Campomarzio70(カンポマルツィオ70)|家族の歴史と、ニッチ香水を伝える選品・接客

温かな光の中に試香紙とガラス瓶を配した静物画。Campomarzio70、カンポマルツィオ70。 香りの世界を広げる

「販売の場所を、体験と嗅覚文化の場所へと変える。」

ヴァレンティーノ・ディ・リエッロ

ローマの街路名と番地をそのまま冠したCampomarzio70(カンポマルツィオ70)は、ディ・リエッロ家が育ててきた香水セレクトショップである。家族の商いの歴史は1926年にさかのぼるが、大規模な流通とは異なる創作や販売を重視するニッチ香水を中心に据えた現在の構想が形になったのは2000年代初め。長い家業を受け継ぐことは、同じ売場を守り続けることではなかった。

この店を知る手がかりは、棚に並ぶブランドの多さより、誰の香水を、どのような出会いを通じて届けてきたかにある。独立した作り手との関係、家族の世代交代、香りをめぐる集まりをたどると、イタリアで香水を選び、伝える仕事の一面が見えてくる。

基本情報

  • 名称:Campomarzio70(カンポマルツィオ70)
  • 発祥:イタリア・ローマ
  • 歴史の起点:家業は1926年。カンポ・マルツィオ通りの専門店は2003年に開いたという本人の説明があり、公式沿革では2004年を店舗とブランド誕生の年としている。
  • 運営:ディ・リエッロ家。ジャンニ、ロベルタ、ヴァレンティーノ、ファブリツィオ、マリア・チトヴァが事業に携わる。
  • 主な活動:香水・化粧品・ホームフレグランス・デザインの小売、ブランドの流通、嗅覚文化の催し。
  • 公式サイト:Campomarzio70

ディ・リエッロ家と香水店の成り立ち

理容用品の商いからパンテオン前の店へ

家業の出発点は、1920年代のローマに開いた理容用品の販売店である。公式沿革が示す1926年は、この家族の商いをたどる年だ。現在のニッチ香水専門店が、その年から同じ形で存在したわけではない。

1996年にはパンテオン前のピアッツァ・デッラ・ロトンダにPantheon 96が開く。ヴァレンティーノは学業を終えると、この家族の店の会計を担当した。売場にはシャネル、ディオール、ランコムなどのブランドと、少数のニッチ香水が共存していた。

2003年の専門店と、2004年のブランド誕生

転機は2002年ごろ。ヴァレンティーノは、ニッチ香水に成長の兆しを見いだした。翌2003年、両親の支援を受け、カンポ・マルツィオ通り70番地でニッチブランドだけを扱う店を開いた。家業の売場をそのまま増やすのではなく、品ぞろえの前提を変えたのである。

父ジャンニの考え方はより伝統的だったが、息子の構想を受け入れ、戦略を任せた。妻マリアの支えも、この転換を進めるうえで大きかった。公式史とヴァレンティーノがブランド誕生の年に置くのは2004年。2003年の開店という本人の説明と分けて読むと、家業の起源、専門店への転換、名称の成立という三つの時間が重ならずに見える。

ヴェロ・ケルンが夜行列車で訪ねた家族

2007年に始まったヴェロ・ケルンとの関係には、新しい作り手と出会う店の仕事が表れている。自身の香水を発売した直後、ケルンはヴァレンティーノから連絡を受けた。

「私はすぐ、その夜のローマ行きの最初の列車に乗りました。」

ヴェロ・ケルン

ローマで彼女を迎えたのはディ・リエッロ家だった。ケルンは、彼らには芸術的な香水を評価し、販売する知識と力があると認めている。2012年の言葉では、協力は世界に香水を届ける流通にまで広がっていた。

独立した調香師にとって、よい香水を完成させることと、それを必要な人へ届けることは別の課題である。ケルン自身も資金や製造と並んで流通の難しさを挙げた。カンポマルツィオ70は店頭の選者であると同時に、作り手の外側に販売の道をつくる相手でもあった。

ヴィットリア通りに生まれた集いの場所

ローマのヴィットリア通り52番地に設けたThe Essential Galleryは、その関係を人が集まる空間に広げた。公式沿革は開設を2010年とし、2011年3月には開店を祝う催しが行われている。

2011年3月12日付の現地参加記録には、フランシス・クルジャン、モナ・ディ・オリオ、アンディ・タウアー、ヴェロ・ケルン、メモのクララ・モロイらが顔をそろえた様子が残る。香水の展示だけでなく、発表、講演、嗅覚をめぐる集まりを開くための店だった。翌朝にはマリア・グラツィア・フォルナジエによる「香水と個性」の講義も行われた。

各ブランドのボトルが同じ棚に並ぶだけなら、作り手同士や客との距離は残る。この催しでは、実際にその香水をつくり、構想した人が集まった。パリのNoseなどと同様、店が作品の背景を聞く入口になる。ただし、ここでは家族が築いた取引関係が、人の集まる場の土台になっている。

ローマから各地へ、家族それぞれの役割

2012年にはローマ以外で初めてとなるコルティーナ・ダンペッツォ店が開く。2013年にはラヴェンナのフランチャイズとポルト・チェルヴォのショップ・イン・ショップへ、2014年12月にはミラノのブレラ通りへと活動が広がった。ヴィットリア通りのギャラリーを基本としながら、土地ごとに変化を加える展開である。

2025年の家族の役割分担では、ジャンニとロベルタがオーナー、ヴァレンティーノが創設者・CEO、ファブリツィオが共同創設者・小売責任者、マリアが共同創設者・国際事業開発を担う。家族の歴史の長さと、現在の事業を形づくった人々の役割は、分けて捉えたい。

選品と接客で、作り手の考えを伝える

ブランド名の先にある創作を説明する

ファブリツィオが2014年に語った客の姿は興味深い。客は新しい香りに関心を持ち、香水の背後にあることを知ろうと質問する。店に求められるのは、香調の説明に加え、その香水をつくった人の考えを伝える力だった。

「誰がつくったかを知り、その人の視点を伝えられることは、さらに魅力を添えます。」

ファブリツィオ・ディ・リエッロ

同じ年、彼が新しい提案として挙げたのはラモン・モネガル、ヴォン・オイザー・ドルフ、ゼノロジーなど。とりわけヴォン・オイザー・ドルフは、ミモザやベチバー、パチョリなどの素材を主題にした作品として紹介された。名前を知るだけでなく、何に焦点を当てて嗅ぐ香水なのかを伝える説明である。

贈り物を選ぶ際には、受け取る人の個性から出発するとも述べている。2014年当時の売れ筋を現在の人気順位に読み替える必要はない。ここから分かるのは、店が新しいブランドを見つけることと、目の前の人に合う香りを考えることを、接客の両側に置いていたという点だ。

香水とデザインを同じ空間に置く

現在の公式ショップは、肌にまとう香水だけでなく、空間の香り、化粧品、フォルナセッティやジノリ1735などのデザインも扱う。香水専門店を起点にしながら、香りのある暮らしへ扱う領域を広げている。

その具体例が2024年に開いたミラノ・マンゾーニ通り店だ。地上階にはブランドの世界を伝える映像と吊り下げ式の展示ケースがあり、香りを付けたエレベーターで次の空間へ進む。作品の背景を視覚的にも伝える構成である。

「ミラノの新店を、ローマのEssential Galleryでも採用したアートギャラリーという考え方に、さらに近づけたいのです。」

ヴァレンティーノ・ディ・リエッロ

開業時の構想には、選んだ香水の主題となる原料から考えるカクテルや、芸術作品とくつろげる空間も含まれていた。香水の香りを飲み物でそのまま再現するという意味ではなく、嗅覚に加えて味覚や視覚からも主題に近づく提案である。香水のノート表だけでは伝わりにくい素材や作品の印象を、別の感覚との関係で考えられる。

自分たちの店舗を香りの題材にする

選び、届ける仕事は、自分たちの歴史を香りで表す試みにもつながった。2021年に発表されたホームフレグランスThe Essential Blendは、調香師ルカ・マッフェイが香りを手がけ、店舗の番地を作品名に取り入れたコレクションである。

たとえばn.70/Aはパンテオン前の店とインセンス、n.52はヴィットリア通りの中庭のマンダリン、n.9はコルティーナの雪を思わせるパウダリーな表現を結びつける。都市名を並べるだけでなく、その店が立つ場所を嗅覚の題材にしている。

カンポマルツィオ70を香水メーカーだけとして紹介すると、こうした作品の背景も見えにくい。まず店があり、街と客と作り手との関係があり、それを香りにするという順序に、このコレクションの意味がある。

現在の店舗と嗅覚体験

2026年10月確認の公式店舗案内には、ローマのカンポ・マルツィオ通り70番地、ヴィットリア通り52番地、ピアッツァ・デッラ・ロトンダ70/A、ヴィットリオ・ヴェネト通り136番地が掲載されている。ミラノではアレッサンドロ・マンゾーニ通り44番地とブレラ通り2/Aを案内しており、新店の開業を旧店の閉鎖と同一視することはできない。

フィレンツェのコンドッタ通り65/Rをはじめ、コルティーナ、フォルテ・デイ・マルミなどにも拠点を持つ。直営店、フランチャイズ、他店内のコーナーは形が異なるため、訪問先は公式店舗案内で確認したい。

対話を通して選ぶ仕組みとして、公式にはギフトカードと嗅覚相談を組み合わせたサービスがある。ローマのヴィットリア通り店では、好みを聞きながら香水を提案する45分の予約制体験で、購入券とバーサービスを組み合わせている。これは購入と結びついた有料の予約パッケージである。

また、公式の催し一覧には、夏を思わせる香りを主題にしたSummer Storiesなどが掲載されている。催しの日時や内容は企画ごとに異なる。旅行をしない香水好きにとっても、素材の名前だけで香水を捉えず、作り手の視点、場所、ほかの感覚とのつながりへ関心を広げる店の姿勢は面白い。カンポマルツィオ70の歴史は、選品する人の判断が、香水との出会い方そのものを変えることを示している。

歴史年表

年 主な出来事
1926年 家族の商いの起点。ローマの理容用品販売に始まる歴史。
1996年 パンテオン前にPantheon 96を開く。
2003年 ヴァレンティーノ本人の説明では、カンポ・マルツィオ通り70番地にニッチ香水専門店を開く。
2004年 公式沿革と本人がCampomarzio70のブランド誕生の年とする。
2007年 ヴェロ・ケルンとの協力が始まる。
2010〜2011年 公式はヴィットリア通りのEssential Galleryを2010年開設と記載。2011年3月に開店記念行事。
2012年 コルティーナ・ダンペッツォにローマ以外で初の店。
2013年 ラヴェンナのフランチャイズ、ポルト・チェルヴォのショップ・イン・ショップへ展開。
2014年12月 ミラノ・ブレラ通りに店舗を開く。
2021年 店舗と都市を題材にしたThe Essential Blendを発表。
2024年 ブランド20周年。ミラノ・マンゾーニ通り店を開く。
2025年 公式沿革にラパッロのポルト・カルロ・リヴァとトレヴィーゾの展開を記載。

参考文献