XINÚ(シヌー)|街に庭を贈る香りのパビリオン

シヌー フアレスの木造パビリオンを描いた店舗記事のイラスト

私たちは香りが好きです。だから、ニッチな香水ブランドという魅力的な世界を探究するのは、自然なことでした。

イグナシオ・カデナ

店舗のはじまり

ポランコの秘密の庭

メキシコのシヌーは、ベロニカ・ペーニャの発案から始まった。そこに加わったのが、デザイナーのイグナシオ・カデナとエクトル・エスラウェである。二人は以前からさまざまな空間を一緒につくってきた仲間だった。ペーニャの香りへの思いに、グラフィック、家具、建築を手がける二人の仕事が重なった。

店舗の原点は、メキシコシティのポランコにあるショールーム。2016年に設計された空間は、大通りへ商品を見せる売場とは異なり、奥に隠された庭へ向かうようにつくられた。下階でベルを鳴らし、暗い階段を上ると、日差しを受ける上階と、植物を配した屋上テラスへたどり着く。

店の中心には、一つの大きな展示テーブルが置かれた。香水だけを等間隔に並べる台ではない。図入りの本、ガラスのかたまり、生花など、香りの発想につながるものをカデナ自身が選び、組み合わせた。エスラウェが博物学者のものと呼ぶこのテーブルが、シヌーの店の原型になった。

街へ開く庭をつくる

ポランコで上階に隠されていた庭は、フアレスの新しい店舗では街と接する空間になった。敷地はかつての自動車修理工場。空いた土地に商品棚を詰め込むのではなく、庭を設け、その中へ木造のパビリオンを置く計画が生まれた。

発想のきっかけは、フアレスに庭を贈るという構想でした。

エクトル・エスラウェ

エスラウェは建築と施工の細部を、カデナは物語や展示を担当した。周囲を巡る庭と、香りを選ぶ店内を近づけることで、アメリカ大陸の植物に着想を得るブランドの姿を、建物の中と外の両方に表した。

現在はメキシコシティのほか、メリダ、サン・ミゲル・デ・アジェンデ、オアハカにも店舗を構え、東京の青山へも広がっている。

店づくりの考え方

香りの手がかりを集める

シヌーという名前は、オトミ語で鼻を意味する。香りの源になる植物を、目でも知ることができる場所。そのためにポランコでは、長さ7メートルの台へ、石、木、樹脂、ガラス、真鍮などを集めた。自然の標本と人の手でつくるものが、一つの面の上で隣り合う。

この店を構成する軸は、アメリカ大陸の植物の豊かさ、デザインと職人技、そして素材を大切に扱う姿勢である。香水の説明を壁一面に書く代わりに、素材の形や手触りを想像できる物を置く。ボトルも、その風景の一部として設計されている。

カデナにとって、ブランドを育てる仕事は子育てにも似ている。

私たちの息子のようなものです。たくさんの世話が必要ですから。

イグナシオ・カデナ

カデナがそう表すシヌーでは、香水を使い切った後の容器まで考えられている。木と透明なガラスを組み合わせたボトルには、小さな花器などとして再び使ってほしいという思いが込められた。店内の植物やガラス器と、客が持ち帰る一本がつながっている。

訪れたい店舗

メキシコシティ・ポランコ

ポランコでは、約158平方メートルの上階と、植物のあるテラスが、香水を選ぶ時間を包む。展示台に並ぶ物は、整然とした商品見本だけではなく、その時々に集められた発想の断片である。原点となった空間と、二人のデザイナーが香りのために設けた大きな台を見られる店舗だ。

メキシコシティ・フアレス

フアレス店は、円形の木造パビリオンが主役になる。周囲の縦ルーバーは開閉でき、棚や展示ケースも支えている。店の外周に沿って移動すると、商品と、その向こうの庭を一緒に眺められる構成だ。

シヌー フアレスのパビリオンを参考にしたイラスト
シヌー フアレスのパビリオンを参考にしたイラスト

木材には、FSC認証を受けたペルーの森林に由来するトルニーヨの集成材を採用した。円形の壁を一枚の閉じた面にせず、庭へ開く可動部分にすることで、香水やホームフレグランス、インセンスを置く場所と、植物のある場所を連続させている。

庭は建物の余った隙間を飾るものではなく、計画の出発点だった。パビリオンを取り囲む植栽と、その周囲を歩ける配置が、修理工場だった土地の使い方を変えている。

東京・青山

青山の店舗は、シヌーの初めての海外店舗となった。Satoshi Hirano Studioが設計したコンクリートの建物に、Esrawe + Cadenaが3層の体験を組み立てている。内部では黒い木の梁が交差し、外壁にはXの文字を題材にしたストリートアートが加わった。

肌につける香水から、空間のための香りを扱うHavenへ、上階へ進むにつれて商品の対象が変わる。最上階には植物標本や原料、見つけて集めた物、コラージュ作品などが並ぶ。メキシコの店で展示テーブルに集められていた香りの手がかりを、東京では階を上りながらたどれる。

参考文献