A. そもそも紅茶とは何か?ここから話を始めましょう。
忙しい人はこちら。
紅茶とは何か
日本で紅茶という言葉は勘違いにより2つの意味を持ちます。
①ダージリンやアッサムを代表とする茶葉を発酵させて作られるお茶。別名ブラックティー。
②アールグレイやアップルティーをはじめとして、ブレンドしたブラックティーにフレーバーを付け足したお茶。フレーバーティー(フレーバードティー)と呼ばれる。
他のティーの香りについても知りたい方はティー(香料辞典)を参照下さい。また茶一般の分類については、こちらが分かりやすいです。
①のブラックティーは、基本的にそのまま飲むものであるため、香りだちに茶葉の個性が現れ、産地ごとの香りを楽しむことができます。
一方、②のフレーバーティーは、いくつかのブラックティーのブレンドをベルガモットをはじめとした人工的な精油やフレーバーで香りづけをすることで、香りの世界を広げるために作られています。
ちなみに
イギリスでは、紅茶=ブラックティーで、フレーバーティーは紅茶とみなしません。この2つは味わい方が違うのです。
一方で、フレーバーティーが誕生したフランスでは、水質のせいで茶葉の特徴が出にくく、そのため茶葉に香りをつけて楽しんだという背景があります。そのため、マリアージュフレールなどのフランス生まれのブランドでは様々なフレーバーティーがあり、香りを楽しむことに重きを置いているように感じます。ゲランは2013年に、フランスの紅茶ブランドとコラボして、フラグシップ店限定の紅茶を作りました。それらはシャリマーやアビルージュなどの名を冠して、イメージした紅茶でありました。
ティー香水の歴史
さて、話は少し脇道にそれますが、どのようにして歴史上初めてのティーの香水が生まれたのかを話しましょう。それは1988年まで遡ります。
フランスに、マリアージュ・フレールのお茶を愛していた1組の夫婦がいました。それが、ジャン=クロード・エレナと妻スザンナであります。エレナは何度も訪れるマリアージュの店内の香りを素晴らしく思っており、ラボに戻るたびに自分の嗅いだ香りを書き留め、1つのアイデアを思いつきました。それは、1世紀以上の間スミレの匂いを作ることにしか使われなかったβ-イオノンを、ジャスミンに含まれるへディオンと組み合わせることで、ティーの香りを生み出すという試みでした。
こうして、世界で初めてお茶を使わずに生まれた抽象的なティーノートは、オーパフメオーテヴェール(「緑茶の香水」)という名の香水として、1991年、ブルガリ史上初の香水として市場に姿を現しました。
ちなみに
「緑茶(テ ヴェール)」という名がついていながら、表現した香りは実は緑茶ではなく、ダージリンティーにインスピレーションを受けています。
ブルガリのマーケティングの人たちがやってきて、こう聞くんだ。『このティーノートはすごく好きなんだけど、どのティーを香水に使ったの?』って。そして私はこう言う。『ティーなんて入ってないよ。単なるイリュージョンさ』だけど彼らは信じてくれなかったね。
ジャン=クロード・エレナ
エレナのティーが売れるやいなや、ティーの香りは現在に至るまで安定したブームで、多くの香りが販売されています。
ちなみに、ティーノートが作られた背景は、①茶の葉自体に十分な香料を抽出できるだけの香りが含まれていないということ、②茶の葉からティー(お茶)にした場合に立ち昇る香りがエッセンスよりも複雑であるということ、が挙げられます。
グリーンティー、ブラックティー、マテ、ルイボスはエッセンスを抽出し、香水として使われますが、その香りは我々が想像するものとは異なるため、基本的に他の香りと組み合わせることで表現することが多いようです。
Answer~各ティー香水に使われる香料~
せっかくなので、紅茶だけではなく、様々なティーの香水について、どのような香りが主に使われ、代表的な香水も合わせて回答をしたいと思います。
まず一般的によく使われるティーのアコードは、先のエレナの組み合わせを少しいじったものになります。(ジャスミンにはへディオンが含まれ、ヴァイオレットにはイオノンが含まれているため。)ただし、調香師はそれぞれが自身のティーノート(ティーアコード)を持っているため、同じ名前で書かれているからと言って必ずしも同じではありません。また、抽象的なティーの香りには、マテのアブソリュートがよく使用されます。
POINT
ジャスミンノート+ベルガモットノート+バイオレットノート=ティーアコード
なぜティーの香りにバイオレットノートや似た香りのイオノンが使われるのか、かの有名なBois de Jasminの管理人であるVictoriaは、煎茶の香りにバイオレット調の匂いがあり、それで腑に落ちたと言っています。
前提知識となる各ティーの違いはこちら。
ホワイトティー
代表的な香水
・オーパフメオーテブラン(Eau Parfumée au Thé Blanc、ブルガリ、2003、ジャック・キャヴァリエ)
・バンブーハーモニー(Bamboo Harmony、キリアン、2012、カリス・ベッカー)
・廃番シルバーニードルティー(Siver Needle Tea、ジョーマローン、2016、セルジュ・マジョリエール)
・ホワイトティー(White Tea、エリザベスアーデン、2017、ロドリゴ・フローレス・ルーなど)
・テカシミア(Thé Cachemire、ディオール、2018、フランソワ・ドゥマシー)
・サンザーティフィス(Sans Artifice、ジバンシィ、2020、ファブリス・ペレグリン)
グリーンティー
グリーンティー(緑茶)は、少量のマテアブソリュートやへディオンを使用して表現されることが多いです。
マテとは、南米でよく飲まれる茶のことで、中でもグリーンマテ茶は緑茶に近い味わい・香りを持ちます。一方、マテの茶葉を焙煎したローストマテ茶は、ほうじ茶のような風味を持ちます。
へディオンは主に、透明で瑞々しい、軽やかな印象を与えるために使われます。
代表的な香水
・オーパフメオーテヴェール(Eau Parfumée au Thé Vert、ブルガリ、1991、ジャン=クロード・エレナ)
・CK ONE(カルバン・クライン、1994、アルベルト・モリヤス&ハリー・フレモント)
・廃番テプールアンエテ(Thé pour un Été、ラルチザン、1995、オリビア・ジャコベッティ)
・グリーンティー(Green Tea、エリザベス・アーデン、1999、フランシス・クルジャン)
・アジアングリーンティー(Asian Green Tea、クリード、2014)
・廃番テアズーラ(Teazzurra、ゲラン、2015、ティエリー・ワッサー)
・テヴェール(The Vert、ロジェガレ)
★抹茶(ここ2年でかなり増えています。)
・ヒョウゲ/オリベ(Hyouge/Oribe、パルファンサトリ、2008、大沢さとり)
・マッチャレモン(Matcha Lemon、Teaology、アマンディーヌ・クレール・マリー)
・テ マッチャ 26(Thé Matcha 26、ルラボ、2021)
・マッチャメディテーション(Matcha Meditation、メゾンマルジェラ、2021、モーリス・ルーセル&アレクサンドラ・カリン)
抹茶香水をもっと見たい方はこちら(Fragranticaの一覧)。
ウーロンティー
ウーロン茶は半発酵のため、グリーンティーとブラックティーの間のような香りになります。そのため、ウッディな香りと少しフルーティ&フローラルな香りも組わせることが多いです。
代表的な香水
ウーロンアンフィニ(Oolang Infini、アトリエコロン、2011、ジェローム・エピネット)
ウーロン茶(Wulong Cha、ニシャネ、2015、Jorge Lee)
廃番ウーロンティー(Oolong Tea、ジョーマローン、2016、セルジュ・マジョリエール)
ブラックティー(紅茶)
基本的にはウッディな香りやアーシーな香り、少しスモーキーな香りを組み合わせて作られます。紅茶は茶の葉を完全に発酵させているため、その独特な香りを表現するために上記の香りが使われます。
代表的な香水
★抽象的なブラックティー
・テノワール29(Thé Noir 29、ルラボ、2015、フランク・フォルクル)
・廃番オーパフメオーテノワール(Eau Parfumée au Thé Noir、ブルガリ、2015、ジャック・キャヴァリエ)
・テファンタジー(Thé Fantaisie、ロジェガレ、2017、アルベルト・モリヤス)
・1900ルールドゥプルースト(L’Heure De Proust、レバンゲルボワ、2018、ジェローム・エピネット)
・ファンタズマ(Phantasma、リキッドイマジネ―ル、2020、アン・ソフィー・べヘーゲル)
・ロンブルデメルヴェイユ(L’Ombre Des Merveilles、2020、クリスティーヌ・ナジル)
・イマジナシオン(Imagination、ルイヴィトン、2021、ジャック・キャヴァリエ)
★アッサム
・アッサム&グレープフルーツ(Assam&Grapefruit、ジョーマローン、2011、クリスティーヌ・ナジル)
・アッサムオブインディア(Assam of India、Berdoues、2015、Jennifer Riley)
★ダージリン
・ブルガリプールオム(ブルガリ、1996、ジャック・キャヴァリエ)
・廃番ダージリンティー(Darjeeling Tea、ジョーマローン、2016、セルジュ・マジョリエール)
フレーバーティー(紅茶ブレンド+フレーバー)
代表的な香水
★ アールグレイ…ティー+ベルガモット
・アールグレイティー(Earl Grey Tea、ディメーター、1996、Christopher Brosius)
・デクラレーション(Declaration、カルティエ、1998、ジャン=クロード・エレナ)
・アールグレイ&キューカンバー(Earl Grey & Cucumber、ジョーマローン、2011、クリスティーヌ・ナジル)
・マラバー(Malabah、ペンハリガン、2003)
・ティーブレイク(Tea Break、R fragrance、2017)
★ ジャスミンティー…ティー+ジャスミン
・廃番インペリアルティー(Imperial Tea、キリアン、2014、カリス・ベッカー)
・リブレEDT(Libre、イヴサンローラン、2021、アン・フリッポ&カルロス・ベナイム)
★オスマンサス茶…ティー+オスマンサス
・オスマンサスユンナン(Osmanthe Yunnan、エルメス、2005、ジャン=クロード・エレナ)
★ミントティー…シトラスノート+ティー+ミント
・ハーバフレスカ(Herba Fresca、ゲラン、1999、マチルド・ローラン)
★ローズティー…ローズ+レモンピール+ティー
・ゼストドゥローズ(Un Zeste de Rose、レパルファムドゥロジーヌ、2002)
★フルーツティー…フローラルノート+フルーティノート+ティー
・トミーガール(Tommy Girl、トミー、1996、カリス・ベッカー)→アップルティーぽい
・エクラドゥアルページュ(Eclat d’Arpège、ランバン、2002、Karine Dubreuil)→抽象的なフルーツティー
★ラプサンスーチョン…ティー+バーチタールやピラジン(などのスモーキーノート)
・ブラック(Black、ブルガリ、1998、アニック・メナード)
・ティーフォートゥー(Tea for two、ラルチザン、2000、オリビア・ジャコベッティ)
ルイボスティー
緑茶や紅茶がツバキ科のカメリアシネンシスという茶の樹から作られるのに対し、ルイボスティーはアフリカ原産のマメ科の植物から作られます。別名レッドティーと呼ばれます。
代表的な香水
・オーパフメオーテルージュ(Eau Parfumée au Thé Rouge、ブルガリ、2006、オリヴィエ・ポルジュ)
マサラチャイ
代表的な香水
ライスノート+マサラティーノート+サンダルウッド
・32 ヴェネナム(Venenum 32、ラルチザン、2016、ダフネ・ブジェ)
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