Perroy Parfum(ペロア パルファン)― 森から生まれた「気分の色」

ペロア パルファンの世界観と代表製品「MAHOGANYSUN」を表現したブランドイメージ ブランド創業者

「香水は力だ。それは自分が誰であるかを表現し、気分を変え、どこへ行っても自分の痕跡を残す力だ。ペロアはその力をアクセシブルに——楽しく、大胆に、美しく作りたかった。」

— アルノー・プーラン(Arnaud Poulain)、創設者

基本情報

設立年:2023年(現行公式サイトの表記。公式ローンチ:2024年4月1日)

創設者:アルノー・プーラン(Arnaud Poulain)

公式サイトhttps://perroyparfum.com

創設者・ブランドの成り立ち

北フランスの大地に育つ

アルノー・プーランは1986年、フランス北部のアラス(Arras)生まれ。農家の祖父母、金属加工職人の父、木工職人の叔父がいたとも紹介される——職人の技と勤勉さを体現する家族の下で育った。彼自身は後にそうした出自を「香水の世界には縁のない、農業の土壌から来た」と表現している。学校はあまり得意ではなく、12歳のとき母親を亡くすという喪失を経験する。その悲しみを、彼は決意へと変えたという。

技術短期大学課程(DUT)を修了後、アルノーはアイスクリームブランドの製造工場でオートメーションを担当し始めた。電気工学と機械工学——その精密で論理的な世界が、後の調香スタイルの基盤となる。

一冊の本と、運命的な出会い

2007年。アルノーが21歳のとき、彼の人生を変える出来事が起きた。アイスクリーム工場の工場長が、「ちょうどお前と同じくらい野心的な奴がいる」と言って、香水の世界へ転身した自分の息子を紹介してくれたのである。その出会いを通じ、アルノーはジャン=クロード・エレナの著書『ル・パルファン(Le parfum)』を手にした。

「私はこの本を読んで、人生は21歳で終わらないことを理解した。完全に変容し、人生をゼロから変えることができるのだと。」

— アルノー・プーラン

読み終えたアルノーは、調香師になることを決意する。

シャネルとビレード——下積みと挫折

香水の世界に飛び込んだアルノーは、ランスの職業教育機関「シアデップ(SIADEP)」で基礎を学んだ。そこで運命的な出会いが待っていた。講師のアメリー・ブルジョワ(Amélie Bourgeois / スタジオ・フレア)である。アルノーは1年後に学内でトップクラスの成績を収め、シャネル・パルファムの仏部門ディレクターに見出された。

シャネルでは販売員として高い実績を上げ、ギャラリー・ラファイエットへの就職も打診された。しかしアルノーはそれを断る——香りを「売る」のではなく「作る」ことに本気だったからだ。

2009年ごろ、彼はニッチフレグランスの小さなブランド「ビレード(Byredo)」の仕事を引き受け、ボン・マルシェへの展開を担当する。そこで初めてパリへ上京し、ベルナール・アルノーと遭遇するという偶然の出来事もあった。しかしビレードが買収されると、アルノーは行き場を失う。

「私は迷子になっていた。調香師の扉を叩き続けたが、業界のバックグラウンドがない私は、全員に断られた。」

— アルノー・プーラン

自ら製造所を作る——レゾー・プリモルディアルの誕生

2015年、アルノーは自宅のガレージで最初の香水を作り始める。冷蔵庫でフレグランスを冷やし、自宅を製造所として使いながら、初のコレクション6作品を完成させた。それを「コレット(Colette)」に売り込むことに成功し、ブランド「レゾー・プリモルディアル(Les Eaux Primordiales / レ・ゾー・プリモルディアル)」が産声を上げた。

その後、事業天使(ビジネスエンジェル)からの30万ユーロの出資を得て、事業は加速する。ブランドはフランス北部アクの14ヘクタールの敷地「ル・ドメーヌ・プリモルディアル(Le Domaine Primordial)」を拠点とし、製造・ボトリングから木工・ディスプレイ製作まで一貫した内製体制を整えた。フォーブス・フランス(Forbes France、2023年冬号)の取材時点で、同社は売上高300万ユーロ、従業員40名規模にまで成長していた。

第2ブランドとして——ペロア パルファンの誕生

大手グループへの売却を断固として拒んできたアルノーには、明確な野望がある。自ら複数ブランドを抱える「グループ・プリモルディアル(Groupe Primordial)」を作ることだ。そのビジョンの中で2024年にデビューしたのが、第2ブランドの「ペロア パルファン」である。

2024年9月、アルノー自身がリンクトインに投稿した。「4月のローンチは私たちの期待を遥かに超え、真の成功を収めた。ニッチ香水市場は年間約10%成長しており、価格が手頃でありながらニッチのスピリットを持つ『エントリーニッチ』というカテゴリーが生まれつつある。ペロアはまさにそこに位置している」。

ブランド名の由来は、マーケティング上の造語ではない。「ル・ボワ・デュ・ペロア(Le Bois du Perroy)」——ブランドのクリエイティブスタジオが根ざす、静寂に満ちた森の名前だ。

「そこはアイデアが呼吸する場所。静寂とエネルギーのバランス——それがペロアに感じてほしいもの。自然でありながら電気的で、根付いていながらも自由な。」

— アルノー・プーラン

その森には2世紀の歴史を持つ城(シャトー)があり、ペロアの香水はそこで充填・製造される。

ブランドのこだわり

香りづくりの哲学——「建築家と技術者」の共作

ペロアのすべての香水は、アルノーと長年の盟友アメリー・ブルジョワの共同制作である。アルノーはその関係を、建物の設計に例えて語っている。

「建築家と技術者のような関係。アメリーが技術者で、私が建築家。スタジオ・フレアのアメリーとソフィー、そしてチーム全員と一緒に働いている。彼らは非常に魔法のような存在で、調香においてとても強く、とても創造的だ。私たちはオープンフォーミュラ(処方を共有しながら)協働している。」

— アルノー・プーラン

ペルフューム・ソサエティ(Perfume Society)に寄稿されたブランドの紹介文には、このような一節がある。「私たちは香りを中心に置く。それは通常2〜3人のフレアのメンバーによる共同プロセスであり、それぞれが異なる専門性を持っている。目標は常に同じ——現代的で、創造的で、完璧にバランスの取れた構成だ」。

調香師としてのアルノーの個性は、機械工学者らしい「精密さ」にある。「私はあらゆる成分を機構の歯車と車輪として見る。常に特定のビジョンを持って創り、過剰投入はせず、素材を昇華させるための繊細なバランスを常に追求している」。

「エントリーニッチ」という民主的な価格設定

ペロア パルファンの哲学を一言で表すなら、「ニッチ品質を手の届く価格で」である。発表当時に紹介された欧州での価格帯は15ml 25ユーロ、50ml 80ユーロ、100ml 120ユーロ。2025年の日本上陸時は15ml 6,050円、50ml 17,600円(いずれも税込)での展開だった。

ボトルデザイン——AIと手仕事の融合

各フレグランスのボトルは、鮮やかな色彩とミニマルなフォルムが特徴だ。色はムードに対応しており、コレクタブルな設計を意識している。注目すべきは、そのビジュアルアイデンティティの制作にAI技術を積極的に取り入れている点だ。クラシックな香水製造の手仕事(フランスでの手充填・手作業による製造)と、現代のAIを活用したクリエイティブ制作——この二つの掛け合わせが、ペロアの独自性を形成している。

フランスで手作業による製造

全ての香水はフランスにて手作業で製造される。高濃度・高拡散性のフォーミュラにより、長時間の持続と強い印象を実現するとされている。アルノーが「どこへ行っても忘れられない印象を残す」と語るように、香り持ちへのこだわりはブランドの根幹をなす。

香水ラインナップ

ペロア パルファンの2025年の日本上陸時のコレクションは、8種のオードパルファム(EDP)と、8種をすべて試せるパフュームキットで構成されていた。

各香水には固有の色とムードが割り当てられており、インスタグラム世代に向けたハッシュタグ形式のムード表示(例:#SELFCONFIDENT=自信に満ちた、#FLIRTY=おちゃめ)が採用されている。香水の名前にはすべて「色名+自然のモチーフ」の組み合わせが使われており、コレクションとしての統一感がある。

8つの香り&ムード

アイボリー スカイ(Ivory Sky) — #SELFCONFIDENT(自信に満ちた)
パウダリーウッド系。ベルガモットのトップから始まり、サンダルウッドのボディ、ベチバーのベースへ。アルノーが「最初に創った香水」と語るコレクションの核心作。「ユニセックスとして最も普遍的な作品」とも述べている。

タンジェリン パール(Tangerine Pearl) — #ENERGETIC(エネルギッシュ)
シトラス系。グレープフルーツとジンジャー、アイリスの組み合わせ。アルノーの言葉を借りれば「カリフォルニアの日の出」、朝のオレンジジュースのような活力を与える香り。

アズール ブラッシュ(Azure Blush) — #FLIRTY(おちゃめ)
フルーティーフローラル系。ライチのトップ、ピオニーのボディ、ルバーブのベース。8種の中で最も女性向けとされる一作。

マホガニー サン(Mahogany Sun) — #SUNNY(陽気)
フローラルバニラ系。フランジパニ(プルメリア)、フィグ、バニラで構成。製造所内で実際に充填されている場面が動画でも紹介されており、「コレクション中最も拡散力が高い香り」とアルノーが語っている。

ピンク ファイア(Pink Fire) — #SEXY(セクシー)
フルーティーウッド系。ザクロ、ラズベリー、アンバーウッドの組み合わせ。「日中はアイボリー スカイ、夜にはピンク ファイアを」とアルノーが使い方を提案している。現代的なウッドとパチョリが生み出す「ホット&スパイシー」な存在感。

ブロンド パープル(Blond Purple) — #SENSUAL(官能的)
トロピカルネクター系。マンゴー、イランイラン、ブラックカラントの構成。「コレクション中最も予測不可能な一作」とアルノー自身が語る。「マンゴーの皮のような感触」をフレグランスで表現しているという。

ブルー フォレスト(Blue Forest) — #CLASSY(洗練された)
スパイシーウッド系。シダー、ブラックペッパー、ムスクで構成。「8種の中で最もマスキュリン」とされ、アルノーは「2024年の未来的な紳士の香り」と表現している。

ゴールド ファウン(Gold Fawn) — #POWERFUL(力強い)
バニリックアンバー系。サンダルウッド、バニラ、シダーの組み合わせ。唯一ゴールドのポンプが施されたボトルを持ち、「コレクション中最も力強く、最もボリューム感のある香り」とされる。

レイヤリング(重ね付け)という楽しみ方

ペロアが特に推奨するのが、複数の香りを重ねる「レイヤリング」だ。各フレグランスはソロでもレイヤリングでも成立するよう設計されており、ブランドはいくつかの組み合わせを公式に提案している:

  • アイボリー スカイ + ブルー フォレスト
  • ブルー フォレスト + タンジェリン パール
  • マホガニー サン + ゴールド ファウン

全8種をミニサイズ(2.5ml×8)で試せる「パフュームキット(ムード パレット)」も用意されており、はじめてペロアを試す人の入口として機能している。

ちなみに…

  • ペロア パルファンは2025年3月に日本初上陸を果たした。ニッチフレグランス専門店「ノーズ ショップ(NOSE SHOP)」大阪店で2025年3月1日に先行発売され、3月21日からは渋谷・池袋・大阪店とオンラインストアで本格展開が始まった。
  • アルノーが創設したグループ・プリモルディアルは、ペロア パルファン(エントリーニッチ香水)に加え、旗艦ブランドのレゾー・プリモルディアル(高価格帯ニッチ香水)、そして第3ブランドとして「ハウス・オブ・セレニティ(House of Serenity)」(アート・ド・ラ・メゾン)を擁する多ブランド戦略をとっている。
  • アルノーは自社を大手グループに売却するつもりがないことを明言しており、事業の利益は将来的にラグジュアリー工芸を育成するための財団に投入することを構想している。
  • ペロアのビジュアルアイデンティティはAIを駆使して制作されているが、香水そのものはフランスの工房で手作業により製造・充填されている。テクノロジーと職人技の共存は、工学出身の調香師であるアルノーの美学そのものといえるかもしれない。
参考文献