メンデットローザ(Mendittorosa)—— 魂の匂いを纏う、ナポリ発の錬金術

メンデットローザの世界観と香水「Le Mat Extrait de Parfum 100ml」を表現したブランドイメージ ブランド創業者

「メンデットローザの背後にあるのは、実は私個人の物語です。マーケティングがブランドのアイデアを変えることはない。私はこの完全なる芸術的あり方を、ブランドのシグネチャーとして守り続けたいと思っています。」

── ステファニア・スクエリア(Stefania Squeglia)、メンデットローザ創設者

基本情報

  • 設立年:2012年(本人インタビューを掲載したセントゥリーによる。日本取扱店では2013年と紹介。ブランドのインスピレーションとなった出来事は2011年)
  • 創設者:ステファニア・スクエリア(Stefania Squeglia)
  • 拠点:ナポリ(イタリア)
  • 公式サイト:www.mendittorosa.com

なお、「メンデットローザ」という名前の意味について、スクエリア自身は「秘密」として公開を拒んでいる。

創設者・ブランドの成り立ち

幼少期の遊び——最初の香りの記憶

ステファニア・スクエリアは、イタリア南部の都市ナポリ生まれである。彼女が香りと初めて深く向き合ったのは、まだ5歳の頃のことだった。

「私は祖母の古い瓶を取り出して、花びらや、家の中で見つけたオイル、両親の香水の残りを入れていました。そして瓶を暗い場所に隠して、しばらく後に開けて、組み合わせの結果を発見する楽しみを味わっていたのです。子どもの頃の、とても特別な時間でした。」

── ステファニア・スクエリア

なぜ混合物を暗がりに置いておくと変化するのか——子どもの彼女には理由は分からなかったが、その変容の不思議さが、後のブランドの哲学の原点となった。ある資料によれば、祖母の瓶は本来トマトソースの保存に使われていたものだったという。

香りを忘れた「管理職」の時代

その後、スクエリアは香りの実験を忘れたまま大人になっていく。芸術を追い求め、ピアノ演奏、ダンスなど様々なことを試みたが、どれもしっくりこなかった。やがてメディア業界のマーケティング・マネージャーとして順調なキャリアを積むが、内面では「何か大切なものが欠けている」という感覚が消えなかった。

「当時、私はメディア業界のマーケティング・マネージャーでした。本当に疲弊していて、健康を回復するためにストロンボリ島に旅をしたのです。」

── ステファニア・スクエリア

転機——ストロンボリ島の火山との出会い

2011年、スクエリアは南イタリアのシチリア島北方に浮かぶ孤島、ストロンボリ(Stromboli)を訪れた。この島には現在も活動を続ける活火山があり、スクエリアはインタビューで、溶岩が海へ流れる姿を「親しみやすい火山」として語っている。ただし、それは彼女が島に抱く印象の表現であり、実際には噴火や津波による被害が起こりうる火山でもある。島の漁師たちはこの火山を地元の方言で「イッドゥ(Iddu)」と呼んでいた。

「火山のパワーが、私が自分自身の道を再び見つける助けをしてくれました。そしてそこで、人生を変えることにしました。私はずっと芸術的に自己表現したいという衝動を感じていて、その時がついにやってきたのだと思いました。」

── ステファニア・スクエリア

島の圧倒的なエネルギーに包まれたとき、幼い頃の香りの記憶が突如として甦った。スクエリアは翌日から、すぐさまメンデットローザの創造に着手したという。

「私はこの場所がとても好きで、子どもの頃の香り作りの喜びを思い出したとき、これは自分がやらなければならないことだと気づきました。そして翌日からすぐにメンデットローザを作り始めたのです。私の人生は変わりました。ようやく自分の道が見つかったと思います。」

── ステファニア・スクエリア

ブランドの誕生——「魂の匂い」を瓶に詰める

セントゥリーの人物紹介では2012年、メンデットローザ(正式名称:Mendittorosa odori d’anima(メンデットローザ・オドーリ・ダニマ))が誕生した。「odori d’anima(オドーリ・ダニマ)」はイタリア語で「魂の匂い(香り)」を意味する。スクエリア自身は調香師(パフューマー)ではなく、ブランドのディレクターおよびビジョナリーとして、コンセプトの立案からパッケージのデザインまでを担当し、香りの実制作はパリのフレア(Flair Paris)に所属する調香師アメリー・ブルジョワ(Amélie Bourgeois)とアン=ソフィー・ベヘゲル(Anne-Sophie Behaghel)、そしてミラノのアトリエ・フラグランツェ(Atelier Fragranze Milano)のルカ・マッフェイ(Luca Maffei)との協働で行われている。

スクエリアは調香師に対して具体的な成分ではなく、哲学的・詩的なイメージで香りの方向性を伝えるスタイルを取る。

「私は香りのメンタル・イメージを持って、パリのラボのチームに連絡します。そして成分を教えてもらわずに、ただ香りを嗅いで、自分が思い描いていたものかどうかを判断するのです。成分を知ったとき、驚くことがある。通常であれば好まない香りが組み合わさって、自分が想像した通りの香りを作り出していることがあります。偏見はない、ただ純粋な創造だけです。」

── ステファニア・スクエリア

また、スクエリア自身はプロのタロット読み師でもあり、占星術・夢・哲学・心理学・歴史・詩など多岐にわたる分野への深い関心が、ブランドのコンセプトの源泉となっている。

ブランドのこだわり

香りづくりの哲学

メンデットローザは、香水をマーケティングのツールとしてではなく、純粋に芸術として捉えている。スクエリアは「メンデットローザはマーケティングのために一本も香水を作ったことがない。すべての香水は人生の特別な瞬間を讃えるために作られた」と語っている。すべてのフレグランスはノンジェンダー(性別不問)であり、オードパルファムに加え、20%台から35%の香料濃度で展開されるエクストレ・ドゥ・パルファム(Extrait de Parfum)など、作品ごとに選ばれた濃度と処方によって、深く持続する香りを実現している。

また、ブランドは動物実験を行わないクルエルティフリーを掲げ、装飾に合成プラスチックを使用しないというポリシーを守っている。少量生産・限定販売という方針も、品質基準を最高水準に保つためのこだわりの表れである。

「香水は魂のためのものになれる。それは非常に内密な選択です。自分の魂に合った香水は、これまで自分に欠けていた前向きな何かを与えてくれます。」

── ステファニア・スクエリア

ボトルとパッケージのデザイン

メンデットローザのパッケージデザインは、同業他社には見られない徹底したこだわりを持つ。各フレグランスはそれぞれ固有のアイデンティティを持つ「芸術作品」として扱われ、統一感より多様性を優先している。

フラコン(香水瓶)はフランス製の高品質ガラスを使用し、それを収める木箱はイタリア・トスカーナの彫刻家アレッサンドロ・レッジョーリ(Alessandro Reggioli)が設計したバーチ材(白樺材)製のハンドメイドである。この木箱はレッジョーリが自身のアートワークを世界各地に輸送する際に使用するアート・クレートの公認レプリカとして作られており、香水市場においても他に類を見ないパッケージとして知られている。

キャップや装飾品にも同様のこだわりが貫かれている。例えば:

  • ル・マット(Le Mat):レッジョーリが粘土を手で捏ねて作ったキャップに、制作者自身の指紋が刻まれ、その一つ一つが一点ものとなっている。瓶にはマルセイユ・タロットの公認レプリカカードが同封される。また、瓶の首には「LE MAT(ル・マット)」と刻まれた手製のテラコッタのチャームと、小さなベルが結び付けられている。
  • タイム・ウィズアウト・タイム(Time Without Time)シリーズ(アルケティポ、リトゥアーレ、ラクーラ):イタリア人アーティスト、マウロ・カッラッツァ(Mauro Carrazza)が手でひとつひとつ成形した、渦巻き状のメタルワイヤーキャップ。「混沌の中から秩序が生まれる瞬間」を象徴するという。
  • ネットゥーノ(Nettuno):イタリア人鏡職人ルイーザ・デリ・スペッキ(Luisa degli Specchi)が手作業で仕上げたガラスビーズのパネルで装飾されており、1本1本がユニークな一点ものとなっている。
  • タレント(Talento):レッジョーリによるラク(Raku)焼きのセラミックキャップ。さらに、本物のバラの茎を樹脂に漬けて銀色に塗ったネックレスが瓶に掛けられている。

木箱は化学塗料を一切使用せず、火によるハンドマーキングのみが施されている。スクエリアは「捨てられないほど特別なものを作る」というアプローチでサステナビリティを実践している。

香水ラインナップ

メンデットローザは大きく2つのコレクションから構成されている。

オドーリ・ダニマ(Odori d’Anima)コレクション

ブランドの主力にして創設時から展開されているコレクション。「魂の香り」を意味するイタリア語のタイトル通り、魂の旅、記憶、そして対極にある要素の均衡をテーマとする。以下の4つのサブシリーズで構成されている。

ザ・トリロジー(The Trilogy):アルファ(Alfa)、オメガ(Omega)、イド(Id)の3本。ギリシャ語アルファベットの始まりと終わり、そして火山「イッドゥ」への感謝を込めたシリーズで、ブランド誕生そのものの物語である。3本はそれぞれ単独でも、レイヤリング(重ねづけ)しても楽しめるよう設計されている。

ザ・デュオ(The Duo):ノース(North)とサウス(South)の2本。ノースとサウスのコンセプトは、スクエリア自身のラブストーリーから生まれたという。ナポリ生まれの彼女が北の出身の人物と恋に落ちた体験が、「対極は引き合う」という哲学として昇華された。金色のキャップには方位針を模したエングレーブが施されている。

ヴェルシ(Versi):イタリア語で「詩(verses)」を意味する。イタカ(Ithaka)、オルロ(Orlo)、アルバトロス(Albatros)など、詩や文学からインスピレーションを受けた作品群が収録されている。アルバトロスはフランスの詩人シャルル・ボードレールの詩集「悪の華」に収録された詩「アホウドリ」を、オルロはシルヴィア・プラスの詩「Edge(エッジ)」をモチーフとしている。

タイム・ウィズアウト・タイム(Time Without Time):アルケティポ(Archetipo)、リトゥアーレ(Rituale)、ラクーラ(Lacura)の3本。哲学者ユングの「元型(archetype)」概念や古代文化の儀礼(ritual)をテーマとし、「時間のない時間」に人類の原始記憶へ接続することを目指す。

タリスマンズ(Talismans)コレクション

「護符(talisman)」をコンセプトとした第二のコレクション。占星術、タロット、夢、哲学、霊性の世界観に基づき、身につける者を内外の悪から守ることをビジョンとする。オドーリ・ダニマよりも概念的・儀式的な色合いが強い。ナポリという都市の「神聖であり俗的でもある」二面性が、このシリーズの精神的な源泉とされている。

主な作品:

  • ル・マット(Le Mat):タロットの「愚者(The Fool)」カード(ブランドの説明では0またはXXII)にインスパイアされた作品。グラース産ローザ・チェンティフォリア(Rosa Centifolia)、スペイン産イモーテル(Immortelle)、インドネシア産パチョリ(Patchouli)などを中心とした、深いシプレー系の香り。調香師はアン=ソフィー・ベヘゲル。
  • ソーニョ・レアーレ(Sogno Reale):「現実の夢」。カール・グスタフ・ユングの無意識の概念に触発された作品。
  • シリオ(Sirio):星の名前を持つタリスマン。
  • ネットゥーノ(Nettuno):イタリアの占星術師マルコ・ペサトーリ(Marco Pesatori)が書いた海王星についての詩にインスパイアされた作品。スクエリアが「各人の内なるアーティストとの再接続」を願って制作した。
  • タレント(Talento):「才能」をテーマに、バラとミントの物語を香りで表現。哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインの言葉が引用されている。
  • オサン(Osang):フェヌグリーク、没薬(ミルラ)、蜂蜜などを中心とした香り。調香師はジョヴァンニ・フェスタ(Giovanni Festa)。

ちなみに……

ブランド名の意味は公式には秘密:「メンデットローザ」という名称の正式な意味について、スクエリアは一切の公開を拒んでいる。「ラベルは好きじゃない、なぜなら非常に制限的だから」と語る彼女らしい選択と言える。

ルカ・トゥリンの5つ星:世界的に著名な香水批評家で分子生物学者のルカ・トゥリン(Luca Turin)は、著書『パフュームズ:ザ・ガイド2018年版(Perfumes: The Guide 2018)』において、「ル・マット」を最高評価の5つ星と評した。2017年にスクエリアから木箱・タロットカードと、彼が「大理石のストッパー」と表現したキャップ付きのフルボトルが届いたトゥリンは、「ファンタジー美学と卓越した香りの組み合わせがイタリアンパフューマリーの復興を予感させた」と記している。スクエリアはこの評価を「どんな賞にも匹敵しない、心から誇りを感じる」と語っている。

オサンのアート&オルファクション賞ファイナリスト:タリスマンズ・コレクションの「オサン」は、2018年の権威ある香水賞「アート&オルファクション・アワーズ(Art & Olfaction Awards)」のインディペンデント部門にて最終候補10作品の一つに選出された。

ストロンボリ島は映画『ストロンボリ』の舞台:スクエリアにインスピレーションを与えたストロンボリ島は、奇しくも1950年にロベルト・ロッセリーニ監督がイングリッド・バーグマン主演で撮影した映画『ストロンボリ』の舞台でもある。スクエリアはこのことを知りながら同島を訪れた。

「AIフリー」を公言:公式ウェブサイトには「香水も、コピーも、AIフリー」と記されており、ルカ・トゥリン自身も「斬新かつ愉快だ」と評している。

参考文献