Frédéric Malle(フレデリック・マル)|香水にふさわしい住まいをつくる

フレデリック・マルのカンボン通り店。青い壁、淡い石のアーチ、円柱型テーブルを描いたイラスト。

私には二つの目標があります。優れた芸術家たちに完全な自由を与えること。そして、お客様がその作品を発見できる場所を持つことです。

フレデリック・マル

2000年6月、フレデリック・マルはパリのグルネル通りに最初の香水店を開いた。調香師を作家として紹介し、その作品を届ける「香水の出版社」の出発点である。マルが必要としたのは、自由につくられた香水と、それをじっくり選べる場所だった。

その後、パリ、ニューヨーク、ローマ、上海などに異なる姿の店が生まれた。自宅のように迎える部屋もあれば、鏡によって距離感を揺さぶる空間もある。作品の個性を伝えるために、店そのものにも個性が与えられてきた。

店舗のはじまり

調香師と顧客をつなぐ店

マルは香料会社ルール・ベルトラン・デュポンで、調香師たちと仕事を重ねた。優れた作り手がいても、市場調査に合わせた注文ばかりでは個性を発揮しにくい。一方、香水を愛する人々も、似通った商品から離れていく。その両者を再び結びつける役割を、自分が担えないかと考えた。

出版社が作家と作品を選ぶように調香師と向き合い、制作を支え、出来上がった香水を世に送り出す。その構想を形にしたのが、エディション ドゥ パルファム フレデリック マルである。ボトルには作品名と作者の名前を掲げ、店では来店者が自分に合う作品を見つけられるようにする。制作と販売は、初めから一つの仕事として結びついていた。

旧グルネル通り店

最初の店は、サン=ジェルマン=デ=プレ地区に近いグルネル通り37番地に置かれた。約58平方メートルの室内を、マルは自分のパリの住まいの延長として構想した。自身も長い時間を過ごし、友人を迎える場所だからこそ、通りの騒がしさから離れて落ち着ける部屋にしたかったのである。

アンドレ・プットマンの助言を受け、オリヴィエ・ランプルールとともに整えた室内には、木の壁面とコンクリートの床が組み合わされた。木の使い方はカルロ・スカルパによるパレルモのアバテリス宮殿の展示、床はニューヨークの現代美術ギャラリーが着想源となった。

ジャン・プルーヴェの家具、アフリカの美術品、写真や版画など、マル自身の好みも持ち込まれた。様式を揃えるより、異なる物が同じ部屋で調和することを重視した空間だった。

店舗の上階には小さな仕事部屋があり、試作の記録が積み重ねられていた。売場の近くで香水づくりも続くこの店には、編集者と顧客の距離の近さが表れている。旧グルネル通り店は現在閉店しているが、自宅へ迎えるような店づくりは、後の店舗にも受け継がれた。

店づくりの考え方

香りそのものに向き合う

作品のイメージを先に決めてしまわず、実際の香りから自分との関係を探してもらう。マルが大切にしたのは、そのための余白である。

私はできるだけ中立な立場で、人々には香りそのものにしっかり目を向けてほしかったのです。

フレデリック・マル

旧グルネル通り店では、香りを確かめる円柱型の装置「コロンヌ・ア・サンティール」も導入された。香水を見せる家具の中に、試すための道具を組み込む。スタッフとの対話も含め、来店者自身が選ぶまでの過程を支える店であった。

書店のような展示と、街ごとの建築

作者を示すボトル、作品を収める本棚のような展示、壁に並ぶ調香師の肖像。出版社という考え方は、香水の並べ方にも表れている。箱の意匠にはフランスの出版文化が取り入れられ、香水の赤と、2009年に始まったホームフレグランスの青という色分けも生まれた。

共通する考え方があっても、建築の答えは一つではない。ニューヨークではスティーヴン・ホールやパトリック・ナガー、上海ではシギュなど、異なる建築家やデザイナーが空間を手がけた。香水を選ぶ仕組みを保ちながら、その街や建物に合う場所をつくる。パリのマレ店とカンボン通り店にも、その違いがよく表れている。

訪れたい店舗

マレ店

フラン・ブルジョワ通りのマレ店を手がけたのは、ドミニク・ヤコブとブレンダン・マクファーレンである。マルは以前から二人が設計したポンピドゥー・センターのレストラン「ジョルジュ」を気に入っていた。マレのフロランス・ルウィの書店を再訪したことも、この地区に自分の店をつくる着想につながった。

構想されたのは、歴史ある建物の中に鏡の箱を差し込み、その中に島が浮かぶような空間である。展示の構造が反射の中へ続き、実際の部屋の輪郭を捉えにくくする。

店に入って最も驚くのは、どこで空間が終わるのか分からないことです。

ブレンダン・マクファーレン

約24平方メートルの小さな店に、反射する壁と磨かれたステンレスの天井、艶を抑えたステンレスの床を組み合わせた。木製の棚には一つの香水も作品群も展示でき、中央の四つの小さなテーブルでは座って試香できるようにした。

照明は、瓶の下から照らす小さなLED、棚の背後からの光、天井のスポットという三層で設計された。朝から夕方へ明るさを変える制御も取り入れ、鏡と光の中でゆっくり香りに向き合える場を目指した。面積の小ささを単に隠すのではなく、香水が別の感覚へ誘うことを建築でも表している。

カンボン通り店

カンボン通り10番地の店は、近くにあったモン・タボール通り店の移転先である。旧グルネル通り店とは別の店舗の歩みを持つ。

約70平方メートルの空間では、建物に残るベージュの石造アーチと、床・中央什器をつなぐテラゾーが目を引く。明るいオーク材の棚に、金属の試香装置が光る。赤と青を使い分け、香水と住まいの香りを一つの店の中に配置した。

フレデリック・マルのカンボン通り店。青い壁、淡い石のアーチ、円柱型テーブルを描いたイラスト。
カンボン通り店の内装(イラスト)

展示には、異なる選び方が用意された。香水を気分や印象から探す分類に加え、相談デスクの隣には調香師ごとに作品を集めたライブラリーがある。気になる一本から作者を知ることも、好きな調香師から別の作品へ進むこともできる。

青い一角はキャンドルや室内用スプレーなどのホームフレグランスに充てられた。身体にまとう香りから、暮らす場所の香りへ。同じ作者たちの世界を、使う場面を変えながら見ていける店である。

Frédéric Malle
フレデリック・マル
フレデリック・マルの生い立ちと、香水ブランドÉditions de Parfums創設の背景を解説。調香師との協働と代表作を紹介します。

参考文献