「”Diffar”という造語のアイデアは、同じものでも日によって、アプローチによって、受ける印象が異なる——そこから来ています。」
— 有井 誠(Makoto Arii)、ディファー創業者[1]
基本情報
ブランド名: Diffar(ディファー)
設立・ローンチ: 2024年10月(パリにてローンチ)[2]
創設者: 有井 誠(Makoto Arii)[1]
製造・開発拠点: 山梨県南アルプス市、Komons Fragrance Lab.(富士山の麓、南アルプス)[3][4]
公式サイト: https://diffar.jp(日本語)/ https://diffar.net(英語)[5]
創設者・ブランドの成り立ち
南アルプスの子ども時代と「香り」への目覚め
有井 誠は、山梨県南アルプス市で生まれ育った。富士山と南アルプスに挟まれたこの地は農業が盛んで、子どもの頃の有井は農家の手から直接受け取ったばかりの熟した果物の香りを、ごく自然なものとして呼吸していた。[1]
ところが、大学進学のため上京した際、スーパーでプラスチック包装された果物を初めて手にした瞬間、その「香りの欠如」に衝撃を受けた。[1]
「南アルプス市の農業が盛んな場所で生まれ育った私は、農家さんの手から直接受け取ったばかりの完熟の果物の香りをいつも嗅いでいました。大学生として上京したとき、初めてスーパーでプラスチック包装された果物を買い、その香りのなさに衝撃を受けた。そのとき、香りが人の心身に与える影響がいかに大きいかを悟ったんです。」
— 有井 誠[1]
この経験が、のちに香りを軸としたブランド群を生み出す原体験となった。
外資系コンサルから「ものづくり」への転身
大学院を修了後、有井は外資系コンサルティング会社に就職し、日本企業の海外事業進出支援やウェブマーケティング戦略立案に従事した。 しかしある日、エンジニアである兄から「レーザー加工機を一緒に作ろう」と声をかけられ、半ば強引に巻き込まれる形でその製造事業に参加することになった。[4][6]
「『面白いものができたけど、どう売っていいかわからないから手伝って』と言われて、なかば強引に参加することに。おかげさまで1年で20カ国で販売されるまでになったのですが、会社がある程度まわるようになったら『もう大丈夫』と言われ、1年でお役御免になりました(笑)」
— 有井 誠[6]
この経験は、コンサルティングの「見えないユーザーへの戦略」とは異なる、「手触り感のあるものづくり」の面白さを有井に気づかせた。[4]
香りへの接近——Komonsの誕生
ものづくりへの意欲を持った有井が最初に着目したのは、妻が食器用洗剤による手荒れに悩んでいたことだった。市販の製品を国内外から取り寄せても、「ナチュラルなものでも香りがイマイチ」と感じた。 「毎日の家事を、心地よい時間に」というコンセプトで天然香料にこだわったホームケアブランド「Komons(コモンズ)」を立ち上げることを決意したが、香料会社への外注調香では自分のイメージとかけ離れたサンプルしか上がってこなかった。[6]
「これはもう自分でやるしかないと一念発起し、2年近く研究を続けたのち、Komonsを生み出しました。」
— 有井 誠[6]
2017年に会社を創業、約2年後にKomonsをローンチするまでの間、有井は自宅に引きこもって独学で調香を研究し続けた。こうして、自らが調香師でもある稀有な起業家としてのキャリアが始まった。[4]
Diffarへの転換点——「香りの記憶」と旅
Komonsが軌道に乗るにつれ、有井のものづくりへの探求は深まった。嗅覚が人の感情をつかさどる大脳辺縁系に直接作用するという科学的な知見、そして自身が幼い頃に感じていた「産地ならではの香り」——これらが組み合わさり、よりフレグランスに特化したプロダクトを作りたいという動機につながっていった。[6]
有井はDiffarの素材を求めて日本中を旅し、産地ごとに異なる香りの個性を徹底的に調べた。吉野山地のヒノキ、青森のヒバ、高知・四万十の柚子、和歌山の山椒——これらを直接産地から調達し、世界各地の素材と組み合わせることで「Crafted in Japan」という哲学を体現しようとした。[1]
「イランイランは、蒸留開始後最初の15分で抽出されたものは、通常の重く甘い香りとはまったく異なる、驚くほどフレッシュな香りを持ちます。」
— 有井 誠[1]
こうした細部へのこだわりは、有井の自然現象(津波や氷河など)を研究していたという科学的なバックグラウンドに裏づけられた、徹底的に方法論的なアプローチから生まれたものだった。[1]
2024年10月、Diffarはフランス・パリのパレロワイヤルにある「ギャラリー 3m2」——「セルジュ・ルタンス」ストアの隣という、香りの文化的中心地ともいえる場所——でのポップアップをもって、世界に向けてローンチされた。[7][1]
ブランドのこだわり
「ディファー」という名前の意味
ブランド名「Diffar」は、英語の”different”と”far”を組み合わせた造語である。「Different experiences take you far.(異なる経験があなたを遠くへ連れていく)」というコンセプトが込められており、同じ香りでも、日によって、環境によって、受ける印象が変わることを表現している。[1]
製造哲学:「南アルプスのラボ」という選択
Diffarの香りはすべて、有井が2023年に設立した「Komons Fragrance Lab.」で生産される。このラボは、南アルプス市の実家——祖父が50年前にぶどう栽培のために作った小屋と母屋をリノベーションした施設だ。 香料の調達から調合設計・製造・品質管理まで、すべての工程を自社で一貫して行うという体制は、日本のフレグランスブランドとしては非常に珍しい。[4][6]
すべての香料は100%天然素材のエッセンシャルオイルのみを使用。合成香料は一切使わない。1つのディファーの香りには15〜18種類の素材がブレンドされており、その複雑さと洗練は、有井が長年にわたって積み上げてきた研究の結晶といえる。[1]
また、各製品の商品名に付された数字の下3桁は、その香りが完成するまでの試香回数を表している。最もシンプルな「11001 トーキョー バランス」の「001」は一度でピタッと決まったことを意味し、最も試行を重ねた「51823 スパイシー ウッド」の「823」は、823回のサンプル製作を経て完成したことを示している。[8][9]
「スパイシー ウッドは、アガーウッド(伽羅)、サンダルウッド(白檀)、ナツメグ、パチョリ、オークウッドで構成した最も複雑な組み合わせで、サンプルを823回作り直してようやく『これだ!』と言えた。」
— 有井 誠[1]
ヘアオイルとしての機能へのこだわり
ディファーは「香りを纏うヘアオイル」を標榜するだけあり、フレグランスだけでなくケアとしての機能にも力を入れている。アルガンオイル・ホホバオイル・椿オイル・月見草オイル・シアバターなどの植物オイルをベースに、菜種由来のエルカラクトン(キューティクルを補修する成分)や米圧搾オイル(紫外線ダメージを防ぐ)、岐阜県「天空の茶畑」産のチャ種子油(頭皮ケア)を配合している。 テクスチャーはさらっとした軽やかな仕上がりで、スタイリングオイル・ケアオイル・ボディオイル・フレグランスとして使えるマルチユースな設計となっている。[10][3]
東京のヘアサロン「SCENT(セント)」がテクスチャーアドバイザーとして製品開発に協力しており、ヘアスタイリングとフレグランスの両面から品質が担保されている。[1]
ビジュアルアイデンティティ:鮮やかなボトルとD&AD受賞
ディファーの強烈な視覚的個性は、アートディレクター・柴田 賢蔵(けんぞうしばた)によるものだ。 ミニマルなガラスボトルにカラーブロッキングを施したデザインは、伝統的な着物の配色を連想させながら、同時にモダンな造形として成立している。 ロンドンの写真家・野田 雄一郎(Yuichiro Noda)がキャンペーンイメージを担当し、各香りの素材を実際の形で撮影した後、複数素材をレイヤーして1枚のモノクロ画像に合成するという手法で、香りの複雑さと奥行きを視覚的に表現した。[11][1]
このデザインワークは高く評価され、2025年にロンドンの権威あるデザイン賞「D&AD Awards」のPackaging Design部門でウッドペンシルを受賞した。[12][13]
香水ラインナップ
ディファーの第一弾コレクションは全6種。製品名の数字の上2桁はシリーズ番号、下3桁は試香回数を表している。 価格はすべて90ml入りで、6,200円〜11,000円(税込)。[2][8]
| 製品名 | スタイル | コアノート | 価格 |
|---|---|---|---|
| 11001 トーキョー バランス | Urban / Balance | ゼラニウム、ローズ、吉野ヒノキ、サンダルウッド(白檀)、ベチバー | 6,800円 |
| 21612 ウッディ アーシィ | Dark / Grounding | ベチバー、パチョリ、青森ヒバ、吉野ヒノキ、ジュニパーベリー | 6,800円 |
| 31407 ハーバル フローラル | Green / Herbal | ガルバナム、セージ、タイム、アルモワズ、チュベローズ、イランイラン※ | 6,200円 |
| 41504 ジャパニーズ シトラス | Fresh / Japanese | 四万十ゆず、和歌山山椒、吉野ヒノキ | 6,200円 |
| 51823 スパイシー ウッド | Urban / Cool | アガーウッド(伽羅)、サンダルウッド(白檀)、ナツメグ、パチョリ、オークウッド | 11,000円 |
| 61705 フローラル フローラル | Wild / Elegant | ジャスミン、ローズ、ネロリ、オスマンサス(金木犀)、イランイラン、チュベローズ、バニラ | 8,800円 |
※ハーバル フローラルのイランイランは、蒸留開始後15分以内に抽出された精油のみを使用[2][1]
各香りには詩的なコンセプト文が添えられており、たとえばトーキョー バランスには「雨の東京。ゼラニウムの青みとローズの華やかさから、吉野ヒノキ、サンダルウッドの静寂へ」、スパイシー ウッドには「魂は存在する。古来から武士や貴族を陶酔させた伽羅。瞑想の世界へと誘う白檀」という世界観が付されている。[14][8]
スパイシー ウッドがとりわけ高価(11,000円)なのは、アガーウッド(伽羅)をはじめとする希少素材を多用しているためである。[14]
ちなみに…
「Unsungs&Web」という社名に込めた思い:有井が代表を務める会社の名前「アンサングス アンド ウェブ(Unsungs&Web)」の「Unsungs」は、「まだ賞賛されていない、日の目を見ていない」という意味を持つ英語に由来する。日本にはまだフィーチャーされていない良いものが多くある——それを世界のマーケットに届けたいという思いが込められている。[4]
30ブランドを目指すという長期ビジョン:有井は「30個のブランドを作る」という中長期目標を掲げている。年間売上100億円のブランドを1つ作るより、売上3億円の尖ったブランドを30個作る方が建設的だ、という戦略観からだ。ディファーを含む4ブランド(コモンズ、ディファー、YO、フルーテスト)がすべて黒字で運営されているという点も興味深い。[4]
フルーテスト——香りの探求を果物で試みたブランド:ディファーの前身的な位置づけとして、有井は「FRUITEST(フルーテスト)」という半乾燥の完熟果物ブランドも手がけている。上京後に受けた「プラスチック包装された果物の香りのなさ」への衝撃を出発点に、産地で摘みたての完熟果物の香りをできる限りとじ込めた「レア・ドライフルーツ」として展開している。[15][1]
パリ・パレロワイヤルでのローンチ場所:2024年のパリ ローンチに選ばれた場所「ギャラリー 3m2」は、セルジュ・ルタンスの専門店と隣り合うパレロワイヤルの回廊の中にある。 「香りの文化の中心地」ともいえるこの場所でのデビューは、ディファーが日本のみならずグローバルな香水市場を視野に入れたブランドであることを象徴する出来事だった。[7]
- “Diffar is a new Japanese hair brand making perfume oil at the foot of Mount Fuji” – Wallpaper* – https://www.wallpaper.com/fashion-beauty/diffar-is-a-new-japanese-brand-making-perfume-oil-for-hair-at-the-foot-of-mount-fuji
- “Smells Like Crafters Pride — Komons Fragrance Lab. 代表 有井誠” – LOOSEN UP YAMANASHI – https://startup.pref.yamanashi.jp/loosenup/article/235/
- “【People】暮らしにそっと彩りを添える”いい香り”。” – 南山梨Hello!Morning! – https://hq.pref.yamanashi.jp/minamiyamanashi_special/topics/3237/
- “世界中の自然素材を日本の感性でブレンドした香りのコレクション「Diffar(ディファー)」が12/13(金)発売” – NOSE SHOP公式ブログ – https://noseshop.jp/blogs/blog/241213-dif-debut
- “世界中の自然素材を日本の感性でブレンドした香りのコレクション「Diffar(ディファー)」が12/13(金)発売” – PRTimes – https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000092.000024774.html
- “Diffar – D&AD Awards 2025” – D&AD – https://www.dandad.org/work/d-ad-awards-archive/diffar
- “Diffar – Kenzo Shibata ポートフォリオ” – https://shibatakenzo.com/work/680b85c3b3aa41ff388c8783/
- “About Diffar” – 公式サイト(日本語) – https://diffar.jp/pages/detail
- “51823 Spicy Wood” – 公式サイト – https://diffar.jp/products/51823
- “Diffar on Instagram – Paris Launch at Palais Royal” – https://www.instagram.com/diffar_f_h_o/

