「香りを一種の”脚注”のようなものだと考えたんだ。誰かの香水の香りを感じることで、その人について少し深く知ることができる。香りの好みはもちろん、その人が大胆なのか控えめなのか、独創的なのか好奇心に満ちているのか……香水を通して、その人の輪郭が自ずと浮かび上がってくる」
— ピエール=ジュニア・メナナ(共同創設者)
基本情報
設立年: 2023年
創設者: アリス・ジェンス(Alice Gensse)、ピエール=ジュニア・メナナ(Pierre-Junior Menana)
公式サイト: https://notesdebasdepaje.com(グローバル)/ https://notesdebasdepaje.co.jp(日本)
創設者・ブランドの成り立ち
2020年春、ロックダウン明けの出会い
ノート ドゥ バ ドゥ パージュの物語は、2020年の春にさかのぼる。新型コロナウイルスによる最初のロックダウンが明けたばかりのパリ。アリス・ジェンスとピエール=ジュニア・メナナは、そのタイミングで出会った。2人の最初の共通点は、ほとんど一つしかなかった――その年、ともに司法試験の準備をしていたことだ。[1]
「出会った当時、僕たちは弁護士試験の準備をする学生だった。将来は一緒に法律事務所を開こうと話をするくらい、法律以外の道は考えていなかったんだよ」
— ピエール=ジュニア・メナナ[2]
2020年6月から11月まで、2人は司法試験に向けてともに勉強漬けの日々を送った。長い時間をともに過ごすうちに気づいたのは、2つのこと――「お互い、働くことの上でよいパートナーになれる」こと、そして「法律の世界に自分たちの情熱はない」ということだった。[1]
バーンアウトと転機
その後、法学部に進学した2人だったが、バーンアウトと「目が覚めるような出来事(massive wake-up call)」を経て、法律の道を離れることを決意する。将来についてアイデアを出し合っていたとき、アリスが口にしたひと言が、すべての始まりとなった。[1]
「そこから将来についてアイデアを出し合っていたとき、アリスが『香水を作ろう』と言ってくれて。この最高の一言がすべての始まりだったんだよ」
— ピエール=ジュニア・メナナ[2]
2人はもともと香水ファンではあった。ピエールがニッチフレグランスを好み、その影響でアリスも同じ趣味を持つようになっていた。だが「ファンとして楽しむこと」と「ブランドを立ち上げること」は、まったく別の話だった。[3]
「外側からの者」として業界へ
香水業界のコネクションはゼロ。製造プロセスも、ビジネス運営も、何も知らない状態からのスタートだった。アリスはのちにこう振り返っている。
「一番の課題は、サプライヤー探しと、ブランド立ち上げからフレグランス開発までのプロセスを一から理解することでしたね。規制も多く、最初は何も分からなかったから、自分たちで調べたり、さまざまな人のもとを訪ねたりしながら、ひとつずつ学んでいきました。香水を愛することと、それを実際に作ることはまったく別のことだと痛感したんです」
— アリス・ジェンス[2]
当時、香水業界で唯一の知り合いに相談したところ、「やめた方がいい」と言われた。フランスは香水の長い歴史と高い専門性を誇る国であり、市場は飽和状態にある、と。しかし、2人は逆に「挑戦すべきだ」と確信を強めた。[2]
「でも、待ち続けていたら何も生まれない。他の人に先にやらせるだけ。それに、私たちはすでに一切を捨ててきた。もうプランBはなかったんです」
— アリス・ジェンス(chimie scent インタビューより)[1]
7年間の法律研究が「創造的な自分」を忘れさせていたが、その年月が培ってくれた規律と仕事への倫理観こそが、ブランド経営の基盤になると2人は気づいていた。また、アリスが知的財産を専門としていたことも、契約交渉やブランド保護において実際の強みとなっている。[1][2]
ブランド名に込めた2人のイニシャル
こうして2023年、2人はパリでブランドを立ち上げた。ブランド名の「NOTES DE BAS DE PAJE」は、フランス語の「note de bas de page(脚注)」から来ているが、綴りをひと文字変えて”paje”としている。
「ブランド名に個人的なタッチを加えたかったからなんだ。香りを通して自分たちの人生から生まれた物語を語っているから、2人のイニシャル『P』と『A』を組み込んで『paje』と付けたんだ」
— ピエール=ジュニア・メナナ[3]
Paje(パジェ) は、“page(ページ)”と、私たちの名前の頭文字、そして私たちをつなぐハイフン=「et(そして)」を組み合わせた音のミックスです。
この「et(そして)」が、私たち二人——Pierre-Junior(ピエール=ジュニア)とAlice(アリス)——を結びつける大切な言葉です。私たちの香水は、それぞれの物語、そして二人で紡ぎ始めた物語の“脚注”です。[4]
ブランドのこだわり
香りと文学の融合という哲学
ノート ドゥ バ ドゥ パージュの核心にあるのは「香りを文学の脚注として捉える」という哲学だ。法律書で培ってきた「脚注」への親しみが、そのままブランドのコンセプトへと転化した。
「法律を学んでいた僕たちにとって、”脚注”はとても大切な存在だった。読み飛ばすこともできる、言ってしまえばささやかな部分なんだけど、きちんと読めば、最初は知らなかったことや、表面的にしか理解していなかったことに新たな発見をもたらしてくれる」
— ピエール=ジュニア・メナナ[3]
また、ピエールは香水の構造と法的思考の類似性について、こうも語っている。「香水は独特の芸術形式で、クリエイティブな側面(これは言うまでもない)と知的な側面(化学に根ざし、ピラミッド構造を持つ。法的推論と構造がよく似ている)を兼ね備えている。私たちに完全にしっくりきた」。[1]
ジェンダーニュートラル・メイドインフランス
すべての香水は「エクストレ ドゥ パルファン」(エクストラクト・ド・パルファン:香料濃度が最も高いフォーマット)として展開され、ユニセックスで着用できるよう設計されている。調香はパリのインディペンデントスタジオ「Flair Laboratoire(フレア・ラボラトワール)」で行われ、製造は南フランスの香水産地・グラースで行われる。[5][6][7]
パッケージへのこだわり――「捨てない箱」
パッケージはブック型で、開くと香りの物語が書かれている。ケースそのものを「本」として設計し、通常は捨てられる包装を、手元に置いておきたいと思えるものにすることを意図している。素材にはFSC(森林管理協議会)認証を受けた紙素材を使用し、パリとイタリアの認証工場で製造されている。[8][5]
2026年3月のパッケージ刷新では、さらに一歩踏み込んだ。各フレグランスのボックスに12ページの小冊子(それぞれの香りをテーマにした短編小説)を同梱することにした。この刷新についてアリスはこう語っている。[9][2]
「ブランド立ち上げ当初から大切にしてきた文学的な側面をより明確に形にすることで、お客さまに私たちの世界観により深く入り込んでいただきたいと考えたからなんです」
— アリス・ジェンス[2]
香水ラインナップ
ノート ドゥ バ ドゥ パージュは2023年のデビューから2026年3月までに4作のエクストレ ドゥ パルファンを発表している。各作品に番号(①②③④)が付されており、それぞれが1冊の本の中の「脚注」として独立した物語を持つ。
①プロレゴメネス(Prolégomènes)― 序章、始まりの香り
「プロレゴメネス」とは、法学において本論に入る前の「序論・前置き」を意味する言葉だ。テーマは春のパリ、セーヌ川沿いの緑のベンチ――アリスとピエールの出会いの物語を象徴する。[10]
「理論上、2人は決して出会うはずのない場所にいた。人混みの中の他人、それぞれが自分の未来をほぼ決めていると確信していた。でも、木々が再び花を咲かせ、雲が晴れると、すべてが可能になる」(公式ストーリーより)[11]
キーノート:ベルガモット、カルダモン、イチジクのミルク、アップル、アトラスシダー、ベチバー、アンブロキサン。調香師はアメリ・ブルジョワ(Amélie Bourgeois)。[10]
②オラトゥア(Olatua)― バスクの波、青春の夏
「オラトゥア(Olatua)」はバスク語で「波」を意味する。アリスが育ったバスク地方での青春時代、特にビアリッツ海岸の夏の記憶にインスピレーションを受けた香りだ。日本人向けへのおすすめとしてアリスが自ら挙げた作品でもある。[12][13]
「オラトゥアはバスク語で『波』を意味するので、葛飾北斎の有名な波を連想する人もいるかもしれませんね。この作品は、ビアリッツの海辺で過ごす夏からインスピレーションを得た、とても繊細でやわらかな香りです。日本は海に囲まれた群島の国なので、この香水が呼び起こす海辺の空気感に、どこか懐かしさや心地よさを感じていただけると思います」
— アリス・ジェンス[2]
キーノート:ココナッツワックス、ヨウ素(ミネラルと塩気の香り)、ホワイトフラワー、イランイラン、ブラックペッパー、ホワイトムスク、ベチバー。[14]
③トゥウェデ(Towédé)― 最人気作。母の名前を冠した香り
「トゥウェデ」は、ピエール=ジュニアの母の名前そのものだ。西アフリカの国ベナン出身の母が、やがてパリへと生活の拠点を移した旅の物語――神秘的な赤土の大地と、冷たいアスファルトの都市、その2つの世界が交差する。[15][16]
アリスによれば、全作品の中でトゥウェデが最もよく選ばれているという。「本当に誰かに抱きしめられているような感覚を与えてくれる、まさに”気分を良くしてくれる”フレグランス」と表現している。[2]
キーノート:ナツメグ、シナモン、アンバーグリス、サンダルウッド、レザー、ダークチョコレート、カシュメラン。調香師はパリのFlair Laboratoireに所属するマルゴー・ル・ペ・ゲラン(Margaux Le Paih-Guérin)。[17][14][15]
④カランボラージュ(Carambolage)― 衝突の先に灯る希望(2026年3月14日発売)
「カランボラージュ(Carambolage)」はフランス語で「玉突き事故」を意味する。ピエール=ジュニアが若い頃に経験した交通事故から着想を得た、4作目のエクストレ ドゥ パルファンだ。[9][2]
「カランボラージュは、私が数年前に経験した交通事故から着想を得ているんだ。厳密に言えば、それは玉突き事故ではなかったのだけど、人生の中で起こったさまざまな出来事の連なりの中にある一つの出来事だった……だから、玉突き事故と表現したんだ」
— ピエール=ジュニア・メナナ[2]
この香りにはレジリエンス(どんな出来事からでも立ち直る力)のメッセージが込められており、最初は衝撃的で意外性のある香りが立ち上がり、次第に爽やかで明るい香りへと変化していく。ピエールは「ノワールやスリラーのような雰囲気の物語」と表現し、これまでの古典的な小説3作品とは異なる方向性だと語った。[2]
キーノート:ルバーブ、ケード(ジュニパー)、クランプルドメタル(金属的なノート)、ミルラ、スチラックス、レザー、グアヤクウッド、バージニアシダーウッド、シベリアンパイン。[18][4]
ちなみに…
ブランド名に隠された2つの謎解き:「NOTES DE BAS DE PAJE」の”PAJE”には、実は2つの解釈が存在する。一つは「P(Pierre)とA(Alice)のイニシャルをそこに込めた」というもの。もう一つはより詩的な解釈で、フランス語の「et(and:そして)」という接続詞が2人をつないでいるとするものだ――PAJEには2人の存在が刻まれている。[4][3]
「書かれていない物語」としての香水コンセプト:公式サイトのキャッチコピーは「Write a perfume, feel a story.(香水を綴る、物語を感じる)」。これはただの宣伝文句ではなく、「香水は着用する者の物語の一部になる」というブランドの核にある考え方を端的に表している。それぞれの香りにつけられた番号(①②③…)も、まるで本の注釈番号のようだ。[19]
- chimie scent — Alice と Pierre-Jr へのインタビュー(パリ・Librairie Ephemeraにて収録)– https://chimiescent.com/events-perfumers/notes-de-bas-de-paje
- fashionsnap.com — 「法律からフレグランスの世界へ フランス発『ノート ドゥ バ ドゥ パージュ』の物語」インタビュー記事(2026年3月)– https://www.fashionsnap.com/article/notes-de-bas-de-paje-interview/
- fashionsnap.com — 「仏発『ノート ドゥ バ ドゥ パージュ』が事故から着想した新香水を発売 パッケージも再構築」(2026年3月)– https://www.fashionsnap.com/article/2026-03-10/notes-de-bas-de-paje-new-package/
- PR TIMES / 株式会社吉村 — 「日本初上陸!フランス発元弁護士カップルが手がけるラグジュアリーパフュームブランド『NOTES DE BAS DE PAJE』バーニーズ ニューヨークで先行発売」(2025年4月)– https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000076860.html
- lula JAPAN — 「NOTES DE BAS DE PAJE」ブランド紹介記事(2025年)– https://lulamag.jp/beautynews/notes-de-bas-de-paje/2025
- and father — 「Notes de Bas de Paje / TOWÉDɳ」商品ページ – https://and-father.com/products/notes-de-bas-de-paje-towede
- and father — 「Notes de Bas de Paje / PROLÉGOMÈNES¹」商品ページ – https://and-father.com/products/notes-de-bas-de-paje-prolegomenes
- La Brume(台湾)— 「Notes de Bas de Paje – Carambolage」商品ページ(公式ストーリー全文掲載)– https://www.labrume.com.tw/en/products/notes-de-bas-de-paje-carambolage-%E5%81%8F%E8%88%AA%E6%99%82%E5%88%BB-%E9%A6%99%E7%B2%BE
- CaFleureBon — 「Perfumer Margaux Le Paih-Guérin of Flair」(調香師プロフィール)– https://cafleurebon.com/cafleurebon-young-perfumer-series-margaux-le-paih-guerin-of-flair-plus-sora-dora-red-jovoy-paris-exclusi
- NOTES DE BAS DE PAJE 公式サイト(法的表記)– https://notesdebasdepaje.com/en/pages/mentions_legales
- Fragrance Passion(英語版)— 「PROLÉGOMÈNES¹ – NOTES DE BAS DE PAJE」商品ページ – https://fragrancepassion.us/products/prolegomena-footnotes


