伝統
アンフルラージュは、伝統的な溶剤抽出法の1つで、古代エジプトの時代から存在していると言われています。1750年にフランスの調香師ピヴェールが一般的に普及するための原型を考案したと言われ、グラースで一般的になったようです。
まず、豚や牛の脂に花の表面を置き、数日~数週間かけて花から発せられている香りの分子を油脂に吸着させます。これにより、「ポマード」と呼ばれる香気成分を含む脂を得ます(ointmentとも呼ばれる)。このポマードを低温のアルコールで溶解すると、アルコールに香りが移り、そのアルコールを揮発させることで精油を手に入れることができます。これを冷浸法(仏:L’enfleurage à froid、英:Cold enfleurage)と言います。特に水蒸気蒸留ができないデリケートな花(ジャスミンやチュベローズなど)に使われてきました。
逆に、熱を加えて抽出する手法を温浸法(仏:L’enfleurage à chaud、英:Hot enfleurage)と呼びます。実はマセラシオンとも呼ばれます。脂肪を40度~60度で熱して液体にし、ここに花を投入して2時間ほど脂肪に香気成分で飽和させます。これをアルコールで洗い流し、香気成分を得ます。ローズやミモザなどは、この手法が使われていたようです。
1930年に発売された、世界で最も高価な香水と言われたジャンパトゥのジョイは、アンフルラージュによって抽出された、10600のジャスミンの花と28ダースのローズの花のエッセンスを使用していました(1本の香水に)。
この伝統的な手法は、手作業による労働力と金銭・時間のコストの面から、1930年代~1950年代にかけて、徐々にフェードアウトしていきました。現代では、かつての手法で行っている企業・人はほとんどいないようです。
現在のアンフルラージュ
アンフルラージュは、花本来の香りを抽出しやすい一方、上記のプロセスから分かる通り、非常に手間がかかり、時間と人件費がかかる手法になります。また、サステナビリティという観点から見ても、時代に少しそぐわない方法であります。
これらの理由から、各香料会社は、植物由来のオイルと最新技術を使用した新しい抽出法を生み出しています。
ロベルテ社
大手の香料会社の中で、おそらく最後まで伝統的なアンフルラージュを行っていたのは、ロベルテ社でしょう。しかし、動物性油脂を倫理的な面から使用できなくなったため、植物由来の油脂を用いることで今でも手作業によるアンフルラージュを行っております。
我々のゴールは、重要なものは失わずに、香りを復元することなのです。それには数週間にわたる仕事と注意を必要とする準備をしなければなりません。
Robert Sinigaglia
マン社
E-Pure Jungle Essence(E-ピュア ジャングルエッセンス)
我々は、アンフルラージュのプロセスを、最先端のテクノロジーを使うことで再発明しました。そして、自然界の香りを捉えることに成功したのです。
マン社
元々、香りが損なわれやすい繊細な香料に使う技術として開発していたJungle Essenceという技術がありました。これをアンフルラージュに応用させるために、会社・調香師がどのようにしたらよいかを試行錯誤したようです。アンフルラージュでは、動物性油脂を使っていましたが、倫理的な観点から使用できないため、様々な植物のエッセンスを試し、最終的にホホバオイルが最も適していたようで、ホホバオイルを使用することに決まりました。
2022年5月現在、E-Pure Jungle Essenceによって抽出されている植物のエッセンスは、
・ジャスミングランディフォーラム
・ジャスミンサンバック
・レッドチャンパカ
の3種類です。
E-Pure Jungle Essenceによる抽出物は、石油化学の溶剤が必要ないため、グリーンな成分で、環境への負荷はとても少なく、ナチュラルな花の香りにとても近いです。アブソリュートと比較すると、脂っぽさやベジタル感は少なく、抽出物の質はとてつもなく高いのです。まさしく我々が自然界で知っている花そのものなのです。
セルジュ・マジョリエール
IFF社
Enfleurage 2.0(アンフルラージュ 2.0)
IFFが所有する世界最高峰の天然香料企業LMR社は、IFFとのタッグにより、100%オーガニックの植物由来の溶剤を生み出しました。これによって生まれた技術がEnfleurage 2.0です。
この技術により、2020年、世界で初めてエコサートのオーガニック認証を得たラバンディンアブソリュートを生み出しました。
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