基本情報
販売事業者:株式会社モリヤマ(Moriyama INC.)
創業者:葛和建太郎(Kentaro Kuzuwa)
創業年:2018年
公式サイト:こちら
ブランド史
2018年1月19日、100年以上続く朱肉メーカー株式会社モリヤマは、パリで開催されたMaison&Objetの展覧会で香水ブランドのローンチをしました。それがÉDIT(h)(エディット)であります。5種類のオードパルファムと練り香水(ソリッドパフューム)、3種類のキャンドルから始まったエディットは、最初から世界を見据えて生まれました。
日光印
香水ブランド「エディット」をローンチした株式会社モリヤマは、元々、1905年、東京の駿河台に創業された朱肉などの印象商品を販売する清眞堂という名の店舗から始まりました。当時から「日光印」の名で売られていた朱肉は、天然素材を含んでおり、香料には独自で香道にも使われるアジア由来のものを使っています。これは朱肉を生産している会社の中でも世界でモリヤマだけのことでした。これが後に、エディットの香水の1つの強みとなります。
創業100周年を迎えた2005年、現在6代目代表取締役の葛和建太郎氏が入社し、間もなく6代目に就任します。
2012年には従来の無機顔料から有機顔料へと素材を変更し、さらに有機顔料の欠点も克服した業界初のオーガニック練朱肉を開発し、今も高級朱肉ブランドとして業界の最先端を走っています。
伝統と革新
朱肉メーカーが何故フレグランス事業を?とよく聞かれますが、全く突拍子もないわけではないんです。「ハンコを押す」関連製品だけで100年先は厳しいかもしれませんが、香りという副次的な要素を加えて、今後も必要とされるもの、使うことで新たな価値を生み出せるものを作ろうと思いました。ただ、香料に注目して新しいものを作ろうと計画した当初、商品はフレグランスではなく、「ルームフレグランスのように置いておくだけで香りが広がる朱肉」を考えていました。
葛和氏 fashionsnapインタビューより
両親ともに経営者の家系で育った葛和氏は、中学から大学まではラグビー漬けの日々を送り、同時にDJをするほどダンスミュージックが好きだったそうです。1998年に成城大学経済学部を卒業すると、大手レコード会社に就職し、3年目にはディレクターに抜擢されるほどの結果を残します。そして、株式会社モリヤマ100周年のタイミングで後継者として家業を継いでほしいと両親から告げられた葛和氏は、29歳でレコード会社を退職し、株式会社モリヤマに入社します。
入社後は、自身で朱肉のものづくりを社内の職人から学び、朱肉事業だけではなく、次の100年を続けるための新たなビジネスを考えます。葛和氏が注目したのは、日光印が朱肉に独自で使用している香料でありました。最初はルームフレグランスのように香りが拡散する朱肉を考えていましたが、依頼した調香師が持ってきた液体のサンプルを目にし、朱肉としてではなく、フレグランスとして新たなイノベーションを起こすことを決意します。こうして生まれたのが、香水ブランドÉDIT(h)(エディット)でありました。
判を押すっていうのはシグネチャー(署名)を残す行為ですが、香りもその人の雰囲気やキャラクターを構成する上で、目に見えないからこそ記憶や感覚に「残る」ものですよね。僕自身、同じ香水をずっと使っていた経験があるので、香りは個人を認識するシグネチャーになり得ると思っていて。そういうストーリーも納得できたので、フレグランスブランドとして新たに立ち上げようと決めました。
葛和氏 fashionsnapインタビューより
ブランドのこだわり
日本人の調香師と組んで生み出されているエディットの香水は、他の日本ブランドと比べて、かなりしっかりしたブランディングがなされ、調香師オーナーではないからこそのこだわりがあるように感じます。特に、朱肉ブランドだからこそできることという理由付けがすべてのディティールでなされているのが素晴らしく、海外ブランドでも稀に見る芯の強さです。
これまでの有名な日本ブランドは、調香師が立ち上げたブランドが多くありましたが、今後は海外と同じで、クリエイティブディレクターが調香師と香水のポテンシャルを最大限に引き出すブランディングを行うブランドが台頭してくるのではないかと思います。
香り
エディットの香りを作る際に、葛和氏が調香師に伝えたのは、フレグランスの常識や考え方は一切考えずに、原価も気にせずに香りを作ってもらいたいということでした。つまり、既成概念を崩すことによるオリジナルで面白い香り、なおかつ「ハイフレグランス」を求めたのです。
こうして生まれた最初の5つの香り(Earl Grey、Jardin Tokyo、Reminisce、Rose Mojito、Yuzuki)は、香水・ルームフレグランス・キャンドルとして、2018年パリで開催された伝統的な展示会メゾンエオブジェで発表されました。パッケージ、打ち出し方、ブランディングを見る限り、日本人が日本人向けに作った香水ではなく、日本から世界へ伝統を発信するような香水を生み出したと思われ、実際に国際展示会で発表したところにエディットの本気度合いが見えます。そして、展示会では、フランスの多くの調香師を唸らせ、取引したいというショップも出てくるほどの成功をおさめました。
高級朱肉を作るメーカーが作るフレグランスならば同じようにハイエンドなものを作って然るべきですよね。それから、物づくりをしていて思うのは、技術や品質はもちろん重要なんですが、理由がないことはしないって決断も必要。エディットのアロマキャンドルは、クラシックな朱肉には天然素材のハゼ蝋とオイルが用いられているから、じゃあろうそく(蝋燭)を作らないのはありえないなということで始めたんです。
葛和氏 fashionsnapインタビューより
ÉDIT(h)の香水は、現在、最初の5つ(1stコレクション)とそれらを3名のフランス人調香師が「音楽的調香メソッド」によって新たな作品を創った2ndコレクション4種(La collection Remixes)、そして、最初の香りを生み出した日本人調香師と再度タッグを組んで生み出されたグルマン香水クラブロンリー、の計10種類になります。
2ndコレクションでは、音楽において「原曲を称えながらも、使用する音色やリズム体を変えて新たな楽曲を創作するように」、1stコレクションの香りの情報を元に新しい香りへと創作されています。日本人が創った香りをフランスの調香師が再解釈するともとれるこの試みは、日本とフランスの香水文化の邂逅と考えられ、それぞれの捉え方の差がありそうで、興味深いです。
1stコレクション
・Earl Grey / アールグレイ
・Jardin Tokyo / ジャルダントーキョー(「東京の庭」の意)
・Reminisce / レミニス(「追憶」の意)
・Rose Mojito / ローズモヒート
・Yuzuki / ユズキ
2ndコレクション(La collection Remixes)
・Souchong journey / スーチョンジャーニー→Earl Greyをイジプカ出身のシムライズ社の調香師Suzy Le Helleyがリミックス。
・Jardin des mots / ジャルダンデモウ(「言葉の庭」の意)→Jardin Tokyoをイジプカ出身のシムライズ社の調香師アレクサンドラ・カリンがリミックス。
・Kagamigoshi / カガミゴシ→Reminisceをイジプカ出身のシムライズ社の調香師Laslie Gautierがリミックス。(名前の通り、成分がReminisceの成分の鏡となっている)
・Green Velvet / グリーンベルベット→YuzukiをLeslie Gautierがリミックス。
デザイン
100年続くブランドをすでに継いでいるだけあり、ボトルに対するこだわりも並々ならぬものがあります。
まず、香水ボトルの形は、ハンコを3Dスキャンし、縦・横などの比率も算出し、生み出しています。ガラスボトル部分はヨーロッパの高級グラスにも使われるセミハンドメイドモールディング製(職人が3人1組となって生み出す製法)、キャップは亜鉛で、表面は職人が手作業でヘアライン加工(一定方向の研磨によって髪の毛のような細い線が生まれ、高級感を出す加工のこと)を行っています。これにより、同じ香水であったとしても、同じ柄のキャップ・ガラスボトルを持つエディットの香水は存在しない、印鑑の在り方と同様で1つ1つがその人(購入者)だけの香水ボトルになります。
ちなみに、ホームフレグランスのキャップは、穏やかなイメージをつけるために左上から右下の方向でヘアライン加工がなされ、口の大きさは代表印をイメージしています。
香水ボトルは、日光印の高級練り朱肉のパッケージと同じ桐箱に納められ、スリーブがあります。ただし、グローバルに認められることを目標にしているため、和小物のような見た目になることは避けているようです。そして、スリーブは、今っぽい東京を考えたときに浮かんだ水玉のモチーフと動物園で撮った孔雀の写真にインスパイアされ、モダンを追求したことで、グラフィック化して反転させた孔雀の画像になりました。
また、ショッパーはすべて紙素材から作られ、リサイクル可能となっています。
ÉDIT(h)への想いはこちらの動画を見ていただくのが一番良いでしょう。
・fashionsnap.com
・kunisawa.tokyo
・インスタライブ(ルシヤージュ×葛和氏)
・インスタライブ2(ルシヤージュ×葛和氏)