Fumerie(フュムリー)|ポートランドの香水店の創業史と、選品・対話・試香の仕事

木のテーブルにタウアーNo.02の青い香水瓶と試香紙、本を配したフュムリー紹介記事の静物イメージ 香りの世界を広げる

「私たちが探すのは、品質と技に重きを置いた、着想に富む創作です。」

トレイシー・ツェファラス、2017年

ポートランドのフュムリー(Fumerie Parfumerie)には、香水を選ぶための木製のバーがある。カウンターに座り、香りについて話しながら候補を探す。背後に並ぶのは、さまざまな作り手の香水である。店の中心にあるのは、創業者が長く積み重ねた香水の知識と、それを一人ひとりの好みに結びつける会話だ。

2016年に始まったこの店は、ニッチ香水や独立した調香師の仕事を紹介する専門店である。欧州のブランドだけでなく、ポートランドを拠点とする作り手も並ぶ。棚の多様さに加え、試した香りへの反応を次の提案へつなぐ接客が、その選品を生かしている。

基本情報

  • 名称:Fumerie Parfumerie(フュムリー・パフューマリー)
  • 開店:2016年2月23日。グランドオープニングの催しは同年3月8日
  • 創業者:Tracy Tsefalas(トレイシー・ツェファラス)
  • 所在地:3584 SE Division Street, Portland, Oregon 97202, USA
  • 業態:複数ブランドの香水を扱う専門店・オンラインショップ
  • 公式サイト:Fumerie Parfumerie

現行の取扱ブランド・所在地・相談サービスは2026年10月15日時点の公式案内に基づく。

創業者と店の成り立ち

クラシック香水を学んだ、義父との仕事

十代のトレイシーにとって、香りの実験は精油を混ぜる程度のものだった。本格的に香水へ入ったのは結婚後である。夫の家族が営む香水店で義父と働き、ゲランやキャロンなどのクラシックに触れた。モリナールの「ハバニタ」との出会いが、関心を強い情熱に変えた。

その前職の店が、同じポートランドのThe Perfume Houseである。トレイシーはクリス・T・ツェファラスのもとで香りを学び、フュムリーの開店時にはアンドレ・ゴーレンも同店から加わった。The Perfume Houseが店名を変えたのではなく、経験を積んだ二人が新しい売場を始めたのである。

芸術として香水を紹介する店へ

トレイシーには、少女時代に美術館でピカソの版画「貧しき食事」に立ち止まった記憶がある。家族が先へ進んでも、その作品から離れられなかった。後年、香水にも同じように心を動かされる体験をした。フュムリーを始める背景には、香水を鑑賞する作品として人に届けたいという考えがあった。

「ニッチや独立系の香水メーカーの仕事を紹介する場をつくりたい。その願いからフュムリーは生まれました。」

トレイシー・ツェファラス、2016年

長い販売経験のなかで彼女の関心は、小さな独立系の香水へ向かった。開店準備では、気になった40を超えるハウスへ連絡し、サンプルを求めた。名前や外装を集める前に、香りそのものを確かめて選ぶところから店を組み立てたのである。

2016年、図書館の梯子と木製バーのある店を開く

店づくりの出発点は、長年思い描いた「自分の理想の香水店」だった。トレイシーが望んだのは、商品が見えなくなるほど什器を詰め込まず、落ち着いて選品を見渡せる空間である。図書館にあるような移動式の梯子は、子供の頃からの憧れだった。

「図書館というものが持つ雰囲気が、私の思い描くフュムリーの中心にありました。」

トレイシー・ツェファラス、2016年

最初の店は1919年築の煉瓦建物に設けた約500平方フィート、約46平方メートルの空間だった。木製バーは装飾だけのためではない。バーテンダーが客の話に耳を傾けるように、香水の専門家も好みや望みを聞き取り、探索を案内する。その関係を形にした家具だった。

友人や家族の助けも受け、2016年2月23日に営業を始めた。3月8日のグランドオープニングでは、予定した3時間を超えて人々が集まった。創業時の小さな店が、地域の香水好きの集まる場所になり始めていた。

フュムリーの歴史年表

時期 出来事
創業前 トレイシーがThe Perfume Houseで香水販売とクラシック香水の知識を培う。
2016年2月23日 ポートランドのSE Division Streetでフュムリーが開店。
2016年3月8日 グランドオープニングの催しを開催。
2017年2月 第3回の香水交換会を前に、トレイシーが開催理由と進め方を説明。
2017年6月 Nezのインタビューで、独立系の選品、愛好家の交流、香水の本を扱う考え方を語る。
2026年10月確認 3584 SE Division Streetの店舗とオンラインショップを運営。公式サイトで10周年を案内。

選品と接客の考え方

著名なニッチと、地域の独立系を一緒に紹介する

フュムリーは一つの自社香水を中心とする店ではない。現行の公式ブランド一覧には、BDK、ナーゾマット、オルモンド・ジェイン、タウアー、エセントリック・モレキュールズ、プロフムム・ローマなど、ニッチ香水の専門店で知られる名前が並ぶ。さらに、パピヨン、ヒーラム・グリーン、FZOTIC、イマジナリー・オーサーズ、スランバーハウスなども扱う。

ブランド名だけの掲載でもない。BDKのコレクションには「グリ シャーネル」や「ルージュ スモーキング」、タウアーには「ロー デュ デゼール マロカン」などの商品ページがある。著名なニッチブランドを入口にしながら、別の作り手へと探索を広げられる棚なのである。

なかでもイマジナリー・オーサーズとスランバーハウスは、公式の紹介でポートランドとのつながりが示されている。海外の香水を輸入して見せるだけでなく、同じ街の創作も同じ売場に置く。地域の香水文化と、国境を越える独立系の仕事が交差している。

香料名が分からなくても相談できる

現在のフュムリーは、予約なしで受けられる無料の対面相談を接客の基礎に置いている。公式案内は、一度の訪問に少なくとも1時間を見込むよう勧めている。週末は待機リストができることもあり、香水を急いで決めるための短い問答とは少し違う。

相談では、日常で好きな匂い、形、素材、あるいは抽象的なイメージも手がかりになる。店はノート名に頼りすぎるより、形容詞を使った個人的な言葉を勧める。専門用語を覚えてから入店する必要はない。

知識を持つスタッフが答えを決めてしまうわけでもない。公式の店紹介は、提案を最終的に形づくるのは客の印象だと説明する。以前に好きだった香水、今試して感じたこと。そうした反応を受け取って、次の候補へ進むのである。

オンラインでも、サンプルと感想の往復を続ける

オンラインの無料相談は、ポートランド/バンクーバー都市圏の外に住む人を対象にしている。フォームで希望を伝えると候補の案内が届き、興味を持った香りのサンプルを購入して試し、感想を返す。その後も対話を続ける仕組みである。

サンプルは、取扱状況に応じてほぼすべての香水に用意される。店で手作業により透明な1mlガラス瓶へ小分けし、作品名・ブランド・濃度を記したラベルを付ける。市販の完成品を売る仕事と、その一部を時間をかけて試せる形にする仕事が、同じ店でつながっている。

香水好きが集まり、交換する場所

使わなくなった一本から始まった交換会

フュムリーの活動には、客が手持ちの香水を持ち寄る交換会もある。始めた理由は、長く接客をするなかで聞いてきた相談だった。使わなくなったり、飽きたりした香水をどうすればよいのか。ネットで売るのは気が進まないが、捨てたくもない。トレイシーは、友人同士が服や本を交換する集まりを、香水でもできないかと考えた。

2017年の説明では、持参した香水と試香紙を並べ、全員が香りを確かめてから交換に進んだ。トレイシーかアンドレが順に希望を聞き、双方の合意を支える。前2回にはそれぞれ100点を超える品が集まり、安価なものから生産を終えたヴィンテージまでが並んだ。

「品物の『価値』がどう見られているかにかかわらず、自分の感覚を信じてください。」

トレイシー・ツェファラス、2017年

高価な新品を紹介する店が、すでに誰かの手元にある香水にも出会いの機会をつくった。売場の外にあるコレクションや記憶も、香水を楽しむ文化の一部として受け止めたのである。ここで紹介した交換会は当時の活動であり、次回開催を案内するものではない。

フュムリーの棚には多くの名前がある。しかし、その店の輪郭をつくっているのは、数だけではない。どんな香りに惹かれ、何を感じたのかを話せること。一本を決めるまでの対話に時間を使うこと。創業者が木製バーに込めた考えは、現在の相談とサンプルの仕組みにも続いている。

ほかの専門店や香水文化の施設は、「香水の世界を知る」の世界の香水店一覧でも紹介している。

参考文献