AGATHO PARFUM(アガト パルファン)―古代ポンペイの薫りを今もう一度

ブランド創業者

「ニッチパフューマリーとデザイナーパフューマリーの違いは、前者が芸術の世界に根ざし、クオリティをすべての創作の中心に置いている点にある。」

——アレッサンドロ・ビアンキ(Alessandro Bianchi)、アガト パルファン ファウンダー

基本情報

  • 設立年:2018年
  • 創設者:Alessandro Bianchi(アレッサンドロ・ビアンキ)※現CEOも兼任
  • 本社所在地:イタリア・ラツィオ州カッシーノ(Cassino, Frosinone, Italy)
  • 法人名:Caminus Capodimonte S.r.l.
  • 公式サイトhttps://agathoparfum.com/

創設者・ブランドの成り立ち

伝説の調香師「アガトン」という原点

西暦79年8月24日(または25日)、ヴェスヴィオ火山の大噴火によってポンペイは溶岩と火山灰の下に埋もれた。だが、その厚い灰の層は破壊と同時に「保存」でもあった。近代以降に進んだ発掘調査によって、ポンペイはローマ文明の精緻な日常を伝える奇跡の遺産として世界に蘇ることになる。

発掘を通じて明らかになったのは、ポンペイが単なる都市ではなく、「香りの都市」でもあったという事実だ。多くの香料職人が貴族階級のために膏薬や軟膏(unguenta)を製造しており、なかでもとりわけ高名だったのがアガトン(Agathon)という名の調香師である。「アガトン」はギリシャ語のαγαθό(アガト)——「善なるもの」「よきもの」——に由来する名で、彼の作る香りはあまりに神がかり的と称され、「神々の業」とまで評されたと伝えられている。

彼の工房はポンペイに実在し、「ヘラクレスの庭の家(House of the Garden of Hercules)」あるいは「調香師の家(House of the Perfumer)」と呼ばれる建物として考古学的に確認されている。発掘された容器や花粉の分析から、当時の調香に使われた素材の特定まで進んでいる。

この伝説的な場所と人物の記憶が、アガト パルファンの土台にある。

2018年、アレッサンドロ・ビアンキによる創業

ブランドはイタリア人起業家アレッサンドロ・ビアンキによって2018年に設立された。 彼はポンペイが育んだ古代の調香文化に深い関心を抱き、それを現代のラグジュアリー・パフューマリーとして再解釈するというプロジェクトを立ち上げた。

ブランドの法人名「Caminus Capodimonte S.r.l.」はイタリア語で「暖炉」を意味する「camino」を想起させる言葉と、後述するカポディモンテ磁器工場への敬意を込めたものと解釈できる。本社はローマ南東に位置するカッシーノ(Cassino)にあり、磁器キャップの製作もこの地で行われている。

ビアンキが掲げたブランドの核心は、Ambition(野心)・Rediscovery(再発見)・Mastery(熟練)という三つの言葉に集約される。 過去の卓越した香りの文化を発掘し、現代の感覚と最高級素材によって新たな生命を与える——それがアガト パルファンという「嗅覚プロジェクト」の本質だ。

調香師マウリツィオ・チェリッツァとの協働

ブランドのフレグランスを創作しているのが、調香師マウリツィオ・チェリッツァ(Maurizio Cerizza)である。

チェリッツァは、調香の世界に育まれた一族の出身だ。彼の父アウレリオ・チェリッツァは1946年にミラノで精油抽出会社「EMA(Essenze e Materie Aromatiche)」を創立。その後、リグリア州インペリアにも拠点を設け、ジャスミン、ローズ、アイリス、イランイランなどの天然素材を蒸留・抽出していた。幼いマウリツィオは蒸留器や精油の保管庫に親しみながら育ち、精油の言語を身体で覚えていったとされる。

調香師としての修行は、フランスが誇る名門調香学校ローア(Roure Perfumery School)で積んだ。師匠はルネ・リコール(René Ricord)——あの偉大な調香師ジャン・カール(Jean Carles)の助手を務めた人物だ。カルルが確立した、まず紙の上でフォーミュラを完成させてから素材を組み合わせるという方法論を、チェリッツァはリコールから受け継いだ。

「調香師は本質的に、まず組み合わせを想像してから実現するという点で、画家が色を使い、音楽家が音符を使うように、原材料をコントロールしなければならない芸術家だ。」

30年以上のキャリアで100作品以上のフレグランスを手がけ、1986年にはROCCOBARROCOの女性フレグランスで最初の大きな成功を収めた。 Cale Fragranze d’Autoreとの仕事でも知られる。 フランス調香師協会(SFP:Société Française des Parfumeurs)の会員でもある。

ブランドのこだわり

香りづくりの哲学

ビアンキはニッチパフューマリーの本質をこう語る。

「私たちのコア・バリューである『真正性(authenticity)』『職人技(craftsmanship)』『ストーリーテリング(storytelling)』は、海外でも高く評価されている。私たちの強みは『手仕事の価値』にある。それこそが、ますます均質化していくグローバル市場において自らを差別化する唯一の真の方法だ。」
——Alessandro Bianchi, CEO, Agatho Parfum

各フレグランスは、ポンペイの遺跡や考古学的発見、ギリシャ・ローマ神話の人物・出来事からインスピレーションを得ており、単なる「良い香り」の提供にとどまらない。ストーリーを身にまとう体験を提供することが、このブランドの目指す姿だ。またすべての製品はヴィーガン&クルエルティーフリーとして設計されている。

ボトル・パッケージへのこだわり

アガト パルファンのボトルを手に取った人が最初に目を奪われるのが、そのカポディモンテ磁器(Capodimonte porcelain)によるキャップだ。

カポディモンテ磁器は、1743年にブルボン家のカルロ3世王(ナポリ・シチリア王)がナポリ郊外カポディモンテに設立した「リアル・ファッブリカ・ディ・カポディモンテ(Real Fabbrica di Capodimonte)」に由来する。 このカルロ3世こそ、ポンペイ発掘を本格的に推進させた人物でもあり、ここにアガト パルファンの二つの精神的源泉——古代ポンペイとカポディモンテ磁器——が交差する。 各キャップは古来の技法に従って手作り・手描きされ、2つとして同じ模様が生まれない。

「各フレグランスは、唯一無二の一点もの(exclusive, one-of-a-kind piece)だ。」

——Alessandro Bianchi

ボトルを収めるのは美しい木製ボックスで、その素材はサステナブルかつ地元調達のものを使用している。 製品のすべてにおいて「手仕事」を貫くことで、工業化された香水市場との差異化を図っている。

香水ラインナップ

アガト パルファンは現在、大きく3つのコレクション——ポンペイ コレクションミュト コレクションオリンピア コレクション——を展開している。

ポンペイ コレクション(Pompei Collection)

各フレグランスはポンペイの歴史的・神話的テーマに基づいている。

  • ROSSOPOMPEIANO(ロッソポンペイアーノ):ポンペイのシンボルである鮮やかな赤い壁画にインスパイアされた作品。マンダリン、ガルバナム、苦アーモンドのトップに、ダマスクローズ、イランイラン、オレンジブロッサム、ジャスミン・サンバックの豊かなフローラルハート。パチョリ、ラブダナム、サンダルウッド、バニラが深みのあるベースを形成する。
  • GIARDINODIERCOLE(ジャルディーノ・ディ・エルコーレ):考古学的に発掘されたヘラクレスの庭の家(調香師の家)がモデル。ラベンダー、ルバーブ、ジュニパーベリーのトップから、フランキンセンス、ブラックペッパー、クラリセージへと続くスパイシーでスモーキーな構成。
  • FAUNO(ファウノ):グレープフルーツ、タバコ、アルテミジアの個性的なオープニング。チュベローズ、ジュニパー、セージのハートから、シダー、フランキンセンス、スエード、アンバー、パチョリのベースへ。
  • CASTIAMANTI(カスティアマンティ):サフラン、ローレル、マートルのスパイシーな開幕に、ローズとハニーのハート。ラブダナム、ウード、バニラが官能的な余韻を残す。
  • ADONE(アドーネ):ギリシャ神話のアドニス(イタリア語:アドーネ)とアフロディーテの愛をテーマに。ブラックカラント、グレープフルーツ、ピンクペッパーのシャープな始まりから、ダマスクローズ、ウィステリア、ホワイトリリーのフローラルへ。
  • 195 a.C.(195エー・チー):紀元前195年、女性の自由と豊かさを制限した「レックス・オッピア(Lex Oppia)」の廃止を記念。フィグリーフ、レモン、ベルガモットから始まり、フィグ、カルダモン、ジャスミンのハート。ブラックティー、ウード、レザーの複雑なベース。
  • SILENO(シレーノ):オレンジブロッサムとブラックカラントの爽やかなオープニングに、イランイラン、地中海の下草、四川ペッパーのハート。シダーと海藻のアブソリュートが印象的なベース。
  • PORTAMARINA(ポルタマリーナ):夜明けのポンペイの海辺の情景。アップル、オレンジ、ベルガモットに芳香植物とパウダリーなアイリスが溶け合う地中海の朝の空気。Fragranticaの「2025年のベスト香水」にも選出された。
  • VETTII(ヴェッティイ):東方とMediterranean(地中海)の交差点。フィグとストロベリーツリーにサフラン、ミルラ、ウードが溶け込み、文化的交流の美を称える。

ミュト コレクション(Mytho Collection)

ギリシャ支配時代のポンペイとギリシャ神話に着想したライン。エクストレ・ドゥ・パルファン 50ml。ポンペイ コレクションよりも「神話と精神性」に重点が置かれ、神々のアーキタイプが各フレグランスの中心に据えられている。

  • TERRAVIVA(テッラヴィーヴァ):大地の女神ヘラに捧げるオレンジブロッサムの讃歌。ローズ、ジャスミン、ベルガモット、ベチバー、クリーミーなサンダルウッドが調和する。
  • SEIGIORNI(セイジョルニ):ミュト コレクションのベストセラー。ディオニュソス(酒とエクスタシーの神)の魂を嗅覚で解釈した作品。グレープマスト、ホワイトピーチ、キャンデッドレモンの甘さに、ライトウッド、ムスク、アンバーが神秘的な残香を作る。
  • OLIMPOVERDE(オリンポヴェルデ):女神アテナの知恵と美徳に捧げる作品。カラモンディン、スイートオレンジ、レッドタイム、トンカビーンに、ジャスミンとトランスパレントムスク。
  • SENZARAGIONE(センザラジオーネ):2025年リリースの新作。エロスのエンチャントメントから生まれた、本能と欲望の作品。チェリーのトップに、マリンノートとサンダルウッドのハート、アンバーとベンゾインとムスクのベース。

オリンピア コレクション(Olympia Collection)

古代ギリシャにおけるスポーツの貴族性・精神性・儀礼性を讃えるライン。オー・ドゥ・パルファン(eau de parfum)50ml で、ミュト コレクションよりもモダンで躍動感のある性格を持つ。

  • CINISCA(チニスカ):2025年発売。古代オリンピックで初めて勝利を収めたとされるスパルタ王の娘、キニスカ(Cynisca)へのトリビュート。ネロリ、チュベローズ、ジュニパーのダイナミックな幕開けに、リリーとピンクペッパー。ベチバーとレザーのベースが彼女の馬車の力強い疾走を呼び起こす。
  • BRONZEO(ブロンゼオ):古代ギリシャの彫刻と競技の美を纏うスパイシーウッディな作品。
  • VERDESETA(ヴェルデセータ):競技前の身体の準備儀礼「オリーブオイル塗布」から着想。フレッシュプレスされたオリーブの酸味が印象的なメディテラネアンな作品。
  • FORZAPURA(フォルツァプーラ):2024年発売。グレープフルーツ、レモン、スパイスのトップからラブダナム、エレミ樹脂、ブラックティーのハート、そしてベチバー、シダー、サンダルウッドの力強いベース。

ちなみに…

2025年、ポルタマリーナがFragranticaの「2025年のベスト香水」に選出された。

参考文献

  1. Agatho Parfum – Excellence in Innovative Perfumery – https://www.izabelacorina.com/post/agatho-parfum-excellence-in-innovative-perfumery
  2. Agatho – The fragrant seduction of the ancient world – https://www.izabelacorina.com/post/agatho-the-fragrant-seduction-of-the-ancient-world
  3. Smellstories.be – Agatho ブランドページ(Alessandro Bianchi発言引用) – https://www.smellstories.be/en/brands/agatho/
  4. Lusso 360 Podcast S2 E4 – Alessandro Bianchi インタビュー概要 – https://www.brandtherapy.mc/podcast/s2-e4-alessandro-bianchi/
  5. Lusso 360 / Everand – Profumeria artistica con Alessandro Bianchi(創設者インタビュー、イタリア語ポッドキャスト) – https://www.everand.com/podcast/739127357/Profumeria-artistica-con-Alessandro-Bianchi-fondatore-Agatho-Parfum
  6. Per Fumus Chicago – A Closer Look at Agatho(フレグランスレビュー・ブランド概要) – https://perfumuschicago.wordpress.com/2024/04/11/a-closer-look-at-agatho/
  7. Agatho Parfum 公式サイト – https://agathoparfum.com/
  8. LinkedIn – Agatho Parfum(CEO発言・Forbes SmallGiants掲載) – https://www.linkedin.com/posts/agatho-parfum_agathoparfum-globalbusiness-forbes-activity-7417580957492314114-pfi-
  9. Fragrance Russia – Agatho ブランド概要 – https://fragrancerussia.com/en-us/agatho
  10. Luckyscent – Maurizio Cerizza 調香師プロフィール – https://www.luckyscent.com/perfumers/maurizio-cerizza
  11. Agoratopia – Maurizio Cerizza 調香師プロフィール – https://www.agoratopia.ro/perfumers/maurizio-cerizza
  12. Accademia del Profumo – Maurizio Cerizza e CFF(イタリア語) – https://www.accademiadelprofumo.it/storie-di-nasi/maurizio-cerizzae-creative-flavours-and-fragrances/
  13. Agatho Parfum Olympia Collection 公式ページ – https://agathoparfum.com/18-olympia-collection
  14. Fragrance Vault – Agatho CINISCA eau de parfum – https://fragrancevault.net/products/agatho-cinisca-eau-de-parfum
  15. AOL/Fox News – Ancient Roman ‘perfume garden’ blooms again(ポンペイ・香料師の家の発掘) – https://www.aol.com/news/ancient-roman-perfume-garden-blooms-080023650.html
  16. Wikipedia – Capodimonte porcelain – https://en.wikipedia.org/wiki/Capodimonte_porcelain
  17. Fragrantica Best Perfumes 2025(Portamarina選出) – ポーランド語レポート https://blog.missala.pl/ciekawostki/portamarina-agatho-parfum-w-zestawieniu-fragrantica-best-perfumes-2025/
  18. Agatho Parfum Facebook – Esxence 2025 参加告知 – https://www.facebook.com/photo.php?fbid=1108302997974845&id=100063854653836&set=a.461995145938970