香りをまとって、みなさんに幸せな気持ちになってほしいのです。楽しかったこと、嬉しかったこと、そのとき食べたものやまわりにあった植物などの香りを調合すれば、その高揚した気持ちがよみがえってきますよね。熟練したカップルが、出会ったころの燃え上がるような愛情を香りにしたら、その香水は、いまのお二人の心の通い合いをさらに深いものにするでしょう
Rhythmoonインタビューより
調香史
1970年、静岡県に生まれた新間美也 氏は、京都外国語大学のフランス語学科を卒業後、父親の紹介で入社した一般企業で事務仕事をしていました。「ただ同じことが続く毎日に、どうしようもなくどんよりとした気持ちを感じていた」新間氏は、同じことを繰り返す毎日にうんざりしていました。
そんな折に自宅でさりげなく開いた雑誌『FRAU(フラウ)』にエドモン・ルドニツカの記事が掲載されていました。彼の言葉から調香師という職業に興味を持ち、1995年にフィレンツェに旅をした際に、ホテルの人から地元の調香師ロレンツォ・ヴィロレッツィを紹介してもらいます。それまで香水すらほとんどつけたことがないと言う新間氏が香水の世界に目覚めたのはまさにこのときだったのです。
大学卒業後、私は実家の静岡県で一般企業の事務の仕事に携わっていました。やりがいもありましたが、同じことを繰り返す毎日に疑問を持つように。そんなとき手にした雑誌に、海外の調香師のインタビューが掲載されていて『調香師とはオーケストラの指揮者のようなもの』という一文に触れ、“これだ!”と直感したんです。幼いころからピアノや作曲に親しんできたからでしょうか。香りで音楽を奏でるような調香師という存在に、こころ魅かれたのかもしれません。
IN FIOREインタビューより
3歳からオルガンやピアノを弾き、作曲もしていた新間氏は上記の一文から心が離れず、東京の表参道にあった香水学校に通います。しかし、本場のフランスで学びたい気持ちは消えず、イタリア旅行の際に知り合ったロレンツィオ氏に手紙を書くと、彼の師匠の学校を紹介してもらいます。それがサンキエームサンスでした。
そして、1997年、パリの調香師学校Cinquieme Sens(サンキエーム・サンス)で、創立者Monique Schlienger(モニーク・シュランジェー)の下、学校初の日本人学生として勉強を始めます。彼女は偉大なジャン・カールのもとで学んだ後に、ロベルテ社で働き、イジプカの教師をしていたこともある、素晴らしい調香師の1人でありました。
香りを通して日本を紹介できたら、という気持ちが自然とわいてきました。
IN FIOREインタビューより
1999年、自身のブランドMiya Shinma Parfumsを立ち上げた新間氏は、日本とフランスの文化と伝統をつなぐ架け橋となるような香水を生み出し、さらには、より多くの人にパフューマリーを知ってもらうために書籍も執筆されています。
香りを嗅ぎ分けるのは才能というより、訓練の賜物だと勉強してから分かりました。私は何百種類という香りの違いを識別できますし、学校を終えたから香料の勉強が終わりなのではなく、いまも新しい香料の情報にはアンテナを張っています。
Rhythmoonインタビューより
様々な芸術や文化を見たり感じたり、旅行をしたりすることも、香水を作るのには重要です。パリで素晴らしい舞台公演があればすぐに飛んでいく。そんな生活を送るフランスの調香師に憧れていました。また目に見えない香りを組み合わせて、目に見えない香りを完成させるには、自分を信じ、厳しくなければ出来ません。とても難しい仕事だと感じています。
ならいごとJPインタビューより
Miya Shinma Parfums
香水の処方は自分でつくります。それを契約している香料会社に渡すと、処方通りに香水原料を作ってくれます。私は処方通りに香料が調合されているかを確認して、問題がなければ、香水を製造する会社が私の香水を製造します。そこから、販売してもらっている国々に製品が配達されます。
もちろん信頼できる会社を選んでいます。それでも、滞りなくいくか、いつも見守っていますね。ここは日本とは違います。アトリエに配達される荷物が届かなかったりということが、よく起こる国ですから。
Rhythmoonインタビューより
ブランド創設
サンキエームサンスに通いながら、自身のブランドについて考えていた新間氏は、フランス人から日本のことを質問される中で、「海外の方にも伝わりやすい日本語」ということで、百人一首を思い付きます。百人一首の中から句を選び、その句に合わせて自分で詩を書き、その詩から香りをイメージして、ブランド最初の香り「花」・「月」・「風」の3つを生み出しました。
1998年にブランドを創設すると、2000年には世界最初の百貨店と言われているパリのボンマルシェで販売をスタートします。ボン・マルシェで販売できるようになったきっかけは、ボン・マルシェでオーダーメイド香水のイベントで成功をおさめたことでした。
実は、最初自身のブランド名に「フィン・フロール(「良い花」)」という名をつけていましたが、周りからブランド名を呼ばれず、Miya Shinmaと言われるため、最終的に自身の名前がブランド名になったようです。
当時のパッケージは、桐箱に香水をおさめた形で、和を体現した見た目になっていました。ボトルには半紙の上にカリグラフィーで香水名が書かれています。これは新間氏の子供の頃に習っていた書道の記憶によるものです。
調香の世界を知れば知るほど、香りの本場フランスで学ぶことの意義を感じました。貴重な香りの素材となる植物の生育状況や世界的なトレンドにも精通する必要がありますから。
IN FIOREインタビューより
実は一時的に活動を停止していた新間氏は、2015年に活動再開をし、リブランディングをします。パッケージは以前の桐箱から黒漆に変更しました。これはフランス人がより日本らしさを感じるように、変更したそうです。
ブランドのこだわり
ミヤシンマは、3つの香水カテゴリと香水の遊興(Plaisirs Parfumes)というカテゴリに分かれます。企業や個人からのオーダーメイド香水も受注しているようです。
購入者には着物の布で香水をラッピングすることが決められており、取り扱いの店舗ではラッピングの研修までしています。
Collection Héritage(コレクションヘリテージ)
日本の美と日本の伝統文化をテーマに作られたコレクションです。ブランド最初の3つの香水を含む、下記の10の香りから成ります。香水名は、意味を描くように文字がデザインされており、基本的には文字の特徴と響きの美しさから日本語名が採用されています。
- ゆき(YUKI)
- ひのき(HINOKI)
- 月(TSUKI)
- みず(MIZU)
- さくら(SAKURA)
- たちばな(TACHIBANA)
- つばき(TSUBAKI)
- 風(KAZE)
- 緑の葉(FEUILLAGE VERT)
- はな(HANA)
Collection KIMONO(コレクション着物)
日本の伝統衣装である着物へのオマージュとして作られたコレクションで、下記の4つから成ります。着物の美しい色彩とそこに秘められたストーリーを香りとして表現しています。昔の人が着物に香を焚きしめていたことから、原料は香をメインとして使用しています。ボトルは漆黒、アンティークの着物のラベルが貼られ、パッケージは金色の薄紙で包装されています。
- きものさくら
- きものひのき(Japanese Cypress)
- きものかぜ
- きものゆき
Collection L’Eau de Miya Shinma(コレクションロードミヤシンマ)
浮世絵へのオマージュとして作られたコレクションで、下記の6つから成ります。「今を楽しむ」をテーマに、浮世絵の放つ生き生きとした空気を描いています。他のコレクションとは異なり、シンプルなボトルデザインに古典的な色のカリグラフィーが使用されたラベルが貼られています。
- ルリ(RURI)
- ヤマブキ(YAMABUKI)
- キキョウ(KIKYO)
- マツバ(MATSUBA)
- モモ(MOMO)
- コウゾメ(KOUZOME)
Plaisirs Parfumes(プレジールパルファム)
「遊興」を意味するこのコレクションは、歴史上、香りを楽しむために使われてきた様々なものを扱っています。せんす・香り玉・心葉・お香の4種から成ります。
- せんす
和紙と竹を元に、京都の伝統工芸職人が作りあげた香りの扇子です。色も美しく、一振りするたびに香りが広がり、3種の香りがあります。 - 香り玉
香り袋とも呼ばれ、袋の中に香りのついた玉が入っています。 - 心葉
和紙で作られた香りの花びらが添えられたメッセージカードになります。4つの香りがあります。 - お香
花の形を型取って作られたお香で、5つの香りがあります。
その他
1998年、ブランド創設と同時に、アトリエ・アローム&パルファン・パリという調香スクールも創設します。また、合わせて、一流の香料を扱うアローム&パルファン・パリも立ち上げており、調香師の選ぶ高品質な香料を買うことができます。
※調香スクールは現在アクセスができないようです。もしかすると閉校かもしれません。
みなさんの前に出している香りの説明は短いですけれど、そこに書いていない私の思いはたくさんあるし、いろいろと探したプロセスも長いですね。
Rhythmoonインタビューより
書籍
ほとんどの日本人がおしゃれだからとか流行ってるからという理由で香水を選ぶのは残念なことです。だから、私は香水の世界についての本を執筆し、時々日本で展示会を行うのです。この世界には素晴らしい香水の世界があるのだということをみんなに伝えたいのです。
Fragranticaインタビューより
調香って、アートなんですよ。作曲家に資格がないように、調香師にも資格はありません。パフューマーはアーティスト、っていうのが、フランスでの位置づけです。
Openersインタビューより
・恋は香りから始まる
・パリのレッスンー夢をかなえること、自分らしく生きるということ