは特に合成ムスク)。

 したがって、「ムスクが入ってる香りはありますか?」という質問をカウンターですると、「ほとんどの香水に入っています」という答えになってしまいます。「アニマリックなムスクがメインの香水はありますか?」「石鹼調のクリーンなムスクがメインの香水はありますか?」などと聞けば、お目当ての香水に辿り着きやすいと思います。

 ムスクには、動物由来と植物由来、合成香料があります。

ムスクを使用せずに香水を創ることは、バター無しで料理をするようなものです。

アイザック・シンクレア(Issac Sinclair、Abelの調香師)

動物由来(天然ムスク)

 元来、ムスクと言ったとき、それは動物由来の香料を指してきました。

 成長したオスの麝香鹿(ジャコウジカ)の生殖器とへその間に位置する腺は、メスを誘惑するフェロモンを分泌します。これは直で嗅ぐと強烈に臭く、非常に薄めるととても良い香りになり、これをムスク(Musk)と呼びます。ムスクという名前は、ジャコウジカ属をMoschusと総称し、Musk Deer(麝香鹿)と呼ぶことに由来ます。
 この香りの強烈さは凄まじく、ハンカチに数滴落とせば、40年後も香ることができるとすら言われます。

 この鹿は、インド、パキスタン、チベット、中国、シベリア、モンゴルなどの森に生息しており、昔は、闇市で売られるために大量に狩られ、ムスク1kgあたり約450万円で売られていました。しかし、1頭から採れるムスクは10gあるかないかの量なので、1kgのムスクを採るには140頭~160頭の鹿が犠牲になったと言います。殺さずに採る方法もありましたが、残念ながらほとんど行われず、多くのジャコウジカが犠牲になりました。

 最初に香水産業で使われたのは6世紀のアラブとビザンツ帝国で、当時は、香りだけではなく、治療としても使われていました。哲学者として有名なアル・キンディ(Al Kindi)も多くの香りを作っていたと言われる人物です。この地域でムスクの魅惑的な香りが広まり、やがて、世界各国へと広がってゆきます。

悲しいことに、天然のムスクはもはや利用することができません。市場で購入できるものは合成でしょう。しかし、我々はこれを使用し、できる限り天然のムスクに近い香りがするようにしているのです。

フランソワ・ドゥマシー

 その香りはアニマリック、スウィート、クリーミー、パウダリー、リッチ、レザー様、スパイシー、ウッディと様々に形容され、セクシーという一言で片づけられない複雑さがあります。元々が、不快感を感じるダーティで、スカンキー(skanky)とも言われる動物臭のため、生物の本能的な部分に訴えかけるような香りでもあります。

 ムスクは、シベットカストリウムアンバーグリスと合わせて、天然の動物性香料と呼ばれます。最高級のムスクはトンキンムスクですが、現在では、ジャコウジカは、ワシントン条約(CITES)によって規制されているので使用できません。

植物由来(植物性ムスク)

 19世紀の終わりになると、天然のムスクはあまりに価格が高く、倫理的に問題になるため、代わりに植物由来のものが使われるようになります。これが、アンジェリカアンブレットシードなどの植物由来のムスクでありました。これらには、ムスクに共通する香気成分が含まれているため、代用されるのです。

ホワイトムスク(合成ムスク)

 そして、1979年、麝香鹿が絶滅危惧種になり、保護するため狩猟が禁止になると、使われるようになったのが、合成ムスクです。動物性の天然ムスクはもうほぼ使われることはありません。

 合成ムスクは、1888年アルベルト・バウアーによって発見されました。疎水性を持つため、最初は洗濯洗剤に使われており、清潔感、甘さ、石鹼を感じるような香りでした。これがダーティでアニマリックな天然のムスクと異なります。
 合成ムスクを初めて商業的なスケールで合成したのは、1926年、ノーベル賞を受賞しているLavoslav Ružičkaでありました。当時はフィルメニッヒ社に在籍しており、デュポン社らと合成ムスクを競っていたと言われています。彼らがアニマルムスクに対し、「ホワイトムスク」と名付けました。

 そもそも、香りというのはいくつかの分子によって構成されますが、ジャコウジカから採れるムスクを主に構成している香りの分子をムスコン(muscone)といい、これを分離もしくは合成したものが合成ムスクになります。他にも多くの合成ムスクが存在し、香りもそれぞれで異なります。

 ホワイトムスクは、ジャコウジカの狩猟が禁止になる1970年代の終わりに概念が定着し、商業的なものになりました。

 ボディショップは、この合成ムスクと植物由来のムスクのパイオニアであり、それが1980年代、90年代にカルト的人気を誇ったホワイトムスク(White Musk、1981、ボディショップの最初の香水)になります。
 しかし、面白いことに、この数年前、1978年にラルチザンの創始者ジャン・ラポルトがブラックベリーと合成ムスクのマリアージュであるミュールエムスクを創っています。つまり、ラルチザンはニッチの先駆けだけでなく、ムスクにおいても先駆者であったのです。

 今日では、ホワイトムスクは、フォーミュラを整える(香りを長持ちさせるなど)ために使われることが多く、天然ムスクよりもはるかに安いため、多くの香水で使われています。

 合成ムスクは種々多様です。より探究したい方は、参考文献を読まれることをオススメします。

この記事を書いた人

香りの学び場「ルシェルシェパルファム」の運営者。
元香水販売員で、現在はとあるIT企業の管理職。
香水への愛が抑えきれず、自身の学んだことをはきだすサイトを作ってしまう。エルメス・フレデリックマルを主に愛用。

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