このメゾンが体現するのは、寛大さに根ざしたオマーンの哲学と精神です。
ルノー・サルモン
クリエイティブディレクターのルノー・サルモンが大切にするオマーンの歓待は、アムアージュの香りだけでなく、客を迎える店にも息づいている。その原点が、マスカットのSABCOセンターにあるブティック。二層を貫く乳香の木の彫刻と、ゆっくり香りを選ぶためのサロンが、この土地から生まれた香水の世界へと誘う。
店舗のはじまり
アムアージュは1983年にオマーンで生まれた。始まりにあったのは、訪問する賓客へ贈る特別な香水をつくりたいという願いだった。調香師ギィ・ロベールによる男女の香水から、その物語が動き始める。
最初のブティックがSABCOセンターに開かれたのは1985年。後にブランドの会長を務めるサイイド・ハリド・ビン・ハマド・アル・ブサイディにとっても、家族と事業の歴史が重なる場所だった。
40年前、ここSABCOセンターで、アムアージュ初のブティックを開いたのです。
サイイド・ハリド・ビン・ハマド・アル・ブサイディ
その店は18か月にわたる改装を経て、2025年に再び扉を開いた。パリの設計事務所エロインが取り組んだのは、原点の住所を残しながら、オマーンの文化と新しい創作を空間に表すことだった。大きな彫刻を収める建築上の難しさと、香りを落ち着いて発見するための使いやすさを、同時に解く必要があった。
店づくりの考え方
乳香の風景を店の中心に
サルモンがSABCO店の中心に選んだのは、オマーンの乳香の木だった。ワディ・ダウカへの度重なる旅から着想し、その存在を象徴的な彫刻へ置き換えたのである。
乳香の木を、トーテムのような象徴として表すこと。
ルノー・サルモン
生木を置くのではなく、7メートルの木製彫刻として形にした。エロインが設計し、ウヴラージュ・パリが製作と構造の工夫を担ったこの木は、二層をまたいで枝を広げる。香水の原料として知っていた乳香が、見上げるほどの存在となって現れる。

香りを選ぶためのマジュリス
木の彫刻で視線を引いた後には、人と向き合うための静かな場所が続く。SABCO店のマジュリスは、オマーンの歓待の文化を取り入れたプライベートラウンジだ。個別の相談を通して、香りのつくりや違いをゆっくり知る時間を設けている。
設計では、彫刻を眺めることと、香水を試して話すことが一続きになるよう考えられた。大きな造形で終わらせず、その奥で客が腰を落ち着けられること。サルモンのいう寛大さは、空間の豪華さに加え、一人の客に向き合う時間にも表れている。
訪れたい店舗
マスカットのSABCO店
店の外からも、ガラス越しに乳香の木の姿を望める。二層にわたるファサードは、透明なガラスと淡いトラバーチン、荒く削った砂岩を組み合わせたもの。石の重さとガラスの軽さの対比が、内部の彫刻へ視線を導く。

店内では香水の各コレクションを試し、マジュリスで相談する時間を持てる。マスカットには製造拠点とビジターズセンターもあるが、SABCOは最初の店の歴史を受け継ぐ場所である。
ニューヨークのSoHo旗艦店
オマーンの風景を、別の都市と対話させたのが、2025年末に開いたスプリング・ストリートのSoHo旗艦店である。エロインが手がけた「ブリックフィールド」は、オマーンのタヌーフの赤い土と、マンハッタンの金属的な光を結びつける構想から生まれた。
細長い店内には、赤い煉瓦の壁が波打つように続く。シャンパン色の金属パネルが光を反射し、赤い大理石のテーブルに香水が並ぶ。奥で輝く太陽のような意匠は通りからも見え、客を内部へ引き込む。さらに奥にはマジュリスがあり、街の動きから少し離れて香りについて話せる。
Meatpackingのプティ・ブティック
ニューヨークでは、もう一つの小さな店も訪れられる。2024年にプリンス・ストリートで始まったプティ・ブティックのコンセプトは、SoHo旗艦店の誕生後、ミートパッキング地区のワシントン・ストリートへ移った。
こちらは石や土の粗い表情に、多彩な樹脂や金属を組み合わせた空間。クロード・J・シェーズが設計を担い、溶けたような姿のピューターの彫刻が香水の展示に用いられている。SoHoの赤い煉瓦と光の広がりに対し、小さな店内で素材の質感を近くに感じられるのが魅力だ。



