Q. 樹脂やバルサムといった香調のものは好きなのですが、アンバーの特徴が強いものはあまり得意ではありません。香料等どのような違いがあるのでしょうか?

Q&A

A. これは、良い質問ですね。樹脂系の香料の勉強にもなります。では、早速、それぞれの香料を見てみましょう。

樹脂の香料

 香料には、植物の樹脂から採れるものが複数あります。植物の樹脂から得られる抽出物のことをレジン(resin)と呼びます。このレジンが一般的に、甘く、柔らかく、温みのある香りのため、そのような性質の香りをバルサミックと言います。このような香りの特徴から、オリエンタルノートやウッディノートと相性が良い香りになります。

オポポナックス

 別名スイートミルラの名を持つオポポナックスは、ソマリアやエチオピアに生育するミルラの近縁種の樹木から採れる樹脂です。名前は、ギリシャ語でopo(汁)panax(癒し)に由来します。

 ミルラやフランキンセンスと同様、お香にも使われます。ミルラに似たバルサミックな温かみを持ち、よりハチミツのような甘さとまろやかさを持ちます。

スチラックス

 正式名をLiquidamber(リキッドアンバー)と呼び、もみじのような葉を持ちます。樹皮に切り込みを入れることで、ゴム樹脂が分泌され、シナモン様の香りがします。バルサミックな香りもあり、レザーノートによく使われます。

バルサム

 バルサムとは、樹脂とは少し異なる物質です。樹脂(resin)は、木から滲み出る涙のような、ガムのような液体から形成されるものですが、バルサムは必ずしも木から得られるものではなく、多くの場合、花のさやや小枝から得られます

 エルサルバドルが主な生産国であるペルーバルサムと、コロンビアを原産とするトルーバルサムの二種類が香水では主に使われます。ペルーバルサムは、シナモンバニラの側面に土っぽさと苦味のある香りがし、トルーバルサムはシナモン、バニラの香りと同時に柔らかいフローラルの香りがします。

フランキンセンス

 オリバナム(Olibanum)とか乳香とも呼ばれるゴム樹脂で、アラビア、オマーン、ソマリアなどで採取されます。

 小低木の樹皮をはがすか、枝に切り込みを入れ、木の上に固まった粒を採取します。これを水蒸気蒸留にかけることで、精油が抽出され、シトラスノートのような爽やかな香りでグリーンの香りがある一方で、ウッディな温かみもあります。「アンバー系香水の王」とも称され、スパイシーさも感じます。

ベンゾイン

 ベンゾインは、シャム産のStyrax tonkinensis(スチラックス・トンキネンシス)とスマトラ産のStyrax Benzoin(スチラックス・ベンゾイン)の二種から得られるものがよく知られ、その幹から抽出される樹脂のことを言います。
 安息香とも呼ばれ、樹脂はどろどろした粘り気のある液体で、昔は「ベンゾインの涙」と呼ばれていました。幹から滲み出る液体が涙のしずくの形をしていたため、昔の人は木が泣いていると信じたのです。安息香酸(benzoic acid)は、この樹脂の主成分であるためにその名がつきました。

 スイートだが甘ったるくなく、リッチだがヘビーではない、その香りにはバニリンが数%含まれています。

ミルラ

 没薬(もつやく)とも呼ばれ、中東やソマリア、エチオピアなどに自生するミルラという樹木から採れる樹脂です。フランキンセンスと同じカンラン科の植物になります。

 ミルラ(Myrrh)という名は「苦い(bitter)」を意味するヘブライ語・アラビア語に由来し、ウッディ、アロマティックでレモンやサフランを思わせ、刺激があり、わずかに薬品の香りがします。また、温かみもあり、香りを持続させる保留材としても一級品であります。

ラブダナム

 シスタスラブダナムとかシスタス(Cistus)、シストとも呼ばれ、岩に咲くバラが近縁にあるため、別名ロックローズとも呼ばれます(バラの仲間ではない)。地中海に生育し、ノバラのような美しい花を咲かせます。夏は、生育地域が猛暑のため、厳しい気候から身を守るため、香りの強い樹脂を分泌します。この樹脂が、独特の香りを放ち、アニマリックで、ソフトな、甘く官能的な香りがします。

 精油を嗅ぐと、ポートワインや熟成された甘みの強いシングルモルトのような深みと洋酒を思わせる濃厚な甘さの香りがします。

ガルバナム

 他の樹脂とは少し特徴が異なり、温かみのある木を思わせる香りというよりは植物の香りというイメージになります。

 セリ科の植物で、根や根と茎の間に切れ込みを入れると、ゴム樹脂が出てきて採取することができます。これがガルバナムです。
 収穫は、ほぼイランが独占しており、その香りはグリーンで青臭く、ウッディ、スパイシー、アニマル、ゴムのようです

アンバーの香り

 一般に、アンバーとは樹液の塊である琥珀のことを意味します。しかし、香水業界でアンバーと言うとき、それは琥珀の黄金のような色と輝きをイメージして作られた「アンバーノート」を意味します。本当の樹脂の琥珀とは異なり、主にラブダナムベンゾインなどの樹脂とバニリン(もしくは天然のバニラ)から成る甘く温かみのあるコンポジションを意味します。

結論

 つまり、アンバーとは、天然香料ではなく、実験室で生み出される天然香料の複合物になります。そして、アンバーに欠かせないのが、樹脂(主にラブダナムやベンゾイン)とバニラになります。元々、樹脂の香りには、バニラを思わせる甘みのある香りが含まれているものがありますが、バニラを加えることでより甘さが引き立っているのがアンバーノートになります。バニラは多くの場合、合成香料バニリンが代替として使われます。「アンバーの特徴が強いものがあまり得意ではない」ということは、バニラ(バニリン)で強調された甘さがあまり好みではない可能性があります。

 また、樹脂と一口に言っても、様々なタイプの樹脂がありますので、どれかが好きで、どれかはあまり好みではないという可能性も高いと思われます。アンバーノートにはラブダナムやベンゾインがよく使われますので、そのあたりが好みではないかもしれません。

 色々なタイプの香りを試し、その香料を調べることで、ある程度ご自身の好みの樹脂は何なのかが特定できるかと思います。

この記事を書いた人

香りの学び場「ルシェルシェパルファム」の運営者。
元香水販売員で、現在はとあるIT企業の管理職。
香水への愛が抑えきれず、自身の学んだことをはきだすサイトを作ってしまう。エルメス・フレデリックマルを主に愛用。

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