Kerzon(ケルゾン)―生活のあらゆる場面に自由に取り入れられる香りの総合ブランド

ブランド創業者

「香りというものは、人が持つ最初の記憶のひとつに数えられます。家族のプロジェクトを立ち上げようと決めたとき、香りは幼少期と感情に根ざしているから最適だと感じたのです」

— Pierre-Alexis Delaplace(ピエール=アレクシ・ドゥラプラス)、ケルゾン共同創業者

基本情報

設立年: 2014年

創設者: Etienne Delaplace(エティエンヌ・ドゥラプラス)、Pierre-Alexis Delaplace(ピエール=アレクシ・ドゥラプラス)​

公式サイト: https://www.kerzon.paris

創設者・ブランドの成り立ち

5人兄弟の物語

ケルゾンの物語は、パリで育った5人兄弟のうちの2人に始まる。 エティエンヌとピエール=アレクシ・ドゥラプラス兄弟は、互いに異なるキャリアを歩んでいた。

ピエール=アレクシはパリの名門、国立高等装飾芸術学校(École Nationale Supérieure des Arts Décoratifs)でデザインを学び、グラフィックデザイナー兼アートディレクターとして、ライフスタイル・フード・ファッションといった多様なブランドのフリーランス業を続けていた。 一方のエティエンヌは、会計士の資格取得から始まり、ビジネススクールで経営と情報システムコンサルティングを専攻し、のちに商業の分野でキャリアを積んだ。 「私たちは二人とも、方向性が大きく異なっていた」とエティエンヌはのちにインタビューで語っている。

エティエンヌはケルゾンを立ち上げる以前、別の兄弟とともに事業を起こし、それを売却した経験も持っていた。 起業への意欲は折れることなく、それが2013年のある会話につながることになる。

夏の家、Kerzon

幼少期、兄弟の夏休みは決まってある家で過ごされた。フランス語のブルターニュ地方には、大西洋やイギリス海峡沿いの別荘に「Ker〜(ケル〜)」と名づける習慣がある。「ケル」はブルトン語で「〜の家」「〜の住まい」を意味する。 KerMargaretやKerJannicといった家々が海辺に並ぶように、彼らの家族の夏の家もまた「Kerzon(ケルゾン)」と呼ばれていた。

「ケルゾンは、子供の頃にたくさんの夏休みを過ごした、ある家の記憶から生まれました。その香り——あまりに特別で唯一無二だったから、いつか形にしたいと思っていたのです」

— Etienne Delaplace、BaronMagインタビュー(2016年)

その家は、祖母の香り袋の記憶とも強く結びついていた。祖母手製のラベンダーのサシェが、家中のクローゼットに忍ばせてあった。「ケルゾンのインスピレーションはすべて、祖母のその香り袋に始まりました」と兄弟は語っている。 記憶の中の香りを「いつかの自分たちと同じように、今の世代にも届けたい」——その思いが、ブランドの原点となった。

ブランドの誕生:2013年末、パリ

2013年末、エティエンヌとピエール=アレクシは本格的にプロジェクトを動かし始めた。 「香りは感情と喜びを運ぶもの。そしてピエール=アレクシのプリントとビジュアルの技術を活かせる領域でもある」と二人は考えた。 最初の商品として構想したのが、祖母の香り袋の現代版とも言えるポシェット・パルフュメ(parfumed sachet:パフュームドサシェ)だった。

ラベンダーの一本調子な香りではなく、もっと詩的で生き生きとした現代的な香りを求めた兄弟は、世界の香水産業の聖地・南仏グラースへとコンタクトを取ることを決めた。 入札に応じてきたのは、200年の歴史を持つ老舗香水メゾン「シャラボ(Charabot)」だった。フランス政府から「エントルプリーズ・デュ・パトリモワーヌ・ヴィヴァン(Entreprise du Patrimoine Vivant:生きた遺産企業)」の認定を受ける、グラース最古の調香所のひとつである。

二人からシャラボへ伝えたブリーフはシンプルだった——

「詩的で、陽気で、いい匂いがすること(It must be poetic, upbeat and smell good)」

— Pierre-Alexis Delaplace

マゾン・エ・オブジェでの旅立ち

2014年1月、ケルゾンはパリで開催されるインテリア・デザインの国際見本市「マゾン・エ・オブジェ(Maison&Objet)」に初出展する。 この5日間の出展が、ブランドにとっての洗礼となった。

「あれは私たちにとっての洗礼でした。一気に世界が広がって、5日間で何千人もの人々が私たちの製品に触れ、香り、注文してくれた。それ以来、年に2回欠かさず出展し続けています」

— Pierre-Alexis Delaplace

この場で、パピエ・ティグル(Papier Tigre)やメゾン・プリッソン(Maison Plisson)、マティルド・カバナス(Mathilde Cabanas)といった同じ価値観を持つライフスタイルブランドとの交流も生まれた。 互いにコラボレーションし、旅し、ともにブランドを育てていく仲間として「ケルゾン・ファミリー」が広がっていった。

2017年には、パリのマレ地区(68 rue de Turenne)に旗艦店をオープン。 オンライン販売・卸売・直営店という三本柱の流通戦略が整い、現在では17カ国・5大陸で製品が届けられるようになっている。

ブランドのこだわり

香りづくりの哲学

ケルゾンが目指す香りは、「記憶のように本物であること」だ。 日常のあらゆる場面——森の散歩、庭の手入れ、コーヒーの時間、パン屋の前を通る瞬間、セーヌ川の河岸、ミモザの花束、友人とのひとときの乾杯——それぞれに香りがある、という発想が出発点にある。

「私たちの日常は、喚起力のある香りに満ちています。それが最大のインスピレーション源です。私たちは記憶のようにリアルな、authentic(真正)なフレグランスを生み出すよう努めています」

— ケルゾン公式​

香水(フレグランス)を単なるボディ用や住空間用に留めず、「生活のあらゆる場面に香りを」という哲学の下、洗濯洗剤、食器用洗剤、ボディソープ、ルームミスト、キャンドル、ハンドクリーム、リップバームまでが同一のフレグランス世界に属している。 「あなたが好きな香りに出会ったなら、それを生活のあらゆる場面に自由に取り入れられる」というのが、ブランドの根本的なメッセージだ。

「私たちは自分たちのことを、パフューマー(調香師)と位置づけています。お客さまの中には一つの香りに魅了されて、ボディソープ、ランドリーソープ、ミストと全てのラインをそろえたいという方もいます」

— Etienne Delaplace、Culture V.誌より

素材・製法へのこだわり

全製品はフランス国内(プロヴァンス地方およびパリ近郊)で製造される。 香水の大部分はグラースにある「生きた遺産企業」認定のメゾンで調香。 石鹸はココナッツオイルとオリーブオイルを使い、プロヴァンスで低温製法で作られる。

成分は天然由来・オーガニックコスメ規格準拠。ミネラルオイル、硫酸塩、内分泌かく乱物質は一切不使用。 全製品がビーガン対応(リップバームのみ蜜蝋を使用)。

パッケージと視覚的アイデンティティ

ビジュアル面はピエール=アレクシが担う。国立高等装飾芸術学校で鍛えたデザイン感覚が生かされた、ポップでグラフィカルなラベルがケルゾンの顔となっている。 パッケージの紙・段ボールは持続可能に管理された森林由来で、Imprim’Vert(低環境負荷印刷)認証を取得。 ボトルは100%リサイクル家庭廃棄物から生産されたプラスチック、またはリサイクル可能ガラスを使用。

また、ガラス瓶の環境負荷についても真剣に向き合っており、「ガラスは製造・輸送・リサイクルを通じたカーボンフットプリントがリサイクルプラスチックの3倍に達する」という判断から、可能な製品では再生プラスチックボトルを選択している。

ソーシャルな姿勢

ケルゾンの象徴的な最初の製品であるポシェット・パルフュメ(香り袋)は、パリ13区のESAT(障害を持つ成人の就労を支援する施設)で手詰めされている。 地域の社会的包摂を担う施設とのパートナーシップも、「ケルゾン・ファミリー」の一員として大切にされている。

ケルゾン・パクト

ブランドの全活動を支える「ケルゾン・パクト」は11か条の製造誓約からなる。 そのひとつが「ラ・ブークル(La Boucle:ループ)」と呼ばれる詰め替えサービスだ。2017年から導入されたこの仕組みでは、使い終わったボトルをパリの店舗に持ち込むと、詰め替えて返却してもらえる。 廃棄を最小化し、サステナブルな消費を日常の中に組み込む工夫の一例だ。

香水ラインナップ

ケルゾンの香りのラインは大きく複数のコレクションで構成される。単なるボディフレグランスにとどまらず、同一の香りをキャンドル・ルームミスト・ランドリーソープ・ボディソープなど多様な形で展開するのが特徴的だ。

フラヌリー・コレクション(Flâneries:パリの散歩)

フラヌリーとは「ぶらぶら散歩する」という意味のフランス語。パリの名所を香りで描いた、ケルゾンを代表するコレクションだ。 ルームフレグランス・キャンドルを中心に展開する。

  • プラス・デ・ヴォージュ(Place des Vosges:ヴォージュ広場):17世紀に造られたパリ最古の計画広場。ブルガリア産ローズを核に、ゼラニウム・ブラックカラントのフルーティな明るさ。ケルゾンで最も人気の高い香りのひとつ。
  • ジャルダン・デュ・リュクサンブール(Jardin du Luxembourg:リュクサンブール公園):ライラックとハチミツの香り。
  • ラ・トゥール・エッフェル(La Tour Eiffel)フルール・ドランジェ(Fleur d’Oranger:オレンジの花)フルール・ドゥ・ロマラン(Fleur de Romarin:ローズマリーの花) など多数のパリの情景を収録。

エルビエ・コレクション(Herbier:植物標本)

植物の世界を細密に描くボタニカルシリーズ。庭に集い、テーブルを囲む日々の時間にインスピレーションを得ている。

  • フーイュ・ドゥ・フィグ(Feuilles de Figuier:イチジクの葉):フェンネルとユーカリから始まり、イチジクのミルキーな甘さへ。ベースはヴァージニア産シダーとミルラ。
  • フーイュ・デュカリプトゥス(Feuilles d’Eucalyptus:ユーカリの葉):メンソールのユーカリ、ラベンダー、ローズマリーとタイムが続く。

エルベ(Eau Marine)コレクション

海水(海塩:Maris Sal)と海藻エキス(ラミナリア・ディジタタ)を処方に組み込んだ、独創的な海水コレクション。 フレグランスの名称は「Ker(家)+原材料・イメージ」の組み合わせで命名されている。

  • ケロズ(Kerose):カラブリア産ベルガモット・プチグレインのトップ、ブルガリア産ローズ(アルコラート・アブソリュート)のハート、ハイチ産ベチバー・セダーのベース。
  • ケルモザ(Kermosa):ビターオレンジ・レモン・マンダリンリーフ、エジプト産ゼラニウム・ミモザのハート、サンダルウッド・ヘリオトロープのベース。
  • その他、ケリヴェール(Keriver)ケルエレム(Kerelem)ケルムスク(Kermusk) がある。

トレゾール・ドゥ・ラ・ナチュール コレクション(Trésors de la nature:自然の宝)

植物界のさまざまな表情——繊細な花びら、深みある樹皮、太陽を浴びた果実、芳香豊かなハーブ——に着想したオードパルファム。

  • ルバーブ&ミモザ(Rhubarb & Mimosa)
  • ローズマリー&シダーウッド(Rosemary & Cedarwood)
  • ネロリ&オレンジブロッサム(Neroli & Orange blossom)
  • ヴォージュ広場(Place des Vosges:フルーティ フローラル) など

日用品ライン

ランドリーソープ(スーパーフレ、マイユ・カリン、ジム・トニックなど)、ディッシュウォッシング・リキッド、ボディソープ、キャンドル、ルームミスト、ハンドクリーム、リップバームと、香りを軸に日常のケアアイテム全般にラインが広がる。 特にランドリーソープは洗浄後もリネンに香りが持続するよう処方されており、「自然派なのに香りと使い心地が良い」というコンセプトを体現している。

ちなみに…

  • 「Péa(ペア)」と呼ばれる男: ピエール=アレクシは、自身のことを「Péa(ペア)」という愛称で呼んでもらっている。インタビューでも「両親が僕の人生を難しくしようと『ピエール=アレクシ』と名づけた」と笑いながら語っている。
  • ブランドのマスコット: ケルゾンのパクトページには「Alf(アルフ)」というマスコット犬が登場し、動物実験の禁止を「ワン!」と伝える仕掛けになっている。 「パクトのページはピエール=アレクシの犬のAlfからご紹介します」という一文も公式サイトに刻まれている。実は、BaronMagのインタビュー(2016年)でも「Alf(フラット・コーテッド・レトリーバー、当時生後15か月)と散歩する時間が最も創造的に考えられる瞬間」とピエール=アレクシが語っており、Alfはケルゾンの初期から存在したパートナーである。
  • 「家族のディナーがいつもブリーフになる」: エティエンヌは「ケルゾンでは、家族の食卓が新コレクションのブリーフィングになってしまうことが本当によくある」と語っている。家族プロジェクトという言葉通り、仕事と暮らしが自然に交差するブランドの姿が垣間見える。
  1. Maison&Objet, “Kerzon, the essence of home” – https://www.maison-objet.com/en/paris/magazine/the-story-behind/kerzon-the-essence-of-home
  2. Kerzon公式サイト, “The Kerzon Family” – https://www.kerzon.paris/en/maison/1-the-kerzon-family-
  3. Kerzon公式サイト, “The Kerzon Pact” – https://www.kerzon.paris/en/maison/3-the-kerzon-pact
  4. Kerzon公式サイト, “FAQ” – https://www.kerzon.paris/en/faq
  5. Zeste.fr, Etienneインタビュー「Une identité visuelle que l’on reconnaît forcément : Kerzon」– https://zeste.fr/blogs/blog/rencontre-kerzon
  6. MilkDecoration, 創業者インタビュー “Interview : Kerzon” – https://www.milkdecoration.com/interview-kerzon/
  7. BaronMag, “L’histoire de bureau d’Etienne et Pierre-Alexis, cofondateurs de Kerzon”(2016年)– https://baronmag.com/2016/03/lhistoire-de-bureau-detienne-et-pierre-alexis-cofondateurs-de-kerzon/
  8. The Nice Fleet, “Summer interview #4: Pierre-Alexis, co-founder of KERZON” – https://thenicefleet.com/en/blogs/nos-spots-et-coups-de-coeur/t
  9. Saison Australia, “Bonjour Kerzon!” – https://www.saison.com.au/blogs/news/bonjour-kerzon
  10. Smell Stories, “Kerzon” – https://www.smellstories.be/en/brands/kerzon/
  11. The Mercantile London, “Scents of Summer // Kerzon” – https://www.themercantilelondon.com/blogs/news/scents-of-summer-kerzon
  12. Marsha By The Sea, “Kerzon ‘Eau Marine’ Kerose Perfume” – https://marshabythesea.com/products/kerzon-kerose-eau-marine-perfume
  13. Marsha By The Sea, “Kerzon ‘Eau Marine’ Kermosa Perfume” – https://marshabythesea.com/products/kerzon-kermosa-eau-de-parfum
  14. 1609 Design, “Kerzon Fragrances” – https://1609design.com/collections/kerzon-fragrances
  15. Londonworks, “KERZON | Eau de Parfum | Place des Vosges” – https://londonworks.com/products/kerzon-eau-de-parfum-place-des-vosges
この記事を書いた人
Root

香りの学び場「ルシェルシェパルファム」の運営者。
元香水販売員で、現在はとあるIT企業の管理職。
香水への愛が抑えきれず、自身の学んだことをはきだすサイトを作ってしまう。エルメス・フレデリックマルを主に愛用。

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