「消費者に何か違うものを、まったく新しい体験を届けようとしたのです。」
ニック・スマート、創業者・CEO
旅先で出会った香水が、自分の国では見つからない。オーストラリアの香水店、Libertine Parfumerie(リバティーン)の出発点には、その隔たりがあった。2008年にブリスベンで始まった店は、海外の香水を並べるだけでなく、その背景を伝えるスタッフと、実際に嗅いで学ぶ機会を育ててきた。
その歩みをたどると、ニッチ香水が知られていなかった市場で、一人ずつ好みを聞く仕事が見えてくる。ここで扱うのはオーストラリアの小売店であり、カナダの香水ブランド、Libertine Fragranceとは別の事業である。
基本情報
- 名称:Libertine Parfumerie(リバティーン)
- 創業:2008年、オーストラリア・ブリスベン
- 創業者:Nick Smart(ニック・スマート)
- 事業:ニッチ香水、ホームフレグランス、バス・ボディ製品などの専門小売。香水輸入・流通会社Agence de Parfumの小売部門
- 公式サイト:Libertine Parfumerie
創業者と店の成り立ち
法律を学びながら始めた精油販売
スマートは弁護士である。香りへの関心は、香水店よりも前から続いていた。1990年代、法律を学ぶ費用を賄うため、ブリスベンのマーケットで精油を販売した。イタリアからレモンなどの柑橘の精油をまとめて輸入し、友人に包装を任せる仕事だった。
法律の仕事をするようになってからも関心は消えず、フランスへの旅ではグラースを訪ねた。海外で出会う香水のなかには、オーストラリアでは買えないものがあった。香りを楽しむ個人的な経験が、やがて輸入と小売の仕事へ向かっていく。
コスチューム ナショナルとの出会いと2008年の創業
事業への具体的なきっかけは、ニューヨーク出張とコスチューム ナショナルだった。スマートは「セント インテンス」を使い、そのブランドをオーストラリアへ紹介したいと考えた。2008年、リバティーンと、ニッチ香水を専門に扱うAgence de Parfumを立ち上げる。
2025年の公式企画でも、スマートはコスチューム ナショナルを最初に契約したブランドと位置づけている。輸入元として海外の作り手と関係を結ぶことと、小売店でその香りを客に手渡すこと。この二つが、事業の両輪になった。
最初から、専門店としての売り方が出来上がっていたわけではない。国内の流通業者との取引を経て、スマートはブランドへ直接働きかけた。
「情熱を売ったのです!」
ニック・スマート、2017年
だが、知られていない香水を紹介する仕事は簡単ではなかった。スマートは当初の4年間、赤字が続いたと語っている。スタッフを育て、一人の客に一つずつ紹介する。そのなかで何が不可欠だったのかを、彼は短く言い切った。
「サンプルが鍵でした。」
ニック・スマート、2017年
百貨店への展開と、自宅で嗅ぐ講座
2018年、創業10周年の年に、リバティーンはMyerの6拠点でショップ・イン・ショップを展開した。独立した路面店の接客を、百貨店の売場へ持ち込む試みである。
対面以外の道が大きく開いたのは2020年だった。教育責任者マイケル・マルツァーノによると、同年春、ジュリエット ハズ ア ガンを題材にした最初のオンライン講座に30人が参加した。サンプルを先に送り、自宅で同じ香りを嗅ぎながら話を聞く。彼は、この講座がコロナ禍を乗り越える支えになったと説明している。
一度参加して終わるのではなく、別のブランドを知るために戻ってくる人が生まれた。試香と教育は、商品説明の付属物から、香水に関心を持つ人が集まる継続的な場へ広がったのである。
シドニー、そしてメルボルンの旗艦店へ
2023年10月、シドニーのパディントンに旗艦店が開いた。スマートが「15年来の夢の実現」と呼んだ店で、内装はタムシン・ジョンソンが手がけた。ウィーンやミラノ、フランスの古い薬局を思わせる造作に、濃い色のオーク材、寄木の床、ヴィンテージの家具が組み合わされた。
中央の中庭は、前方の売場と奥のVIPルームを分ける。大きなフレンチドアを開けて外気を入れられる構成には、多くの香水を嗅ぐ空間としての意味もあった。装飾の豊かさと、鼻を圧倒しない空間の余裕を両立させようとした店である。
2026年にはメルボルンのアーマデールにも旗艦店が加わる。ジョンソンとの協働は続き、座って相談できる場所や、ブランドごとの展示を備えた店づくりへ展開している。
リバティーンの歴史年表
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1990年代 | スマートが法律を学びながら、ブリスベンのマーケットで精油を販売。 |
| 2008年 | ブリスベンでリバティーンを創業。Agence de Parfumも同年に設立。 |
| 2018年 | 創業10周年。Myerの6拠点へショップ・イン・ショップを展開。 |
| 2020年春 | ジュリエット ハズ ア ガンのオンライン講座を開始。 |
| 2023年10月 | シドニー・パディントンの旗艦店が開店。 |
| 2026年 | メルボルン・アーマデールに旗艦店を開店。 |
選品と接客、香水を学ぶ仕組み
歴史あるメゾンと新しい作り手を同じ店で紹介する
リバティーンの公式紹介では、香水からホームフレグランス、バス・ボディまで60を超えるブランドを扱う。数世紀の歴史を持つメゾンと、新しい表現を試みるブランドを並べることが特徴だ。古さだけでも、目新しさだけでも選ばない。
2025年の「The Founder’s Edit」は、その変化を創業者自身の視点で示した企画だった。初期のコスチューム ナショナルやジュリエット ハズ ア ガンから、マティエール プルミエール、BDK、セルヨッフ、ニシャネへ。スマートは後者を新しい波として捉えている。これは各ブランドの創業順ではなく、リバティーンとオーストラリアの市場がどう変わってきたかを語る区分である。
そこには、部屋の香りも含まれる。2024年にスマートが挙げた個人的な好みには、アムアージュの「オナー マン」だけでなく、アスティエ・ド・ヴィラットのインセンスや、キャリエール フレールのトマトのキャンドルもあった。身体にまとう一本と、暮らす空間の香りが、同じ関心のなかに置かれている。
好みを聞き、候補を絞って肌で試す
マルツァーノが2025年に説明した接客は、来店の理由と、普段使っている香水を聞くところから始まる。Fragrances of the Worldが開発したアプリを使い、原料、スタイル、ブランド、香りの系統から候補を探す。選んだ香りは最大3つに絞り、許可を得て肌で試すという流れだった。
この背景にある香りの分類については、マイケル・エドワーズとFragrances of the Worldの記事でも紹介している。
2026年のアーマデール店でも、スタッフ教育では香水の背景や原料だけでなく、客の反応を読み、情報を与えすぎないことを重視している。
「目標は、すべてを一度に見せることではなく、選び抜き、案内することです。」
ニック・スマート、2026年
知識をたくさん話せることと、その人が選べるようにすることは同じではない。候補を絞る接客と、ゆっくり座れる店の設計は、同じ方向を向いている。
店頭講座とオンライン講座、それぞれの入口
2026年10月15日時点で、公式サイトは店頭・オンライン・オンデマンドの講座を案内している。パディントンでは個別相談と二人向け相談、パディントンとバーウッドではブライダル向け講座も用意されている。全店舗で同じ個別サービスが受けられるわけではない。
たとえば10月20日の「The Perfume Wardrobe Online Masterclass」は、複数の香りを使い分ける楽しみを扱う講座である。事前にサンプルパックが届き、専門スタッフの説明と同時に各自が嗅いで比べる形式だ。ブランドの世界を知る会と、テーマから複数の香水を比べる会では、学びの焦点が異なる。
ブリスベンの店では、すでに2019年の紹介記事で、香水史とフレグランスホイールを扱う講座が取り上げられていた。2020年は講座そのものの始まりではなく、自宅へ試香体験を届けるオンライン形式への転機として捉える必要がある。
愛好家が薦める理由と、体験のばらつき
オーストラリアの香水コミュニティでリバティーンが話題になる理由にも、サンプルと講座がある。Redditの試香先を集めたスレッドでは、自宅で複数の香水を嗅ぎながら説明を聞ける点が繰り返し薦められている。
一方、別の利用経験のスレッドには、品揃えや教育を評価する声とともに、講座用サンプルの不足や到着の遅れ、在庫表示への不満もある。匿名の投稿は個々の体験であり、店全体の品質を確定するものではない。それでも、香水好きが何を期待しているかは分かる。香りを手に入れることに加え、試すための準備と、理解を深める案内が求められているのである。
現在の店舗とオーストラリアでの役割
2026年10月15日時点の公式店舗案内には、ブリスベンのニューファーム店、シドニーのパディントン、チャッツウッド、バーウッド、メルボルンのアーマデールに加え、Myer内の売場などが掲載されている。案内はアデレード、パース、ニュージーランドのオークランドにも及ぶ。独立したブティックと百貨店内の売場を一律に数えると実態が見えにくいため、訪問先ごとに形態と取扱いを確かめたい。
主なブティックの現行住所は、ニューファームが181 Robertson Street、パディントンが140 Oxford Street、アーマデールが1023 High Streetである。
リバティーンが広げてきたのは、海外の香水を見つける場所と、それを嗅いで理解する機会だった。輸入・流通と小売を結び、路面店、百貨店、自宅での講座へと入口を増やした。その歩みには、香水の選択肢を増やすためには、選ぶ側の経験も育てる必要があるという、小売店ならではの仕事が表れている。
補足
開業地について、スマート本人の2017年・2020年の説明はブリスベンのウエストエンド、現行公式沿革はニューファームとしている。2008年の創業は共通するが、移転時期を確定できないため、本記事では両地点を一つの所在地として扱っていない。
参考文献
- The Founder’s Edit: Libertine’s Curated Perfume Set — Libertine Parfumerie、2025年11月19日
- About Us — Libertine Parfumerie
- Prince of perfume — Excess All Areas、ニック・スマートへのインタビュー、2017年7月20日
- 4 Tips to Improving a Person’s Sense of Smell — Caviar Feeling、ニック・スマートへのインタビュー、2020年6月5日
- Libertine Parfumerie: Australia’s Premiere Niche Fragrance Destination — Essencional、マイケル・マルツァーノへのインタビュー、2025年9月24日
- Libertine Parfumerie Opens in Sydney’s Paddington Stocking Luxury Fragrances — Broadsheet、2023年10月24日
- The evolution of luxury fragrance retail, according to Libertine Parfumerie — Inside Retail、2026年5月28日
- What’s On My Wishlist: Nick Smart — Urban List、2024年7月30日
- In-Store Services — Libertine Parfumerie
- The Perfume Wardrobe Online Masterclass 20 October 2026 — Libertine Parfumerie
- Libertine Parfumerie — Broadsheet、2019年4月1日更新
- A comprehensive list of where to buy fragrance samples in Australia — Reddit
- Experience with Libertine Parfumerie? — Reddit
- Libertine Stores — Libertine Parfumerie(現行店舗・サービスは2026年10月15日確認)


