Jovoy(ジョヴォイ)―パリの香水セレクトショップ、その成り立ちと選品・試香の仕事

Jovoyの香水ボトルとガラスのドーム、試香紙を配した温かな静物。JOVOY、ジョヴォイ、知らない香りに、出会う場所。 香りの世界を広げる

私たちの願いは、香水そのものと原料に敬意を払うことです。

— フランソワ・エナン

パリのヴァンドーム広場からほど近いカスティリオーヌ通り。ジョヴォイ(Jovoy)は、さまざまな香水の作り手を一つの売場で紹介するセレクトショップである。自社の香水も扱うが、その名前だけを売るための店ではない。小さなブランドが香水好きと出会う場所をつくり、何を棚に迎えるか、どう嗅いでもらうかを考えてきた。

香水ブランドとしての歴史と作品は、既存のJovoy Paris紹介記事に譲りたい。ここでは、フランソワ・エナン(François Hénin)が他の作り手の香水を届けるために始めた、店舗の仕事をたどる。

基本情報

  • 店舗事業の開始:2010年、パリ
  • 創設者:フランソワ・エナン
  • パリ店:4 rue de Castiglione, 75001 Paris, France
  • 営業時間:月曜〜土曜、11時〜19時(2026年10月確認)
  • 公式サイト:Jovoy Parfums Rares

1923年は、ブランシュ・アルヴォワによる旧香水ブランドの創設年である。2006年のブランド再興と、2010年のマルチブランド店舗の開店は、別の出来事として捉える必要がある。

フランソワ・エナンと店の成り立ち

カンヌで生まれた共同店舗の構想

ジョヴォイの店は、香水を発表していたエナンが、仲間のブランドとともに自分たちの売場をつくろうとしたことから生まれた。

発端は、ウクライナの販売パートナーに招かれて訪れたカンヌの商談会である。そこで彼は、ニッチ香水がメディアから無料で注目を得すぎている、と大手業界関係者が話すのを耳にした。翌朝、知り合いの作り手たちに、パリで共同の店を開こうと提案した。十ほどのブランドが集まり、場所と事業計画を探す話になった。

しかし、物件を見つけても仲間は出資に踏み切らなかった。エナンは両親に資金を相談し、父の支援を得て自ら店を始める。共同の構想は、彼が責任を引き受ける店へと変わった。看板にジョヴォイの名が掲げられたのは、この経緯による。

店を見つけ、そこを大使館にするという計画でした。

— フランソワ・エナン

エナンは一人で店を開き、週に六日働いた。当時は二人の子どもがいた。評判を得ることと、事業を続けられることは同じではなく、家族の支えが店の出発を可能にしたのである。

2010年の小さな店から、2012年の移転へ

最初の店は2010年、ダニエル=カザノヴァ通りに開いた。翌年の店頭案内には29番地の住所が記されている。初期の品揃えは、親交のあった十数のブランドが中心だった。そこから扱うブランドが増え、小さな売場では収まりきらなくなる。

2012年3月、店はカスティリオーヌ通りへ移った。ヴァンドーム広場に近いアーケードの下に、より広い売場を構えたのである。2012年4月のFrance Todayは、新しい店を、温かく客を迎える広々とした空間として紹介している。

移転は売場を広げるだけでなく、客層を変えた。2015年、エナンは新しい立地によってロシアや中東からの来店が増え、高級香水の領域が大きく伸びたと説明している。店が迎える人と、並べる香水の関係は、開店時のまま固定されてはいなかった。

ロンドンとフランチャイズへの展開

2017年にはロンドンのメイフェア、コンデュイット・ストリート21番地に店が開いた。パリに続く直営の店舗であり、各地のフランチャイズとすべて同じ運営形態だったわけではない。

当時のパリ店責任者セリーヌ・ルプーは、写真ではパリとロンドンを見分けにくいほどだと語った。石の柱とアーチ、カーマインレッドに黒を合わせた色使い、古い木製家具を陳列台にする構成が引き継がれた。ロンドンではさらに、珍しい瓶や香料を見せるガラス張りの展示室が設けられた。

海外へ広がったのは看板だけではない。香水を紹介する空間のつくり方も、店舗の個性として持ち出されたのである。一方、最初からパリの全商品をそのまま並べたわけでもない。開店時のロンドンは約40ブランド、400点の品揃えだった。

現在の公式店舗案内には、パリ、ル・マン、ロンドン、カタールの複数拠点、ドバイが掲載されている。地域ごとのサイトと品揃えへの案内もあり、パリのオンラインショップと各国の店は区別されている。

店舗事業の主な歩み

年出来事
2010年パリのダニエル=カザノヴァ通りに最初のマルチブランド店を開く
2012年3月カスティリオーヌ通り4番地へ移転
2017年ロンドンのメイフェアに店舗を開く
2019年ブランドの増加に対応し、品揃えを絞り直す方針を説明
2021年サンプルや物流、オンラインでの案内を通して店舗体験を広げる取り組みを説明

ジョヴォイの選品思想

珍しさに加え、香りの重複を避ける

開店当初の選品は、人間関係から自然に決まった。しかし、新しいブランドが次々に生まれると、それだけでは棚をつくれなくなる。

2015年にエナンが挙げた基準は、流通の限られたブランドであることと、香りの独創性だった。同じような香りを繰り返して並べないためである。持続や変化も見ており、残香を二日間にわたって評価する例を挙げている。

目的は、できるだけ多くのブランドを揃えることではありません。

— フランソワ・エナン、2015年

ブランド数の多さより、そこでしか出会いにくい作り手を紹介すること。売場の拡大と、この姿勢は両立していた。

2020年には、香りに加えて物語の伝わりやすさを重視するようになっている。強い物語でも、長い説明を聞かなければ分からないものでは、忙しい客へ届かない。ブランドの言葉と、その背後にいる人が一致していることも必要だった。

私たちは、強く、しかも伝えやすい物語を持つブランドを選びます。

— フランソワ・エナン、2020年

彼は、売れ筋の大衆向け香水をニッチ市場向けに作り直しただけのものを、独立ブランドが陥る大きな誤りとして挙げた。小さな会社であることは、香りが新しいことの保証にはならない。作り手の規模や瓶の希少性を超えて、売場に何を加えるのかを問う選品である。

新しい作り手に機会を渡す

2019年、エナンは、店で客を得られなかった約20ブランドと別れたと明かしている。それは、そのブランド自体の価値を否定することではないとも述べた。特定の店の客層と香水が合うかどうかは、作品の良し悪しだけでは決まらないのである。

この時期、彼が関心を向けたのは「新しい波」「新しい学校」と呼ぶような提案だった。音楽と香りを結ぶロルケストル・パルファンや、オーストラリアのゴールドフィールド・アンド・バンクスを具体例に挙げている。古い家の復活や伝統の物語が目立つ初期の売場から、若い客を驚かせる新しい発想にも目を向ける店へと変わっていた。

とはいえ、新規ブランドを迎える姿勢は、単なる流行追随でもない。2021年、エナンは、自分がかつて機会を与えられたように、ほかの作り手にも機会を与えたいと説明している。例に挙げたのは、ジョヴォイをフランスで紹介したリールのソレイユ・ドール、ユベール・マエスだった。店は作品を選ぶ場所であると同時に、作り手を市場へ送り出す場所でもある。

香水を嗅ぎ、対話する売場

古い調香用の瓶と、ガラスのドーム

ジョヴォイでは、香水を見せる道具と、香りを嗅ぐ道具が店の個性をつくってきた。2012年の移転時には、古い調香用器具に由来する琥珀色のガラス瓶が使われ、客はその栓から香りを嗅いだ。エナンは、アルコールで鼻を満たすことなく、香りの中心や残香を伝えるための方法だと説明した。

2011年には、エリザベット・ド・フェドーの「ヴェルサイユ・アン・パルファン」シリーズのキャンドルも店で紹介され、ガラスのドームの下で香りを嗅げるように置かれていた。ドームは装飾だけでなく、客が香りへ近づくための道具だったのである。

同じ香水でも、噴霧した直後に嗅ぐか、残った香りを嗅ぐかで、受け取る部分は変わる。この店が工夫してきたのは、一本を目立たせる陳列に加えて、香りをどの段階で受け取ってもらうかという提示の方法だった。

好みを探す接客と、現在の個別相談

2015年、エナンは接客を「ゲーム」と表現した。目指すのは、本人の鼻にも、周囲の人の鼻にも心地よい香りを見つけることだった。具体的な手法のすべては明かしていないが、販売を一方的な説明で終わらせず、客の反応を探る対話として考えていたことが分かる。

現在も、パリの公式サイトには店内でのプライベート相談を予約する入口がある。カスティリオーヌ通りの店は月曜から土曜まで、11時から19時の営業である。個別に相談する時間を用意することも、広い品揃えから好みを探すための仕事なのである。

店舗の体験をオンラインへ広げる

2021年、サンプルと物流を組み直す

コロナ禍は、店で時間をかけて選ぶ仕事にも変化を迫った。2021年、ジョヴォイは少人数での長い相談に対応する一方、サンプルの箱や個別に用意する試香紙を使い、家でも発見を続けられるようにした。自社の倉庫を持ち、個人向けの配送を直接管理することも、この時期の取り組みだった。

あなたがジョヴォイへ来られなければ、ジョヴォイがあなたのもとへ行きます。

— フランソワ・エナン、2021年

エナンが掲げた課題は、特定の商品を押し出すアルゴリズムに頼らず、店での案内をウェブへ広げることだった。香りを画面から送れないからこそ、文章とサンプルを組み合わせる必要がある。オンラインを単に売場の代わりにするのではなく、嗅ぐまでの道筋をつくろうとしていた。

TRY MEで、読む時間と嗅ぐ時間をつなぐ

現在の公式サイトでは、香料、調香師、香りの系統、ブランドなど、複数の入口から香水を探せる。香りの構成だけでなく、作り手やアートディレクターの言葉に触れられる点も、店の紹介を読む楽しみにつながる。

サンプルサービス「TRY ME」は、この案内を実際の試香へつなぐ仕組みである。選んだサンプルには香りの構成を記したカード型の試香紙が添えられ、家で繰り返し嗅げる。公式説明では、ほぼ全カタログを対象としている。

同じ香水の通常サイズをオンラインで一か月以内に購入する場合、サンプル代を差し引く条件も設けられている。店頭購入にも一律に適用される制度ではない。ここで興味深いのは値引き以上に、一本を選ぶ前に、香りを自分の時間の中へ持ち帰れることである。

パリへ旅行しなくても、知らない調香師の言葉から一つの香水へ進み、肌での変化と説明を照らし合わせることはできる。ジョヴォイがつくってきた「大使館」は、珍しい瓶を集める場所から、作り手と香水好きの間に、読む・嗅ぐ・話すための経路を用意する仕事へと広がっている。

参考文献