私は、この店に惚れ込んでいます。
エウジェニオ・アルファンデリー
エウジェニオ・アルファンデリーが初めてフィレンツェのこの店を訪れたのは、10歳のときだった。連れてきたのは曾祖母。後に共同所有者として経営に携わるようになっても、扉をくぐるたび、あの日と同じ安らぎを覚えたという。
ヴィア・デッラ・スカラにあるサンタ・マリア・ノヴェッラ本店は、香水を選ぶ場所と、修道院の薬房の記憶が重なり合う店だ。華やかな天井画や木の棚は、香水のためにつくられた装飾だけではない。それぞれに、礼拝し、薬草を調製し、客を迎えてきた時間が残っている。
店舗のはじまり
その起源は、1221年にフィレンツェへやってきたドミニコ会の修道士たちにさかのぼる。修道院で育てた薬草を用い、共同体の病人を世話するための調製品をつくった。1612年には薬局を外部の人々にも開き、修道院の仕事が街の人々と結びついていく。
客は当初、大回廊から薬局へ入っていた。転機となったのが1848年の大改装である。修道士ダミアーノ・ベーニのもと、建築家エンリコ・ロモーリが空間を整え、ヴィア・デッラ・スカラに面した現在の入口が設けられた。礼拝堂だった部屋は、大きな販売ホールへと生まれ変わる。
この時代のフィレンツェには、グランドツアーで英国や北ヨーロッパから旅人が訪れていた。店が迎えようとしたのは、貴族や外交官だけでなく、作家や旅を通じて文化を学ぶ人々でもあった。薬局として受け継いだ仕事に、遠方からの客を迎える場としての役割が加わったのである。
やがて製造の拠点は別の場所へ移ったが、歴史店舗は残された。礼拝堂や薬局を、ただ過去の姿として封じ込めるのではなく、その中で香りや石鹸を選べる店として使い続けている。
店づくりの考え方
つくる仕事も残す
本店の旧製造区域には、建築家フィリッポ・ブッレージの設計による博物館が設けられた。アルファンデリーがそこに残そうとしたのは、完成した商品の美しさだけではない。
かつて使われていた機械や器具を見せること。
エウジェニオ・アルファンデリー
蒸留器、石鹸製造の機械、青銅や大理石の乳鉢。香水瓶の外からは見えない、蒸留し、すりつぶし、加工する仕事を伝える道具が集められた。陶器のコレクションには、モンテルーポ産とされる42点のマヨリカ焼の薬壺も含まれる。棚に並ぶ器を見ていると、この場所が美しい売場である前に、ものをつくり、収め、手渡す仕事場だったことが分かる。
伝統の中で商いを更新する
歴史的な空間を守ることは、接客の方法まで変えないことではない。一般客への開放から400年を迎えた2012年、本店は人による商品案内に、カードと注文端末を組み合わせる仕組みを導入した。
スタッフの説明を受けた客はカードを受け取り、端末で商品や数量を選ぶ。部屋を巡った後にカードを渡すと、包装された品物を受け取れるという方式だった。香りを選ぶ対話と注文処理を分け、歴史的な部屋で過ごす時間を保とうとしたのである。
商業部門を担ったジャンルカ・フォアは、こうした事業の姿勢を端的に表している。
私たちは、革新と伝統を結びつけています。
ジャンルカ・フォア
古い建物を残しながら、その中で続く商いには新しい工夫を加える。サンタ・マリア・ノヴェッラの本店は、その両方を引き受けてきた場所だ。
訪れたい店舗
フィレンツェ本店のサラ・グランデ
本店でまず見上げたいのが、サラ・グランデの天井である。パオリーノ・サルティによる四大陸の寓意画は、製品が遠い土地へ届いていくことを表している。中世のヴォールト天井の下には、クルミ材のネオゴシック様式の棚とカウンターが置かれた。8基の棚は両開きと片開きが4基ずつ。建築と家具の年代が異なりながら、一つの整った売場に収まっている。
この部屋の前身は、1332年に商人ダルダーノ・アッチャイオーリが寄進したサン・ニッコロ礼拝堂だった。修道士の世話で病から回復した感謝が、礼拝の場となり、後に香りを選ぶ部屋へつながったのである。

アンティカ・スペツィエリア
1848年まで販売の中心だった古い薬局の部屋では、彫刻を施した棚やカウンターが印象に残る。天井の金色の竜、棚の中の器具や薬壺。サラ・グランデの大きなホールとは異なり、調製品を保管し、客に渡していた薬局の姿が身近に感じられる。現在はエルボリステリアとして、昔からの調製品やエリキシル、リキュールなどを扱う空間になっている。

サラ・ヴェルデと聖具室
緑の部屋、サラ・ヴェルデは、かつて蒸留設備を置いた仕事場だった。18世紀には客を迎える応接室となり、アルケルメスやチョコレートなどが振る舞われる場所へ変わった。壁紙の模様は、今もポプリの包装に受け継がれている。店で目にした意匠を、小さな箱として持ち帰れるのも、この本店らしい楽しみだ。
隣接する聖具室には、マリオット・ディ・ナルドによるキリストの受難のフレスコ画が残る。芳香蒸留水などの保管にも使われてきた部屋で、壁画の修復は2013年に完了した。礼拝のための建物と、香りを調製する場所。その二つの歴史が、同じ壁の内側に重なっている。
一本の香水を選びながら、天井を見上げ、棚の器具に目を留め、部屋ごとの役割をたどる。ここでは、商品を手に取ることと、その商品を生んだ仕事を知ることが、自然にひと続きになる。

参考文献
- Monocle — Inventory no.86 / On the scent
- Santa Maria Novella — Via della Scala 16
- Repertorio delle Architetture Civili di Firenze — Palazzo della farmacia
- Firenze Patrimonio Mondiale — Arte e Botteghe, pp.25–27
- Revista VPC — Eugenio Alphandery interview
- Entrepreneur — Scents and Sensibility
- Santa Maria Novella — フィレンツェ本店


