Mood Scent Bar(ムード セント バー)|今日をどう過ごしたいか。その気分に香水を

Mood Scent Bar(ムード セント バー)を題材にした編集イラスト。今日をどう過ごしたいか。その気分に香水を。ポーランド・ワルシャワ。

だから「Bar」という名前なのです。誰もが自分に合うものを見つけられるように。

ヴィクトル・コチェトフ

「どの香料が好きか」と聞かれても、すぐには答えられない。けれど、朝の森や、いつか暮らした家の匂いなら思い浮かぶ。ポーランドの香水店、ムード セント バー(Mood Scent Bar)が大切にしてきたのは、そのような連想から香水へ近づく対話である。

ワルシャワで始まったこの店には、コム デ ギャルソンからナソマット、マルク=アントワーヌ・バロワまで、異なる作り手の香水が集まる。創業者の好みを並べるだけでなく、その人の記憶や、これから過ごしたい時間に合う一本を探す。そのために幅のあるコレクションをつくってきた。

基本情報

  • 名称:Mood Scent Bar(ムード セント バー)
  • 創業:2013年
  • 創業者:Victor Kochetov(ヴィクトル・コチェトフ)
  • 発祥・活動の中心:ポーランド、ワルシャワ。国内の複数都市に店舗を展開
  • 業態:複数ブランドのニッチ香水を扱う専門店、オンラインショップ
  • 公式サイト:Mood Scent Bar

創業者と店の成り立ち

ロシアで育ち、パリからワルシャワへ

コチェトフはロシアで育ち、パリで学び、ワルシャワに居を定めた。ポーランドは、祖母の話を通じて思い描いていた故郷でもあった。2021年、ワルシャワの匂いを問われた彼は、こう答えている。

私にとってワルシャワは、取り戻した街です。だから、家の匂いがします。

ヴィクトル・コチェトフ

とりわけ愛着があるのが、暮らしの場でもあるポヴィシレ地区だった。窓から漂う家のそばのシナノキの香りも、その街を自分の場所と感じる理由の一つである。

進路は最初から香水一筋だったわけではない。美術と医学のあいだで迷い、医学、そして心理学を学んだのち、インテリアデザインにも取り組んだ。香りの仕事に入る前後には、香水をどう見せ、人へ伝えるかという課題にも関わっている。感覚への関心と、空間をつくる仕事。その両方が、のちの香水店に通じていく。

香水を輸入する仕事から、2013年の店へ

1990年代末に出会ったコム デ ギャルソンの「2」は、彼にとって大きな発見だった。香水への好奇心は市場での受け入れられ方を考える仕事へ広がり、自ら輸入するようになった。

ワルシャワに店を構える前には、兄弟とクラクフでニッチ香水を販売し、首都の顧客へも香水を届けていた。2013年にムード セント バーが生まれる。場所に選んだのは、大好きなタムカ通りだった。荒れた状態の物件で、ほかの地区なら改修費をもっと抑えられたが、この場所に店をつくりたかったのである。2014年初めのインタビューでは、すでにパンや粘着テープを思わせる香水が話題となる一方、接客では相手が何を求めているかを会話で確かめる姿勢が語られていた。

珍しい香りを驚きの品として並べるだけなら、店の役割はそこで終わる。ここでは、その香りを誰が、どのような場面で必要とするのかを探ることが、売場の仕事になった。

「Mood」と「Bar」に込めた二つの意味

「Mood」は気分や心の状態を指す。コチェトフにとって、香水選びはその日の自分をどう整えるかという行為でもある。朝に瞑想し、一日の予定を考えるように、その日の気分や課題に合わせて香水を選ぶ。

一方の「Bar」には、多彩な香水が集まり、それぞれの人が自分の一本を見つける場所という発想がある。会社づくりではまずマニフェストを書き、香りを単なる「香る空気」にしないことを掲げた。世界各地の異なる作り手を集める選品と、一人の人に向き合う接客は、別々の方針ではなかった。

歴史年表

時期 出来事
1990年代末 コチェトフがコム デ ギャルソン「2」に出会う。
創業以前 香水の市場分析や輸入に関わり、兄弟とクラクフでニッチ香水を販売。ワルシャワの顧客にも届ける。
2013年 ムード セント バーを創業。
2021年 SCOPES driven by Porscheのため、ワルシャワに着想した香りを制作。
2023年1月 ワルシャワ、ブラツカ通りの内装が建築媒体で紹介される。この時点ではワルシャワ、ポズナン、ヴロツワフの5店舗と紹介されていた。
2026年8月 公式サイトがノヴォグロツカ38の新店を紹介。「11番目のMood Scent Bar」として告知。

選品と試香をつなぐ店の考え方

著名なニッチから、異なる地域の作り手まで

2026年10月に確認した公式オンラインショップでは、コム デ ギャルソン、ナソマット、オルト パリージ、マルク=アントワーヌ・バロワ、ミゼンジール、27 87、ルーム1015などを扱っている。たとえばバロワのブランドページには「ガニメデ」「ティリア」「B683」「アンセラード」が並ぶ。単一の自社ブランドを中心とする店ではなく、複数の香水ブランドを比較できるセレクトショップである。

新しいノヴォグロツカ店では、歴史あるL.T.ピヴェールやサティニンと、アトリエ マテリ、シャンブル52、ベトナムのダナムなどが同じ空間に置かれる。古いメゾンと新しい独立系、ヨーロッパとそれ以外の地域を一つの売場に迎える幅がある。

ただし、公式オンラインでの取扱と、各店舗の日々の在庫や試香できる品目は同一ではない。訪問先で特定の香水を試したい場合は、その店舗に確認したい。

香料名の前に、その人の連想を聞く

最も大切なのは第一印象、そして会話です。

ヴィクトル・コチェトフ

会話では、好きな匂いだけでなく、それが何を思い出させるか、香水に何を期待するかを聞く。仕事に使いたい人もいれば、夜の食事にふさわしい香りを探す人もいる。香料の知識を持っていることが、相談の前提にはならない。

公式マニフェストも、香水を探すことは嗅ぐだけではなく、人の個性と香りの構成の関係を見つけることだと説明する。年齢、職業、性別の固定観念を使わないという姿勢も明記している。ある属性の人を同じ香りへ案内するより、その人がどうありたいかを聞くための方針である。

コチェトフ自身も、すべての人に一つの答えがあるとは考えていない。

誰もが異なる記憶や経験を持っているので、万人に一つの解決策があるとは思いません。

ヴィクトル・コチェトフ

この発想から見ると、香りの珍しさは目的そのものではない。同じ匂いが誰かには心地よく、別の人にはそうでない。その違いを受け止められるだけの選択肢を揃えることが、マルチブランド店の意味になる。

都市や建物に合わせて変える店舗空間

複数都市への展開でも、同じ内装をそのまま複製しているわけではない。建築家ゾフィア・ヴィガノフスカによるヴロツワフの店は木を生かし、ポズナンの店はグレーを基調とする。ワルシャワのブラツカ通りでは、より大胆な色と海のモチーフを採り入れた。

ブラツカ店には、サンゴの群体を幾何学的に解釈した壁画、ターコイズ色の家具、スペイン産の赤い大理石アリカンテを使った中央の島型什器がある。香水瓶は真鍮の棚に並び、鏡が壁の模様を映す。海をそのまま再現するのではなく、色、素材、反射で連想をつくる空間である。

2026年に紹介されたノヴォグロツカ店は、1962年の建物の一階にある。生かされたコンクリートの柱や既存のテラゾーの窓台に、大理石とトラバーチンのモザイクを組み合わせた。窓台は商品を見せる場であると同時に、腰掛けて空間と香水を眺める場所にもなる。店舗ごとに異なる景色をつくりながら、香りに注意を向ける時間を支えている。

ワルシャワを起点に訪ねる店舗

発祥と活動の中心はワルシャワだが、店は首都だけではない。2026年10月確認時の公式住所一覧には、次の拠点が掲載されている。

都市 公式掲載の店舗・所在地
ワルシャワ Nowogrodzka:Nowogrodzka 38/Niche Perfumery:Tamka 33/Savage:Bracka 3/Candleria:Mokotowska 9
ポズナン Szamarzewskiego 10
ヴロツワフ Włodkowica 19
ウッチ Piotrkowska 6
カトヴィツェ Plac Miarki 2
クラクフ Krowoderska 41 / 1

このほかワルシャワのTamka 34には、ビューティーの別コンセプト「Wonderberry by Mood Scent Bar」がある。香水店の所在地と区別して訪問先を選びたい。営業時間と最新の所在地は公式の店舗案内で確認できる。

ムード セント バーの歩みは、香水を集めることと、香水について話せる場所をつくることが結びついた歴史である。作り手も地域も異なる香水のあいだから、自分の記憶や、その日の気分に触れるものを探す。ワルシャワで始まった「Bar」は、その会話のために広がってきた。

参考文献