Carlos Benaim
カルロス・ベナイム

カルロス・ベナイム 調香師名鑑

生い立ち

 1944年、モロッコの北部、タンジェ(Tangier、タンジール)に、スペイン系の家系に生まれます。父は、薬剤師であり、植物学者でありました。父や祖父と過ごしたモロッコでの香りの記憶は、後年、カルロスの香水を作る際に影響を与えています。それは、祖父が吸っていたタバコの香り、また父がタバコの香りをヴァイオレットの香水やゼラニウムのアロマと一緒に使っていたため、より記憶に残っています。この香りの記憶が、カルロスが多くの香水にタバコのノートを使う大きな理由になっています。また、祖父と一緒に行ったタンジェの市場で嗅いだ香り、スパイスやオレンジ、ピーチ、メロン、アプリコットの香りも強く彼の記憶に残っています

 17歳の時に、グラースのLautier Fils(現シムライズ社)で化学エンジニアのインターンシップのために行きます。しかし、ちょうど化学者たちは休暇中でおらず、誰も何をしたらいいか分からなかったので、カルロスはジュニアパフューマー達が働いている部屋に入れられました。そこには、調香師の大きなオルガンがあり、曇ったガラスボトルの中に原料が入っていました。結局、化学者たちが帰ってくるまで4週間もそこにいたカルロスは、その間にすべての原料を嗅ぎ、記憶しようとしていました。これが彼にとっての1つのターニングポイントでありました。

香水業界における概念は、科学によって色付けされます。

カルロス・ベナイム

師との邂逅、そして調香師へ

 フランスのトゥールーズの大学で化学を勉強した後、23歳の時、Le Monde紙に載っていたIFFの広告を見たカルロスは、すぐに応募し、400人から選ばれた6人のうちの1人になります
 合格したカルロスは、パリとアムステルダムに移動し、IFFの研修生として、フレーバーとフレグランスについて学び始めます。最初の1週間は、イギリスで最も売れているポテトチップのフレーバーを作ったそうです。

 そして、将来のメンターとなるアーネスト・シフタンに出会います。このとき、シフタンは、カルロスと面接をし、簡単なテストを行いました。それは原料を嗅いで、当てるという単純なものでしたが、カルロスはなんと全く答えることができませんでした。しかし、代わりにそれぞれの原料が何を思い出させるかを説明し、定義づけて答えました。その結果、シフタンは、カルロスのファインフレグランスの才能を見抜き、ニューヨークに招待し、1967年IFFの調香師としてトレーニングを受けることができるようになります。ちなみに、カルロスは伝統的な調香学校には行きたくなかったと言っています。

IFFを見つけたことは、私の人生において最も幸運な偶然でありました。

カルロス・ベナイム

 IFFでは、「香水業界の父」といわれるアーネスト・シフタンErnest Shiftan,1903-1976, ソフィア・グロスマンの師匠でもあり、後にIFFの副社長になっている)、ベルナール・シャンBernard Chant, -1987 アラミスやクリニークのアロマティック・エリクシール、エスティローダーのBeautiful、グレのカボシャールを調香)、マックス・ガヴァリーMax Gavarry, エスティローダーのBeautifulやHalston Z14の調香師)、Dr.Braja Mookherjee(IFFの化学者)とともに働き、彼らの影響を大きく受けました。

ポロの調香とマスターパフューマー

 1978年、ベルナール・シャンとニューヨークで働いている際、ラルフローレンから大きなプロジェクトを受けます。これがアメリカの伝説的な香水の一つとなるポロ ラルフローレンの始まりでした。

 ラルフローレンは香水を発売したことがなく、同時に2つの香水、男性用と女性用を調香することになります。カルロスは男性用を担当し、特にパチョリノートを中心に据え、古臭く、モッシーで、スモーキーなアロマを持った香りを作りました。それはレザー、馬、といったポロプレイヤーへのイメージと合わせたものでありました。そして、そのキー成分は、アルデヒドAAによって表現される草のようなグリーンノートであります。それがトップから香るパチョリを覆い、新しいアイデンティティを生み出し、成功につながったと言われています。

ちなみに

このとき参考にした香水がオーソバージュ(ディオール、エドモン・ルドニツカ)でありました。

 1998年、オリヴィエ・ポルジュ(2013年~シャネルの専属調香師)がIFFに研修生として入ると、カルロスが2年近くメンターを務め、仕事を教えることになりました。その後、オリヴィエと様々な香水を一緒に作っています。また、オリヴィエは、ドミニク・ロピオンとも仲が良く、3人はお互いをすぐに理解しあえる良き仲間と言っています。

香りは人生における宝探しです。

カルロス・ベナイム

 2013年、IFFでの45年に渡る活躍を称えられ、IFF初のマスターパフューマーとなります

ちなみに…

香水を作る上で、大切な4つのことは、『全ての成分がどのように他の成分と反応するのか』、『それぞれが自分の作っているフォーミュラの他の部分にどのように影響するのか』、『各成分の性質』、『ロングラスティングとはっきりしたシヤージュを生み出すための肌の上での拡散とフレッシュさ』を知ることです。

カルロス・ベナイム

・現在は、3人の息子と妻とニューヨークで暮らし、イスラエル人たちの教育のための会社ISEFのチェアマンです。(ユダヤ人の頭の良さを知っているのです。)

・好きな香り→パチュリ。それは、「研修生のときに嗅いだときは、何がすごいのかも分からなかったが、それを使っていくうちに、その質やパワー、つまりロングラスティングで拡散性があることを理解し、素晴らしさが分かるようになったから」であると言っています。

この記事を書いた人

香りの学び場「ルシェルシェパルファム」の運営者。
元香水販売員で、現在はとあるIT企業の管理職。
香水への愛が抑えきれず、自身の学んだことをはきだすサイトを作ってしまう。エルメス・フレデリックマルを主に愛用。

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