Roos & Roos(ロス アンド ロス)— 伝説の母と音楽の娘が生み出す異色の香水ブランド

ブランド創業者

「香水はその人自身であり、第二の性別であり、第二の皮膚である。」
— ブランド・マニュフェスト

基本情報

設立年: 2014年
創設者: シャンタル・ロス(Chantal Roos)、アレクサンドラ・ロス(Alexandra Roos)
本拠地: パリ、フランス
公式サイト: roosandroos.fr

創設者・ブランドの成り立ち

シャンタル・ロス――香水業界の「生ける伝説」

ロス アンド ロスを理解するには、まず母親であるシャンタル・ロスのキャリアを辿らなければならない。パリの香水業界で数十年にわたり活躍してきた彼女は、多くの業界関係者から「伝説」と評される人物である。

シャンタルが香水と本格的に向き合うようになったのは、コティでマーケティングアシスタントとして働いていた時代のことだった。

「コティで働いていた頃、私はまだ香水がそれほど重要だとは思っていなかった。でも、上司のデスクにあったクレージュの香水が忘れられなくて、こっそりと自分にかけてしまったの」

そして1976年、イヴ・サンローランのチームにインターナショナル・プロダクトマネージャーとして招かれたことが、彼女の運命を大きく変えた。

入社からわずか18ヶ月後の1977年、シャンタルはイヴ・サンローラン氏とともに伝説の香水「オピウム」を世に送り出す。「一番好きな香水を一つ選ぶなら、オピウムでしょう。最初の作品だから。当時は在庫が常に切れていて、誰もが私に怒っていた。店舗に届けられなかったから」とシャンタルは振り返っている。
アメリカでの発売はその名称が「女性に麻薬を連想させる」として許可が下りず、1年間延期されたという逸話もある。オピウムに続き、イヴ・サンローランでクーロスやパリ、ジャズといった名香の開発にも携わった。

その後シャンタルは、イッセイ・ミヤケやジャン=ポール・ゴルチエのフレグランスを手掛けるフランス資生堂の子会社「ボーテ・プレスティージュ・インターナショナル(BPI)」のCEOへと転身。BPI時代には「ロー・ディッセイ」(イッセイ・ミヤケ)を生み出すという、また一つの金字塔を打ち立てた。

「最初にミヤケさんにお会いした時、彼は『私は香水が嫌いだ』とおっしゃった。出鼻をくじかれた気分だったけれど、対話を重ねるうちに、女性にとって嗅覚的な美学とは『肌を流れる水の純粋さ』だと話してくれた。そこからようやく出発できた」

さらに、同時代の若き調香師フランシス・クルジャンを見出し、ジャン=ポール・ゴルチエの名作「ル・マル」(1995年)の創作に導いたのも彼女だった。後にBPIを離れた後は2000年にイヴ・サンローラン・ボーテに復帰し、CEOとしてブランドの再建に取り組んだ。このように、シャンタル・ロスは香水産業を中心で牽引し続けた、数少ない女性のひとりである。

アレクサンドラ・ロス――音楽が育てた感性

1970年、サン=クルー生まれのアレクサンドラ・ロスは、生まれた時から香りに満ちた環境の中で育った。

「私はまるでオピウムの瓶の中で生まれたようなもの。子供の頃、母が持ち帰る実験室サンプルの数々を嗅いで育ったから」

しかし10代になると、アレクサンドラが情熱を向けたのは香水ではなく音楽だった。

1997年にアルバム『A7』でデビューしたアレクサンドラは、ロック・フォークのシンガー・ソングライターとして活躍し、計4枚のアルバムを発表した。
2004年にはアリゾナ州トゥーソンに赴き、カレクシコのサウンドエンジニア、クレイグ・シューマッハの元でアルバム『ファンファーレ』を録音。
2005年のブールジュの春音楽祭ではナンシー・シナトラの前座を務め、2007年にはナイーブ・レコード(カーラ・ブルーニ、ピンク・マルティーニを擁するレーベル)からアルバム『ユイ・ドゥ・ピック』をリリースした。

作曲家としても多くのアーティストに楽曲を提供し、ジュリエット・グレコのアルバムでもデュエットを披露している。

ブランド誕生――娘の一言が動かした

転機が訪れたのは、シャンタルがイヴ・サンローラン・ボーテを退いて独立を考え始めた頃のことだった。音楽の道を歩んでいたアレクサンドラが、「一緒にブランドを立ち上げよう」と母に提案したのである。

フレデリック・マルのような人たちが独立系ブランドを立ち上げた時代の流れを感じていた。それで母に声をかけた。それまで自分たちのブランドを持つことなど考えたこともなかったのに」

ニッチフレグランスという市場のうねりが、この母娘の共同プロジェクトを可能にしたのだった。

こうして2014年、ブランドはまず「ディア・ローズ(Dear Rose)」という名称で産声を上げた。2017年にロス アンド ロスへと改名されたが、ブランドの核にある精神――二世代にわたる女性の物語、音楽と香りの融合――は変わっていない。現在はシャンタルが香水の開発とマーケティングを担当し、アレクサンドラが香水のアイディア・ストーリー・ネーミング・デザインを担当するという明確な役割分担のもとで運営されている。

公式サイトには母娘それぞれのキャラクターが端的にまとめられており、シャンタルは「ノット・ソー・クラシック」(型破りな正統派)、アレクサンドラは「ノット・ソー・レベル」(反抗的でもない、でも自由な)と表現されている。


ブランドのこだわり

「香りは作曲である」という哲学

ロス アンド ロスの世界観を貫く軸は、音楽と香りの不可分な関係である。ブランド名に「ロス」が二度繰り返されるのは、単なる苗字の重複ではなく、この二つの要素が共鳴し合うことの象徴でもある。

「ブランド名は音楽と香水の類似性から生まれた。両者は目に見えないけれど、空気を変えることができる。どちらもノートとハーモニーで構成されている。」
— アレクサンドラ・ロス

そして、ニッチフレグランスとはどういうものかという問いに対し、アレクサンドラはこう答えている。「それは作者の香水。映画の世界で言えばアート映画のようなもの。マーケティングやセレブリティより、語り口と感情に集中する。調香師と一対一の対話をしながら、ストーリーや感情を伝え、その人に表現してもらう。まるで映画監督みたいにね」。

シャンタルもまた、ニッチフレグランスの創造をオートクチュールにたとえる。「自分自身の創造性を自由に実験できる点で、ニッチフレグランスのブランドを作ることはオートクチュールを作ることに似ている。かつては忘れられていた原材料を使える自由もある」と語っている。

素材へのこだわりと調香師との関係

ロス アンド ロスは、高価で希少な天然香料をふんだんに使用することを基本姿勢としている。香りの創造に際し、調香師には大きな自由が与えられる。公式サイトには「調香師がオルファクトリーの形式や素材の選択において一切の妥協をすることなく、美しい香水を想像する自由」と記されている。

ブランド立ち上げ当初から主軸を担う調香師は、グラース出身のファブリス・ペルグランである。ティエリー・ミュグレーの「ウーマニティ」をはじめ、ジョー・マローン、ディプティック、パルファン・ドゥ・マルリーなど、数々のニッチブランドや大手ブランドで傑出した作品を残してきた人物だ。彼は2021年、フランス香水業界の権威ある賞「フランソワ・コティ賞(第14回)」を受賞している。

後のコレクション「レ・サンプル」では、ドミニク・ロピオン(Dominique Ropion)やニコラ・ボンヌヴィル(Nicolas Bonneville)といった一流の調香師も参加し、ブランドの表現の幅を広げている。

ボトル・パッケージデザイン

コレクションによってボトルデザインのアプローチが異なる点も、ロス アンド ロスの特徴のひとつだ。「レ・ザクスクルジフ(Les Exclusifs)」コレクションでは、アーティストがデザインしたボトルに傑出した香りを収めるというコンセプトが採用されている。

一方、後述の「レ・サンプル」コレクションでは、エコデザインが全面に押し出されている。軽量ガラスのボトル、コルクと木材を使用した完全堆肥化可能なキャップ、リサイクル紙を用いたパッケージと、パッケージ全体で自然と調和する姿勢が貫かれている。

女性への連帯と社会的コミットメント

ロス アンド ロスは、女性の権利擁護団体「ラ・フォンダシオン・デ・ファム(La Fondation des Femmes)」への支援を公式に表明しているブランドでもある。2019年3月8日(国際女性デー)以降、オンライン販売の香水売上の10%をこの財団に寄付し続けている。財団の会長アン・セシル・メルフェールとの出会いが、シャンタルとアレクサンドラに「ブランドを通じた行動」を決意させたという。


香水ラインナップ

ロス アンド ロスのコレクションは、大きく「オリジナル コレクション」「レ・ザクスクルジフ」「レ・サンプル」の3系統に整理できる。

オリジナル コレクション(Original Collection)

2014年のブランド立ち上げ時に発表された最初のコレクション。当初は「ディア・ローズ」という名称で展開されており、グラースを拠点とする調香師ファブリス・ペルグランが全5作品を手がけた。バラ・音楽・女性という三つの要素を軸に、一つひとつの香りにストーリーが宿るよう設計された。

代表的な作品を以下に挙げる。

  • ア・カペラ(A Capella):バラのつぼみのアブソリュート、アイビー、ホワイトウッドで構成。「楽器なしの純粋な声のように、露のかかった朝のバラ畑を表現した香り」というコンセプトで、当初からのベストセラーとなっている。
  • ニンフェッサンス(Nymphessence):「川のほとりの妖精」をイメージしたフローラル・フルーティー・ウッディの香り。ベルガモット・ペアー・マンダリンのトップに始まり、フリージア・マグノリア・オレンジフラワーのハート、アンバーグリス・ホワイトムスクのベースへと展開する。これもロス アンド ロスを代表するベストセラーの一作。
  • ブラッディ・ローズ(Bloody Rose):イランイラン・オレンジフラワー・インセンス・パチョリで構成。「白いバラをまとって部屋に入り、誰もが振り返るような官能的な女性」をイメージしている。
  • シンパシー・フォー・ザ・サン(Sympathy for the Sun):コートダジュールの夏の記憶と、シャンタルが「エスペリアの花、塩気のある木、風、帆の香り」と表現した南フランスの風景から着想を得た作品。
  • メンタ・レリジオーザ(Mentha Religiosa):ペパーミントとベルガモットのトップに、インセンス・アイリスのハート、シダーウッドとホワイトムスクのベースが続く。「宗教的な祈りの場にある神秘的な女性」をイメージしており、名称は「カマキリ(mante religieuse)」との言葉遊びでもある。アレクサンドラがもっとも愛着を持つ作品の一つとして挙げており、フィフィ・アワード(※後述)を受賞している。

レ・ザクスクルジフ(Les Exclusifs)

アーティストが手がけたボトルデザインが特徴の、よりアヴァンギャルドな路線のコレクション。最高級の原材料をアヴァンギャルドなアコードで表現した作品群で、公式サイトには5作品が現在掲載されている。

レ・サンプル(Les Simples)

2022年に発表された、エコ・レスポンシビリティを全面に掲げたコレクション。「サンプル(simples)」とは、中世の修道院で修道士たちが薬用・治療用に栽培した芳香植物のことを指す。この伝統へのオマージュとして、アブサン(ニガヨモギ)・ユーカリ・アンジェリカ・ネットルを主役に据えた全4作品が展開される。全作品が100%ヴィーガン処方を採用。参加調香師はファブリス・ペルグラン、ドミニク・ロピオン、ニコラ・ボンヌヴィルの3名。

なかでもマラマタ(Malamata)はドミニク・ロピオンによる作品で、ネットル(イラクサ)の青々とした緑を起点に、ローズ・スズラン・パチョリへとつながる構成が「驚きと魅力の対比」として高く評価されている。

ちなみに…

  • 「シンパシー・フォー・ザ・サン」とベルベット・アンダーグラウンド:ロス アンド ロスの香水には、音楽へのさりげない敬意が込められているものがある。「シンパシー・フォー・ザ・サン」は、アレクサンドラが10代の頃から愛聴してきたベルベット・アンダーグラウンドの名曲「ペイル・ブルー・アイズ(Pale Blue Eyes)」から着想を得た作品だ。偶然にも、シャンタルとアレクサンドラの双方の目の色は淡い青(ペイル・ブルー)であるという。親子の目と愛する音楽と南仏の光が重なり合う、小さくも美しい物語が香りの背景に息づいている。
  • フィフィ・アワード(FIFI Award)受賞:「メンタ・レリジオーザ」がフィフィ・アワードを受賞し、さらに2023年のフランス・フレグランス・ファウンデーション・アワードでは「マラマタ」が独立ブランド部門最優秀香水賞(Best Perfume from an Independent Brand)を受賞している。同年の最終選考にはエフレデリック・マルやメゾン・フランシス・クルジャンも名を連ねており、受賞の重みが伝わる。
  1. NOSE SHOP プレスリリース「ロス アンド ロス日本初上陸」 – https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000035.000024774.html
  2. Alexandra Roos インタビュー(ESSCA Online Campus) – https://esscaonlinecampus.edu.eu/alexandra-roos-co-founder-of-the-niche-fragrance-brand-roos-roos/
  3. The Perfume Society「Roos & Roos」ブランド紹介 – https://perfumesociety.org/perfume-house/roos-and-roos/
  4. NOSE SHOP ブログ「ロス アンド ロス日本初上陸」 – https://noseshop.jp/blogs/blog/230127-roos-roos-debut
  5. The Perfume Society「Chantal Roos Memories」インタビュー – https://perfumesociety.org/chantal-roos-memories/
  6. Roos & Roos 公式サイト「The Creators」 – https://roosandroos.fr/en/pages/les-creatrices
  7. Euronews「Crafting a niche perfume brand」 – https://www.euronews.com/2018/05/28/the-story-behind-crafting-french-perfume-brand-roos-roos
  8. Moodie Davitt Report「YSL Beauté: The house that Roos rebuilt」 – https://moodiedavittreport.com/ysl-beaute-the-house-that-roos-rebuilt-270106/
  9. The Candy Perfume Boy「Roos & Rose – Dear Rose Collection Perfume Review」 – https://thecandyperfumeboy.com/2014/12/12/roos-rose-dear-rose-collection-perfume-review/
  10. The Art Gorgeous「Meet Roos & Roos」 – https://theartgorgeous.com/meet-roos-roos-coolest-mother-daughter-perfume-duo-paris/
  11. La Fragrance Foundation(FR)「Nez à nez avec Chantal Roos」 – https://www.fragrancefoundation.fr/2020/12/nez-a-nez-avec-chantal-roos/
  12. Roos & Roos 公式サイト「La Fondation des Femmes」 – https://roosandroos.fr/en/pages/fondation-des-femmes
  13. Auparfum「Avec Les Simples, Roos & Roos cultive son jardin」 – https://auparfum.bynez.com/parfum-avec-les-simples-roos-roos-cultive-son-jardin-5235
  14. CaFleureBon「Roos & Roos Malamata review」 – https://cafleurebon.com/roos-and-roos-malamata-dominique-ropion-plus-the-nettles-kiss-giveaway/
  15. CaFleureBon「Fragrance Foundation France Awards 2023 Winners」 – https://cafleurebon.com/the-fragrance-foundation-france-awards-2023-winners/
  16. Roos & Roos 公式サイト「Our Perfumes」 – https://roosandroos.fr/en/pages/parfums
  17. Wikimonde「Alexandra Roos」(ディスコグラフィー) – https://wikimonde.com/article/Alexandra_Roos
  18. Fragroom「Fabrice Pellegrin」 – https://fragroom.com/tag/roos-roos-mentha-religiosa-edp/
この記事を書いた人
Root

香りの学び場「ルシェルシェパルファム」の運営者。
元香水販売員で、現在はとあるIT企業の管理職。
香水への愛が抑えきれず、自身の学んだことをはきだすサイトを作ってしまう。エルメス・フレデリックマルを主に愛用。

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