Robertet(ロベルテ)|種から香水まで、天然香料を育むグラースの名門

ロベルテを題材にした編集イラスト。種から香水まで、天然香料を育むグラースの名門。本社:フランス。

今まで以上に、私たちの最大の強みは、独立性、独自の事業モデル、長期的な視野です。

フィリップ・モベール(取締役会会長、2026年4月)

香水の背後には、花を育てる人、香りを取り出す人、その原料を組み合わせる人がいる。フランスのグラースに本拠を置くロベルテは、この長い道のりを一つの会社の仕事としてつないできた香料会社である。創業は1850年。社名を残したロベルテ家と、原料づくりから経営を受け継いだモベール家の歴史が重なり、現在では天然香料、香水などの香りの調合、食品香料、健康・美容向け素材を手がけている。

基本情報

  • 会社名:Robertet(ロベルテ)
  • 創業:1850年。前身はア・ラ・コンフィアンス(À La Confiance)
  • 創業者:フランソワ・ショーヴ。甥の調香師・蒸留技師ジャン=バティスト・モベールとともに事業を築いた
  • 本拠地:フランス、グラース
  • 事業:天然香料、フレグランス、食品香料、健康・美容向け素材
  • 公式サイト:Robertet

創業者と会社の成り立ち

グラースの花と、ア・ラ・コンフィアンス

グラースの香料づくりは、完成した香水を瓶に詰める前から始まる。土地に育つ花や葉を集め、植物の香りを保存し、遠くの調香師にも使える原料にする仕事である。1850年、フランソワ・ショーヴが設立したア・ラ・コンフィアンスも、プロヴァンスの花や植物を加工する会社だった。甥のジャン=バティスト・モベールは調香師であり、蒸留技師でもあった。創業期の中心にいたのは、花と、そこから香りを取り出す技術を知る人物だったのである。

1875年に会社を買い取ったのがポール・ロベルテである。現在の社名はここから始まる。1850年の創業と、1875年の社名変更は、同じ出来事ではない。1883年には本社をパリからグラースへ移し、植物を加工する土地と会社の拠点が一層近づいた。

当時の仕事は、今日のファインフレグランス向け原料だけに収まらなかった。1880年にはインスタントコーヒーの製造工程について特許を取得している。植物から有用なものを取り出し、扱いやすい形にする技術が、香り以外の領域にも向かっていたことを示す節目である。1900年のパリ万国博覧会ではジャン=バティスト・モベールが金メダルを受けた。

モベール家が受け継いだ原料づくり

1923年にはジャン=バティストの息子モーリス・モベールが経営を引き継いだ。天然原料は植物を加工すればそれで完成、というものではない。香りとともに取り出される色や成分をどう扱うかによって、調香師が使える範囲も変わる。ロベルテは1935年の「アンコロール(Incolores)」、1950年の「ブタフロール(Butaflors)」など、天然原料の加工技術を発展させていった。香りの原料を、そのままでは使いにくい状態から、処方に取り入れやすい形へ整える仕事が積み重なった。

1961年にはジャンとポール・モベールの世代となり、事業は天然原料から香りの調合、食品香料へと広がる。香水メーカーや日用品メーカーのために香りをつくる仕事と、食品の風味をつくる仕事が、原料部門に加わった。欧州、米州、アジアへの展開も進み、グラースで蓄積した技術を各地の生産や創作に結びつけていく。

1982年にはプラン=ド=グラースの工場が開設され、1984年にはパリ証券取引所へ上場した。同年はモベール家が会社の支配権を取得した年でもある。長く会社で働き、経営を担ってきたことと、株式を通じて会社を支配することは、ここで重なる。

1993年、フィリップ・モベールが経営を引き継いだ。兄弟のクリストフ、オリヴィエも会社の事業に携わり、天然原料、フレグランス、食品香料に加えて、後には健康・美容向け素材にも活動が広がった。2007年に取得したシャラボ(Charabot)は、1799年創業の別のグラースの香料会社である。ロベルテ自身の創業年をさかのぼらせる出来事ではなく、異なる会社が蓄積した原料と技術をグループへ迎えた出来事だった。

家族の継承と、専門経営者による運営

2022年7月1日、最高経営責任者にはジェローム・ブリュアが就任した。フィリップは取締役会会長として会社の長期的な方向を担う。家族による継承は、経営のすべてを家族だけで担うことと同義ではない。

フィリップの息子ジュリアン・モベールは、子どもの頃から会社の香りを知っていた。

幼い頃から、匂いの記憶や、ロベルテの廊下を歩き回った記憶があります。

ジュリアン・モベール

ジュリアンは2015年から天然原料部門を率い、2026年1月1日にはクリストフの後を受け、フレグランス部門とサステナビリティを担当することになった。花や葉の調達・加工を担ってきた経験を、今度は香りの創作へ向かう部門に持ち込む継承である。クリストフは取締役会副会長として引き続き会社に関わっている。

独立性をめぐる動きも、近年の歩みから外せない。2024年11月14日、FSPとプジョー・アンベストが、dsm-firmenichの保有する株式などを取得する計画が発表された。この段階では条件付きの取引だった。その後、両社が新たな投資家として加わり、11月21日にはdsm-firmenichが残りの持分もすべて売却したと発表した。2025年末時点で、モベール家の持株会社と家族を合わせた議決権は62.3%。家族が方向を定める体制は、外部の資本や専門経営者とともに続いている。

天然香料の産地と、抽出・分画の技術

花畑から原料になるまで

ロベルテは、種から香りまでをつなぐ取り組みを「シード・トゥ・セント(Seed to Scent)」と呼ぶ。調達、生産、農業の知識、品質や環境への取り組みを、最終的な香りづくりまで結びつける考え方である。グラースではセンティフォリア・ローズやジャスミン、スミレの葉などを扱う一方、世界各地の植物も原料になる。

ブルガリアの拠点ではローズやラベンダーを扱い、栽培や植え替えへの前払い、灌漑設備への支援も行う。チュニジアでは1999年からの協力関係を通じてオレンジの花を調達し、共同の蒸留設備を持つ。マダガスカルでは2009年、現地の家族と設立したフレグラント・ガーデンでイランイランやパチョリを手がける。原料の産地は地図上の国名だけではなく、栽培と収穫を続ける人々との関係でもある。

抽出した香りを、調香に使いやすく整える

植物から香りを取り出す方法と、取り出した成分を分ける方法は、別の工程である。分画とは、混ざっている成分を分け、特定の香りの側面を際立たせること。ロベルテのパチョリ・フラクション・オイルは、インドネシア産パチョリの葉から得た原料を減圧下で分留し、元の原料より土っぽさを抑え、木の香りを際立たせている。パラグアイ産プチグレンの脱テルペン精油では、ビターオレンジの葉の精油を分子蒸留し、テルペン類を取り除く。天然原料の輪郭を整える仕事が、調香師の表現の幅を広げるのである。

花の加工にも新しい手順が生まれている。シャラボが出願し、2012年に公開された特許には、花をアルコールで浸出した後、超臨界二酸化炭素によって香りの成分を抽出・精製する工程が示されている。超臨界とは、温度と圧力を調整した物質が、液体とも気体とも異なる状態になること。この工程では、花の浸出液から香りを取り出し、糖などの成分から分けることを目指している。

2023年6月には「クリーンアールセント(CleanRscent)」を発表した。ヘキサンを使わず、生分解性の溶剤で製造するアブソリュートのシリーズで、最初に紹介された素材にはブルボン・バニラ、焙煎したトンカ豆などがある。溶剤や工程を見直す研究は、現在も続いている。

調香師と作品に見る原料の使い方

ミシェル・アルメラックと、クロエのローズ

天然原料の豊かさは、あらゆる処方を天然素材だけでつくるという意味ではない。作品ごとに求められる表現があり、そのための素材が選ばれる。2021年の「クロエ オードパルファム ナチュレル」は、天然由来の原料100%という条件のもとで、クロエのローズを再解釈した作品である。

ロベルテの調香師ミシェル・アルメラックは、ローズを中心に短く整えた処方でこの香りをつくった。ブルガリア産のオーガニック・ローズに、セドラ、ネロリ、カシスなどが組み合わされる。素材の由来という条件と、既存のクロエらしいローズの印象を受け継ぐことが、この作品では同時に求められた。

シドニー・ランセッサーと、サハラの木の香り

シドニー・ランセッサーはISIPCAで学び、2004年にロベルテへアシスタントとして入り、2006年に調香師となった。ミシェル・アルメラックから学んだ簡潔な処方の考え方は、彼女の制作にも続いている。

私はいつも、それぞれの原料に存在する理由がある、短い処方の香水をつくろうとしています。

シドニー・ランセッサー

アノマリア・パリの「サハラ4800」は、ダカール・ラリーの道のりを題材に、熱を帯びた砂、革、鉱物的な印象を重ねた作品である。ブランドはこの香りで、ロベルテのシダーウッドとパチョリの分画原料を用いたことを説明している。シダーウッドは再蒸留によって木、革、アンバーの側面を、パチョリは減圧蒸留によってより澄んだ木の側面を引き出す。

ここでは「天然だから」という理由だけで素材を選んでいるのではない。抽出後に整えられた木の香りが、作品の砂と革の表現を支える。原料加工の技術と調香の選択が具体的に出会う例である。

ジェローム・エピネットと、少数の素材による構成

ジェローム・エピネットはブルゴーニュで育ち、母が香水店を営んでいた。生化学を学んだ後、グラースで調香を学び、2003年にロベルテのパリ拠点へ入り、2006年にはニューヨークの創作拠点へ移った。彼もアルメラックから学んだ調香師の一人である。

天然香料と合成香料について、エピネットは端的に述べている。

両方が必要だ、と言います。それだけのことです。

ジェローム・エピネット

レ・バン・ゲルボワの「1900 ルール・ド・プルースト」では、約20の原料にそれぞれの役割を与えた。中心となる紅茶のスモーキーな香りを、ベルガモットの明るさが引き立てる。そこへベチバーの土の側面、パロサントの煙の側面、意外性を生むブルーベリーを組み合わせた。原料の数を増やすことよりも、一つひとつが何をするかを明確にする制作である。

ロベルテは社内で調香師を育てる2年間の養成も行い、国際的な創作拠点へとつなげている。先輩から受け継ぐ処方の考え方と、原料を知る経験が、会社の中で次の制作へ渡されていく。

現在の事業

2025年度の連結売上高は8億4,390万ユーロ。内訳は天然原料25%、食品香料35%、フレグランス37%、健康・美容向け素材3%である。香水だけの売上ではなく、四つの事業を合わせた数字である。

花や葉から香りを取り出す会社として始まり、その素材を香水や食品のために組み合わせ、さらに植物の成分を健康・美容向けにも活用するようになった。原料の産地を知ること、加工によって使える形にすること、調香師がそこから作品をつくること。このつながりが、グラースに始まったロベルテの仕事を、現在の世界各地の創作へと運んでいる。

主な歩み

  • 1799年:後にグループに加わるシャラボが創業。
  • 1850年:フランソワ・ショーヴがア・ラ・コンフィアンスを創業。ジャン=バティスト・モベールが事業に参加。
  • 1875年:ポール・ロベルテが会社を取得し、ロベルテの社名となる。
  • 1880年:インスタントコーヒーの製造工程について特許を取得。
  • 1883年:本社をパリからグラースへ移転。
  • 1900年:ジャン=バティスト・モベールがパリ万国博覧会で金メダルを受ける。
  • 1923年:モーリス・モベールが経営を引き継ぐ。
  • 1935年:天然原料の「アンコロール」を展開。
  • 1950年:「ブタフロール」を展開。
  • 1961年:ジャンとポール・モベールの世代となり、香りの調合と食品香料を拡大。
  • 1982年:プラン=ド=グラース工場を開設。
  • 1984年:モベール家が会社の支配権を取得。パリ証券取引所へ上場。
  • 1993年:フィリップ・モベールが経営を引き継ぐ。
  • 2006年:ニューヨークの創作拠点を開設。
  • 2007年:シャラボを取得。同年12月、オーガニック原料のSAPADの過半数持分を取得。
  • 2012年:花のアルコール浸出と超臨界二酸化炭素による抽出を組み合わせたシャラボの特許出願が公開。
  • 2021年:「クロエ オードパルファム ナチュレル」をミシェル・アルメラックが制作。
  • 2022年7月1日:ジェローム・ブリュアが最高経営責任者に就任。
  • 2023年6月:クリーンアールセントを発表。
  • 2024年11月:FSPとプジョー・アンベストが新たな投資家として参加。dsm-firmenichは21日に全持分の売却を発表。
  • 2026年1月1日:ジュリアン・モベールがフレグランス部門とサステナビリティの責任者に就任。

参考文献

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