Salon du Chocolat Parfum 2023 サロン・デュ・ショコラパルファン

candle-chocolat マニア向け記事

 2月のバレンタインデーが近づくと、香水沼の民たちはそわそわし始める。今年のバレンタインはチョコじゃなく、チョコの香りを買うぞ、と。チョコを食べるのではなく、チョコになろうとしているのである(知らんけど)。そんな方たちには、まず、かつて第二のイヴ・サンローランと呼ばれ、ランバンで素晴らしい才能を発揮したアルベール・エルバスの言葉を送りましょう。

(スーパースティシャスを作る際に)私がフレデリック・マルに唯一お願いしたことは、チョコレートやバニラの香りは作らないでおこうということでした。例えそれが、流行だったとしてもです。もし私たちが食べ物を食べることができない、禁じられていたとしたら、チョコレートの香りがする香水を作ろう!となるでしょう。しかし、チョコレートが欲しいなら、買いに行けばいいのです

アルベール・エルバス

 ここから先は、そんなエルバスの諫めでは止まらない、貴方のためにあります。ルシェルシェパルファムの祭典サロン・デュ・ショコラパルファンへようこそ!

チョコレートが解決できないことは何もありません!

キリアン・ヘネシー

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チョコレート概論

 そもそも、チョコレートとは何なのか。起源を知れば、さらにチョコレートが好きになること間違いなし!?

チョコレートの歴史

 チョコレートの原料であるカカオは、紀元前1500年ごろのメキシコのオルメカ文明で初めて利用されたと言われています。「神様の食べ物」とも呼ばれ、とても高価でありました。
 16世紀のアステカ文明時代には、カカオ豆をすりつぶし、それにとうもろこしの粉を加えたり、バニラやスパイスなどで香りをつけたりして飲んでいたと言われています。これをショコラトルと呼びました。フエギアのショコアトル(Xocoatl)は、これにインスパイアされた香りです。
 また、長い間、神秘的な力を持つものとして、主に捧げものや貨幣としても利用されていたようです。

 16世紀にスペインにチョコレートが伝わり300年。19世紀初頭に、あるオランダ人が「もっとショコラトルを飲みやすくできないか?」と考えました。彼の名をバン・ホーテン(Van Houten)と言います。そう、あのココアパウダーの会社バンホーテンの創始者です。彼は、ココアバター(脂肪分)を取り除くことで、ココアパウダーを作り、より飲みやすいショコラトルを作ったのです。

 このバン・ホーテンの技術を生かし、コンデンスミルクとチョコを混ぜることで、美味しい食べるチョコレート(ミルクチョコレート)を生み出したのがダニエル・ピーターというスイス人になります。そして、彼の隣人が、アンリ・ネスレ、あのネスレ社の創始者であったのです。

 ちなみに、日本にチョコレートが伝わったのは江戸時代と言われています。

チョコレートとは

 チョコレートの原料は、カカオ豆(カカオビーンズ)というカカオの木の果実の中にある種子になります。このカカオの実は、外側が厚さ1cm以上もある硬い殻で覆われており、「カカオポッド」と呼びます。この中に「パルプ」と呼ばれる甘い果肉とそれに包まれた30~40粒の種子(カカオ豆)が入っています。

 カカオポッドからは、パルプごとカカオ豆を取り出し、そのまま発酵させます。この発酵過程で、チョコレートの香りの元が生まれます。カカオ豆を発酵・乾燥させ、皮を取り除き、ローストし、すりつぶしたものをカカオニブと呼びます。これをさらに細かくペースト状にし、固形化したものをカカオマスと呼びます。
 そして、カカオマスを熱によって遊離させ、作られるものがココアバターです。これはカカオマスの約55%を占める植物性脂肪の抽出物になります。この脂肪分を一定量カカオマスから取り除いた固形のものをココアケーキと呼びます。ココアケーキを粉砕し、微粒の粉末にするとココアパウダーと呼ばれます。

チョコレートの分類

 さて、チョコレートは、カカオ分+砂糖+ミルクなどによって作られます。上記のカカオ豆由来の成分(カカオニブ、カカオマス、ココアバター、ココアケーキ、ココアパウダー)であるカカオ分がどれだけ含まれるか、ミルクがどれだけ含まれるか、他の素材は何が入っているか、またその製法や形状などによって名称が変わってきます。そして、国によって、若干基準が異なります(以下は、日本の分類による)。つまり、香水においても、イメージしているチョコが何か?で微妙な差異が生まれているはずです。

チョコレート生地の分類

ダークチョコレート

 基本的にダークチョコレートの明確な基準はありませんが、一般的には「ミルクが入らない、カカオマスが40%~60%」のチョコレートを言います。ビターチョコレート、ブラックチョコレート、スイートチョコレート、プレーンチョコレートとも呼びます。カカオ独特の苦みや渋み、香りを感じることができます。必ずしもカカオ分が70%とか90%というわけではありません。

ミルクチョコレート

 カカオ分が21%以上、乳固形分が14%以上などのルールが定められています。一般的なチョコに多く、食べやすい味わいです。

ホワイトチョコレート

 カカオ分が21%以上で、カカオ分は半透明のココアバターのみを使用したクリーム色のチョコをいいます。カカオの割合が大きいカカオニブやカカオマスを使わないため、苦味などは少ないチョコになります。

製法・形状による分類

板チョコ

 英語圏ではチョコレートバー、フランスではタブレットと呼ばれる板状のチョコレートです。液状のチョコレートを型に流し込み、冷却、固めたものになります。チョコを殻に見立て、中にジャムやフルーツ、ナッツを入れたものは特にシェルチョコレートと言います。

生チョコ

 チョコレート生地に、生クリームや洋酒を練り込んだ、水分が多く口溶けが滑らかなチョコを言います。欧米ではガナッシュと呼ばれ、ボンボンショコラの中心に使われます。実は、このガナッシュ単体(生チョコレート)で食べる文化は、日本で一般的なだけなようです。

プラリネ

 カラメル状にした砂糖とローストしたアーモンドやヘーゼルナッツを混ぜ合わせ、すりつぶしてペースト状にし、これをチョコレートに混ぜたものをプラリネと言います。

ジャンドゥーヤ

 イタリアが本場で、ローストしたヘーゼルナッツをすりつぶしてペースト状にしたものと(そのままの)砂糖をチョコレートに混ぜ合わせて作るものを言います。

マジパン

 ローストしてないアーモンドをすりつぶし、(そのままの)砂糖を混ぜ合わせてペースト状にしたもの。

ボンボンショコラ

 チョコレートの殻の中にガナッシュのような詰め物が入った一口サイズのチョコレートを言います。ボンボンとは、チョコレートや砂糖でコーティングした小さな菓子を指すフランス語です。

 ガナッシュだけでなく、プラリネやマジパン、ジャンドゥーヤなども中心に使われます。 

トリュフ

 ボンボンショコラの一種で、きのこのトリュフに似せて作られた球体のチョコです。外側はトリュフを掘り出したばかりの土がついたイメージを再現するためにココアパウダーをまぶしていることが多いです。

ロシェ

 ボンボンショコラの一種で、「岩」を意味するフランス語を名に持ちます。アーモンドなどでゴツゴツした雰囲気を出しています。

オランジェット

 細切りにしたオレンジピールを砂糖漬けにし、チョコレートをかけたものを言います。

ドラジェ

 アーモンドをチョコレートと砂糖でコーティングしたお菓子。

チョコレート香水の歴史

 さて、チョコレートの香りを香水に使うようになったのは、いつからなのか。香水好きの頭には、まずティエリー・ミュグレーのエンジェルが浮かぶのではないでしょうか?しかし、実は、最初にチョコレートノートを使って作られた香水はエンジェルではありませんでした

最初のチョコレートの香り

 香水史上、最初にチョコレートの香りを使用したのは、グタールオードゥシャーロット(グタールパリ、1982、アニックグタール)と言われています。この香りは、アニックの娘であるシャーロットのために作られた香りで、シャーロットが7歳のときにテラスに生えるツタの香りが欲しいといったことがきっかけで作られました。カカオは洗練さを付け足すために入れられていたので、甘~いグルマンというわけではありません。

 そして、10年の時が過ぎ、グルマンというカテゴリを築くことになるエンジェル(ティエリー・ミュグレー、1992、イヴ・ド・シリス&オリヴィエ・クレスプ)が登場します。

「天使」という名の悪魔

 ルカ・トゥリンをして90年代のシャリマーと言わしめるエンジェルは、ティエリー・ミュグレーの最初の香水として、プロジェクトが始まりました。創始者であるティエリーは、面白いことに、「香水というのは、単にファッションとだけ結びつくものであってはならない。なぜなら、スタイルはいつの日か時代遅れになってしまうからだ」という考えを持っていました。そこで、いつの日かクラシックとなる香り、そして一時の流行やファッションとは結びつかない香りを生み出すが決まりました。

私にとって、パーソナリティとキャラクターの方がファッションより大切です。私のスタイルというのは、純粋無垢で優しい、だけど強い、そんなイメージの女性を投影させています。だから、私はこの香水をAngelと呼んだのです。天使は、良くも悪くもなれるのです

ティエリー・ミュグレー

 さて、香りの方は、冷たさを感じさせるスカイブルーのボトルと対照的な温かみを感じる香りになるように進められていきます。そして、グルマンのアイデアはティエリー自身から出てきました。

私が求めているのは、何かよだれが出てくる美味しそうなもので、子供の頃を思い出させるものです。お祭りの香り、綿菓子とか小さなケーキ、チョコレート、キャラメル、そんな感じの香りです。

ティエリー・ミュグレー

 当時、クエスト社にいたイブ・ド・シリスとオリヴィエ・クレスプは、彼の話と好みを聞きながら、彼のイメージに沿った香りを作っていきます。

私にとって、エンジェルは、パチョリの温かみとウッディさ、そして苦みと甘みが渾然一体となった香りです。この苦みと甘みというのがキーワードです。というのも、チョコレートとリンゴ飴のシュガリーノートとのバランスを取り、コントラストを生むためには、苦みが必要だったからです。

オリヴィエ・クレスプ

 こうして生まれたエンジェルは、天使が空を羽ばたいているかのような、ベルガモットへディオンのセレスティアルノート(天体の香り)から始まり、ベリーとハチミツが混ざり合うことで生まれるデリシャスノートが天使の愛らしさを生み出していきます。やがて天使は、頬に、パチョリバニラによって誕生したチョコレートバニラ味の口づけをし、虜にするや、悪魔という本性をさらけ出していきます。
 本国ではエンジェルのボディケアも販売しています。

エンジェルの革命は、すでに香水業界に存在していたグルマンという概念を前面に出したということよりも、フレーバーと香水、味と香りの間にある目に見えない壁を取り壊し、我々が食欲として感じる刺激と同じ衝動を香水に持ち込んだという点にあります。

ジェラルド・ギスラン(イストワールドゥパルファン創始者)
ちなみに…

ラ・メゾン・ドゥ・ショコラは、2017年、創業40周年のタイミングで、ティエリー・ミュグレーのエンジェルとコラボしたチョコレートを発売しており、チョコには珍しいパチョリを使用したそう。
当時の本国の情報はこちら

チョコレートの香りの作り方

 もともとカカオ豆の香気は数百もの分子で構成されている。さらに、豆を焙煎する際の化学反応で、香り成分の数は3倍に増えるのだ。だから、チョコレートの匂いは人の手が加わった複雑な産物といえよう。

・フェニル酢酸イソブチル
バニリン

 こうして香料をいくつか並べるだけで、複雑なチョコレートの香りが表現できる。これは、なにより調香師がマジシャンである証しだ。

ブラックチョコ風味」にしたければ、パチョリを加えてみるといい。
口溶けのいい「ガナッシュ」にするなら、シベットを少々。
オレンジピールを包み込んだ菓子「オランジェット」であれば、オレンジピールの香りを。
スペアミントを足せば、「アフターエイト」チョコになる。
ココアパウダー」を表現するときは、オリスコンクリートをお勧めする。

ジャン=クロード・エレナ

チョコレートの代表的な香水

 ここからですよね?知りたかったのは。お待たせ致しました。
 使用されている香料や実際の香りを元に、主観ですが、特に素晴らしいと考えられる香水をまとめてみました。ぜひご参考下さい。なお、カカオが一部の香料になっているだけのものは省いています。

ダークチョコレート

ボルネオ1834(セルジュルタンス、2005、クリストファー・シェルドレイク)
ショコアトル(Xocoatl、フエギア1833、2010、ジュリアン・ベデル)
ダークチョコレート(ディメーター、2013)
ノワールアフロディジアック(キリアン、2016、カリス・ベッカー)
ムスカラカカオ(フエギア1833、2019、ジュリアン・ベデル)

チョコ&フローラル

1969(イストワールドゥパルファム、2001、ジェラルド・ギスラン)
カカオアズテック(ぺリスモンテカルロ、2017、マチュー・ナルディン)

チョコ&ローズ

100% LOVE(S-パフューム、2003、ソフィア・グロスマン)

チョコ&フルーツ

ショコラ(イルプロフーモ、1997、シルヴァーナ・カッソーリ)
エリクシールシャルネル グルマンコキャン(ゲラン、2008、クリスティーヌ・ナジル)

トリュフ(中身はフレッシュフローラル)

ブラックオーキッド(トムフォード、2006、デビッド・アペル&ピエールネグリン)

ホワイトチョコレート

アイリスガナッシュ(ゲラン、2007、ティエリー・ワッサー)

オランジェット

チョコレートグリーディー(モンタル、2007、ピエール・モンタル)

番外編

 チョコ以外でバレンタインの時期に合わせた香水を探すなら、グルマン・紅茶はいかがでしょうか?

ガチチョコレート

 オススメしたいブランドはたくさんありますが、見た目・味・香りが楽しめるチョコレートを厳選してみました♪

MAISON CACAO

 2015年、鎌倉発祥のメゾンカカオは、味へのこだわりは勿論のこと、パッケージやサイトのデザイン性の高さには、すべての女性がニッコリするのではないでしょうか。百貨店や昔ながらのお店のサイトと比較すれば、そのオシャレさは一目瞭然。サイトを訪れただけで味への興味がそそられ、コンプリートしたくなること間違いなし。

 メゾンカカオのカカオは、コロンビアで生産され、各チョコは「日本人の唾液量に合わせて水分量や空気量を調整」しています。アーティストたちとのコラボもしており、パッケージの美しさは催事場でも一際目立っているのではないかと思います。

 また、特に生チョコレートは、それぞれ最高峰の素材を使っており、口に含んで溶けた後に鼻腔を抜けるアロマは恍惚としてしまうでしょう。毎年ウイスキーの山崎や響とのコラボもあったり、季節に応じたフレーバーもあったりします。フレーバーの種類が豊富すぎます。

阪急での購入はこちら
高島屋での購入はこちら
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Jacques Genin

 ジャック・ジュナンは、キリアンのパリ限定の香水ノワール・アフロディジアックでコラボしたショコラトリーになります。チョコレート通の間では、知らない者はいない、と言われるほどのチョコレートブランドですが、日本では公式ショップがありません。年に1度のバレンタイン、しかも最近は高島屋でしか取り扱いがされていない貴重なチョコになります。

 独学でチョコを学んだと言うジャック・ジュナンのチョコレートに特徴的なのは、ジャスミンをはじめとし、トンカビーンコリアンダーローズミントといった調香師のパレットのような素材をチョコに使用している点です。日本に毎年来るチョコは数種ですが、フランス公式ではもう少し手軽な値段で、様々な種類のチョコが販売されています。

高島屋での購入はこちら
フランス公式サイトはこちら

もし、ある都市のある場所でしか買い物ができなくなるとしたら、私はパリのマレを選ぶでしょう。そこのショコラティエであるJacques Genin(ジャック・ジュナン)のところに行くのが大好きなのです。

キリアン・ヘネシー

Chocolaterie HISASHI

 言わずと知れたチョコレート界隈の憧れショコラトリーヒサシ。いつかは食べたいと思っている方も多いのではないでしょうか?バレンタインの催事でたまに出現はするものの、今年は無さそう?しかし、何と言っても、ヒサシはお店に行ってこそ、感動が桁違いになります。なぜなら、オンラインショップでも買えないチョコ・焼き菓子・ケーキがたくさんあるからです♪

 クラブハリエに入社して、2010年から数々の大会で優勝し、世界大会では総合準優勝までのぼりつめたオーナーである小野林範さんの作るチョコは、見た目のエレガントさと味の上品さ、そしてどこかに入っているユーモアが絶妙なバランスで、上げる方ももらう方もニッコリ。モナショコラを初めて食べた感動は忘れませんが、ケーキの美味しさも段違いです!

公式サイトはこちら

Nakamura Chocolate

 ナカムラチョコレートは、オーストラリアに住み、現地のフレーバーに感動したショコラティエ―ル中村有希が2010年にパースで開業したブランドです。日本の食材とオーストラリアの食材が渾然一体となり生み出される味わいは、至福のひと時をもたらしてくれることでしょう。そして、何と言っても丁寧に細部までデザインされた和風美人なチョコは、見るだけでテンションが上がります。

 香水に使われるような素材が多く、香水好きにはぜひ味わって頂きたいブランドになります。

公式サイトはこちら
高島屋での購入はこちら
大丸松坂屋での購入はこちら

この記事を書いた人

香りの学び場「ルシェルシェパルファム」の運営者。
元香水販売員で、現在はとあるIT企業の管理職。
香水への愛が抑えきれず、自身の学んだことをはきだすサイトを作ってしまう。エルメス・フレデリックマルを主に愛用。

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