やがて、自分の情熱を世界の人々と分かち合いたいと思うようになりました。
シシル・メータ
SCENTIDO(センティード)は、世界各地のニッチフレグランスを集めたインドの香水専門店である。創設者シシル・メータ(Shishir Mehta)が旅先で育ててきた香水への関心は、ムンバイの古い建物に最初の店を開くことへとつながった。収集家が選んだ香りと、それをゆっくり確かめるための空間。その二つが、この店の出発点にある。
店舗のはじまり
香水の収集から、フォート地区の初店へ
メータは、冶金試験所を長年率いてきた技術者だった。娘がニューヨーク、続いてロンドンで暮らすなかで、自分と娘のために香水を買い集めるようになる。海外で出会った香りへの関心が、やがてインドでも新しい香水の店を始めたいという考えに育っていった。
旅を重ねるうち、親しみのある香りから、小さなブティックに並ぶ個性的な香水へと探索は広がった。気に入った瓶を集めるだけでなく、その歴史や香りの科学も学ぶ。およそ10年にわたる香水への情熱を、メータはセンティードという店に注ぐことになる。
2018年2月、最初の店が開いたのは、ムンバイ南部のフォート地区だった。メータ自身が選んだ棚には、英国のロジャ・パルファムズやオーモンド・ジェイン、フランスのジョヴォイ、ニューヨークのエイデス・デ・ヴェヌスタスなどが並んだ。香水をつくる国も、ブランドの歴史の長さも異なる作り手を、一つの店で紹介する出発だった。
葉巻倉庫を香水店へ改修する
初店の舞台となったケルマニ・ビルディングには、かつて葉巻の倉庫として使われていた空間があった。アール・デコを取り入れた店の構想を描いたのはメータであり、それを形にしたのが建築家カヴィタ・トリヴェディ(Kavita Trivedi)だった。
私一人ではできませんでした。建築家カヴィタ・トリヴェディが、私の構想を見事に形にしてくれたのです。
シシル・メータ
改修では、間仕切りと吊り天井を取り除き、隠れていた高さを取り戻した。既存の木部やステンドグラス、石壁を修復し、外壁に積もった汚れも洗い落とす。その上で、青い壁、真鍮の縁取りを施した棚、白黒のタイル床を組み合わせた。扉や棚、螺旋階段にはチーク材の色が残り、古い建物の細部が香水を迎える背景になった。
広さは約1,000平方フィート、約93平方メートル。四つの大きなショーウィンドウと高い天井を備え、店の隅には木製の螺旋階段があった。棚だけを並べるのではなく、建物にも目を向けたくなる初店である。
開業に訪れたのは、『ニューヨーク・タイムズ』で香水批評を担ったチャンドラー・バー(Chandler Burr)。店内では、小さなガラスのドームに香水を吹きつけ、エイデス・デ・ヴェヌスタスの香りを説明した。香水を作品として語る人物が棚のそばに立つ場面は、センティードの始まりをよく伝えている。
ムンバイからデリーへと展開し、2020年にはハイデラバードにも店を開いた。2025年には流通事業を手がけるサワリヤ・グループによる買収が発表され、創設者の収集から生まれた店は新たな経営の段階へ進んでいる。
店づくりの考え方
ブランドを横断して香りを探す
センティードの空間に共通するのは、古いヨーロッパの商店や英国の香水店を思わせる意匠である。木部やステンドグラス、シャンデリア、装飾的なタイルに現代的な華やかさを重ねる。フォートの初店で取り組んだ古い空間の再生は、その後の店づくりにも通じる表情を生んだ。
私たちの棚は、どのブランドにも平等です。
スラビ・ポプリ
マーケティング・マネジャーのスラビ・ポプリ(Surabhi Popli)が説明したのは、ブランド別の専用区画で売場を分け、特定の名前だけを押し出す売り方を避ける考え方だった。客が自分で香水を探せる余地を残し、著名なブランドと、家族や調香師が率いるブランドを組み合わせる。
メータはフォートの店でも、香りと時間を過ごし、心に残ったものはサンプルを持ち帰って試すことを勧めていた。男性用・女性用という表示にとらわれず、自分に響く香りを探す。店頭で一度香って終わるのではなく、日常のなかでも確かめる選び方である。
香りの説明を、客との会話につなげる
会話と、意思を通わせることが欠かせません。
スラビ・ポプリ
ポプリがスタッフの育成で重視したのは、商品知識とともに、客への接し方を学ぶことだった。ブランドの歴史や香水の価値を説明しながら、目の前の人に関心を向ける。香水に詳しいスタッフと、ラグジュアリー分野で接客を経験したスタッフの双方を迎え、商品の理解と人の理解を組み合わせてきた。
訪れたい店舗
ムンバイ・フェニックス・パラディウム店
現在のムンバイでセンティードを訪ねるなら、ローワー・パレル地区のフェニックス・パラディウム店がある。フォートに生まれた初店から、商業施設のなかへと広がった店の姿を見られる場所だ。

壁に沿って連なる艶のある木の棚には照明が組み込まれ、小さな香水瓶が一段ずつ浮かび上がる。中央にも独立した展示台が置かれ、その周囲を歩いて棚を見比べられる構成である。青い壁と二脚の青い椅子、金色の幾何学模様を配した鏡面、天井のシャンデリアが、木を基調とする売場に色と光を添えている。
香水を見渡す棚の面と、腰を下ろせる一角が同じ空間に収まる。多数のボトルを並べながらも、香りを選ぶ人がその場に留まれるつくりに、センティードが大切にしてきた探索と対話の考え方が表れている。
参考文献
- Vogue India「This new perfume store in Mumbai should be your go-to for unique scents」— 創設者の言葉、フォートの初店と開業時の品揃え
- Telangana Today「A love affair with rare perfumes」— メータの経歴と香水への関心、ハイデラバードへの展開
- SCENTIDO公式「Founder」— 旅と香水の収集から店が生まれるまで
- Outlook Business「A Distinct Fragrance」— 2018年2月の開業と初店の空間
- Architectural Digest India「Mumbai: This store houses a few of the world’s most expensive perfumes」— 初店の設計、修復と内装
- Bangalore Mirror「Scents and sensibilities」— 開業時のチャンドラー・バーの来店と試香
- ETRetail「Sawariya Group acquires niche perfume retailer Scentido to expand lifestyle vertical」— 2025年の買収発表
- SCENTIDO公式「Our Stores」— 各店に共通する空間の考え方
- Essencional「SCENTIDO: Passion Brings Niche Perfumery to India」— スラビ・ポプリが語る棚と接客、パラディウム店の写真
- Homegrown「Rare Fragrances From Around The World Find A Home In Fort」— 初店での香水の選び方
- SCENTIDO公式「Store Locator」— 現行のムンバイ・フェニックス・パラディウム店


