Isabelle Doyen
イザベル・ドワイヤン

調香史

 1959年、パリで気象学者の父と助産師の母の元に生まれた娘として生まれたイザベルは、子どもの頃はタヒチで過ごしていました。丘に囲まれた彼女の家は、夜になるとティアラやイランイラン、フランジパニなどの野生の花の香りに包まれたそうです。

 そして、幼いころの2つの疑問が、将来、彼女が調香師になることを志すのに大きな影響を与えました。1つは、洋梨がローズの香りを含み、ローズの香りにもまた洋梨の風味があるのはなぜなのか、という疑問。もう1つは8歳の頃に学んだランボーの詩『谷間に眠る者(The Sleeper of the Valley)』(翻訳:門司 邦雄)でした。

そこは、緑野にあいた穴だ、川が歌っている
銀色のぼろ着を狂おしく草にかけながら
そこは、光が泡立つ、小さな谷間だ、
誇らしげな山からは、太陽が輝いている。

若い兵士がひとり、口を開け、何もかぶらず、
青々として冷たいクレソンの中に首筋を埋め、
眠っている。草の中に横たわり、雲の下、
光が降りそそぐ緑のベッドに、青ざめて。

グラジオラスの茂みに足を入れ、眠っている
病気の子供のように微笑みながら、ひと眠り:
自然よ、この兵士を暖かく揺すれ、寒いのだ。

花の香りにも鼻をうごめかさないで:
片手を静かな胸に乗せ、日ざしの中で兵士は眠る
右のわき腹には、ふたつの赤い穴がある。

アルチュール・ランボー

 なぜ、ランボーは、可愛らしくもない、香りもしないグラジオラスの花を選んだのか。イザベルは、この理由が分からず、香りに興味を持つ大きなきっかけになったようです。

 17歳の時からオルセーで2年間生物学を学んだイザベルは、20歳の時には生物学の勉強に少し飽きていました。ちょうどその折、友人の父が彼女にサンキエームサンスという調香師学校を作った調香師モニーク・シュランジェーとともに仕事をします。

ちなみに…

メンターは、ホルヘ・ルイス・ボルヘス(Jorge Luis Borges)だと言うくらい、彼の熱狂的なファンです。

 1985年、アニック・グタールと出会い、彼女と香水を創りはじめます。きっかけは、アニックがイタリアにお店を作ろうとした際に、調香する場所を探していたときでした。イザベルのいるスタジオにやってきた彼女は、開口一番「ベチバーの香水が創りたいのだけど、助けてくれない?」、続けて「長いこと眠らせているアイデアがあって、洋梨のような香りのするローズが創りたいの」とイザベルに言います。それこそイザベルが幼い頃から創りたいと思っていた香りであり、10年かけて生まれた後のスソワールウジャメ(Ce Soir ou Jamais)でありました。

 ちょうど、この頃、彼女はイジプカで先生として、嗅覚の訓練の授業を受け持っていました。彼女のクラスの卒業生として有名な生徒はフランシス・クルジャンやマチルド・ローランになります。

 1993年、Annick Goutalというブランドを確立させるために、アニックとともにAromatique Majeurという独立した香水制作会社を立ち上げます。

 1999年にアニックが亡くなった後は、娘のカミーユ・グタールを奮起させ、ともに会社を支え、現在に至るまで専属調香師を超えるような存在としてAnnick Goutalを牽引しています。

 2020年、カミーユとともに、Goutal Parisとは異なるブランドVoyages Imaginariresを発表しました。天然香料だけを使用し、オーガニックの小麦のアルコールを使用した、100%ナチュラルな香水ブランドになります。

私は、香水のレビューを面白いとは思いません。香水は本や映画のように批評され得ないものであり、とても主観的ものだと考えているからです。どの基準に基づいて、調香師がそのようにしたなんて、一体だれが断言できるっていうの?だから、面と向かって直接批判されるのは敏感にはなるけれど、参考になることもあるわ。

イザベル・ドワイヤン

調香作品

私はアニック・メナードの作品が好きです。彼女の作品は、とてもプロフェッショナルで、優秀で、クリエイティブです。違うジャンルとしては、オリビア・ジャコベッティの作品も好きです。彼女の香りは生け花のような側面があります。

イザベル・ドワイヤン

YearBrandName
1996~2018Annick GoutalEau du Sud、Grand Amour、Petite Cherie、Ce Soir ou Jamais、Eau de Fier、La Violette、Le Muguet、Le Chevrefeuille、Quel Amour、Des Lys、Duel、Les Nuits d’ Hadrien、Le Jasmin、Vanille Exquise、Mandragore、Songes、Ambre Fetiche、Encens Flamboyant、Myrrhe Ardente、Musc Nomade、Mandragore Pourpre、Un Matin d’Orage、Ninfeo Mio、Rose Splendide、Le Mimosa、Mon Parfum Chéri、Nuit Étoilée、Eau de Monsieur、Vent de Folie、1001 Ouds、Ambre Sauvage、L’Ile au Thé、Vanille Charnelle、Chat Perché
2014BontonEau de Toilette
不明Le Prince JardinierL’Eau du Prince Jardinier
2006~2017LesNEZL’Antimatiere、Let Me Play The Lion…、The Unicorn Spell、Turtle Vetiver Exercise No. 1、Turtle Vetiver Front、Turtle Vetiver Back
2017Naomi GoodsirNuit de Bakélite
2020Voyages ImaginairesAzahar、L’échappée Sauvage、La Couleur de la Nuit、Le Grand Jeu、Tea&Rock’n Roll
代表的な香水

この記事を書いた人

香りの学び場「ルシェルシェパルファム」の運営者。
元香水販売員で、現在はとあるIT企業の管理職。
香水への愛が抑えきれず、自身の学んだことをはきだすサイトを作ってしまう。エルメス・フレデリックマルを主に愛用。

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Le Chercheur de Parfum

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