“マイ・バーバリーは、ブランドの真のエンボディメントだ。香りにおいて、デザインにおいて、そしてその姿勢において。”
— クリストファー・ベイリー(Christopher Bailey)、チーフ・クリエイティブ・オフィサー
基本情報
設立年: 1856年(ファッションハウスとして)/香水事業の本格開始:1981年
創設者: トーマス・バーバリー(Thomas Burberry)
公式サイト: burberry.com
創設者・ブランドの成り立ち
21歳の布地商人が起こした革命
1835年8月27日、英国サリー州のブロッカム・グリーンという小さな村に、トーマス・バーバリーは生まれた。父親が農夫だったという記録はなく、彼は地元の学校を卒業した後、村の布地商(ドレーパー)に弟子入りする道を選んだ。当時、布地商への奉公は手工芸や商取引の基礎を学ぶ伝統的なルートであり、トーマスはそこで素材を見る目と商売の勘を磨いていった。
1856年、21歳の若さで、彼はハンプシャー州のバジングストークに自らの店を構えた。当時のバジングストークは人口4,500人ほどの小さな町に過ぎなかったが、トーマスにとってはそれが問題ではなかった。彼の関心は最初から、素材そのものにあった。
ガバジン——一枚の布が歴史を変えた日
トーマスが最も情熱を注いだのは、「英国の悪天候に負けない衣服を作ること」だった。当時の防水生地は、ゴム引きの布や重い毛織物が主流で、通気性が悪く、動きにくかった。これをどうにかしたいという思いが、彼を繊維メーカーとの長年の共同研究へと駆り立てた。
そして1879年、彼はついにそれを成し遂げた——「ガバジン(gabardine)」の発明である。ガバジンとは、エジプト産コットンを撚り(より)合わせる前に防水加工を施し、密度高く織り上げた生地のことだ。軽くて通気性があり、かつ雨や風を通さない——それまでには存在しなかった素材だった。1888年には特許を取得し、ガバジンはバーバリーの最も根本的な遺産となった。
探検家たちが証明した素材の実力
新素材の真価は、過酷なフィールドで証明された。1893年、ノルウェーの極地探検家で後にノーベル平和賞を受賞するフリチョフ・ナンセン(Fridtjof Nansen)が、北極探検においてバーバリーのガバジンを使用した最初の記録的な極地探検家となった。
さらにバーバリーと探検の歴史は深まった。英国の探検家アーネスト・シャクルトン(Ernest Shackleton)卿は、南極大陸横断を目指したエンデュランス号の遠征を含む3度の遠征でバーバリーのガバジンを着用した。1914年の遠征では船「エンデュランス号」が氷に閉ざされたが、シャクルトンはバーバリーのアノラック、トラウザーズ、フードを身にまとい、27名の乗組員全員を1年以上にわたって生き延びさせた。ガバジンが保護した命があった、というこの事実は、単なるファッションの物語を超えた。
また、トーマスはロード・キッチナー(Lord Kitchener)やロード・バーデン-パウエル(Lord Baden-Powell)といった著名人に自社のウェアを着用させることで宣伝効果を高め、事業を急速に拡大した。1871年の国勢調査の時点ですでに70人以上の従業員を抱え、1878年には200人以上が働く大規模な製造工場を建設している。
第一次世界大戦とトレンチコートの誕生
バーバリーの名を世界に刻んだ最大の転機は、戦争だった。軍の要求に応えるため、バーバリーはトーマスの発明したガバジンを使った軍用コートを開発した。エポーレット(肩章)、ストームフラップ、Dリングを備えたそのコートは、塹壕(トレンチ)での戦闘に適した実用的な一着として「トレンチコート」と呼ばれるようになった。戦後、兵士たちが帰国後もそれを着続けたことで、トレンチコートはファッションとして一般にも浸透した。
トーマス・バーバリーは1917年にドーセット州のウェイマス近くに引退し、1926年4月4日にバジングストーク近くのフック(Hook)で世を去った。生涯を通じて禁酒主義者であり、たばこにも反対し、敬虔なバプテスト教徒として知られた。
ブランドの継承と試練
トーマスの死後、バーバリーは発展を続けながらも、複雑な変遷をたどった。1955年にはグレート・ユニバーサル・ストアーズ(ジー・ユー・エス/GUS)がバーバリーを買収し、家族経営の時代が終わりを告げた。20世紀後半にはバーバリーの特徴的なチェック柄が英国のサッカーファンの間で爆発的に流行し、その結果「フーリガン文化」と結びついてしまうという皮肉な事態も生じた。
こうした状況の中、2001年にヨークシャー出身のデザイナー、クリストファー・ベイリー(Christopher Bailey)がデザイン・ディレクターとしてバーバリーに加わった。1971年生まれのベイリーは、父が大工、母がマークス・アンド・スペンサーのウィンドウドレッサーという労働者階級の家庭に育ち、ウェストミンスター大学でファッションを学んだ後、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)で修士を取得した。ドナ・カラン(Donna Karan)、グッチ(Gucci)でのキャリアを経てバーバリーへ。
“私は目を開けたまま生きている。インスピレーションを得るために無理に外国へ行ったり、他の文化を探したりはしない。”
— クリストファー・ベイリー(インタビュー・マガジン、2010年)
ベイリーは2004年にクリエイティブ・ディレクター、2009年にはチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任し、バーバリーをデジタルとファッションが融合するモダンなラグジュアリーブランドへと再構築した。2018年3月にリカルド・ティッシ(Riccardo Tisci)に後任を譲るまで、17年間にわたってブランドの顔であり続けた。
ブランドのこだわり
「トレンチコートを瓶に詰める」という哲学
バーバリーの香水づくりの根底にあるのは、ブランドの最も重要な遺産——トレンチコートとガバジン——を嗅覚の世界に翻訳する、という一貫した姿勢だ。これは比喩的な意味だけでなく、文字通りボトルデザインにまで及んでいる。
2014年発売の「マイ・バーバリー(My Burberry)」では、ボトルの色がトレンチコートのハニーベージュに設定され、キャップはコートのホーンボタンをモチーフにしたホーン仕上げ、ボトルのネックには実際のトレンチコートにも使われているヨークシャー製ガバジン生地を手結びしたリボンが添えられた。これほど徹底してファッションとフレグランスのDNAを統合したボトルは、香水業界でも珍しいといえる。
天候・庭園・ロンドンの風景
バーバリーのフレグランスは、英国特有の「天気」を嗅覚的な出発点にすることが多い。「雨上がりのロンドンの庭園」「ロンドンのエネルギーと多様性」——こうしたビジョンは実際にパフューマー(調香師)へのブリーフとして機能し、香りの方向性を決定する。
ガバジン生地への継続的なオマージュ
1879年にトーマス・バーバリーが発明したガバジンは、ボトルデザインだけでなく、パッケージングや香水のストーリーテリングにも繰り返し登場する。素材の発明から140年以上が経過した現在も、「ガバジンの手結びリボン」「ガバジンインスパイアのラベル」といった形で創業者の遺産が生き続けている。
サステナビリティの取り組み
2023年発売の「バーバリー・ゴッデス(Burberry Goddess)」は、バーバリーとして初めてのリフィラブル(詰め替え可能)フレグランスとなった。バーニッシュグラスのボトルにゴールドのガバジンインスパイアラベルを施したそのデザインは、伝統的な美意識と現代的な環境への配慮を両立させた一本として注目を集めた。
香水ラインナップ
バーバリーのフレグランス事業は、1981年の初作品から現在までに数多くの香水を展開しており、その歴史は大きく4つのフェーズに分けて理解できる。
第1フェーズ:フレグランス事業の誕生(1981〜1992年)
1981年、バーバリーは初の香水「バーバリーズ・フォー・メン(Burberrys for Men)」を発売した。ウッディ・オリエンタルの香調を持つこの作品は、ブランドの騎士紋章(エクエストリアン・ナイト・デザイン)を冠したボトルで登場し、英国的な上質感を纏ったメンズフレグランスの古典として今も愛好家に知られている。
1991年には「バーバリーズ・フォー・メン(オリエンタルバニラ改訂版)」と並び、「ソサエティ(Society)」女性・男性デュオが「You Were Born to It(ユー・ワー・ボーン・トゥ・イット/あなたはそのために生まれた)」というスローガンのもと発売された。
第2フェーズ:ラインの拡充とインター・パルファムス時代(1993〜2012年)
1993年にフランスの香水ライセンス企業「インター・パルファムス(Inter Parfums)」がライセンスを取得し、以降2012年まで約20年間にわたってバーバリーのフレグランス事業を担うことになった。
この時期の代表作が、バーバリー・ウィークエンド(Burberry Weekend)(1997年)だ。女性向けはパフューマーのナタリー・ロルソン(Nathalie Lorson)が担当し、男性向けはミシェル・アルメラック(Michel Almairac)が手掛けた。カジュアルで明るいトーンのウィークエンドは、バーバリーが打ち出した「英国的な休日の軽やかさ」を香りで体現したシリーズとして広く受け入れられた。
2003年に登場したバーバリー・ブリット(Burberry Brit)は、このフェーズにおける最大のヒット作となった。調香師ナタリー・グラシア=セット(Nathalie Gracia-Cetto)が手掛けたこの作品は、ライム・洋ナシ・アーモンドのトップノートに白いピオニー(シャクヤク)・バニラ・アンバーを重ねた構成で、バーバリーのタータンチェックをボトルに取り入れた点でもブランドのビジュアルアイデンティティとの統合を強化した。ブリットはフィフィ・アワード(FiFi Awards)を受賞し、以降「ブリット・レッド(2004年)」「ブリット・ゴールド(2005年)」「ブリット・シアー(2007年)」など多数のバリエーションが生まれた。
2006年にはバーバリー・ロンドン(Burberry London)デュオが、バーバリーのタータン生地を外側に貼り込んだ特徴的なボトルで発売された。
2011年のバーバリー・ボディ(Burberry Body)は、当時のバーバリーとして最も成功したフレグランス・ローンチとされ、グローバルなデジタル・アウトドア広告キャンペーンを伴った大型展開となった。
第3フェーズ:インハウス化とクリストファー・ベイリー時代の傑作(2013〜2017年)
2012年、バーバリーはインター・パルファムスとのライセンス終了を通知し、1億8,100万ユーロでライセンスを買い戻すことを決断した。翌2013年からフレグランス事業を自社でコントロールし、創造的な主導権を完全に取り戻した。
この決断が生み出した最初の傑作が、2014年のマイ・バーバリー(My Burberry)だ。ベイリーが「雨上がりのロンドンの庭園でトレンチを纏う女性を想像してほしかった」と語ったこの香水は、フランシス・クルジャン(Francis Kurkdjian)が調香を担当した。スウィート・ピーとベルガモットのトップ、ゼラニウム・ゴールデン・クインス・フリージアのハート、パチュリとセンティフォリア・ローズのベースからなる「コンテンポラリー・ブリティッシュ・グランド・フローラル」と称される香りは、バーバリーが香水界でも本格的なラグジュアリープレゼンスを確立する象徴的な作品となった。
“クリストファーは、雨上がりのロンドンの庭園でトレンチを着た女性を想起させたかった。古典的で構造的な香りでありながら、独自のひねりがある。”
— フランシス・クルジャン(ダブリュー・マガジン、2014年)
ベイリー自身もこう語っている。
“マイ・バーバリーは、ブランドの真のエンボディメントだ。香りにおいて、デザインにおいて、そしてその姿勢において。”
2016年には男性向けのミスター・バーバリー(Mr. Burberry)が、マイ・バーバリーの「相棒」として発売された。同じくクルジャンが担当し、グレープフルーツ・タラゴン・カルダモンのトップ、バーチリーフ・ナツメグのハート、シダー・サンダルウッド・ベチバー・ガイアックウッドのベースというハーバル・ウッディな構成。ベイリーはこれを「これまでで最も重要なメンズフレグランス」と呼び、「対照と矛盾の街であるロンドンにインスパイアされた、気品はあるが完璧すぎない香り」と表現した。
2017年4月、バーバリーはコスメ・フレグランス大手のコティ(Coty)と長期ライセンス契約を締結し、同年10月にパートナーシップが正式に開始した。ライセンス料は1億3,000万ポンドで、バーバリーがクリエイティブを主導し、コティが製造・グローバル流通を担うという役割分担が定められた。
第4フェーズ:コティ時代と新たなアイコンの誕生(2017年〜現在)
コティとのパートナーシップ下での最初の大型女性フレグランスが、2018年のバーバリー・ハー(Burberry Her)だ。クルジャンが再び担当し、ブラックカラント・ブルーベリー・ラズベリーの赤系ベリーのトップ、ジャスミンとバイオレットのハート、ドライ・アンバーとムスクのベースという構成。
“バーバリー・ハーは独自性のある記憶に残るシグネチャーです。そのためには強力なアコード、あなたのビジョンを伝える嗅覚的なストーリーが必要です。これらの太陽の光を浴びたベリーとブリティッシュ・スピリットをアンバリー・ムスキーなアコードと合わせることで、非常にユニークなシグネチャーが生まれます。誰かがこれを纏っているとき、すぐにわかる。それがシグネチャーというものです。”
— フランシス・クルジャン(ピーアール・ニュースワイヤー、2018年)
キャンペーンにはカーラ・デルヴィーニュ(Cara Delevingne)が起用され、彼女自身がロンドンの歌「メイビー・イッツ・ビコーズ・アイム・ア・ロンドナー(Maybe It’s Because I’m a Londoner)」を録音してサウンドトラックに使用した。
そして2023年、バーバリー・ゴッデス(Burberry Goddess)が登場した。フィルメニッシュ(Firmenich)所属の調香師アマンディーヌ・クレール=マリー(Amandine Clerc-Marie)が担当したこの作品は、3種類の異なるバニラ抽出法——バニラ・インフュージョン(明るいウッディバニラ)、バニラ・キャビア(ファーグッド(Firgood™)技術を用いた世界初のフレグランス使用、リッチで甘くアニマリックなバニラ)、バニラ・アブソリュート(神秘的でミルキーな側面)——を組み合わせた前例のない構成となっている。
“バーバリー・ゴッデスの当初の目標は、バニラのよくある使い方を超えた、新しい種類の豊かな嗅覚体験を届けることでした。”
— アマンディーヌ・クレール=マリー
ラベンダー、カカオ、ジンジャーと組み合わされたこのゴッデスは、バーバリーとして初のリフィラブル・フレグランスでもあり、ブランドの現在地を示す一本となった。
ちなみに…
探検家のガバジン・テント:バーバリーとアウトドア探検の縁は香水の誕生をはるかに遡る。ノルウェーの探検家ロアール・アムンセン(Roald Amundsen)は、南極でのキャンプにバーバリーのガバジン生地を使ったテントを使用したという記録が残っている。一枚の布が極地の命を守っていたという事実は、今日の香水ビジネスの出発点にある物語として興味深い。
チェック柄の複雑な運命:バーバリーのシグネチャー・チェックは1920年代にトレンチコートの裏地として始まったが、20世紀後半には英国のフットボールファン文化に取り込まれ、「フーリガン」と結びつくイメージの問題に悩まされることになった。ベイリーとアンジェラ・アーレンズ(Angela Ahrendts)最高経営責任者(当時)は2006年以降、20以上のライセンスを買い戻し、ブランドの信頼を再構築する取り組みを続けた。香水ビジネスにおけるライセンスの統制もその一環であった。
インター・パルファムスとの決別:2012年の1億8,100万ユーロでのライセンス買い取りは、フレグランス業界ではきわめて大規模な取引だった。インター・パルファムスの売上の約半分がバーバリーのライセンス収入であり、この契約終了はインター・パルファムスに大きな打撃を与えた。バーバリーがそれほどの代償を払っても自社でコントロールしたかった理由——それがマイ・バーバリーという傑作の誕生につながっていると考えると、あの決断はまさに転換点だったといえる。
参考文献
- Fashion Designer Thomas Burberry, The Biography
- Thomas Burberry – Wikipedia
- Our Story | Burberry®️ Official
- From Shackleton to Stardom: The History of Burberry's Trench Coat
- Our Story | Burberry®️ Official
- Thomas Burberry: The Man Who Made British Weather Stylish …
- Burberry recreates garments from Shackleton's polar expedition for …
- Burberry Perfumes History: Everything You Need To Know
- Burberry: How Christopher Bailey reinvented the brand with …
- Christopher Bailey: A brief history of his career so far
- Christopher Bailey (fashion designer)
- Christopher Bailey
- Burberry 'My Burberry' EDP Review! – LIPS n BERRIES
- My Burberry perfume – floral fragrance for woman inspired by Burberry trench coat
- My Burberry Eau de Parfum 50ml
- New Perfume Review: My Burberry by Francis Kurkdjian – Eau de …
- Ain't No Sunshine
- New Burberry Goddess EDP – BeautyEQ
- Burberry launches new fragrance for women
- The Captivating Story Behind Burberry Perfumes: From 1981 to 2025
- Burberry Perfumes & Colognes
- Positive Reviews of Burberrys for Men (Original) by … – Basenotes
- Burberry and Inter Parfums set to part company by year-end?
- Burberry Weekend Eau De Parfum for Women – Perfume Gallery
- Weekend for Men by Burberry is a Citrus fragrance for … – Instagram
- Perfume review: Burberry Brit & Brit Red – Now Smell This
- Burberry serves notice to end fragrance deal with Interparfums
- Burberry to buy back its fragrance license from Inter Parfums
- Burberry :: Perfume Houses – Now Smell This
- The ultimate dream team? Cara, Kate and a Burberry Trench…
- Mr. Burberry Fragrance Initial Thoughts (2016) – YouTube
- Burberry releases Mr. Burberry, its latest fragrance for Men. – LinkedIn
- Burberry announces strategic partnership with Coty for its Beauty …
- A Beautiful Partnership: Coty and Burberry Beauty
- Coty Commences Long-Term Strategic Partnership with Burberry
- A Fragrance for Her: Burberry Releases Latest Scent
- Burberry Introduces 'Her', The New Fragrance for Women
- The Captivating Story Behind Burberry Perfumes: From 1981 to 2025
- A Brief History of Polar Clothing
- バーバリー公式・ブランド史
- バーバリー公式・リカルド ティッシ就任発表
- バーバリー公式・ゴッデス コレクション


