基本情報
- ブランド名: ICHIKŌ ICHIE(一香一会 / いちこういちえ)
- ブランド設立: 2020年、大阪・阪急三番街に1号店をオープン
- 母体企業: 株式会社玉初堂(ギョクショドウ) 創業 文化元年(1804年)
- 代表取締役社長: 中造真一郎
- 所在地: 大阪府大阪市東成区中道1丁目5番13号(本社)
- 公式サイト: https://ichikoichie.jp
- 公式Instagram: @ichikoichie_incense
ブランド名の「一香一会」は、茶道の精神として知られる「一期一会(いちごいちえ)」に由来する。「期(ご)」を「香(こう)」に置き換え、香りとの出会いを一つひとつ大切にするという想いが込められている。
創設者・ブランドの成り立ち
玉初堂 ── 広島から大阪へ、220年の歩み
イチコウイチエの物語を語るには、まずその母体である玉初堂の歴史を辿らなければならない。
文化元年(1804年)、安芸の国(現在の広島県)にて、初代・中造屋九右衛門が雑貨卸商の暖簾を掲げたのが始まりである。天保年間に入ると、二代目・作兵衛は店舗を大阪博労町に移転。当時、堺港を経由して輸入されていた漢方薬、とりわけ沈香や白檀といった線香原料を中心に取り扱うようになり、屋号を「沈香屋 作兵衛(じんこうや さくべえ)」と改めた。
中国の線香師との運命的な出会い
嘉永3年(1850年)、玉初堂の歴史において最大の転機が訪れる。中国・清から渡来した線香師「董玉初(とう ぎょくしょ)」より、線香の製造法と調香の秘法を授かったのである。漢方香料に関する豊富な知識を持っていた作兵衛は、この秘伝の技術と自らの知見を融合させ、高級線香の製造を開始した。師の功績を讃え、屋号を「中造玉初堂」と改めたことが、現在の社名の由来となっている。
革新の連続 ── 技術と伝統の両立
明治中期には機械力を導入し、量産体制を整備。販路を全国に求め、東京日本橋に「東京玉初堂」を開設するなど、事業拡大を図った。しかし東京玉初堂は関東大震災で焼失し、再建後も昭和17年に閉鎖され、以後は大阪を拠点に活動を続けることとなる。
昭和46年(1971年)、「中造玉初堂」から「株式会社 玉初堂」として法人化。同年、業界初の短寸進物用線香「うす雲」を発売した。昭和49年(1974年)には、黒を基調としたパッケージに白檀の香りを生かした高級実用線香「香樹林(こうじゅりん)」を発売。この香樹林は50年以上経った現在でも主力製品として支持されている。
技術面では、昭和54年(1979年)に画期的な「積層乾燥法」を発案した。従来の木板による自然乾燥では約3週間を要していた乾燥工程が、段ボール板とお線香を交互に積み重ねて通風乾燥するこの方法により、わずか3日に短縮された。この発明は平成元年(1989年)に製法特許を取得し、現在では業界のスタンダードとなっている。
なお、中造家には代々受け継がれてきた家訓がある。
このような堅実な経営哲学のもと、200年以上にわたって「本業に徹する」姿勢を貫いてきたのが玉初堂という企業である。
コロナ禍が生んだ転機 ── ICHIKŌ ICHIE の誕生
2020年、長年卸売を中心に事業を行ってきた玉初堂が、初の直営インセンスブランド「ICHIKŌ ICHIE」を立ち上げた。
その背景には、大きく二つの要因があったとされている。一つは、卸売メーカーとして消費者の声を直接聞く機会がなかったこと。もう一つは、コロナ禍によりお香の需要が増加し、新しい客層を獲得する好機が生まれたことである。2020年に大阪デザインセンターが主催したオンライン・トークセッションにおいて、代表の中造真一郎社長は「伝統は革新の連続です」と語り、「香りが生活の1シーンとして受け入れられるようになってきた」ことへの手応えを示している。
大阪・梅田の阪急三番街に1号店を構えてスタートしたICHIKŌ ICHIEは、2023年4月にリニューアルオープンを経て、2024年7月にはKITTE大阪に第2ブランド「QNOWA(クノワ)」をオープン。さらに2026年4月には、ルミネ新宿で東京初のポップアップストアを開催するなど、着実に活動の場を広げている。
ブランドのこだわり
「本物の香りとは何か」── 追究し続けるテーマ
イチコウイチエ公式サイトの冒頭には、以下のような言葉が綴られている。
「楽器によって、奏でる音色が変わるように。葡萄によって、ワインのテイストが変わるように。お香はその素材によって感じられるものが変わり、その違いや揺らぎから、尽きることのない楽しみが生まれていきます。」
ブランドが追究するテーマは、「本物の香りとは何か」ということ。現代では手に入れることさえ難しい稀少な天然香木や精油を一つひとつ集め、「自然が生み出した香りそのもの」をお香として表現するための模索を重ねている。
天然素材と「聞香」の精神
ICHIKŌ ICHIEのインセンスは、天然素材の持ち味を生かすことで、「毎日つづけても飽きのこない、穏やかな香り」を目指している。その穏やかさの奥に複雑なニュアンスを含み、日によってさまざまな表情を見せるのだという。
日本の伝統芸道「香道」には、香りを「嗅ぐ」のではなく「聞く」という独自の感性がある。イチコウイチエはこの精神を、現代の暮らしにさりげなく取り入れたいと考えている。
15分のショートインセンス ── 現代人のためのデザイン
1本あたりの長さは60mm、燃焼時間は約15分。このショートタイプは、忙しい日常のなかでも「自分の好きな香りを”聞く”ひとときを、ルーティンとして手軽に採り入れてもらえたら」という想いから生まれた。
透明な袋でインセンスを個包装しているのも特徴的である。お香は「生きもののように呼吸する」ため、他の香りを吸い込んだり、自らの香りを発散させたりして変質することがある。1本ごとに新鮮な香りと出会ってほしいという想いから、トップノート(焚きはじめの香り)の鮮度を守る工夫がなされている。
ものづくりの現場 ── 真鍮の捏ね機と100年のもみの木板
公式サイトの「Behind of ICHIKŌ ICHIE」シリーズでは、製造工程が丁寧に紹介されている。
捏ね(練り)の工程では、香りのもととなる粉末、燃焼を助ける素材、粉同士をつなぐ”糊”の役目をもつ原料を配合し、真鍮製の捏ね機で均一に混ぜ合わせる。真鍮は金属のなかでも柔らかい素材で、「人の手で粘土を捏ねるように、粉をやさしく混ぜ合わせるのに適している」のだという。水の量は夏と冬で異なり、その日の温度や湿度によって細やかな調整が施される。
成形・乾燥の工程では、練り上げられた原料が素麺のように細く機械から押し出され、「盆板(ぼんいた)」と呼ばれる板の上に並べられる。この盆板は、樅(もみ)の木で作られている。樅の木は杉や檜と比べて木自体に香りがないため、お香に原料以外の香りが移らないという先人の知恵から採用された素材である。もっとも新しい板でも約50年前に作られたもので、なかには80年、100年にわたり使われてきた板もあるという。
品質管理においても、香りの良さだけでなく、燃焼時間の安定(1本約15分)、灰の形状、煙の出方、火種の大きさまで綿密にテストが行われている。すべてのインセンスを「1本60mm・燃焼時間約15分」に揃えることは、天然素材を多く使用するイチコウイチエにとって容易ではないが、「時間が揃う、ということは、お香のコンディションが揃っているということの証明」だとされている。
店舗空間へのこだわり
阪急三番街の店舗は、ベージュを基調とした落ち着いた空間で、壁には左官仕上げが施され、天然素材を用いた空間づくりがなされている。店舗中央には、神奈川県真鶴町産の「小松石」を使用した什器が設置されている。加工法や見る角度によってさまざまな表情に変化する小松石は、「その時の気分や場所、時間の移ろいによって表情を変えるインセンスの香りとも通じるもの」として選ばれた。
香りのテイスティングには、口の広がったガラス漏斗が用いられ、インセンスの「上匂い」をじっくりと確かめることができる。
インセンス・ラインナップ
イチコウイチエのインセンスは、3つのレギュラーシリーズと1つの限定シリーズ、計約20種類で構成されている。
PREMIUM ── 天然香木の極み
世界的にも極めて稀少な天然香木を使用した最上位ライン。単一の香木のみを配合した唯一無二のシリーズであり、その香木がなくなれば異なる香木を調達するため、限られた数を少しずつ生産している。
| 製品名 | 特徴 | 参考価格(税込) |
|---|---|---|
| 伽羅(KYARA) | 現代では入手困難な最高級香木 | ¥16,500 |
| シャム沈香 | ベトナム産沈香の豊潤な甘み | ¥7,700 |
| タニ沈香 | インドネシア産沈香の爽やかな辛味 | ¥5,500 |
| 老山白檀(ROZAN SANDALWOOD) | インド産白檀のやわらかな甘み | ¥3,300 |
沈水香木(じんすいこうぼく)とは、ジンチョウゲ科の常緑高木が風雨や落雷などの自然の作用で傷つき、100年以上の歳月をかけて樹脂が沈着したものである。水に沈むほど比重が重いことからその名がついた。
「香木と200年以上向き合ってきた経験を活かして皆様に”本物の薫り”を伝えたいという想いから、ICHIKŌ ICHIEのブランドライン【PREMIUM】シリーズは生まれました。」
NATURAL ── 天然精油で植物そのものを表す
天然精油や天然原料を配合し、花や草木そのものの香りを表現したシリーズ。自然そのもの、植物そのものの香りをインセンスで表現することを目指している。
ラインナップは、ミント、イランイラン、ローズマリー、ローズ&グリーン、ジンジャー、サンダルウッド、シダーウッド、ビターオレンジの8種類。
例えば「ローズ&グリーン」では、バラの花そのものの香りだけでなく、茎や葉から匂い立つ「生気あふれる緑の香り」まで表現するなど、自然の多面的な姿を香りに落とし込もうとする姿勢がうかがえる。
THINGS ── 日常に寄り添う身近な香り
草木、果実、スパイスなど、暮らしのなかで身近にふれるものをモチーフにした、親しみやすいシリーズ。
ラインナップは、ウォーターリリー、ペア(洋梨)、チュベローズ、マグノリア、ウィステリア(藤)、オスマンサス(金木犀)、チャイ、抹茶の8種類。
チャイや抹茶のように一見意外なモチーフのお香が含まれているのもこのシリーズの特徴である。チャイの調香では、スパイスの熱に弱い性質を踏まえ、お香づくりで長年扱ってきたシナモンやクローブ由来の漢方香料・天然香料を用いて「奥行きのある甘さ」を再現している。
LIMITED ── 季節の移ろいを香りにのせて
四季の移ろいや特別な日を彩る期間限定シリーズ。過去には、パロサント、ホワイトセージ、パチョリ、アンバーナイツ、セレインサンクチュアリなどが発売されている。
ギフトセット
好きな香りを3つ選べるアソートセット「3 SCENTS BOX」(¥3,300税込)、プレミアムシリーズ4種を楽しめる「THE PREMIUM BOX」(¥7,700税込)も展開されている。
ちなみに…
- ブランド名の「Ō」の表記
正式な表記は「ICHIKŌ ICHIE」であり、「Ō」はマクロン付きのオー(長音記号)が使われている。日本語では「一香一会(いちこういちえ)」と読む。 - 玉初堂のもう一つのブランド「QNOWA」
2024年7月、玉初堂はイチコウイチエに続く第2のインセンスブランド「QNOWA(クノワ)」をKITTE大阪にオープンした。「香りを通して時間に価値をもたらす」をコンセプトに、「Moments」「Inspired」「Eternal」の3ラインで全31種のお香を展開している。「Moments」シリーズでは「4:00」から「24:00」まで、時間帯の気分や情景を香りで表現するというユニークな試みがなされている。店名には「上質な香りを永久に循環(久の環/くのわ)させる」という想いが込められている。 - 玉初堂の社名の由来は中国人の名前
「玉初堂」の名は、1850年に線香の製造法と調香の秘法を伝授した清の線香師「董玉初(とう ぎょくしょ)」に由来する。師の功績を讃えて屋号に冠したもので、日中の香り文化の交流を象徴する逸話といえる。 - 通天閣の命名者と玉初堂の縁
大正年間、4代目・中造作五郎と親交があった儒学者・藤沢南岳は、大阪の「通天閣」の命名者としても知られる人物である。号の一つに「七香斎」を持ち、お香にも造詣が深かったと考えられている。南岳が詠んだ口上を記した扁額(縦75×横150cm)が、現在も玉初堂に残されている。
- ICHIKŌ ICHIE 公式サイト「ABOUT」 – https://ichikoichie.jp/about/
- 株式会社玉初堂「会社概要・沿革」 – https://www.koh.co.jp/company/
- PR TIMES「お香との出会いを広げるインセンスブランド『ICHIKŌ ICHIE』阪急三番街の店舗をリニューアルオープン」(2023年4月7日) – https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000118337.html
- PR TIMES「阪急古書のまちに、新しい世界観をもつ空間が誕生『ICHIKŌ ICHIE 阪急三番街店』リニューアルオープン」(2023年5月8日) – https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000118337.html
- PR TIMES「ICHIKŌ ICHIE が4月1日-4月7日ルミネ1にて東京初のPOP UP STOREを開催」(2026年3月10日) – https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000118337.html
- PR TIMES「QNOWA KITTE大阪店 グランドオープン」(2024年7月26日) – https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000118337.html
- 株式会社玉初堂「玉初堂(中造家)に伝わる社訓と家訓」 – https://www.koh.co.jp/work/syakun/
- 株式会社玉初堂「ものづくりへのこだわり」 – https://www.koh.co.jp/work/commit/
- 大阪デザインセンター「オンライン・トークセッション:伝統と革新、デザインでコロナ後の未来を創る」(2020年12月8日) – https://www.osakadc.jp/seminar-event/6779/
- ICHIKŌ ICHIE 公式 READINGS「Behind of ICHIKŌ ICHIE #01」 – https://ichikoichie.jp/readings/know/50/
- ICHIKŌ ICHIE 公式 READINGS「Behind of ICHIKŌ ICHIE #02」 – https://ichikoichie.jp/readings/know/58/
- ICHIKŌ ICHIE 公式 READINGS「Behind of ICHIKŌ ICHIE #03」 – https://ichikoichie.jp/readings/know/79/
- ICHIKŌ ICHIE 公式 READINGS「”沈水香木” 極めて稀少な自然の香り」 – https://ichikoichie.jp/readings/know/31/
- 株式会社東具「【TREND Ai vol.5】伝統的なお香専門店 “玉初堂”のブランディングを調査!」 – https://www.togu.co.jp/column/detail/363
- 全宗協「玉初堂(大阪市)加盟店紹介」 – https://www.zenshukyo.or.jp/3017/
- Saugeblanche.ch「Gyokushodo Japanese Incense」 – https://www.saugeblanche.ch/en/gyokushodo-m-63.html
- YouTube「玉初堂 『創業文化元年 製造法などで特許を持つ薫香メーカー』」 – https://www.youtube.com/watch?v=RsWSpARACGY
- Redcast Heritage「Ichikō Ichie Incense」 – https://redcastheritage.com/products/ichiko-ichie-incense-magnolia
- MOT TIMES「大阪百年線香 ICHIKŌ ICHIE」 – https://www.mottimes.com/article/detail/3386
- 香選「メーカー紹介:大阪 玉初堂について」 – https://fukuyama-ehara.com/blogs/kohsen-in_life/メーカー紹介-大阪-玉初堂について


