Neydo(ネイド)― 夢が香りになるとき

ネイドの世界観と香水「Where Love Belongs 22.07」を表現したブランドイメージ ブランド創業者

「夢と香水は、同じ布から織られている。ネイドは、この二つの世界に橋を架け、アイデンティティを明らかにし、未知の領域へと旅する。」

— ネイド旧公式マニフェストより

基本情報

設立年: 2024年
ブランドオーナー: White Space Brand Lab(ホワイト・スペース・ブランド・ラボ) / 現行サイト運営:White Space Brand Lab L.L.C-FZ(ホワイト・スペース・ブランド・ラボ、ドバイ法人)
オーナー兼マネージングディレクター: Alexandra de Montfort(アレクサンドラ・ドゥ・モンフォール)
公式サイト: https://neydo.cloud
公式Instagram(インスタグラム): @neydo.perfume

補足: 設立国や運営拠点の紹介は資料によって異なる。スイス(ツーク)のホワイト・スペース・ブランド・ラボの法人情報に基づき「スイスブランド」と紹介する資料がある一方、日本の公式プレスリリースは「フランスで創業」と記している。また、旧サイトに関連して挙げられたNez commerce(ネ・コマース)の情報とは別に、現行公式サイトの利用規約はドバイのWhite Space Brand Lab L.L.C-FZ(ホワイト・スペース・ブランド・ラボ)を運営会社として明記する。創業地、法人所在地、流通上の紹介を同一視せず、本稿では国内公式の「フランス創業」と現行運営会社の「ドバイ所在」を、それぞれの出典に沿って扱う。

創設者・ブランドの成り立ち

Alexandra de Montfort(アレクサンドラ・ドゥ・モンフォール)という人物

ネイドを生み出したのは、アレクサンドラ・ドゥ・モンフォールという女性である。彼女がかつて創業したコスメティクスブランド「ルージュ・バニー・ルージュ(Rouge Bunny Rouge)」での経歴は、ニッチビューティー業界において広く知られている。

アレクサンドラはかつて、こんな言葉を残している。

「私は今や”存在しない国”で育った女性です――ユーゴスラビア。この事実には、私が自分の仕事に織り込んでいる、内在的な郷愁と感傷がある。」

ユーゴスラビアで育ち、ロンドンへと移り住んだアレクサンドラは、1992年に資生堂の「フェミニテ・デュ・ボワ」に出会い、香水という表現媒体に魅了されたと語っている。彼女にとってその香りは「単なるフレグランスではなく、問いを投げかけ、挑戦し、鼓舞するもの」として映った。その体験こそが、概念をリキッドフォームで届けることが可能だという確信を与えたのだという。

2005年、彼女はロンドンを拠点にルージュ・バニー・ルージュを設立。ヴィクトリア時代のフェアリーテールやオルタナティブな世界への憧憬を美と香りに落とし込んだこのブランドは、ニッチコスメティクス界に独自の世界観をもたらし、彼女は約10年にわたってその展開に携わった。

「フレグランスとビューティーはアートです。自分を表現し、自分だけのシグネチャーを作り、個性的な美を輝かせること。それは日常のルーティンではなく、現実世界の魔法なのです。」

ルージュ・バニー・ルージュを2015年に離れた後、アレクサンドラはフリーランスのコンサルタントとしてビューティー業界に関わり続けた。そして2021年以降、彼女は中東(アラブ首長国連邦・ドバイ)を拠点にWSBL(ダブリューエスビーエル/White Space Brand Lab、ホワイト・スペース・ブランド・ラボ)を率い、2024年春には新たなニッチフレグランスブランドとしてネイドを発表した。

アイデアの起点――「嗅覚の夢」という現象

ネイドが着想源としたのは、「オルファクトリードリーム(嗅覚の夢)」と呼ばれる稀有な現象である。一般的に、夢の中で視覚や聴覚の体験は広く報告されているが、夢の中で実際に香りを感じる人は少数に限られる。1998年の研究では、回収された3,372件の夢の記録のうち、嗅覚・味覚の体験が含まれていたのはわずか約1%だったことが確認されている。

しかし、夢の中で香りを感じた体験者たちは、その感覚が現実よりもはるかに強烈で、独自の感情を伴うものだと表現する。ネイドの旧マニフェストでは、この感覚を次のような言葉で表現していた。

「嗅覚の夢を体験する人々は、現実の十倍もの強烈な感覚と、めったに味わえない感情を宿すと語る。香りの世界にことさら注意を向け、その感覚のネットワークとつながっている人こそが、香りとともにより大きく、より強い夢を見るチャンスを持つ。」

ネイドのウェブサイトは、この嗅覚と夢の関係について、科学的な知見を紹介するコンテンツも発信してきており、ブランドの知的な土台を形成している。

ブランドの誕生

ネイドは、この「オルファクトリードリーマー(嗅覚の夢を見る人)」たちの夢の物語を公募し、その体験を香りに変えるというコンセプトのもとに誕生した。

調香師は「ドリームキャッチャー(夢を捕まえる者)」として再定義された。彼らは夢の語り手が描く非言語的で内面的な世界を、香りという形式に翻訳する役割を担う。そして2024年、最初のコレクション6作品が発表された。

ブランド名「Neydo(ネイド)」は、ネパール・カトマンズ渓谷に実在する仏教僧院の名に由来する。ロシア語の紹介記事によれば、チベット語でネイドは「中道の幸福な住処(счастливая обитель срединного пути)」を意味するとされている。沈黙の誓いを守ることで心を静め、言葉に深みを与えようとする修道僧のように、ネイドは言葉にならない美や真実を香りで表現することを目指している。

ブランドのこだわり

香りづくりの哲学

ネイドにとって、香りの着想源は流行でも美的トレンドでもなく、人間の「潜在意識」である。夢は感情を揺さぶると同時に、言葉では捉えにくい抽象的なもの。そのため、ネイドは一般的なフレグランスのようにノート(香調)の構成をメインで説明するのではなく、五感を喚起する文体で夢の物語を提示する。その香りを手に取った人が、言語を超えた感覚体験に誘われるよう設計されているのだ。

夢の公募は今もオープンに続いており、国内の発売案内では「story@olfactory-dreamers.com」宛てに誰でも自分のオルファクトリードリームの体験を送れると紹介されていた。現在の公式サイトにも夢を共有するためのページが用意されている。選ばれた夢が次の香水の着想源となりうる、参加型のクリエイティブプロセスが根付いている。

ボトルとパッケージ:モールス信号という橋

パッケージデザインの核に据えられているのは、「モールス信号」というモチーフだ。音だけで通じ合えるモールス信号が、夢の世界(カラー)と現実世界(グレー)をつなぐビジュアルの橋として機能している。ボトルに刻まれたドットの模様はモールス信号で「夢」を、ボトルに付された番号は夢を見た「日付」をそれぞれ示している。シンプルながら存在感のあるデザインの中に、コンセプトの核心が静かに宿っている。

ヴィーガン・クルエルティフリー

全作品がジェンダーレスに設計され、ヴィーガンかつクルエルティフリー(動物実験不使用)を謳っている。素材や処方に対する誠実さも、ブランドのアイデンティティの一部となっている。

参加している調香師たち

ネイドの香りは、複数の実力ある調香師によって手がけられている。

  • ベルトラン・ドゥショフール(Bertrand Duchaufour):フランス出身の独立系調香師で、ラルチザン パフューム、ペンハリガン、コム・デ・ギャルソンなど多くの名門ブランドに作品を提供してきた実力者。ネイドではウッド・ヘイズ(Wood Haze)、モスランド(Mossland)、ブロンド・レッドヘッド(Blond Redhead)などを担当。
  • ジュリア・ロドリゲス・パストル(Julia Rodriguez Pastor):ベリー・クレイビング(Berry Craving)、ウェア・ラブ・ビロングズ(Where Love Belongs)などを担当。
  • モード・シャベニ(Maud Chabanis):ファー・ベリー・ファー(Far Very Far)などを担当。
  • ジョエル・レリュー・パトリ(Joëlle Lerioux Patris):ファイアリー・フィグ(Fiery Fig)を担当。
  • ソワジック・ボークール(Soizic Beaucourt):ユーロフラグランスのシニア・パルファムールで、ブリーズ・アウト(Breathe Out)を担当。「この創作では、夢の中の対比――凍てつく大気の純粋さ、間欠泉のミネラルの蒸気、スパイシーな飲み物の温かさ――を反映させたかった」と語っている。

香水ラインナップ

ネイドの香水はすべて、実在する人物が見た夢の体験を着想源としており、作品の紹介にはその夢を見た人物の名前が添えられ、香水名には日付が冠されている。2024年時点での最初のコレクションは6作品、その後も継続的に作品が追加されており、2025年秋時点では少なくとも12作品が展開されている。

最初のコレクション(2024年)

香水名夢の主香調傾向調香師
ベリー・クレイビング 23.06アリスフルーティ・フローラルジュリア・ロドリゲス・パストル
ウェア・ラブ・ビロングズ 22.07アンドレアフローラル・ウッディジュリア・ロドリゲス・パストル
ファー・ベリー・ファー 18.08ポールフレッシュ・マリンモード・シャベニ
モスランド 12.09ロベルトウッディ・スパイシーベルトラン・ドゥショフール
ウッド・ヘイズ 01.11セリンウッディ・アンバーベルトラン・ドゥショフール
ブロンド・レッドヘッド 16.11アントワーヌグルマン・フルーティベルトラン・ドゥショフール

後続の作品群(2024〜2025年)

ブリーズ・アウト 01.02は、スノーボーダーが山で転倒し、雪の中の洞窟で超現実的な旅に迷い込む夢を題材にしている。ソワジック・ボークールが創作し、ソルティ、エレミ、マリン、ダヴァナをトップに、ムスクとサンダルウッドのベースへと落ち着く、ジェンダーレスのスパイシー・マリン系作品だ。

エイリアン・フルーツ 30.03は、フランチェスカが見た「エキゾチックなフルーツが実るリゾート」の夢から生まれ、ゆず、ザクロ、グアバなどのノートが弾けるフルーティ系。ドゥショフールが手がけている。

ファイアリー・フィグ 24.05は、イチジクの木陰でフラメンコの音楽が流れる夢、フラメンコが生む官能的な夏の恋を描いた、グリーン・フルーティ系。ジョエル・レリュー・パトリの作品。

クラウド・エッセンス 28.08、チェイシング・ライト 19.10、パルセーション 11.07は2025年に追加された新作3作品で、それぞれ「パステルの空と甘い光の森の夢」「届かない何かを追い求める夢」「リズムと欲望に満ちた夜の夢」をテーマとしている。

作品はオードパルファン(EDP/イーディーピー)で、50mlが中心。公式サイトでは50mlを86ユーロで案内している。日本では2025年9月12日にノーズショップ高輪で先行発売され、同年11月28日には複数店舗およびオンラインストアへ展開。国内発売時の価格は50ml 16,500円(税込)だった。

ちなみに……

2024年3月に開催された「パリ・パルファム・ウィーク(Paris Perfume Week)」の初回に出展し、ニッチフレグランスメディアのレビュアーに「最も新しく、最も興味深い発見」と評された。特にドゥショフールが手がけたウッド・ヘイズについては、「パロ・サントとサンダルウッドにスパイスとシプレのヒントを巧みに組み合わせ、まろやかで神秘的な木の光輪をまとっている」と評された。

ネイドのウェブサイトは単なる香水の販売ページにとどまらず、「夢と香りの関係」を探求する読み物として機能している。嗅覚の夢の科学的研究、夢をテーマにした絵画の考察、チベット仏教のヨガ・オブ・スリープ(夢のヨガ)といった多様なコンテンツが発信されてきており、ブランドの世界観を立体的に支えている。

アーティストのベルナルド・フレミング(Bernardo Fleming)は、2021年にロサンゼルスのアート&オルファクションインスティテュートで「Dreaming in Smell(ドリーミング・イン・スメル)」という嗅覚体験インスタレーションを発表した人物で、ネイドが旧ウェブサイト上でインタビューを紹介していた注目のアーティストのひとりだ。このような外部のアーティストや思想家との対話も、ブランドの「探究者」としての姿勢を示している。

参考文献