IPBA(アイピービーエー/国際香水瓶協会)|瓶・箱・ラベルから香水史を読み解く収集家たち

香水瓶の収集と資料整理を表現した、無銘のガラス瓶、箱、ルーペ、記録カードの温かなスティルライフ。「瓶と箱から、香水の歴史を読む。IPBA 国際香水瓶協会」の文字入り。 香りの世界を広げる

幸いなことに、当時の広告やカタログを通して、長年にわたり香水がいつ、どこで製造されたのかを確かめることができる。

アフォンソ・オリヴェイラ

香水を使い終えたあとにも、瓶には調べるべきことが残る。底の刻印、栓の形、紙ラベルの文字、箱の内側の意匠。香りの名前を伝える容器は、ガラスを加工した技術や、商品を見せる工夫、その土地の生活をたどる資料にもなる。

IPBA(International Perfume Bottle Association、国際香水瓶協会)は、そうした物を集める人々が、発見と知識を持ち寄る団体である。高価な名品を並べることだけが活動ではない。正体の分からない一本をどう調べ、その結果をほかの人が確かめられる形で残すか。会誌、集会、オンラインの資料を見ていくと、個人の収集が香水文化の記録につながる道筋が見えてくる。

IPBAの基本情報

正式名称:International Perfume Bottle Association
略称・読み方:IPBA(アイピービーエー)
設立:1988年7月、米国ネバダ州ラスベガス
現在の名称の採用:1994年
性格:選挙で選ばれたボランティア理事会が運営する非営利団体
主な対象:香水瓶、香りの容器、コンパクト、パース、関連する紙資料など
公式サイト:International Perfume Bottle Association

ここで取り上げるIPBAは、香水瓶と化粧まわりの品々を研究・収集する団体である。香水メーカーや調香師の業界団体とは、活動の出発点が異なる。

1988年、掲示板の呼びかけから始まった

瓶を探す人から、収集仲間を探す人へ

1988年7月、ラスベガスの瓶収集家の大会に参加していたフラン・ピーターズは、会場の掲示板に案内を出した。香水瓶に関心のある人に、専門の集まりへ来てもらうためである。17人が応じ、同じ関心を持つ仲間を結びつけようという話になった。

始まりの仕事は、目立たないが具体的だった。ジョイス・ギーザーは骨董関係の出版物を通じて団体の存在を知らせ、ニュースレター『Perfume and Scent Bottle News』を発行した。ジーン・パリスは会員と会計の記録を受け持ち、香水瓶を扱うディーラーのジーン・スローンは顧客に新しい集まりを知らせた。最初の一年の終わりには、会員は約375人になっていた。

この順序が興味深い。立派な展示施設ができてから人を集めたのではなく、まず連絡を取り合い、書いて知らせ、記録する仕組みをつくったのである。現在の会誌やデータベースにも通じる、情報を持ち寄る活動が先にあった。

最初の大会と、国際団体への改称

1989年、ミシガン州ディアボーンで最初の年次大会が開かれ、役員が選ばれた。当初の団体名には香水瓶・香りの容器の収集家を意味する言葉が使われており、現在の名称はまだなかった。

1991年に会長となったフィリス・ドハニアンの時期には、団体としての形が整えられていく。1992年には海外の会員を意識した名称へ変更し、1993年にはイリノイ州で法人化の承認を得た。1994年5月13日、バージニア州レストンの年次大会で、会員が現在のInternational Perfume Bottle Associationという名称を承認した。1988年は活動の出発点、1994年は現在の名称を選んだ年なのである。

年主な出来事
1988年ラスベガスで収集家の集まりが発足。ニュースレターと会員記録の整備が始まる。
1989年ディアボーンで最初の年次大会を開催。
1993年イリノイ州で法人化の承認を得る。
1994年International Perfume Bottle Associationの名称を承認。
1995年米国の501(c)(3)に基づく非営利団体として承認される。

収集家は瓶・箱・ラベルの何を見るのか

栓や刻印を、組み合わせて読む

一本を見分けるとき、華やかな正面だけを眺めていては分からないことがある。IPBAの収集ガイドは、栓に番号が刻まれている場合には瓶底の番号と一致するかを確かめ、栓の収まりにも目を向けるよう勧めている。別の栓や噴霧器の部品が組み合わされている可能性を考えるためである。

箱や紙ラベルも、一緒に調べる対象となる。ガイドが注意を促すのは、新しすぎる箱や、古い時代の品にしては新しく見えるリボンなどである。美しく残っているという印象と、当初の組み合わせが保たれているかという問いは同じではない。復刻品や交換された部品の可能性を、作品についての知識と照らし合わせる必要がある。

こうした観察は、傷の少なさを競うためだけのものではない。瓶、栓、包みを別々の要素として確かめることで、商品がどのような姿で世に出たのかを考え直せる。箱を捨てたあとでは失われる情報も、収集の対象になるのである。

広告が、瓶だけでは分からない時代を補う

短期間の使用を想定して作られた広告、ラベル、カード、カタログなどの紙資料は、エフェメラと呼ばれる。収集家にとっては、使い捨てられるはずだった紙が、瓶の年代や当時の見せ方を調べる手がかりになる。

『Perfume Bottle Quarterly』2023年秋号で、ジョーン・ターコはヴィンテージ雑誌広告の収集を取り上げた。広告には瓶の図だけでなく、珍しい箱の姿や、香りの名前と図柄をどう結びつけたかが残る。ターコ自身は、手元にまだなかったスキャパレリの「Le Roy Soleil」の広告から、その作品への関心を深めたという。物を持っていなくても、その物が紹介された紙から研究を始められるのである。

同号に寄稿したオリヴェイラは、ポルトガル香水産業の文化的な遺産を本にまとめ、将来に残すことを目標としていた。冒頭の言葉は、その文章にあるものだ。収集した品を、同時代の広告やカタログと突き合わせる。瓶の美しさを語るだけでなく、いつ、どこで作られたかを確かめる作業が、国や地域の香水史につながっていく。

個人の発見を、共有できる知識にする

会誌と出版物アーカイブ

IPBAの会誌『Perfume Bottle Quarterly』(PBQ)は年4回発行される。瓶の収集に関する文章をまとまった形で残す場であり、公開されている2023年秋号でも、瓶の造形、雑誌広告、日本製の人や物をかたどった容器、ポルトガルの香水産業など、異なる専門を持つ会員の仕事が並んでいる。

ただし、初期からずっと同じ誌名であったわけではない。創設時のニュースレターは『Perfume and Scent Bottle News』である。公式の出版物アーカイブは1988年までさかのぼる資料をまとめているが、この案内をもって、現在の誌名が1988年から使われていたと読むことはできない。

会員向けアーカイブには、米国の会誌に加えて、オーストラリアや英国の支部の出版物、コンパクトなどの専門グループのニュース、1991〜1998年の『Mini-Scents』も含まれる。記事検索も用意されている。特定の一人が覚えているだけの知識を、題材から探し直せる文章へ移す仕組みである。

ヴァーチャル・ミュージアムの記録項目

会員向けのヴァーチャル・ミュージアムについて、公式FAQは、写真とともに種類、素材、デザイナーまたは製造者、刻印、出自、ラベル、年代、寸法などを記録する仕組みを説明している。企業の歴史や業者用カタログ、広告なども対象となる。

この項目立てを見ると、同じ作品名だけで情報をまとめるには足りないことが分かる。素材や寸法、刻印を添えておけば、似た姿の品を比較する際の足場になる。どの特徴からその説明に至ったのか、後から考え直す余地も生まれる。

一般公開の紹介ページには、オーストラリアの白粉の箱、日本の七宝装飾の香りの容器、モロッコのローズウォーター用の撒香器なども並ぶ。フランスの著名な香水だけを眺める図鑑ではなく、香りと身支度に関わる物を、地域をまたいで調べる視野がある。

手元の一点を、次に調べられる状態で残す

知識の保存は、大きなデータベースだけで始まるわけではない。IPBAの公開ガイドは、品物ごとに番号を与え、台帳や表計算、カードなどで、説明、製造者、大きさ、年代、入手日などを記録する方法を示している。写真にも同じ番号を対応させ、特徴的な細部は複数の画像で残す。

大切なのは、物と記録を離れ離れにしないことである。気になる刻印の写真を撮っても、どの瓶のものか分からなくなれば比較には使いにくい。収集品の並びと、あとから確かめられる記録の並びを結びつける、小さな実務が研究を支える。

集会は、分からない一点を持ち寄る場所

Treasures Foundと、初めての収集家の学び

年次大会には講演や円卓討論、展示販売、オークションなどが組み込まれる。その中で、IPBAらしい知識の渡し方を示すのが「Treasures Found」である。専門家が品物を見て、その出自や作り手について検討する催しだ。

2021年のオンライン大会プログラムは、この催しが品物の来歴や製造者などについて専門家の見解を聞く場であり、価格評価を扱わないと明記していた。何であるかを知りたいという持ち主の問いに、ほかの収集家の知識が応える。個人の疑問が、その場にいる人々の学びになる構成である。

公式FAQには、初心者向けの「Collecting Perfume Bottles, Compacts, Purses and Other Vanity Items 101」も紹介されている。大会全体への参加は会員向けだが、この入門講座や展示販売などには一般公開の枠がある。公開日時や対象は各年の案内で確かめる必要がある。

工場の資料と実物をつなぐ研究発表

2021年大会では、ブライアン・セヴァーンによるハラハ(Harrach)・ガラス工場の香水瓶研究も企画された。プログラムによれば、工場の記録とミュージアムの収蔵品を二度の夏に調べた成果をもとに、100年以上にわたる瓶を扱う発表であった。

そこで挙げられた資料は、工場のデザイン帳、販売用写真、原画、実物の瓶と化粧台まわりの品々である。形が似ているという印象を、製造側に残った資料と照合する。収集家が持つ実物と、工場に残る記録が出会うことで、ものづくりの歴史へ踏み込める。この発表は当時、録画しないライブ企画として案内されていた。現在も視聴できる講座として扱うべきものではない。

現在のデザイナーからも学ぶ

IPBAのオンライン教育企画は、古い瓶の同定だけにとどまらない。公開されたマーク・ローゼンとの対話紹介では、テリー・チャペル=ボイドを聞き手に、ローゼンが香水の個性を瓶へどう移すか、アヴォンでの最初のデザインや、レブロン、エリザベス・アーデンでの仕事を語ったことが紹介されている。

さらに2026年10月24日には、ドイツのボトルデザイナー、ルッツ・ヘルマンの創作過程を取り上げるZoom講演が予定されている。過去の物を読み解く収集家が、現在の作り手の判断にも耳を傾ける。瓶を歴史資料として見ることと、デザインとして理解することは、こうして同じ活動の中に置かれている。

ロゴにも、収集家が学び合う仕組みがある

IPBAのロゴに複数の瓶が描かれているのは、単なる飾りではない。最初の線画を手がけたロッド・ベアは、パートナーのランディ・モンセンと瓶を探していた頃、骨董の専門紙『Antique Trader』に出す広告を目立たせるため、瓶の絵を描いていた。初代会長のマドレーヌ・フランスはその広告を知っており、団体のロゴを依頼した。

ロゴは、会員の収集上の関心を表す必要があった。

ロッド・ベア

ベアは、市販香水の瓶、アトマイザー、ラリック、チェコの瓶、ヴィクトリア朝の瓶、王冠型の栓を持つ瓶という収集分野を絵に組み合わせた。その後、シャリ・マクソン・ホッパーが、描かれた瓶に対応する実物を探して撮影し、写真版のロゴを制作した。

ロッドのロゴに描かれた実際の瓶を見つけ、撮影した。

シャリ・マクソン・ホッパー

ジョアン・ベガートは、二人へのインタビューと瓶の解説をまとめ、若い収集家がロゴの意味と収集分野を学べる冊子にした。団体の目印を見慣れたままにせず、なぜその瓶が選ばれたのかまで読み直す。ここにも、持っている知識を次の人へ渡す仕事がある。

公開資料と会員向け資料の境界

IPBAの活動は、公式サイトの団体史、収集ガイド、集会の案内、ロゴの冊子、一部の公開会誌から知ることができる。一方、ヴァーチャル・ミュージアムの詳細なデータ、出版物アーカイブ、貸出図書館などは会員向けの研究資源である。公開の紹介文や見本が読めることと、その先の全資料を利用できることは区別されている。

瓶を知る楽しさは、形の美しさを愛でるところから始まってもよい。そこから箱の図柄を見比べ、広告を探し、底の刻印を記録すると、一本はほかの資料と結びつき始める。IPBAが続けてきたのは、そのつながりを一人の記憶だけに預けず、会誌や集会、共有の記録へ移す活動である。香水瓶は香りを入れる物であると同時に、香水が社会の中でどのように作られ、見せられてきたかを読む入口にもなる。

瓶の造形をさらに見比べたい方には、LCPの『フォトグラフィー 香水瓶の図鑑』紹介記事も、視野を広げる手がかりになる。

参考文献