Bloom Perfumery(ブルーム)|ロンドンの香水店の創業史と、選品・試香・サンプルの仕組み

温かな光の中にサンプル香水と試香紙を配したブルーム紹介の静物画。Bloom Perfumery、ブルーム、嗅ぎ比べから、香りの世界へ。 香りの世界を広げる

「何かを試していただく前に、お客様と話をします。」

オクサナ・ポリャコワ、2012年

香水を選ぶとき、自分の好きな香りをどこまで言葉にできるだろうか。ロンドンのブルーム・パフューマリー(Bloom Perfumery)は、その会話から始まり、少量の香水を持ち帰って確かめるところまでをつなぐ店である。独立した作り手の香水を集めるだけでなく、同じ素材の異なる表情を嗅ぎ比べる機会を作ってきた。

創業者オクサナ・ポリャコワの出発点も、サンプルを取り寄せ、本で読んだ香水を一つずつ確かめることだった。学ぶ人として始まった探究が、2012年、イースト・ロンドンの小さな店になった。

基本情報

  • 名称:Bloom Perfumery(ブルーム・パフューマリー)
  • 開店:2012年8月、ロンドンのスピタルフィールズ
  • 創業者:Oxana Polyakova(オクサナ・ポリャコワ。資料によってOksana表記)
  • 現在の店舗:4 Slingsby Place, London, WC2E 9AB、コヴェント・ガーデン
  • 公式サイト:Bloom Perfumery

所在地・サービスの記述は2026年10月15日時点の公式案内に基づく。

創業者と店の成り立ち

モスクワの友人と、香水を読む楽しみ

モスクワ出身のオクサナは、香水を専門に学ぶ前、ロンドンのキャス・ビジネススクールで投資運用を学んでいた。娘の誕生が、金融の仕事とは別の道を考えるきっかけになった。子供と過ごす時間を持ちながら、自分の仕事もしたい。その選択の先に香水店があった。

香水へ連れ出したのは友人である。さまざまな香りを勧められ、やがてルカ・トゥリンとタニア・サンチェスの『Perfumes: The A–Z Guide』を読むようになった。文章を読んで終わるのではなく、サンプルを集めて鼻で確かめる。さらにパリのサンキエム・サンスで香料を学び、作品への関心を素材の理解へと広げていった。

2012年、ハンベリー・ストリートで開店

最初のブルームは、スピタルフィールズのハンベリー・ストリートに開いた。2012年12月に店を訪れたThe Womens Roomが見たのは、グロスミス、ナーゾマット、ジョヴォイなどの選品と、好みや普段使う香水を聞いてから候補を出す接客だった。大きな百貨店では見過ごされがちな、小さな作り手に場所を与える。それが創業時の店の役割であった。

冒頭の言葉には続きがある。オクサナは、好みを尋ねる理由を、一度に試して理解できる香水の数には限りがあるからだと説明している。棚を埋めるほどの種類を持つことと、その人が違いを感じ取れる順序で紹介することは別の仕事なのである。

2015年、コヴェント・ガーデンへ広がる

2015年春、ブルームはラングリー・コートに第二の店を開いた。開店当時はハンベリー・ストリートと併存しており、最初から単純な移転だったわけではない。中心部への出店には、新しい客層に香水を届けることに加え、小売店として作り手を支え、流通側と交渉できる規模を持つという目的もあった。

店名はオクサナ自身が選んだ、花に関係する短い言葉である。一方、店づくりでは装飾より香水を優先した。2015年に語ったのは、簡潔な棚と、洗えるガラスなどの表面。香水を一日中スプレーする場所として、空間の素材まで考えていた。

現在の公式所在地は同じコヴェント・ガーデンのスリングスビー・プレイスであり、ラングリー・コートは旧所在地として記載されている。

ブルームの歴史年表

時期 出来事
2008年前後 ビジネススクール卒業と娘の誕生を経て、香水の本とサンプルによる探究を深める。
2012年8月 スピタルフィールズで開店。
2015年春 コヴェント・ガーデンの4 Langley Courtに第二店舗を開く。
2015年12月 AnOtherが、客自身の香水を作るブルームの調香体験を紹介。
2017〜2018年 独立した訪問記事・インタビューで、少量販売、テーマ別サンプル、Nose Clubの活動が伝えられる。
2026年10月確認 公式所在地は4 Slingsby Place。オンラインでもサンプルとテーマ別の探索を提供。

選品と接客の考え方

ブランドの背後にいる人を見る

「コンセプトが何より重要です。」

オクサナ・ポリャコワ、2015年

オクサナが選品で重視したのは、ブランドの背後に具体的な人がいることだった。その人は調香師でも、クリエイティブ・ディレクターでもよい。発想を持ち、その香水に責任を負う人の存在が、独創性につながると考えたのである。物語が魅力的でも香りが伴わなければ十分ではない。

2018年には、創造性だけでなく、消費者にとっての価格と、流通の広がりとの釣り合いも選品条件に挙げている。珍しいから高くてもよい、という単純な選び方ではない。作り手の個性を保ちながら、客が実際に探索できる棚を作ろうとしていた。

色と質感で香りを伝える

「私には香りが色として見えるのです。」

オクサナ・ポリャコワ、2014年

オクサナは香りを色や質感として捉える。2014年にファエドンの「セドル・ド・テ」を説明したときには、ベルベットのような灰色、スエードのような質感という言葉を使った。素材名を列挙する説明とは違い、まだ嗅いでいない香水の輪郭を、別の感覚を通して想像させる言葉である。

それでも、言葉だけで選択を完結させようとはしなかった。同じ記事で話題になっていたのは、オンラインで香水を選ぶ難しさと、購入前にいくつか試す時間の必要性である。説明とサンプルは、どちらか一方で済ませるものではなく、互いを補うものだった。

同じノートでも、違う香りに出会う

2018年のオクサナは、ある素材を含む複数の香水でも、濃度、抽出、構成によって印象が変わると説明した。客が持っていた「この香料はこういう匂い」という像を、実際の比較で広げる仕事である。

その姿勢は、本人の短い言葉にも表れている。

「香水を判断する私の力は、今も毎日向上しています。」

オクサナ・ポリャコワ、2018年

知識を一方的に渡すだけでなく、店側も学び続ける。ブルームの試香は、好きな一本を探すと同時に、自分が何を感じ取っているかを知る機会にもなる。

試香を続けるためのサンプルとクラブ

テーマを読んで、複数の香水を嗅ぎ比べる

公式サイトの「Explore Themes」は、素材、スタイル、季節などで香水をまとめ、その多くに対応するサンプルパックを用意している。ジャスミンなら明るいコロンからレザーまで、グリーンならトマトの葉、イチジク、草、お茶など。ブランドを横断する編集によって、一つの言葉の内側にある幅を見せている。

「Vanilla! Pack」は、その仕組みが分かりやすい例である。公式掲載は9種類の1mlサンプル。アイスクリームを思わせるものから、緑の莢、煙、レザーを軸に説明するものまでを並べる。バニラを「甘い香り」として一括りにせず、どの方向の表現に惹かれるかを比較できる構成である。セット内容は時期によって変わるため、2017年の訪問記に登場するバニラセットとは分けて考えたい。

2017年のLa Parfumerie Tanuの訪問記事には、店で香水を次々に試し、少量に小分けされた香水やテーマ別セットへ関心が広がる様子が残っている。今の公式サイトだけから後付けされた仕組みではなく、店頭と自宅の試香をつなぐ仕事が以前から続いてきたのである。

1mlの確認と、10mlをまとう体験

ブルームは1mlのサンプルサービスとは別に、「Nose Club」を設けている。会員がトークンを購入し、香水ごとに定められた数のトークンを使って10mlアトマイザーを選ぶ方式である。一本の大きなボトルを増やさず、ある香水をしばらく身につけてから、次の香りへ進める。

ここでは「一度嗅いで確かめる量」と「日々使って知る量」が区別されている。さらに年間サンプル購読も案内され、単品、テーマ別、継続的な探索という複数の入口がある。店へ頻繁に行けなくても、香水との関係を一度の買い物で終わらせずに済む。

愛好家が挙げるのは、少量で探索できること

Redditの英国向けサンプル相談やブルームについてのスレッドでは、ノート別のセット、スプレー式サンプル、スタッフと香水を比較する時間が繰り返し話題になる。「Fog and Petrichor」のセットを試した投稿では、霧や雨を題材にした複数の作品を、好みと情景の再現という別々の観点から比較していた。

これらは個人の体験であり、接客や配送を一律に保証するものではない。ただ、ブルームが愛好家に勧められる理由を、品揃えの珍しさだけでなく、少量を入手して自分で比較できる点から理解する手がかりになる。

香水を作る体験と、現在の店舗

ブルームは、選ぶだけでなく、自分のコンセプトから香水を組み立てる調香ラボも展開してきた。2015年のAnOtherは、用意された香りの要素と配合を補助する仕組みを使い、客が自分の香水を作る体験を紹介している。

現在の公式案内も、最初にコンセプトを決め、それから処方の構成要素を選ぶ順序を重視する。作った処方は保存され、再注文できる。ただし2026年10月15日の案内では、ラボは購入済みのバウチャー・招待と既存予約への対応に限られ、新規のセッション購入やギフト券は一時受付停止とされている。

現在の店は、コヴェント・ガーデンのロング・エーカーとセブン・ダイアルズ近くにある。公式営業時間は月〜金12〜18時、土・日13〜18時。旧記事に残るラングリー・コートの住所とは異なる。

創業者が本の一節を読み、サンプルで確かめていた時間は、今では客がテーマを読み、複数の香りを自分の鼻で比較する仕組みへと広がった。ブルームを知る面白さは、珍しい香水の集まる場所であることに加え、香水への関心を深める方法そのものを店が用意してきたところにある。

ロンドンの香水店の別の歩みとして、レ・サントゥールの創業史と試香の思想も紹介している。

参考文献