GUERLAIN(ゲラン)|シャンゼリゼに受け継ぐ香りの殿堂

ゲラン シャンゼリゼ68番地の階段と鏡壁を参考にしたイラスト

ブティックもまた、私たちの物語の大切な一部です。

ローラン・ボワイヨ

ゲランの専門店展開を率いたローラン・ボワイヨが重視したのは、店そのものが伝えるメゾンの歴史だった。シャンゼリゼ通り68番地では香水瓶の蜂や太陽の意匠が建物にも広がり、香りを選ぶ時間がメゾンの歴史に触れる時間になる。1914年に開かれたこの店は、香水を売る場所であると同時に、ゲランが美しさをどう考えてきたかを伝える舞台でもある。

店舗のはじまり

ピエール=フランソワ=パスカル・ゲランが最初の店を開いたのは1828年。場所はシャンゼリゼではなく、パリのリヴォリ通りだった。香水や化粧品を扱う店には、パリの洒落者や英国からの客が集まるようになる。1853年には皇妃ウジェニーのために《オー デ コロン アンペリアル》を制作し、帝政の象徴である蜂を刻んだボトルが生まれた。

1914年、ゲランはシャンゼリゼ通り68番地へ進出する。ここには店舗だけでなく、事務所、研究室、家族の住まいも置かれた。香りをつくる仕事と、それを届ける仕事、家族の日々の暮らしが一つの建物に重なっていたのである。

開店を祝ってジャック・ゲランが用意した香水には、バカラ製の亀のボトルが選ばれた。工事がゆっくり進んだことにちなんだ、少しユーモラスな記念品だった。重厚な建物の歴史には、こうした家族の仕事場らしい挿話も残る。

1939年には上階に美容のためのインスティテュが誕生した。さらに2013年、建築家ピーター・マリノによる改装で売場が拡張される。古い意匠を保存しながら新しい空間を加え、香水、化粧品、美容の時間を一つの住所で楽しめる店へと育ってきた。

店づくりの考え方

瓶の意匠を建物へ

68番地の改装では、歴史ある大理石の空間が出発点になった。マリノは、既存の八角形の売場に用いられた12種類の大理石を受け止め、異なる石を組み合わせることで新旧をつないだ。

大理石の中に大理石を組み込むというテーマに、変化をつけてみたのです。

ピーター・マリノ

四隅のカウンターの上にはクリスタルのシャンデリアを配し、波打つ鏡の天井に光を映す。蜂、太陽、蘭といったゲランの意匠も空間に散りばめられた。商品を飾るためだけの背景ではなく、瓶や化粧品の中にあったかたちが、建築の大きさへと広がっている。

一つの瓶を使い続ける

ゲランの店では、香り選びに加え、ボトルを自分のために仕上げる体験も大切にされている。刻印や蜂のボトルのパーソナライズ、そして中身を使い終えた後のリフィル。最初の購入で終わらず、店を訪れる理由が続いていく。

サステナビリティ部門を立ち上げたサンドリーヌ・ソメールは、香水ファウンテンと蜂のボトルの関係をこう説明している。

もともと詰め替え可能だった蜂のボトルは、香水ファウンテンによって、何度でも詰め替えられるようになりました。

サンドリーヌ・ソメール

長く手元に残したい瓶を選び、中身を補いながら付き合っていく。そのための相談や仕上げを引き受けることも、ゲランのブティックの役割なのだ。

訪れたい店舗

シャンゼリゼ68番地

白い大理石の入口には、ジェラール・ショロによる金色の蜂のインスタレーションが迎える。高さ7メートルの吹き抜けに蜂の群れが浮かぶ構成は、1853年のボトルから続く象徴を、身体を包むほどの大きさに変えたものだ。

階段を上がると、波打つ鏡に金色の真鍮を組み合わせた回廊へ続く。鏡の中で光と人の姿が揺れ、歴史的な階段と現代の装飾が隣り合う。個別の香水相談のために設けられたサロンには、麦わらの寄木細工で太陽の意匠が描かれた。大きな売場から静かな相談の場まで、同じメゾンのモチーフが素材を変えて現れる。

ゲラン シャンゼリゼ68番地の階段と鏡壁を参考にしたイラスト
ゲラン シャンゼリゼ68番地の階段と鏡壁を参考にしたイラスト

上階のランスティテュ・ゲランには、9つのトリートメントルームとくつろぎの場が設けられている。香水の相談やボトルのパーソナライズ、リフィルに加えて、肌や身体のケアをゆっくり受ける時間も持てる。建物を眺める楽しみと、ゲランの仕事を体験する楽しみが重なる一軒だ。

ヴァンドーム

サントノレ通り356番地のヴァンドーム店は、香水に向き合うためのもう一つの拠点。2017年に開かれたこの店には、香水を専門に伝える「ゲラン パフュマー」の考え方が生かされている。

香りの個別相談をしながら、蜂のボトルの仕上げや刻印を選べるほか、リフィルにも対応する。歴史的な建物を巡る68番地の楽しみとは少し違い、自分に合う香りや贈り物をじっくり形にしたいときに訪れたい店である。

フラン・ブルジョワ通り

マレ地区のフラン・ブルジョワ通りにも、香水と美容を一緒に楽しめる店舗がある。ボトルのパーソナライズやリフィルに加え、フェイシャリストによるケアのための空間を備える。香りを選ぶ相談と肌のケアを同じ場所で受けられるのが、この店を訪れる理由になる。

ドバイ・モール

ドバイ・モールの旗艦ブティックには、香りや美容の相談のためのプライベートラウンジと、フェイシャルのための専用空間がある。香水瓶を見比べる売場から、一人ひとりの好みや肌に向き合う場所へ。店の中に、過ごし方の異なる空間を用意している。

自分に合う香りを探す個別相談に加え、フェイシャリストから日々のケアや手の動かし方を学ぶ相談も受けられる。香水と美容を切り離さず、使う人の暮らしへつなげる。シャンゼリゼで育まれてきたゲランの店の役割は、この街にも広がっている。

ゲラン(Guerlain)― 香りの王朝、198年の軌跡
「調香とは、忍耐の問題である。」— ジャック・ゲラン(Jacques Guerlain)

参考文献