IFF(アイ・エフ・エフ)|イソEスーパーを生んだ、現代香水の立役者

IFFを題材にした編集イラスト。イソEスーパーを生んだ、現代香水の立役者。本社:アメリカ。

香水には、実にさまざまな感受性を呼び覚ます力を持つ、無限の組み合わせがあります。

ドミニク・ロピオン — IFFによるフレグランス・ファウンデーション受賞発表、2019年6月5日

香水の一本には、花を育てる人、原料を取り出す人、新しい分子をつくる人、そしてそれらを組み合わせる調香師の仕事が重なっている。IFFは、そのいくつもの仕事をつなぐ香料会社である。合成香料の研究と、グラースの天然香料部門LMR。異なる方法で生まれた素材が、調香師の手元で同じ創作の道具になる。

その背景をたどると、オランダの果実エッセンス会社と、米国の香水・日用品の香りを扱う会社の合併がある。そして、天然香料の純度と透明性を追求した一人の女性、モニーク・レミーの歩みが加わる。IFFを知ることは、香水ブランドの名前だけでは見えにくい、素材が作品へ届くまでの過程を知ることである。

基本情報と現在のIFF

  • 正式名称:International Flavors & Fragrances Inc.
  • 略称:IFF(アイ・エフ・エフ)
  • IFFの成立:1958年、ポラック&シュワルツとヴァン・アメリンゲン=ヘーブラーの合併
  • 拠点:米国。主要経営拠点はニューヨークとデラウェア州ウィルミントン
  • 天然香料部門:LMR Naturals by IFF。1983年にモニーク・レミーが創設、2000年にIFFが取得
  • 公式サイト:IFF

IFFはニューヨーク証券取引所に上場する米国の会社である。現在、継続事業の中心に置くのは、食品の香味を扱う「Taste」、香水や日用品の香りと香料を扱う「Scent」、酵素・培養菌・健康関連素材などの「Health & Biosciences」の三分野である。

2026年5月には食品原料事業の売却契約を発表し、同年8月の発表では、取引完了を2027年第2四半期末までに見込んでいる。香水と関係が深いScentは、香りの処方をつくる仕事と、天然・合成の香料を開発・供給する仕事を担う。LMRはその中で、植物の産地、栽培、抽出、精製を調香の現場へ結ぶ役割を果たしている。

主な歩み

  • 1889年 — ヨーゼフ・ポラックとレオポルト・シュワルツがオランダでPolak & Schwarzを創業。果実のフレーバーやエッセンスを扱う。
  • 1917年 — アーノルド・ルイス・ヴァン・アメリンゲンが米国へ渡る。のちに独自の香料事業を築く。
  • 1958年 — Polak & Schwarzとvan Ameringen-Haeblerが合併し、International Flavors & Fragrances(IFF)が誕生。
  • 1973–1975年 — 1973年に特許化されたIso Cyclemone Eが、後のイソEスーパーへつながる。1975年の「ホルストン」は、この原料の表現力を示す作品となる。
  • 1982年 — イェール大学と、香りが人の感情に及ぼす影響を研究するアロマ・サイエンスに取り組む。
  • 1983年 — モニーク・レミーがグラースでLMRを創設。純粋で質の高い天然香料を目指す。
  • 1985年 — 生きた花が放つ香気成分を捉えて分析し、再構成につなげるリビングフラワー技術を開発。ブラジャ・ムカジーらの研究から生まれる。
  • 1987年 — 後にIFFに加わる香料会社Fragrance Resourcesが創業。
  • 1998年 — スペースシャトルSTS-95でバラの香気成分を調べる実験を行う。
  • 2000年 — LMRを取得。11月にはBush Boake Allenも取得し、天然香料と香味・香りの事業基盤を広げる。
  • 2015年 — 5月1日、米国のフレーバー会社オッテンスの取得を完了。
  • 2016年 — ISIPCAとの共同課程Scent Design & Creationが始まる。
  • 2017年 — 1月17日、Fragrance Resourcesの取得を完了。社内の管理職教育・技術教育・専門技能研修をまとめるIFF Universityも始動する。
  • 2018年 — 10月4日、フルタロムの取得を完了。
  • 2021年 — 2月1日、デュポンのNutrition & Biosciences事業との統合が完了。食品素材や酵素などへ事業の幅が広がる。
  • 2025年 — 5月1日、Pharma Solutions事業の売却が完了。
  • 2026年 — 5月28日、LMRがグラースに栽培・原料研究の実験農地を開設。翌29日、IFFはFood Ingredients事業をCVC傘下のファンドへ売却する契約を発表。8月の発表では、完了を2027年第2四半期末までと見込んでいる。

果実のエッセンスと日用品の香りから生まれた会社

1889年の前身企業と、1958年の合併

IFFの歴史の一つの出発点は、1889年にオランダでヨーゼフ・ポラックとレオポルト・シュワルツが始めたポラック&シュワルツ(Polak & Schwarz)である。果実の香味や精油を扱うこの会社は、食品の味と香りを届ける仕事を広げていった。

同社で働いたアーノルド・ルイス・ヴァン・アメリンゲン(Arnold Louis van Ameringen)は、1917年に米国での事業に携わり、その後、自分の会社を立ち上げる。彼が1920年代に働きかけた相手には、石けんのメーカーもあった。日用品へ香りを添えることは、香料会社が人々の暮らしへ入り込む一つの入り口であった。

香味を得意としたポラック&シュワルツと、香りを中心に展開したヴァン・アメリンゲン=ヘーブラー(van Ameringen-Haebler)が、1958年に合併してIFFとなる。食べるものと、身に纏い暮らしの中で使うもの。その両方を扱う現在の会社には、この成り立ちがつながっている。

香味・栄養・バイオ分野へ広がった事業

2018年10月4日にはフルタロムの取得を完了し、2021年2月1日にはデュポンのNutrition & Biosciences事業との統合が完了した。栄養・バイオサイエンスの事業が加わり、香味や香りに加え、食品の機能や発酵、健康関連の素材を扱う幅が広がった。

その後は事業の整理も進み、Pharma Solutions事業は2025年5月1日に売却を完了した。食品原料事業の売却契約も、その流れにある。規模の拡大だけでなく、どの分野へ力を注ぐかを選び直すことが、現在のIFFの形をつくっている。

モニーク・レミーが築いたLMRの天然香料

分析の仕事から、純度と透明性を追う独立へ

モニーク・レミー(Monique Rémy)は、製薬分野の化学分析から仕事を始め、パリのユニリーバ研究所を経て、グラースの原料会社ベルトラン・フレールへ移った。ここでは、成分を分けて調べる分析設備を整えた。

その後、カミリ・アルベール&ラルーで技術責任者を務めた彼女は、原料と、その加工の方法に経験を積んでいく。天然香料の品質が低下していく状況に向き合い、純度を守ることを仕事の中心に置いた。1983年、グラースに設立したラボラトワール・モニーク・レミー(Laboratoire Monique Rémy)が、LMRである。

最初の顧客はシャネルで、ジャスミン、オレンジの花、バラのアブソリュートを供給した。アブソリュートは、植物から取り出した香気成分をさらに精製して得る天然香料である。何が入っているかを明らかにし、素材そのものの品質で調香師の信頼を得る。それがLMRの出発点となった。

レミーは産地へ直接向かい、農家と長期契約を結んだ。長く買い続ける見通しがあれば、生産者は香料植物の栽培を続けやすくなる。原料を安定して確保することと、産地の仕事を支えることは、別々の問題ではなかった。LMRは収穫や加工の研究にも投資し、アイリスなどの栽培と収穫方法を改善していった。

オーブラックの抽出工場と、2000年のIFF傘下入り

1984年、LMRはフランスのオーモン=オーブラックにある小さな抽出工場SADEVと協力を始め、1997年に同社を取得した。この土地のナルシスやジョンキーユ、樹木の苔を扱う拠点は、素材を取り出す技術を試す場所にもなった。

2000年にはIFFがLMRを取得した。レミーはすぐに離れず、約三年にわたり移行を支えた。天然香料を求めたのは、IFFの調香師たちでもあった。優れた合成香料に加えて、レミーの素材で創作の道具を広げたいという願いが、両社の接点になったのである。

LMRはIFFの研究・資金・調達網を使いながら、天然香料の専門性と、生産者との長期的な関係を育ててきた。2025年にはグラースの拠点を拡張し、2026年5月には実験圃場「Domaine des Naturels LMR」を開設した。植物を育てる段階から香りを調べ、知識を調香師やパートナーへ伝える場所である。

その知識を読む形で伝える仕事が、Nezとの「Nez+LMR — The Naturals Notebook」シリーズである。産地から加工、文化、調香へと、一つの素材を多くの角度からたどる。天然香料を原料名だけで覚えるのではなく、その背後の人と技術を知るための本となっている。

産地と抽出の選択が、作品の香りを変える

ロゼールのナルシスを、オーブラックとグラースで仕上げる

ナルシスは、LMRが長く関わってきた素材の一つである。フランス・ロゼールでは土地の所有者との長期契約を通じて、収穫方法を改善し、花がどこから来たかを追える関係を築いてきた。

収穫した花はオーモン=オーブラックの施設へ直接運び、溶剤で香気成分などを取り出して、コンクリートと呼ばれる抽出物にする。それをグラースでアルコールを使って精製し、アブソリュートへ仕上げる。花のある土地で最初の加工を行い、グラースの精製技術へつなぐ工程である。

LMRはこのナルシスを、干し草や蜂蜜の側面を持つ、緑の濃厚な花の香りと説明している。白い花という見た目だけから想像する香りとは、異なる手がかりがある。植物のどの部分を、どの方法で取り出すかまで見ると、天然香料の名前が少し具体的になる。

調香師の依頼に応じて選び出す「ハート」の香り

天然の抽出物にも、香りの複数の側面がある。たとえば、パチョリの木のような部分を生かしながら、土を思わせる部分を控えたいという依頼がある。LMRは成分を調べ、必要な香りのまとまりを選び出す。分子蒸留や分画は、こうした選択を支える技術である。

私たちは調香師の依頼に応じてこれを使っています。時には、特別な素材が必要になるのです。

ベルトラン・ド・プレヴィル — セルゲイ・ボリソフによるLMRの技術と天然香料についての取材、Fragrantica

分子蒸留は低い圧力のもとで成分を分ける方法であり、分画は成分をいくつかのまとまりに分離する操作である。取り出す部分を変えれば、同じ植物からでも異なる表現の道具が得られる。2026年に発表した「ゼラニウム ハート エジプト」は、一般的なミントの側面を伴わず、果実のライチを思わせる特徴を持つ素材として設計された。

これらの素材には学び直しが必要です。処方のバランスを取り直さなければなりません。

ベルトラン・ド・プレヴィル、LMRゼネラルマネージャー — The Fragrance Foundation France、2025年10月6日

新しい素材は、以前の原料と同じ量を入れれば済むものではない。抽出や精製によって香りの焦点が変われば、周囲の素材との関係も変わる。素材をつくる側と、それを使う調香師の対話が必要になる。

ロピオンがLMRの原料で描いた、キスの直前の感覚

ドミニク・ロピオン(Dominique Ropion)は2000年にIFFへ入り、2018年に同社のマスターパフューマーとなった。彼がドルセーの「シュール テ レーヴル E.Q.(Sur tes lèvres. E.Q.)」で描こうとしたのは、自分の唇を相手に委ねる感覚である。

キスの直前の震えるような瞬間を表すために、ロピオンはLMRのピンクペッパーとアンブレットを使った。前者の爽やかで少しレモンを思わせる香りと、後者の温かくパウダリーな側面を対比させたのである。素材の品質だけでなく、二つの違いが題材を表す役割を与えられている。

中心にはアイリスとジャスミンを置いた。ジャスミンの動物的な勢いを、アイリスの絹のような粉っぽさで包む。アイリスではコンクリートとレジノイドという二種類の抽出物を選び、前者で口紅を思わせる繊細さを、後者で少しチョコレートを思わせる感覚を添えた。原料名を並べるだけでは見えない、抽出物ごとの使い分けがある。

2019年のフレグランス・ファウンデーション授賞式のためにつくった「フルール ダン ソワール(Fleurs d’un Soir)」でも、ロピオンはLMR由来のアイリス、バラ、ジャスミンを用いた。素材を研究し、生産者と関係を築く仕事は、こうして一つの場面や感情を表す香りへ届く。

合成香料と、生きた花の香りを捉える研究

ホルストンの香りを支えた新しいウッディ素材

LMRの天然香料と並んで、IFFの研究が広げてきたのが合成香料の道具である。その一例が、1973年に特許を取得したイソ・サイクルモンEと、そこから改良されたイソイースーパー(Iso E Super)である。

1975年の香水「ホルストン」の制作では、IFFのベルナール・シャンとマックス・ガヴァリーが、この新しい素材を使ったウッディ・シプレの構成に取り組んだ。シプレとは、柑橘と花、苔や木などの組み合わせを軸とする香りの系統である。ガヴァリーが示した試作では、従来のメチルイオノンが担うスミレと木の効果を、新しい素材で置き換えていた。

あれほど少ない量でも、花の香り全体を引き立て、違いを生む個性と、その香水らしい特徴を与えたのです。

ジョン・デニス、当時のIFFホルストン担当者 — マイケル・エドワーズ「American Legends」関連原稿

新しい素材が価値を持つのは、単体の匂いが珍しいからだけではない。他の原料をどう引き立て、香水全体にどのような特徴を与えるか。その関係を見いだすことが、研究の成果を作品へ移す仕事であった。

1998年、宇宙でバラの香りを調べる

生きている花が放つ匂いを捉える研究にも、IFFは取り組んだ。ヘッドスペース法は、花などの周囲に漂う揮発成分を集めて分析し、その匂いを再構成する手がかりを得る方法である。

1998年には小さなバラ「オーバーナイト・センツェーション」をスペースシャトル・ディスカバリーのSTS-95に載せた。ウィスコンシン大学マディソン校の宇宙自動化・ロボティクス研究センターと協力し、微小重力の環境で花の香気成分がどう変わるかを調べたのである。ブラジャ・ムカジー博士らのチームは、飛行中の花が放つ成分を採取し、地上とは異なる香りの構成を見いだした。

この研究から生まれた「スペースローズ」の香りは、当時の資生堂「ZEN」に採用された。花から取り出した天然エキスを使う方法と、生きた花が放つ匂いを分析して香りを組み立てる方法。自然を香水へ移すにも、複数の道がある。

ISIPCAとの提携による調香教育

IFFは、教育を通じても香りの仕事を支えている。2016年にはISIPCAと共同で「Scent Design & Creation」を開始した。原料の識別、処方、香りの評価、顧客の要望を読む力を組み合わせ、調香だけでなく開発や評価などの仕事にもつながる課程である。

学校と会社の提携によるこの課程では、英語で三年間学び、IFFのクリエイティブセンターでの実習や調香師による指導も受ける。応募や現在の募集状況はISIPCAの該当課程で確認できる。調香師を目指す学び方の違いは、LCPの香水・調香師の資格と教育の解説にもまとめている。

畑で育つ植物から、抽出と分析を経て、調香師の試作へ。IFFの仕事をたどると、香水の背後にあるのは、一人の才能だけでも、一つの技術だけでもないことが分かる。素材を知る人と、それで何かを表そうとする人の間を、何度も行き来する仕事なのである。

参考文献

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