Cinquième Sens(サンキエームサンス)— 創設者の歩みと嗅覚教育、フランス・日本の学び方

折り畳みの香料教材と色のカードを使って学ぶ、サンキエームサンスの記事用イラスト

嗅覚は私たちの暮らしの中心にあり、その役割は香水づくりをはるかに超えています。

イザベル・フェラン(2020年)

香水を嗅いだとき、何を感じ、どのように言葉にするだろうか。花の名前を思い浮かべることもあれば、湿った木、果物の皮、ある日の記憶が浮かぶこともある。Cinquième Sens(サンキエームサンス)は、その感覚を学ぶ出発点にする。繰り返し嗅ぎ、違いを覚え、共通の言葉で伝える。香りの知識を、自分の感覚と仕事の両方に結びつける教育である。

1976年、調香師モニーク・シュランジェがパリで始めた会社は、創作と教育を並行して育ててきた。現在は、専門家の研修、初心者の学習、香水をつくる体験、企業の制作や評価を手がける。ひとつの大学課程ではなく、香りを学ぶ目的に合わせて入口を選ぶ、調香と嗅覚教育の組織である。

基本情報

  • 名称:Cinquième Sens(サンキエームサンス)。フランス語で「第五の感覚」を意味し、嗅覚を指す
  • 設立:1976年、フランス・パリ
  • 創設者:モニーク・シュランジェ(Monique Schlienger)
  • 教育と創作の拠点:パリ、グラース。各国のパートナーも活動する
  • 現在の運営:イザベル・フェラン(Isabelle Ferrand)と、2026年初めに加わったマルク・ジュルダン=ガサン(Marc Jourdan-Gassin)
  • 公式サイト:Cinquième Sens
  • 日本のパートナー:サンキエムソンス ジャポン。代表は小泉祐貴子、運営は株式会社セントスケープ・デザインスタジオ

モニーク・シュランジェと、教育の継承

ジャン・カールに学び、独立する

モニーク・シュランジェは、グラースの調香教育を築いたジャン・カールに学んだ。原料を比較し、その特徴を整理し、組み合わせを理解する。カールの教育法を自分で経験したことが、後に人へ教えるための土台となる。

ロベルテで調香師として働いたシュランジェは、1976年に独立し、サンキエームサンスを設立した。最初から教育だけを行う学校だったわけではない。独立した香水の制作会社として始まり、その隣に教育の仕事を育てたのである。

シュランジェはISIP、後のISIPCAでも教えた。1976年には、退任するニコラ・マムーナスの後任として教えることになり、調香師の経験を、原料を知りたい人や香りを伝える人へ開いていった。フェランは、その学びを「嗅いでいるものの語彙をすべて学ぶ」こととして説明している。

私たちが嗅いでいるものの語彙を、すべて学ぶ。

イザベル・フェラン(2024年、サンキエームサンスの成り立ちについて)

シュランジェは、ジャン・カールから受けた教育と、ISIPCAで教える経験を、独立した会社での学びにも生かした。サンキエームサンスでは、自分たちの教材と、学ぶ人の目的に応じた方法を育てていく。

選考の出会いから、イザベル・フェランへ

フェランは、田園の匂いの中で育った。麦、森の下草、季節によって変わる匂い。子どもの頃から香水の仕事を望んでいたが、父親には香水店で働きたいのだと思われたという。本人が目指していたのは、香りをつくる側の仕事だった。

バカロレアの後に生化学のBTSを学び、ISIPの選考を受けたが、合格には届かなかった。そこで出会った審査員の一人がシュランジェだった。後から連絡を受け、サンキエームサンスで学ぶよう勧められた。IFFとニナ・リッチでの実習を経て、同社のアシスタントとなる。

会社の沿革は1984年に二人が出会ったことを記録し、フェラン自身は1985年に加わったと述べている。長く一緒に仕事をし、2004年には経営を引き継いだ。教育、創作、イベント、助言という四つの仕事を軸に、チームとともに教材や指導法を発展させていく。

2026年初めには、dsm-firmenichでファインフレグランス分野の副社長を務めたジュルダン=ガサンが加わった。フェランは嗅覚教育の専門性と教材を、ジュルダン=ガサンは国際展開とパートナー網を主に担う。同年9月の二人の説明では、世界のパートナーと拠点は17。共通の教育の考えを持ちながら、それぞれの地域で活動する形である。

創作者にも、香りを伝える人にも

サンキエームサンスで学んだ人には、調香師だけでなく、ブランドを企画する人や香りを伝える人もいる。アリエノール・マスネ、シルヴェーヌ・ドゥラクルト、キリアン・ヘネシーなど、それぞれの仕事へ進んだ人々がその一例である。目的に合わせた学習が、創作、企画、香りの説明という異なる仕事につながってきた。

新間美也も、1997年にシュランジェに師事した一人である。2003年には、日本でサンキエームサンス・ジャポンの教育活動を始めた。後に続く自身の学校での活動は、アトリエ・アローム&パルファン・パリの記事で紹介している。シュランジェに直接学んだ経験は、日本で香りを教える活動にもつながった。

嗅覚を訓練し、香りを言葉にする

比較と記憶を、共通の語彙につなぐ

学習の始まりは、原料の名前を暗記することだけではない。ある匂いを嗅ぎ、特徴を表す言葉を選び、ほかの匂いと比べる。持続性や強さ、花や木、果物などを思わせる性質を捉え、次に嗅いだときにも認識できるようにする。画像、音、記憶などとの結びつきを使い、自分の嗅覚の記録を育てていく。

そのうえで、完成した香水の中に原料の特徴を探し、香りの系統やニュアンスを説明する。ここでいうファセットは、香水の中に見える花らしさ、木らしさ、粉っぽさなど、香りの側面である。教材のコンパスカードやピラミッドは、言葉だけでは捉えにくい構成を視覚化する助けになる。

言葉は、販売のためだけに使うものではない。開発者へ希望を伝える、原料の違いを説明する、完成品の品質を確かめる。例えば品質評価の研修では、三つの試料から異なるものを見分ける三点識別法を学ぶ。感覚を、他の人と共有できる判断へ変えていくのである。

オルファクトリアムと、手元に残る学び

教育を支える教材が、オルファクトリアム(Olfactorium)である。調香師が使う原料棚「オルガン」を小さく持ち運べる形にしたものだ。入門用の現行セットは、小さな瓶48本に香りの溶液を収め、ムエットと使用ガイドを組み合わせている。ムエットとは、香りをつけて嗅ぐための試香紙である。

セットの内容は講座によって違う。単一の原料を学ぶもの、複数の原料を調合した香調を学ぶもの、完成した香水を分析するもの。19のファセットを使うパリの創作体験と、48の原料を学ぶ入門講座では、同じ名前の教材でも使い方が変わる。

手元で同じ香りを確認できるため、オンラインでも教師の説明と実際の匂いを結びつけられる。2020年に遠隔学習を広げたときも、映像だけに置き換えず、受講者へ教材を送り、対話を続けた。学んだ後に嗅ぎ直すことも、記憶と語彙を育てる時間になる。

自然の素材も、合成香料も学ぶ。日本の公式案内は天然香料の教材でアルベール・ヴィエイユとの提携を紹介するが、学ぶ香り全体が天然原料だけでできているわけではない。原料を知る学習と、調合された香りを組み合わせる制作を、目的に応じて行う。

子どもの嗅覚と、創作を続ける場所

2015年には、フェランと調香師レティシア・コールがエマネズサンスを立ち上げた。教科書の中で嗅覚が扱われる場面の少なさから、子どもや若者が匂いを使って遊び、学ぶ方法を考えた。沿革が示す対象は0〜25歳である。専門家を養成する課程とは別の、感覚を育てる活動である。

2018年には、原料を嗅ぐ部屋や秤量の設備を共同で使うコワーキングも設けた。授業で学ぶことと、その後に試し、つくり続けることをつなぐ場所である。教育機関であると同時に制作会社でもあるという成り立ちは、こうした仕事にも現れている。

フランスでの学び方と主要な研修

以下は2026年10月12日に公式の課程ページと開催予定で確認した内容である。専門研修、創作課程、一般向け体験は、学ぶ目的と修了時の扱いが異なる。費用は各ページの掲載額をユーロで示し、次年度の条件を過去の料金から推定していない。

香水と匂いの言葉を学ぶ入門

Initiation à la parfumerie et au langage des odeurs(入門・レベル1)は、香水に関心を持つ人が基礎を学ぶ14時間の講座である。嗅覚、原料、香水の構成、分類、香りの語彙を学び、48原料の教材を使う。フランス語が基本で、英語での開催は問い合わせによる。公式は無嗅覚症の人を対象外とする。掲載費用は1,580ユーロ(税別)、1,896ユーロ(税込)。2026年10月20〜21日のパリ、11月12〜13日のグラースなどの回が案内されている。

専門研修の申込みはオンライン等の仮登録から始まり、学校が学習目的と条件を確認する。研修契約への署名と30%の前払いで登録が確定する。授業中には嗅覚の課題やクイズ等で学習を確認し、研修受講証明(attestation de formation)を発行する。大学の学位を取得する課程とは異なる。

英語で学ぶ1週間のパリ研修

Fragrance School Paris – 1 Weekは、英語で香水の基礎から簡単なアコードの処方までを学ぶ31時間30分の対面研修である。アコードとは、複数の香料を組み合わせてつくる香りのまとまりをいう。96原料の学習、実験室での秤量、処方の実習を含み、教材2セットが付く。

対象は香水の基礎を学びたい海外の受講者で、英語力と嗅覚を使えることが前提となる。2027年1月11〜15日の回が掲載され、費用は2,610ユーロ(税別)、3,132ユーロ(税込)。課題や実技等で評価し、研修受講証明を発行する。企業に入社して受ける社内養成や、長期の大学課程とは学びの範囲が違う。

原料の分析から、処方と創作へ

Designer Olfactifの前半「De la matière au parfum」は、原料の分析、香りの記憶と記述、品質評価を学ぶ168時間の課程である。現行掲載額は7,760ユーロ(税別)、9,312ユーロ(税込)。後半「De la formulation à la création」は224時間で、10,050ユーロ(税別)、12,060ユーロ(税込)。前半の修了を条件とし、顧客の要望から原料を選び、試作を調整し、原価や規制にも配慮する制作へ進む。

フランス語が基本で、英語は相談による。対面と遠隔を組み合わせる回があり、2027年のグラースでは前半が1月11日〜4月1日、後半が4月2日〜6月30日と案内されている。前半にはブラインドでの原料・完成品分析と専門家の前での発表、後半には実験室での処方演習と、要望に基づく作品を審査員へ説明する課題がある。後半の案内は研修受講証明を明記する。授業と実技評価を通じて制作の技能を学ぶ研修であり、大学学位の授与や就職を保証する課程ではない。

RS7618に対応する、職場の嗅覚技能研修

Expertise sensorielle et langage olfactif dans la filière parfum-cosmétiqueは、原料と香水の説明、分類、品質の判断を仕事に使う人に向けた49時間の研修である。製造・品質部門、商品企画、マーケティング、営業、教育担当者などが対象で、フランス語が基本、英語は相談による。掲載費用は4,740ユーロ(税別)、5,688ユーロ(税込)。開催日は目的と都合に合わせて学校と調整する。

対応するRS7618は、2026年6月26日にフランスのRépertoire spécifiqueへ登録された特定技能の認証で、認証機関はLE CINQUIEME SENSである。登録期限は2028年6月26日である。対象は、香水の処方、品質管理、特徴を伝える説明、流通に関わる実務者であり、調香創作者を対象とした認証ではない。原料の匂いを適切な語彙で表すこと、嗅覚の記憶を育てること、三点識別法で品質を判定すること、香水を分類し相手に応じて説明することを認証する。継続職業教育を経て、外部の調香師と嗅覚の専門家が個別の筆記・口頭課題を評価し、全技能の習得を確認する。受講証明とは異なる技能認証であり、大学学位や調香師の免許を授与するものではない。

まず香水をつくってみる体験

Atelier Création Parfumは、19の調合済みファセットを使って香水をつくる3時間の体験である。作品30mlを持ち帰る。現行販売ページの掲載額は税込150〜280ユーロで、教材を追加するかなどの選択によって変わる。開催言語と日程は予約時に確認する。専門研修の評価やRS認証とは別の、香りを組み合わせる楽しさに触れる入口である。

日本のパートナーで学ぶ

小泉祐貴子と、現在の日本の運営

現在の日本のパートナーは、サンキエムソンス ジャポンである。代表の小泉祐貴子は、資生堂を経てフィルメニッヒで香りの開発・マーケティングに携わり、社会文化の変化から香りのコンセプトを提案するチームのアジア・パシフィック代表を務めた。独立後は、空間、植物、暮らしと香りを結ぶ仕事にも取り組んでいる。

小泉の日本代表就任は2020年。現在の運営会社の案内はスクール創立を2021年としている。フランス側も日本側もパートナーとして紹介する、現在の講座の主催者である。現在の講座への申込みは、同社の案内に従う。

教材を嗅ぎながら受ける、ライブ講座

日本では、嗅覚と原料、香水の構成と語彙、香水の文化、調香実習を学ぶベーシックA〜Dがある。講座はそれぞれ単独でも受講でき、すべてを決まった順に履修する必要はない。初心者、香水愛好家、販売や開発で香りに関わる人など、目的に応じて選ぶ。

  • ベーシックA「匂いの感覚/香りのパレット」:2026年10月28日〜12月2日、90分×6回のオンライン講座。48の香りを嗅ぎながら、原料と嗅覚、香りの製品ができるまでを学ぶ。112,000円(税込)、教材と送料を含む。掲載締切は10月14日23時59分。
  • ベーシックD「調香実習」:2026年11月19日〜12月10日、2時間×4回のオンライン講座。18のファセットを学び、サンプル処方とオリジナルの香りを制作する。112,400円(税込)、調香用教材と送料を含む。掲載締切は11月5日23時59分。

いずれも2026年10月12日確認の対象回であり、日本語の公式ページで案内されるZoomのライブ講座である。授業言語の詳細は申込み先に確認したい。申込み後に教材が届き、当日はその香りを嗅ぎながら学ぶ。Aでは学習用の少量試料を送り、Dでは調香用のオルファクトリアムを用いる。最低開催人数は3人である。

日本側で案内するパフューマリーナビゲーター、アドバイザー、スペシャリストは、日本パフューマリー協会(JPA)の民間認定である。所定講座の履修後、ナビゲーターは申請、アドバイザーとスペシャリストは試験を経て取得する。講座を一つ受けるだけで認定されるわけではなく、フランスのRS7618や大学の学位とも別である。

ちなみに…フェランが選ぶシャネル N°5

2026年、会社を表す香水を問われたフェランが選んだのは、シャネル N°5だった。母親がつけていた香りであり、仕事を育ててくれたシュランジェを「仕事の母」と捉える彼女にとって、会社の歴史とも結びつく香水なのである。

フェランは、少しずつ姿を変えてきたN°5のボトルを、変わりながら同じ会社であり続けるサンキエームサンスに重ねた。原料の分析や研修の制度だけでは見えにくい、学びを受け継ぐ人の記憶がここにある。

主な歩み

  • 1976年:ロベルテの調香師モニーク・シュランジェが独立し、パリで設立。
  • 1983年:職業研修の活動を登録。
  • 1984〜1985年:シュランジェとフェランが出会い、フェランが同社へ加わる。
  • 2003年:新間美也が日本でサンキエームサンス・ジャポンの教育活動を始める。
  • 2004年:フェランが経営を引き継ぐ。
  • 2008年:イタリアとの提携、ニューヨークへの展開を軸に国際化を進める。
  • 2015年:子ども・若者の嗅覚教育を行うエマネズサンスが始まる。
  • 2016年:フェランとクレール・ロンヴォーがグラースの拠点を設ける。
  • 2018年:共同利用の秤量設備と嗅覚学習の場所を開く。
  • 2020年:遠隔研修を広げる。日本では小泉祐貴子が日本代表に就任。
  • 2021年:現在のサンキエムソンス ジャポンが創立。
  • 2026年:ジュルダン=ガサンが加わり、創設50周年を迎える。6月26日にはRS7618を登録。

参考文献

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