ルイーズ・ターナー(Louise Turner)──白い朝も、甘い果実も、ひとつの着想から

ルイーズ・ターナーのスケッチと代表作品を掲載した調香師名鑑のサムネイル 調香師名鑑

「ほぼいつも、とてもシンプルな、たいていは具体的に思い描けるアイデアから始めます。例えば、ピオニーにスパイシーなチャツネを合わせるように。そこから発展させていくのです。」

ルイーズ・ターナー、エヴァーフュームドのインタビュー、2022年

イギリス・ケント州出身。生年は公表されていません。

白い布に包まれる朝、ジャスミンとトンカの強い対比、甘く熟したチェリー。ターナーが作る香りは、それぞれ違う情景を持っています。その出発点は、本人が語るように、意外なほど簡潔なものです。

当初は歯科医を目指していたターナーが、香水の世界へ進むことになったのは、進路を見直す期間に見つけたアルバイトがきっかけでした。香水学校を経由せず、現場で学び続けたその道は、2025年、歴史あるメゾン・キャロン(Caron)のハウスパフューマーという新しい役割へつながります。

調香史

ケントの家と、父の工房

ターナーはイギリス南部のケントで育ちました。父は化学者で、趣味は木工。木を切り、美しいものを作る父のそばには、たばこと木くずの匂いがありました。

ノーズのインタビューで、最初の嗅覚の記憶を尋ねられたターナーは、こう話しています。

「父が吸うたばこと混ざり合った、おがくずの匂いを強く覚えています。その匂いに魅了されましたし、今も魅了されています。」

ルイーズ・ターナー、ノーズのインタビューより

暮らしていたヴィクトリア様式の古い家にも、古木や埃に近い、言葉では説明しにくい匂いがありました。庭の刈りたての芝生やスイカズラの香りは、今でもケントの夏を思い出させるといいます。

花の香りを得意とする調香師でありながら、その原点には花だけがあるわけではありません。木や煙、家の空気、肌で覚えた季節が、香りを人や場所と結びつける感覚を育てたのでしょう。

歯科から環境科学、そして香水へ

最初に選んだのは、ロンドンの医学校で歯科へ進む道でした。しかし、学び始めてから、自分は歯科医になりたいわけではないと気づきます。

退学してケントへ戻り、進路を考え直したターナーは、環境科学を学ぶことにしました。大学の課程が始まるまで、約10か月。その間の学生アルバイトとして働いたのが、クエスト・インターナショナル(Quest International)の市場調査部門でした。

ここで香水に心を奪われます。積極的に周囲へ働きかけ、嗅覚テストや面接を受けた末に、研修調香師の仕事を提示されました。ただし、すぐに入るのではなく、まず大学での学びを終えることになったのです。

3年後の1991年、ターナーはイギリスで訓練を始めます。師となったのは、グラース出身のアラン・ガロッシ(Alain Garossi)でした。

「彼は私に基本を教え、キャリアを始める手助けをしてくれました。ありがとう、アラン。」

ルイーズ・ターナー、エヴァーフュームドのインタビューより(2022年)

その後はオランダで1年を過ごし、1996年、念願だったパリへ移ります。ここでファインフレグランスの仕事を始めました。2年間の予定だった滞在は長く続き、2022年のインタビューでは、26年後もまだパリにいると笑っています。

学校とは違う場所で学ぶ

ターナーは、イジプカ(ISIPCA)やジボダン(Givaudan)の調香学校を経ていません。会社の中で実務を学ぶ経路を歩みました。

同僚の多くが専門の学校で学んでいることを踏まえ、現在の狭き門なら自分は入れないかもしれない、幸運だったと率直に語っています。師との出会いと、自分から仕事へ近づこうとする姿勢が、その出発点を支えました。

2000年頃には調香師としての仕事を本格化させ、2001年にトラサルディ(Trussardi)の「パイソン ウォモ(Python Uomo)」と、ヴェルサーチェ(Versace)の「ヴェルサス タイム トゥ リラックス(Versus Time to Relax)」を手がけます。

翌2002年、ジェニファー・ロペス(Jennifer Lopez)の「グロウ バイ ジェイロー(Glow by JLo)」が大きな成功を収めました。ターナーにとって、自らの進路を確かなものにする作品になります。

2007年にクエストがジボダンへ統合されると、ターナーもジボダンの一員となりました。パリを拠点に、ファッションブランドから個性的な小規模ブランドまで、多様な依頼を受けていきます。

ひとつのイメージを、明確な香りへ

ターナーは依頼主の考え方や期待に応じて、仕事の進め方を変えます。それでも、出発点にはほぼいつも、シンプルで具体的なイメージがあるといいます。

ピオニーとスパイシーなチャツネという、冒頭の言葉もその一例です。最初から複雑な説明を重ねるのではなく、異なるものを隣り合わせたときに生まれる印象を、香りの中心に据えています。

好む素材としては、ジャスミン サンバックやアンブレットシードが紹介されています。また、ジボダンの香料アキガラウッド(Akigalawood)がもたらす、振動するような効果にも惹かれるといいます。モットーは、少ない要素によって豊かさを生むという考え方です。

その仕事は、明るく、喜びや高揚感を持つフローラルとして評されることがあります。ただし、花の香りをそっくり再現するだけではありません。花びらの柔らかさや、肌に触れる布の感覚まで、香りの構成で表そうとする人です。

自由な制作と、合意を作る仕事

商業的な大きなブランドでは、消費者テストや多くの関係者の判断が制作に関わります。それぞれ違う基準を持つチームへ提案するため、調整や妥協が必要になるとターナーは話しています。

一方、小規模なブランドとの仕事については、こう説明します。

「自分のアイデアを、より直接的に表現できます。ブランドとの関係もシンプルで、通常は一人の担当者と仕事をします。より率直に香水を作ることができるのです。」

ルイーズ・ターナー、ノーズのインタビューより

これは、本人がノーズのインタビューで語った制作経験です。ブランドの規模だけで、すべての仕事の自由度が決まるという意味ではありません。誰と、どの距離で判断を重ねられるかが、香りの仕上がりにも関係しているのでしょう。

依頼を獲得するための競争もあります。ターナーによれば、実感しやすいのは他社との競争以上に、自社の調香師同士で同じ依頼に取り組むときの競争です。周囲を意識しつつ、自分の仕事に集中し続けることも、調香師に必要な力なのです。

代表作とその背景

グロウ──清潔な肌という依頼

グロウは、ターナー自身も予想しなかった成功作でした。当時ライセンスを持っていたコティ(Coty)のもとで、ロペス本人が制作に深く関わっています。

ロペスが求めたのは、清潔でみずみずしい肌の香りでした。本人が使っていた石鹸の香りが、具体的な手がかりになったとターナーは説明しています。

有名人の名前を冠する香水であっても、出発点にあったのは、本人の生活の中にある親密な感覚です。華やかなイメージと、洗ったばかりの肌という身近な感覚が一緒になった作品でした。

レイジー サンデー モーニング──白を香りにする

メゾン マルタン マルジェラ(Maison Martin Margiela、現メゾン マルジェラ)の「レプリカ レイジー サンデー モーニング(Replica Lazy Sunday Morning、2013年)」では、一つの色が制作を導きました。

「最初にあったのは色です。白。明るく、無垢で、清潔な色。この色の感覚を、どう香りで伝えるか。それが課題のすべてでした。」

ルイーズ・ターナー、ノーズのインタビューより

ターナーは、麻や綿のような、軽く心地よい素材が肌を包むイメージを考えます。そのために選んだ出発点がムスクでした。柔らかさと持続性を持ち、清潔な衣服に包まれるような感覚を作れる素材です。

そこへアルデヒドの明るい新鮮さを織り込みました。鋭いだけの清潔感ではなく、丸みと繊細さを持たせ、ムスクの柔らかさを引き立てています。見える色を、触れられない香りへ移す。その発想をよく示す作品です。

グッド ガール──ジャスミンとトンカの対比

キャロライナ ヘレラ(Carolina Herrera)の「グッド ガール(Good Girl、2016年)」は、シリーズへ発展した代表作です。出発点は、本人によれば簡潔なものでした。

「ジャスミンとトンカというシンプルなアイデアです。強いコントラストがあり、パワフルです。ただし成功は、良い香水、ボトル、名前、広告、そして相応の幸運が合わさって生まれます。」

ルイーズ・ターナー、エヴァーフュームドのインタビューより(2022年)

当初はスペイン、ラテンアメリカ、ロシア向けとして発売されたものの、関心が高まり、世界各地での展開へ広がりました。ターナーは、この作品のために、他のどの香水よりも多く旅をしたと振り返っています。

派生作品では、元のグッド ガールらしさを残しながら、別の物語を語ることを心がけました。カンタン・ビシュ(Quentin Bisch)と多くの作品を共同制作し、互いのアイデアを重ねています。

ロスト チェリー──果実の新しい表情

トム・フォード(Tom Ford)の「ロスト チェリー(Lost Cherry、2018年)」は、ターナーが手がけた果実の香りを代表する作品です。

本人は、フォードとの仕事には今日では珍しい表現の自由があると話しています。ロスト チェリーについては、フォードが受け入れたフルーティな方向として、ブランドにとって新しい領域だったと振り返りました。

これは、ブランドがそれ以前に果実の香りを一度も扱っていなかったという客観的な分類ではなく、制作を進めた本人の実感として受け取るのが適切でしょう。

ロスト チェリーは2019年、米国フレグランス・ファウンデーション賞で女性向けラグジュアリー部門の年間最優秀フレグランスに選ばれています。

クロエの花──旅先と故郷の記憶

クロエ(Chloé)のアトリエ デ フルール(Atelier des Fleurs)では、ターナーの個人的な花の記憶が作品につながりました。

「ジャスミナム サンバック(Jasminum Sambac、2019年)」の背景には、タイの母の日にバンコクで見た、美しいジャスミンの記憶があります。ブランドは、その花の輝きや柔らかな感触を香りにした作品として紹介しています。

「マグノリア アルバ(Magnolia Alba、2019年)」では、イギリスの晴れた春の日々を思わせるマグノリアが題材です。滑らかでクリーミーな花びらと、かすかにレモンを思わせる印象を組み合わせました。

ケントで育った調香師にとって、花は単独で存在する香料ではなく、季節や光、過ごした場所とともに思い出されるものなのでしょう。

キャロンで始まった新章

2025年2月17日、キャロンとジボダンは新たな協業を発表し、ターナーがハウスパフューマーを務めることを明らかにしました。

「キャロンとの仕事は、夢がかなったようなものです。伝統と革新を合わせ、ブランドの心と魂に響きながら、調香で可能なことの境界を押し広げる香りを作っていきます。」

ルイーズ・ターナー、キャロン就任時の声明(パフューマー&フレーバリスト掲載、2025年)

これは就任発表でのターナーの言葉です。メゾンが受け継いできた香りの歴史に、自身の現代的な感覚を重ねていく姿勢が示されています。

最初の新作「アトマー(Atmah)」は、2025年秋に発表されました。アーティスティックディレクターのオリヴィア・ド・ロチルド(Olivia de Rothschild)のもとで生まれた作品です。

名前はサンスクリット語のアートマンに着想を得ています。香りの中心にあるのは、ミネラル感と空気の広がりを持つバニラ。アンブロフィックス(Ambrofix)の温かさや、ベチバー、アキガラウッドなどによって、甘さだけに収まらない表情を与えています。紹介記事では、ロチルドのキルギスタンへの旅が創作の背景として語られています。

2026年の米国フレグランス・ファウンデーション賞では、コーチ(Coach)の「ゴールド パルファム(Gold Parfum)」が消費者選出部門、バルマン ビューティ(Balmain Beauty)の「キュイール エリゼ(Cuir Élysées)」がパフューム・エクストラオーディネール部門の最終候補に入りました。後者はシャマラ・メゾンデュー(Shyamala Maisondieu)との共同制作です。

ちなみに…

華やかな作品の裏で、ターナーは仕事のストレスについても率直に語っています。依頼主の要求が増え、すべてが速く進む環境は、もともと緊張を感じやすい自分にとって簡単ではないといいます。

そんなときに戻るのが、ノルマンディーの田舎の家と庭です。時間の一部を自宅で働き、庭仕事をすることで、日々の緊張をほどいています。

「手を使って働くことは、ストレスを和らげるのにとても良いのです。特に、自然と直接触れ合っているときには。」

ルイーズ・ターナー、エヴァーフュームドのインタビューより(2022年)

ケントの庭で始まった花や季節への親しみは、香水を作る源であると同時に、仕事を続けるための支えにもなっているのです。

調香作品

代表作を年代順に掲載します。「—」は、参照資料で他の調香師が挙げられていない作品です。

ブランド 作品名 共同調香師・制作協力
2001 トラサルディ パイソン ウォモ
2001 ヴェルサーチェ ヴェルサス タイム トゥ リラックス
2002 ジェニファー・ロペス グロウ バイ ジェイロー キャサリン・ウォルシュ(Catherine Walsh、開発面で協働)
2008 ヨープ!(Joop!) ウォルフガング ヨープ(Wolfgang Joop)
2010 クロエ ラブ(Love) ナタリー・グラシア=セット(Nathalie Gracia-Cetto)
2012 クロエ ラブ オー フローラル(Love Eau Florale)
2012 ロベルト カヴァリ(Roberto Cavalli) オードパルファム(Eau de Parfum)
2013 メゾン マルタン マルジェラ レプリカ レイジー サンデー モーニング
2013 ロベルト カヴァリ ネロ アッソルート(Nero Assoluto)/アクア(Acqua)
2014 ディオール(Dior) ミス ディオール ブルーミング ブーケ(Miss Dior Blooming Bouquet)
2015 ロベルト カヴァリ パラディーゾ(Paradiso)
2015 ジミー チュウ(Jimmy Choo) ブロッサム(Blossom)
2015 クロエ シー バイ クロエ シー ベル(See by Chloé Si Belle)
2016 キャロライナ ヘレラ グッド ガール
2018 キャロライナ ヘレラ グッド ガール レジェール(Good Girl Légère)/ヴェルヴェット ファタール(Velvet Fatale) 派生作品の制作ではカンタン・ビシュと協働
2018 トム・フォード ロスト チェリー
2018 ヒューゴ ボス(Hugo Boss) ボス ザ セント フォー ハー プライベート アコード(Boss The Scent Private Accord for Her)
2018 ニナ リッチ(Nina Ricci) ベラ(Bella) ソニア・コンスタン(Sonia Constant)
2018 ミュグレー(Mugler) エンジェル フルーティ フェア(Angel Fruity Fair)
2018 ケンゾー(Kenzo) アクア プール ファム(Aqua pour Femme)
2019 クロエ ジャスミナム サンバック/マグノリア アルバ
2019 キャロライナ ヘレラ バッド ボーイ(Bad Boy) カンタン・ビシュ
2019 ジョー マローン ロンドン(Jo Malone London) ヘムロック&ベルガモット(Hemlock & Bergamot)
2019 エクス ニヒロ(Ex Nihilo) ラスト イン パラダイス(Lust in Paradise)
2019 リキッド イマジネール(Les Liquides Imaginaires) ボーテ デュ ディアブル(Beauté du Diable)
2020 ミュグレー エンジェル ノヴァ(Angel Nova) ソニア・コンスタン、カンタン・ビシュ
2020 キャロライナ ヘレラ グッド ガール スプリーム(Good Girl Suprême) 派生作品の制作ではカンタン・ビシュと協働
2021 リキッド イマジネール ブランシュ ベット(Blanche Bête)
2021 ラ ペルラ(La Perla) ポシビリティーズ(Possibilities)
2022 ドリス ヴァン ノッテン(Dries Van Noten) レイヴィング ローズ(Raving Rose)
2023 セルッティ1881(Cerruti 1881) レーヴ ド ローズ(Rêve de Roses)
2025 キャロン アトマー
2025 コーチ ゴールド パルファム

参考文献