バナナ・リパブリック(Banana Republic)香水ブランド紹介

バナナ・リパブリックの世界観と代表製品「Icon Tobacco & Tonka Bean Eau de Parfum」を表現したブランドイメージ ブランド創業者

「バナナ(リパブリック)を始めたのは、お金を稼ぐためではなかった。自由になるため、やりたいことをやるため、どこへでも行けるようになるためだった。」

— メル・ジーグラー(共同創業者)

基本情報

設立年: 1978年(香水ラインは1990年代に開始)
ブランド創設者: メル・ジーグラー(Mel Ziegler)、パトリシア・ジーグラー(Patricia Ziegler)
現在の運営: ギャップ・インク(Gap Inc.)傘下
香水製造パートナー: インターパルファム(Inter Parfums, Inc.)
公式サイト: bananarepublic.gap.com
(読み方の注記:「バナナ・リパブリック」と読む。「リパブリック」は英語のRepublic=「共和国」の意)

創設者・ブランドの成り立ち

二人の「記者」と「画家」の出会い

バナナ・リパブリックの物語は、カリフォルニア州サンフランシスコの一紙のニュースルームから始まった。メル・ジーグラーはサンフランシスコ・クロニクル紙のレポーター、パトリシア・ジーグラー(旧姓グウィリアム)は同紙の法廷スケッチ・アーティストであった。二人はともにサラリーマン生活に窮屈さを感じており、いつかその「枠の外」に出ることを夢見ていた。

「クロニクルでは、ずっと頭の上に天井を感じていました。すばらしい仕事ではありましたが、それでも”仕事”だった。雇われることに生まれていない人間がいるんです。自由に憧れる人間が。私もそうだし、パトリシアも同じです。」

— メル・ジーグラー

一枚のジャケットが生んだアイデア

1978年、転機が訪れた。メルがオーストラリアへの取材旅行から帰国した際、一着の「ブリティッシュ・バーマ・ジャケット」を身につけて戻ってきたのである。第二次世界大戦中にビルマ戦線でイギリス軍が着用したそのジャケットを、パトリシアがボタンを付け替え、肘にレザーパッチを施すと、誰もが「それはどこで手に入れたのか」と問いかけた。

「(ジャケットに)新しいボタンとエルボーパッチをつけたら、まるでキャラクターと冒険を叫んでいるようだった。メルがどこへ行っても、人々がコメントした。」

— パトリシア・ジーグラー

二人はたちまちそのアイデアに確信を持った。ミリタリーサープラス(軍の余剰品)をサファリ・旅行スタイルに仕立て直して売ろう、というものだった。彼らが目をつけたのは、オークランドの倉庫に眠っていたスペイン軍のパラトルーパー・シャツ500枚。二人は持ち金の全額、わずか1,500ドルを全部つぎ込んで買い取った。

失敗を逆手にとるストーリーテリング

ところが、そのシャツを洗って並べてみると、すべて袖が短すぎることが発覚した。投資した全財産が、欠陥品の山となったのである。しかしパトリシアは動じなかった。袖を肘まで折り返し、「この丈で着ない人なんていない」と言い切って、そのままマリン郡のフリーマーケットに持ち込んだ。これが飛ぶように売れた。

この出来事はのちにバナナ・リパブリックのDNAを象徴するエピソードとして語り継がれることになる。弱点を物語に変え、商品の「背景」を発明することで、物が売れる—この手法は、後の店舗展開でも一貫して用いられた。

カタログというメディア

最初の店を構える前から、メルとパトリシアはカタログを作った。メルの手によるウィットに富んだ架空の物語と、パトリシアが手描きしたイラストが並ぶそのカタログを500人の知人・メディア関係者に送ったところ、ニューヨークのラジオ・アナウンサーが番組内で読み上げ、3日後に大量の注文が届いた。「1ドル送ってくれればカタログを送ります」という一言から始まった直販ビジネスは、やがてメルとパトリシアのブランドの屋台骨となる。

ミルヴァレーの第1号店

1978年、カリフォルニア州ミルヴァレーに最初の実店舗が開いた。資金も経験もない二人は、ありあわせの素材でディスプレイを作った。電話ポールの上にヤシの葉を刺して「ヤシの木」に見せ、更衣室は押し入れにカモフラージュ・ネットを張った即席のものだった。来店客はその世界観に魅了された。

ギャップへの売却と創業者の退場

5年後の1983年、二人はギャップ(Gap, Inc.)の創業者ドン・フィッシャーからの買収提案を受け入れた。当時すでに2店舗を展開し、手製カタログが全国の顧客に届くまでに成長していたが、資金繰りに追われていた。

「ドンは言った。『君の会社を経営したいわけじゃない。やりたいことをやっていい。利益を出している限り、何でも資金援助する』と。私は創造的な自律性が条件だと言い、彼はそれを了承した。」

— メル・ジーグラー

ギャップの支援を受けてバナナ・リパブリックは急拡大し、101店舗、年商2億5,000万ドルの規模にまで成長した。しかし1987年のブラック・マンデー後、ギャップの経営陣がクリエイティブ部門に介入し始めると、創造的自律性が損なわれた。二人は大型の報酬契約を捨て、1988年頃に会社を去った。

「自由こそが、私たちがそこにいた理由だった。自由がなくなった瞬間に、さようならと言った。」

— メル・ジーグラー

その後、二人は「リパブリック・オブ・ティー(The Republic of Tea)」ブランドを立ち上げるなど、新たな事業へと歩みを進めた。

香水ラインへの参入

ギャップ傘下でのフレグランス事業開始

創業者がバナナ・リパブリックを去った後も、ブランドはギャップのもとでアパレルとしての地位を確立していった。香水への本格参入は1990年代のことである。初期のフレグランス「クラシック(Classic)」は、調香師ジャン=クロード・デルヴィル(Jean-Claude Delville)によって生み出されたユニセックスの香りで、ブランドの看板フレグランスとして今日まで販売が続けられている。

当初の香水製造はギャップ社内で行われていたとされる。2005年7月、ギャップはインターパルファム(Inter Parfums, Inc.)との独占ライセンス契約を締結し、それ以降はインターパルファムが製品開発・処方・製造を担当することになった。この契約は2008年に国際展開を含む4年間の契約に更新され、さらに2010年にも締結が続いている。

ブランドのこだわり

「アクセシブル・ラグジュアリー」という哲学

バナナ・リパブリックが香水で目指したのは、高級感と日常性の両立だった。インターパルファムの最高経営責任者ジャン・マダールはギャップとの契約締結時にこう語った。

「ギャップとバナナ・リパブリックは、世界で最も知名度の高いブランドのひとつであり、顧客との深い結びつきと幅広い店舗ネットワークを持っています。バナナ・リパブリックのアフォーダブル・ラグジュアリー(手の届く上質)という世界観を、フレグランス・バス&ボディ・グルーミング製品として解釈し、展開していきます。」

— ジャン・マダール(インターパルファム会長兼最高経営責任者)

ボトルとパッケージのデザイン思想

バナナ・リパブリックのフレグランス・パッケージには、アパレルラインで培われた「クリーンなライン」と「洗練されたテーラリング」の美学が反映されている。2013年のアイコン・フレグランス(クラシック、ダブリュー(W)、エム(M))リニューアル時には、クリエイティブ・ディレクターのサイモン・ニーン(Simon Kneen)がこう語った。

「私はアパレルコレクションのクリーンなラインと、フレグランス自体のすっきりとした香りに、即座にインスパイアされました。」

— サイモン・ニーン(バナナ・リパブリック クリエイティブ・ディレクター兼上級副社長)

このリニューアルでは、クラシックが「ペーパーホワイトのスクエアボックスにブラックのキャップ」、ダブリューが「アイボリーのキャップ」、エムが「チャコールのキャップ」とそれぞれ異なる色調でまとめられ、陰陽(イン・ヤン)の対を成す構造が採用された。

リパブリック・オブ・ウィメン(Republic of Women)とリパブリック・オブ・メン(Republic of Men)については、ボトルの構造デザイン(インダストリアル・デザイン)をデビッド率いるスタジオ・レッドアイが担当したことが明らかになっており、「ブランドのミニマリスト的感性に合致しながら、静かな自信と現代的な洗練を呼び起こすタイムレスなボトル」を目指したとされている。

著名な調香師たちとの協働

バナナ・リパブリックは、フレグランス業界の第一線で活躍する調香師を積極的に起用してきた。クリエイティブ・ディレクターのサイモン・ニーンは、リパブリック・コレクションの制作にあたって「業界最高の鼻(nose)」を集めたことを強調している。

起用された主な調香師は以下の通りである:

  • ジャン=クロード・デルヴィル(Jean-Claude Delville):クラシック、ダブリュー(W)、エム(M/1995年)、ワイルドブルー(Wildblue)、ワイルドブルーム(Wildbloom)、ワイルドブルー・ノワール(Wildblue Noir)など多数
  • ハリー・フリーモント(Harry Fremont、フィルメニッヒ):ブラック・ウォルナット(Black Walnut)、リパブリック・オブ・ウィメン
  • ローラン・ル・ゲルネック(Laurent Le Guernec、アイエフエフ):リパブリック・オブ・メン(Republic of Men)
  • ビアトリス・ピケ(Beatrice Piquet、アイエフエフ):ジェイド(Jade)
  • パスカル・ゴラン(Pascal Gaurin、アイエフエフ):ローズウッド(Rosewood)
  • ジャン=マルク・シャイラン(Jean Marc Chaillan、アイエフエフ):スレート(Slate)
  • ジャン=クロード・デルヴィル(ドローム在籍時):ワイルドブルー・ノワール
  • イリアス・エルメニディス(Ilias Ermenidis):ワイルドブルーム・ヴェール(Wildbloom Vert)
  • ジノ・ペルコンティーノ(Gino Percontino):ビーアール78(BR78):ヴィンテージ・グリーン(Vintage Green)

香水ラインナップ

バナナ・リパブリックのフレグランスは、大きく以下の時代・コレクション別に整理できる。

1990年代:フレグランス事業の黎明期

初期を代表する香水は1990年代に登場した3本(クラシック、ダブリュー、エム)。中でも「クラシック」はユニセックスの柑橘系アロマティック香で、グレープフルーツ・クレメンタイン・ハニーサックル・ジンジャーを中心とした構成。清潔感あるこの香りはブランドの「シグネチャー」として現在も継続販売されている。エムは1995年に登場した男性用フレグランスで、2013年の公式紹介ではライム・ベルガモット・グリーンリーフのトップから、ラベンダー・セージ・ヴァイオレットリーフのハート、ホワイトムスク・トンカビーン・サンダルウッドのベースへと続く構成が示されている。1996年のフィフィ・アワード(FiFi Awards)でランナーアップに選ばれた。なお、フィフィ・アワードはフレグランス業界の権威ある賞で「香水のオスカー」とも呼ばれる。

2006年:ディスカバー・コレクションの誕生

2006年夏(ギャップとインターパルファムの提携直後)、「ディスカバー・コレクション(Discover Collection)」として女性用3本・男性用2本の計5本が一挙にリリースされた。

  • アラバスター(Alabaster):ロータス・ワイルドローズ・ムスクのクリーンなフローラル
  • ジェイド(Jade):パッションフルーツ・ザクロを軸にしたフルーティ・フローラル
  • ローズウッド(Rosewood):ベルガモット・ホワイトティー・ホワイトアンバーのウォームなフローラル・オリエンタル
  • ブラック・ウォルナット(Black Walnut):男性用、アロマティック・ウッディ
  • スレート(Slate):男性用、グレイシャー・シトラス・ウォーターシルバーセージのフレッシュアロマティック

このコレクションの女性用3本(アラバスター、ジェイド、ローズウッド)はいずれも2007年のフィフィ・アワード「プライベートラベル/ダイレクトセル女性部門」のファイナリストに選出され、ブラック・ウォルナットは同年の男性部門を受賞した。

また2007年には男性用「コードバン(Cordovan)」が登場。フィグリーフ・ナツメグ・レザー・ベルガモット・ラベンダー・アイリス・ベチバー・ジュニパーを組み合わせたウッディ・アロマティック香で、スパイシーかつダークな魅力で根強い人気を誇る。

2009年:リパブリック・コレクション

2009年秋、バナナ・リパブリックはブランドのアイデンティティを名前に冠した「リパブリック・コレクション(Republic Collection)」を投入した。

  • リパブリック・オブ・ウィメン(Republic of Women):調香師ハリー・フリーモントによるグリーン・フルーティ・フローラル。カシス・オスマンサス・ライチのトップ、ピオニー・ピンクジャスミン・モロッカンローズのハート、ムスク・プレシャスウッドのベース
  • リパブリック・オブ・メン(Republic of Men):調香師ローラン・ル・ゲルネックによるウッディ・シプレ。クレメンタイン・プラム・フィグリーフのトップ、ローズマリー・バジル・セージのハート、サンダルウッド・シダー・クリーミームスクのベース

クリエイティブ・ディレクターのサイモン・ニーンはこの2本について「現代的かつタイムレスで、フレッシュなフローラルとクラシックなムスク・深みのある木々が融合している」と語った。リパブリック・オブ・メン・エッセンスは2011年のフィフィ・アワード「スペシャルティ・ブランド男性部門」を受賞した。

2011–2013年:ワイルドブルーム&ワイルドブルー シリーズ

2011年にはジャン=クロード・デルヴィルが手がけた「ワイルドブルーム(Wildbloom)」が女性用として登場。グアバ・洋梨・キンカン・グレープフルーツのフルーティなトップに、野生のカメリア・ブルーオーキッド・ウォーターハイドランジアのフローラルハート、そしてパチョリ・サンダルウッド・トンカビーン・ウード・ピンクスエードのベースが続く。

2012年には男性向け「ワイルドブルー(Wildblue)」が登場。サイモン・ニーンは「アメリカの美しく青い空の楽観主義が、ワイルドブルーのインスピレーション」と説明した。

2013年にはこれら2ラインの派生香「ワイルドブルーム・ルージュ(Wildbloom Rouge)」と「ワイルドブルー・ノワール(Wildblue Noir)」が追加された。ワイルドブルー・ノワールはドローム(Drom)に在籍したジャン=クロード・デルヴィルが担当し、「海の波が夜の空の下で打ちつける暗い側面」からインスパイアされた深みのあるアロマティック・ウッディ香である。

2017年:アイコン・コレクション

2017年5月、ブランド創立から39年目にして、過去の重要な年代を香りで旅するという意欲的な企画「バナナ・リパブリック・アイコン・コレクション(Banana Republic Icon Collection)」が発売された。全5本すべてユニセックスで、年代をコード番号として冠したのが特徴である:

  • ビーアール78(BR78):ヴィンテージ・グリーン:創業年1978年を記念。ベルガモット・リーフィーグリーン・マンダリン・マグノリア・ジャスミングリーンティー・フィグ・シダーウッド・ムスク・ベチバー
  • ビーアール83(BR83):レザー・リザーブ:ギャップへの売却年1983年。サイプレス・レモンゼスト・ベルガモット・ネロリ・シダーウッド・トンカビーン・スエード・アンバー
  • ビーアール90(BR90):ピュア・ホワイト:1990年代の節目をイメージ。グリーンティー・ベルガモット・グレープフルーツ・ジャスミン・ラベンダー・アンバー
  • ビーアール06(BR06):ブラック・プラチナム:ディスカバー・コレクション誕生の2006年を想起。ピンクペッパー・オークモス・アンバー・パチョリ・レザー
  • ビーアール17(BR17):ウード・モザイク:発売年2017年のグローバル精神を体現。ホワイトペッパー・カルダモン・プラム・ターキッシュローズ・サフラン・ウード・アンバー

発売当時、個別の75mLボトルは各48ドル、15mLスプレーは各25ドルで販売され、5本セットのディスカバリー・セット(各5mL)も展開された。

ちなみに…

バナナ・リパブリックを創業したメルとパトリシアのジーグラー夫妻は、1988年前後にブランドを去った後、禅・仏教の精神と深く関わるようになった。メルはジャック・コーンフィールドによる10日間の沈黙瞑想リトリートに参加したが、そこでコーヒーを断ったことがきっかけとなり「お茶」への関心が芽生え、やがてリパブリック・オブ・ティーという別のブランドを立ち上げることになった。バナナ・リパブリック、リパブリック・オブ・ティー──「リパブリック」という言葉への執着が、この夫婦の起業家としての精神を象徴しているようで興味深い。

また、バナナ・リパブリックのフレグランスで調香師ジャン=クロード・デルヴィルは、1990年代の初期作品「クラシック」から2013年の「ワイルドブルー・ノワール」に至るまで、約20年にわたってブランドの香水開発を中心的に担ってきた。アイエフエフ(IFF/インターナショナル・フレーバー・アンド・フレグランス)時代にクラシックを生み出し、その後ドローム(Drom)に移籍した後も引き続きバナナ・リパブリックとの協働を続けるという、異例の長期パートナーシップである。

参考文献