ブレンダーグラフィ(BLNDRGRPHY)ー 纏うカクテル

ブランド創業者

ブレンドするということは、今の時代、私たち皆が混ざり合っているということ。肌の色も、あなたも、私も、すべてが含まれているのです。

── ヒョン・ユ(Hyun Yeu/BLNDRGRPHY 創設者)[1]

基本情報

  • 設立:2024年(2024年12月15日ローンチ)
  • 創設者:ヒョン・ユ(Hyun Yeu)
  • 本拠地:オランダ・アムステルダム(香水の充填・瓶詰めはフランス・グラース)
  • コンセプト:OLFACTIVE MIXOLOGY(オルファクティブ・ミクソロジー=香りのミクソロジー)
  • 公式サイトblndrgrphy.com
  • 公式Instagram@blndrgrphy

創設者・ブランドの成り立ち

ブレンダーグラフィ(BLNDRGRPHY)を率いるヒョン・ユ(Hyun Yeu)は、韓国出身でアムステルダムを拠点とするデザイナー/コンセプトビルダー/アートディレクターである[2]。アムステルダム中心部の9丁目(9 Streets)エリアに、韓国コスメを扱うコンセプトストア「ラボラトリーK(Laboratory K)」を構え、ヨーロッパの生活者に向けて韓国由来の感性を翻訳し続けてきた人物でもある[3]。

香水への本格的な歩みは、2021年前後に立ち上げたメンズフレグランス・ブランド「ハンク(HUNQ AMSTERDAM)」から始まる[4]。男性の究極の香りとは何かを探り、それを一本の瓶に封じ込めるというテーマを掲げ、「私たちはある種の男性に惹かれ、彼らの香りを想像する。すべては化学反応なのだ」という問いかけを出発点に据えた[5]。ハンクは2022年にはフィレンツェのピッティ・フレグランツェにも出展し、ヒョン自身がアートディレクターとしてステージに立った[6]。

デザインとコンセプトの仕事を重ねるなかで、ヒョンは次第にもうひとつの欲求を抱えるようになる。香水を「男性の元型を追う旅」としてではなく、「人と人が混ざり合い、ひとときを分かち合う瞬間」として再定義できないか──そうして2024年12月15日、二つ目のブランドとしてブレンダーグラフィが立ち上げられた[1]。翌2025年2月にはミラノのエスサンス(Esxence)に出展し、アジアとヨーロッパを横断する新進ニッチ・ブランドとして、世界のバイヤーやジャーナリストの前に姿を現した[7]。

カクテルを囲んで素敵な時間を過ごす。そういうライフスタイルに、すべての人を招き入れたかった。それが、このブランドの出発点です。

── ヒョン・ユ(BLNDRGRPHY 創設者)[1]

ブランド名の「BLNDRGRPHY」は、BLENDER(ブレンダー)とGRAPHY(グラフィー=記述・表現)をひとつに結んだ造語である[8]。香りを「ブレンドする」行為と、それを「記述し、物語にする」行為が、ひとつの単語のなかで重ね合わされている。

ブランドのこだわり

ブランドが掲げるコンセプトは、OLFACTIVE MIXOLOGY(オルファクティブ・ミクソロジー)──「香りのミクソロジー」である[8]。バーテンダーが素材を選び、分解し、再構築してカクテルを仕立てるのと同じように、ヒョンは感情・場所・人と人のつながりを解体し、香りとして再び組み立てる。コレクションの一本一本は、特定のカクテルを出発点にしつつも、その飲み物自体を再現することが目的ではない。むしろ、そのカクテルがかたわらに存在していた夜、対話、記憶を香りとして立ち上げることを目指している[8]。

伝統的な香水の枠を超え、香り、視覚、そして記憶を混ぜ合わせ、香水を生きた芸術作品へと変容させる。コレクションのすべての香りは、ユニークな瞬間の本質を捉えるカクテルから着想を得た、感情と場所とつながりのブレンドである。

── BLNDRGRPHY公式ブランドストーリーより[8]

ブランド名に込められた「ブレンド」の思想は、ボトルとパッケージにも貫かれている。外装には、コンクリート、木、ガラス、金属、プラスチック、紙という6種類の素材が意図的に混ぜ込まれ、ひとつの箱として仕立てられている。ヒョン自身がこれを「ブレンドグラフィ」と呼び、素材の混在を、現代に生きる私たちが国籍や肌の色を越えて混ざり合っていることの比喩として位置づけている[1]。
100mlのフルボトルは、そのまま使えるステンレス製カクテルシェーカーの内箱に収められており、開封の瞬間から、カクテルバーのカウンターに腰かけたような体験が始まる[9]。

ブランド全体を通じた調香の方針は一貫している。5本ともエクストレ・ド・パルファン(Extrait de Parfum)の濃度で設計され、瓶詰めはフランスのグラースで行われる[10]。調香はフランス人調香師を中心に複数名によるチーム体制が採られており、カミーユ・シュマルダン(Camille Chemardin)、アンヌ=ソフィー・ベアゲル(Anne-Sophie Behaghel)、ポーリーヌ・ジェグース(Pauline Jegousse)、マルゴー・ル・パイ・ゲラン(Margaux Le Paih Guérin)といった欧州の第一線で活躍する作り手が、各作品を手がけている[9]。直線的でわかりやすい香りではなく、時間とともに表情を変えていく「トランジショナル」な構成が共通する特徴である[1]。

退屈なものは作らない。

── ヒョン・ユ(BLNDRGRPHY 創設者)[1]

香水ラインナップ

ファースト・コレクションは、5本のカクテルを起点とするエクストレ・ド・パルファンで構成されている。すべて100mlのフルボトルにはステンレス製シェーカーの外箱が付属する[9]。

01. ジャスミン・マティーニ(Jasmin Martini)

調香:カミーユ・シュマルダン(Camille Chemardin)[9]

ドライ・マティーニの緊張感と、ジャスミンの艶を一杯のグラスに注いだ香りである。ジュニパー・ベリー、ジン、グレープフルーツ、レモン、ピンクベリーが鋭く立ち上がり、オリーブとワイン・リーズ(ワインの澱)がわずかな塩気と官能的な濁りを加える。その奥からジャスミンが優雅に開き、ベースのISO E Super、アンブロキサン、レザーが余韻を引き延ばす[9]。ヒョンは、オリーブジュースの塩気を「水のようなアクアティックな感覚」へと翻訳し、クリーンな香りの一本でありながら「ダーティ・マティーニ」の名に恥じない奥行きを与えていると語る[1]。フローラル、アクアティック、そして少しブージー──マティーニを前にしたときのあの張り詰めた一瞬が、そのまま肌に移される。

02. パチュリ・モヒート(Patchouli Mojito)

トップにレモン、ユーカリ、ミント、ライムが勢いよくほどけ、ハートにはシダーウッド、カシュメラン、サンダルウッド、パチュリ、そして砂糖の甘い含みが重なる。ベースにはISO E Super、アンブロキサン、ホワイトラムが沈み、冷えたグラスに注がれたモヒートが、肌の上で少しずつ温度を取り戻していくような印象を残す[11]。パチュリを土っぽさではなく、ミントやユーカリとともに「涼しさ」の一部として扱う点が特徴で、爽快さと落ち着きが交互に押し寄せる[1]。

パチュリは、ここではより軽やかで甘やかなアプローチです。重すぎず、土っぽすぎず、ヒッピーでもない。

── ヒョン・ユ(BLNDRGRPHY 創設者)[1]

03. バニラ・マッドスライド(Vanilla Mudslide)

調香:アンヌ=ソフィー・ベアゲル(Anne-Sophie Behaghel)[9]

90年代に人気を博した、チョコレート、ラム、クリーム、コーヒーのカクテル「マッドスライド」を、現代の香りとして蘇らせる一本である。甘苦いアーモンド、バターノート、ココナッツミルク、ココア、コーヒー、ヴォッカ、ダヴァナが重なり、ベースにはISO E Super、アンブロキサン、ホワイトムスクが沈む[9]。バニラ系の香水が「お菓子のような甘さ」に寄りがちであるのに対し、この一本は「食べ物のようになってはいけない、あくまで香水であること」をヒョンが強く意識して仕立てた作品である[1]。

バニラの美しい香水は数多くあります。でも私は、これを「あなた、バナナみたいな匂いがする」と言われるような香りではなく、あくまで香水として完成させたかったのです。

── ヒョン・ユ(BLNDRGRPHY 創設者)[1]

04. アンバー・ネグローニ(Amber Negroni)

調香:ポーリーヌ・ジェグース(Pauline Jegousse)[9]

ネグローニの苦味と甘さを、オレンジの合唱として描いた香りである。スイートオレンジ、ビターオレンジ、そしてマンドラ(マンドラ種の柑橘)やタンジェリンが「互いに主役の座を争うように」立ち上がり、ハートのラテ・チョコレート、ヘリオトロープ、キャラメル、ヴァニラがその争いを静かにまとめる。ベースにはジン、ヴェルモット、ピリピリ(アフリカ系のチリ)、ISO E Super、アンブロキサンが潜み、ガストロノミックでありながら香水としての輪郭を崩さない[9]。

色々なオレンジが、互いに注目を奪い合うように暴れまわっています。だから私はチョコレートとキャラメルで、彼らをそっと抑え込み、香水へと引き戻したのです。

── ヒョン・ユ(BLNDRGRPHY 創設者)[1]

05. サンタル・ペインキラー(Santal Painkiller)

調香:マルゴー・ル・パイ・ゲラン(Margaux Le Paih Guérin)[9]

カリブのリゾートバーで愛飲される「ペインキラー」(パイナップル、ココナッツ、ラムを使うトロピカル・カクテル)を、より上質に翻訳した一本である。パイナップル、ココナッツ、ラムが描く南国の輪郭に、カルダモン、ナツメグ、シナモンといったスパイスが陰影を与え、プラム、スモーク・ウッド(カデ)、サンダルウッド、ISO E Super、アンブロキサンがベースで静かに揺らぐ[9]。

ペインキラーとは、ハイエンドなホテルのバーでピナ・コラーダの代わりに頼む、もう一段階上等な一杯のこと。同じプロファイルを、より官能的な形で香水に仕立てました。

── ヒョン・ユ(BLNDRGRPHY 創設者)[1]

ちなみに

ブランド名の「BLNDRGRPHY」は、母音を抜き去った独特の綴りで知られる。発音は「ブレンダーグラフィ」であり、読み解くと「BLENDER+GRAPHY」=「混ぜる者+記述」の結合である[8]。
また、創設者のヒョン・ユは本ブランドと並行して、メンズ・ニッチ香水ブランド「ハンク(HUNQ AMSTERDAM)」と、アムステルダムの韓国コスメ・コンセプトストア「ラボラトリーK(Laboratory K)」を率いており、ブレンダーグラフィは彼にとって三つ目の自立したブランドにあたる[2][3][4]。
香水は、この「混ぜる」「デザインする」「物語を紡ぐ」という三つの動作を、最も凝縮した形で肌に届ける装置として位置づけられている。

[1] Marcelena Theresa「Milan Interview With BLNDRGRPHY Founder HUYN | BEST 2025 BOOZY PERFUME」YouTube, 2025年4月10日. リンク

[2] HYUN YEU 公式Instagram. リンク

[3] hyun yeu LinkedIn プロフィール(Founder at Laboratory K / Founder at HUNQ AMSTERDAM, Amsterdam). リンク

[4] HUNQ AMSTERDAM 公式Instagramおよびブランド公式情報(Founded and created by Korean designer Hyun Yeu). リンク

[5] HUNQ AMSTERDAM「WHO WE ARE」公式ページ. リンク

[6] Pitti Fragranze 公式チャンネル「Fragranze 2022: Hyun Yeu and news from HUNQ」YouTube, 2022年9月18日. リンク

[7] BLNDRGRPHY関連レビュー記事「WHAT’S HOT in BLNDRGRPHY FRAGRANCES @ESXENCE 2025?」YouTube, 2025年3月9日. リンク

[8] BLNDRGRPHY 公式サイト「STORY」. リンク

[9] BLNDRGRPHY 全ラインナップ解説動画(調香師および香調情報)YouTube, 2025年3月. リンク

[10] BLNDRGRPHY 製品表記(Extrait de Parfum 100ml | Made in France). リンク

[11] BLNDRGRPHY「PATCHOULI MOJITO」公式製品ページ. リンク