「私は自分を『香りのハンター』と呼ぶのが好きです。」
アントニオ・デ・フィゲイレド
パリのマレ地区、マルシェ・サント=カトリーヌ広場に面した赤い店構え。その奥にあるマリー・アントワネット(Marie Antoinette)は、歴史ある香水メゾンと現代の作り手をともに紹介するマルチブランドの香水店である。店主アントニオ・デ・フィゲイレド(Antonio de Figueiredo)が選んでいるのは、香りだけでなく、それを人に語りたくなる理由でもある。
基本情報
- 開店:2007年12月1日
- 創業者・店主:アントニオ・デ・フィゲイレド
- 所在地:5 rue d’Ormesson, 75004 Paris, France
- 業態:複数のメゾンを扱う独立系香水専門店
- 公式サイト:Marie Antoinette Paris
ホームフレグランスの店から香水専門店へ
ワインの勉強とフラパンとの再会
アントニオはホテル学校でワインを専門に学び、ホームフレグランスの店でも3年間働いた。2007年に自分の店を開いたとき、主役はまだ室内を香らせる品々だった。場所はかつて靴修理店だった小さな区画。公式サイトが伝える広さは約12平方メートルである。
美しい場所ではあっても、人通りに恵まれた通りではなかった。店の個性をより明確にする必要を感じていた彼に、転機をもたらしたのがフラパンの香水だった。学生時代のテイスティングで出会ったコニャックの名が、香水として再び目の前に現れたのである。ワインを学んだ過去と、新しい商いがここでつながった。
やがてパルファン・デンピール、ロベール・ピゲ、ドルセーなどを加え、肌につける香水へと軸足を移していく。一方、開店時からのクラウス・ポルトには、祖父がそのコロンを使っていたという個人的なつながりがあった。新しい店をつくる仕事の中に、故郷ポルトガルの記憶も残されていた。
祖母マリアとアントニオを合わせた店名
王妃を連想させる店名の出発点は、祖母マリアと自分の名アントニオである。そこに王妃のイメージも重なる。祖母は家族のためにバラのコロンをつくっていた。公式サイトも、幼い彼に祖母がバラのコロンを振りかけた記憶を、店の由来として伝えている。
この店を理解する鍵は、豪華な王宮の再現よりも、香りと人の記憶の近さにある。店主自身の家族の香りが店名になり、店頭では来訪者それぞれの記憶が会話の入口になるのである。
作り手と愛好家が集まる場所
小さな店は、作り手と直接会う場にもなった。2012年には、調香師アンディ・タウアーが「ミリアム」を紹介する集まりが開かれている。映画と香水を結びつけたプロジェクトの作品を囲み、本人の説明を聞く催しだった。店主と調香師が来訪者を迎えた当日の記録には、さまざまな国の香水、ポルトガルの石けんやコロン、作り手の肖像が同じ空間に並ぶ様子も残る。
棚の向こうにいる人を紹介するという仕事は、ここでは抽象的な理念ではない。瓶を手渡す店でありながら、ときには、その香りをつくった本人の言葉に接する場所にもなる。
歴史あるメゾンと現代の作り手を結ぶ選品
香りの個性と、作り手の姿勢
「私は必ず作り手たちに会います。」
アントニオ・デ・フィゲイレド、2015年
アントニオの選品には、香りのはっきりした個性に加え、作り手の取り組み方が関わっている。2015年の本人の言葉と、現在の公式サイトの分類を合わせると、歴史あるメゾンへの関心と、いま活動する創作者への関心が並行していることが分かる。
2026年10月時点の公式「Nos Maisons」には、オリザ・ルイ・ルグラン、ウビガン、ロベール・ピゲ、イザベイ、ルビン、ル・ガリオンなどが掲載されている。歴史を持つ名前だけを集めた店でもない。パルファン・デンピール、イストワール・ドゥ・パルファン、マルク=アントワーヌ・バロワ、オルファクティヴ・ストゥディオ、ヘッドスペースなども並ぶ。
たとえばバロワは、クチュールの作り手と調香師クエンティン・ビシュの協働を紹介するメゾン。オルファクティヴ・ストゥディオは、写真と香水を出会わせる発想を持つ。異なる創作の入口を持つブランドを、同じ店で見比べられる。複数の著名なニッチメゾンを扱う店として訪ねる意味は、この幅にある。ここで挙げた名称は公式の取扱紹介であり、個々の商品の当日在庫や全作品の試香を保証するものではない。
少数のブランドを、十分に伝えるために
2015年、アントニオはブランド数を減らして、一つひとつをもっとよく紹介したいと語っていた。当時の目標は最大15ブランド。これは現在の取扱数ではなく、その時点の方針である。小さな棚を際限なく埋めるより、そこで何を伝えられるかを考える選択だった。
古い名前の香水と現代の作品が並ぶ店内を、2025年のIRK Magazineも写真付きで紹介している。伝統か新しさかの二者択一ではなく、時代をまたいで香水を見るための棚。それがこの店の輪郭である。
物語を交え、肌で比べる接客
香料名の説明から、情景の会話へ
「私は成分については決して話さず、物語を語るほうを好みます。」
アントニオ・デ・フィゲイレド、2015年
彼が香りを説明するときには、時代や場所のイメージが登場する。ただし、そのすべてがブランドの公式な制作物語ではない。本人が香水を身につけて生まれた想像も含まれる。作り手の着想を伝えることと、嗅いだ人が自分の情景を持つこと。その両方を許す接客なのである。
2015年に説明した試香の進め方では、まず直感で一本を選び、続いて別の候補を提案する。絞った二つは手首で比較してもらう。最初から好みの香料や愛用品だけに候補を限定せず、目の前の人と香りの反応を見ていく方法だった。
「あなたの嗅覚の記憶は、いつも正しいのです。」
アントニオ・デ・フィゲイレド
同じ瓶から誰もが同じ景色を思い浮かべる必要はない。この短い言葉は、店主が語る物語に従うだけでなく、自分の記憶で香りを受け止めてよいことを伝えている。
現在の個別試香と店舗
現在の公式サイトには、店を1時間30分貸し切る、最大4人の「rendez-vous olfactif」も案内されている。これは香水を選ぶための個別の機会であり、オーダーメイド香水の制作サービスとしては紹介されていない。通常の店舗紹介と区別し、予約や条件は店へ問い合わせる形である。
住所はパリ4区のオルメッソン通り5番地。約12平方メートルという小ささを出発点にしたこの店の面白さは、数多くの瓶を一度に試すことだけにはない。古いメゾンと新しい作り手の間を、アントニオの経験と言葉を手がかりに行き来できる点にある。
歴史年表
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2007年12月1日 | マレ地区で開店。当初はホームフレグランスが中心。 |
| 開店後 | フラパンとの出会いを転機に、肌につける香水の選品を広げる。 |
| 2012年 | アンディ・タウアーによる「ミリアム」の紹介イベントが開かれる。 |
| 2015年 | 本人インタビューで、作り手に会う選品と物語を交える接客を語る。 |
| 2025年 | IRK Magazineがオルメッソン通り5番地の店舗を写真付きで紹介。 |
| 2026年10月 | 公式サイトに歴史あるメゾンと現代ブランドの取扱、最大4人の個別試香を掲載。 |
参考文献
- Antonio de Figueiredo : “J’aime me définir comme un chasseur d’odeurs” — Clara Muller/Auparfum、2015年7月16日
- Marie Antoinette Paris — 公式沿革・店主紹介・個別試香
- António de Figueiredo from Marie Antoinette – Aftermath of Pitti Fragranze — Miguel Matos/Fragrantica、2015年
- Presentation of Miriam by Andy Tauer in Paris — Elena Knezevic/Fragrantica、2012年
- Nos Maisons — 公式取扱メゾン一覧
- Marc-Antoine Barrois — 店舗公式ブランド紹介
- Olfactive Studio — 店舗公式ブランド紹介
- Parfums de niche à Paris : 5 boutiques à connaître — IRK Magazine、2025年


