Aus Liebe zum Duft(アウス・リーベ・ツム・ドゥフト)|ドイツのオンライン香水店の歴史と、文章・サンプルで伝える仕事

温かな光の木の机に、香水サンプル、試香紙、手帳と小包を配したアウス・リーベ・ツム・ドゥフトのスティルライフ 香りの世界を広げる

お客様が、自分に合い、幸せにしてくれる香りを見つけるお手伝いをしたいのです。それ以上でも、それ以下でもありません。

ゲオルク・R・ヴクサ

香水を画面で眺めても、香りそのものは届かない。けれど、香水の背景を読んで関心を持ち、小さなサンプルを取り寄せ、自分の肌で確かめることはできる。ドイツのオンライン香水専門店Aus Liebe zum Duft(アウス・リーベ・ツム・ドゥフト)は、その往復を長く支えてきた店である。

店名の意味は「香りへの愛から」。国際的にはFirst in Fragranceの名でも知られてきた。その出発点にあるのは、創業者が自分の好きな香水を探す楽しさと、見つける難しさだった。宝飾店の一角から始まった香水の仕事は、選品、文章、個別の相談、そして手作業で詰めるサンプルを通じて、離れた場所の人にも届くようになった。

基本情報

  • 名称:Aus Liebe zum Duft(アウス・リーベ・ツム・ドゥフト)
  • 創業:2000年
  • 創業者:Georg R. Wuchsa(ゲオルク・R・ヴクサ)
  • 発祥:ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州ブルフザール
  • 事業:ニッチ香水を中心とするオンライン販売、香水サンプルの小分け、香りの情報発信
  • 現運営会社:PWV Online GmbH
  • 公式サイト:Aus Liebe zum Duft
  • 関連ブログ:Das Duft-Tagebuch(香りの日記)

2026年10月時点の運営会社所在地はGroßer Sand 18, 76698 Ubstadt-Weiher, Germany。代表者としてリーザ・フックス、デニス・フックス、ゲオルク・エルシュレーゲルが記載されている。これは運営会社の所在地であり、創業期のブルフザールの売場とは区別したい。

創業者とオンライン専門店の成り立ち

宝飾店で育った、手仕事への目

ヴクサはブルフザールの宝飾店の家に育った。職業訓練を終え、ドイツの複数の大きな宝飾店で働いた後、1985年に両親の事業を引き継ぐ。1993年には二つ目の店を開いた。香水の専門店をつくる以前から、美しい品を選び、その価値を人に伝える仕事を重ねていたのである。

香水は、もともと彼自身の楽しみだった。珍しい香りを探すなかで、手に入れることの難しさに出会う。1997年には、自分でそれらを販売するという着想を持つようになった。その考えが、2000年のアウス・リーベ・ツム・ドゥフト創業につながった。

2026年の言葉でも、ヴクサは当初の動機を、市場の空白を見つけた戦略ではなく、自分を魅了した香水を見せたいという個人的な衝動として説明している。宝石の輝きや精緻なカットに惹かれるのと同じように、香水にも手仕事と個性を見ていた。

香りも、宝石とまったく同じように、傑作になり得るのです。

ゲオルク・R・ヴクサ、2026年

2000年、ブルフザールからインターネットへ

初期の香水売場は、ブルフザールの宝飾店に組み込まれたものだった。時計やジュエリーを選ぶ顧客に、別の形の美しい品として香水を紹介する。2008年の店の紹介には、ロレンツォ・ヴィロレッジ、アムアージュ、ペンハリガン、メートル・パルフュムール・エ・ガンティエなどが並ぶ。現在の取扱一覧ではなく、当時の選品の広がりを示す顔ぶれである。

その品揃えを地域の売場の外へ運んだのが、インターネットだった。ヴクサは2020年、創業当時にはニッチ香水もオンライン販売も、まだ十分に発達していなかったと語っている。香水を探すにはニューヨーク、パリ、ロンドンの専門店へ足を運び、知らない香りを掘り当てる必要があった。

オンラインなら、ブルフザールに住んでいない人にも紹介できる。しかし、小さなドイツの街から高級香水を販売する試みは、誰からも歓迎されたわけではない。ヴクサが覚えていたのは、オンライン販売への懐疑と、ブルフザールがパリでもニューヨークでもないという距離感だった。

この店の歴史は、香水を売る場所を増やすだけでなく、どこに住んでいても、まだ身近な売場にない香水へ近づけるようにする仕事でもある。オンラインで紹介し、相談を受け、サンプルを送る。それぞれが、実物をすぐに嗅げないという同じ課題に向き合っていた。

相談から小分けまで、人がつないだ香水選び

2009年のスタッフ紹介に登場するベアーテ・フンベルトは、宝飾店時代からの従業員だった。彼女はオンラインの顧客にサンプルの候補を提案し、対面や電話で香水選びを手伝い、注文後には自ら小分けして品物を用意していた。商品の説明と、その人に何を試してもらうかという判断が、一人の仕事のなかでつながっていたのである。

同年3月に加わったベンヤミン・ラングは、オンラインの外観と文章を担った。広告文、ブログ記事、商品説明を書き、編集部や外部の協力者と連絡を取る。香水を探している人が店にたどり着くまでにも、香りを言葉に置き換える仕事が必要だった。

2017年に現地を訪れたAustralian Perfume JunkiesのCQは、サンプルづくりの現場を具体的に記録している。担当者は注文に合わせて棚から元のボトルを取り、トレーに載せ、作業机で小分けした。ブランドによっては公式サンプルを用意していないため、店が詰める小瓶そのものが試香への入口になる。当時は4人が小分けを担い、週に少なくとも3,000本を用意していたという。これは2017年の訪問時の規模である。

2016年の提携と、創業者からの引き継ぎ

2016年、アウス・リーベ・ツム・ドゥフトは、オーストリアの香水小売企業ネーゲレ&シュトルベルと提携した。オンラインで築いた仕事を、香水を扱う経験のある企業へつなぐ転機であった。

ヴクサは2020年3月のインタビューで、経営の第一線から退く考えを語っている。その後、本人の公式経歴が記録する2021年2月末に持分を手放し、会社を離れた。退任の意向を公にした時期と、持分の売却・退社の時期は同じではない。

現在、ヴクサは別の香水事業scent amorとscentnewsに取り組んでいる。アウス・リーベ・ツム・ドゥフトは、ウィーンのPWV Parfümeriewarenvertriebs GmbHの子会社であるPWV Online GmbHが運営している。創業者の新しい店を、旧店の改称と捉えると、この継承の関係が見えなくなってしまう。

歴史年表

年 出来事
1985年 ヴクサが両親の宝飾事業を引き継ぐ。
1993年 二つ目の宝飾店を開く。
1997年 珍しい香水を自ら販売する着想を持つ。
2000年 アウス・リーベ・ツム・ドゥフト創業。宝飾店の香水売場とオンラインでの紹介を展開する。
2008年 「香りの日記」の記事が、ブルフザールの売場とオンライン販売を紹介。
2009年 スタッフ紹介で、相談・小分け・商品説明などオンライン販売を支える仕事を公開。
2016年 ネーゲレ&シュトルベルと提携。
2017年 独立ブログの現地訪問記が、小分けサンプルを準備する現場を記録。
2020年3月 ヴクサが経営の第一線からの退任について語る。
2021年2月末 ヴクサが持分を手放し、会社を離れる。
2026年10月現在 PWV Online GmbHの運営でオンライン販売、サンプル、情報発信を継続。

選品と、文章で香水を伝える仕事

自分の鼻で選び、作り手とつながる

創業期のヴクサは、各地の香水好きと連絡を取り、新しい香りを探した。2008年の公式紹介は、見つけた香水が彼自身の鼻による吟味を通過して、品揃えに加わる様子を描いている。知られている名前を並べる以前に、扱いたいと感じる香りを見つけることがあった。

2026年10月時点の店は、正規取扱店として、ブランドまたはその流通会社から直接仕入れることを明示している。香水に加えてスキンケアやルームフレグランスも扱うが、店が中心に置くのはニッチ香水、すなわち大量流通とは異なる創作や販売のあり方を持つ香水である。

創業者の時代から現在まで、一人が同じ基準ですべてを選び続けているわけではない。それでも、オンラインの棚に香水を集め、背景を伝え、試せる形にするという店の役割は続いている。

「香りの日記」を、商品説明の外へ広げる

関連ブログの「香りの日記」は、商品ページだけでは収まりきらない話を置く場所として育った。ヴクサは、自店で扱っていない、あるいは仕入れられなかったブランドについても書けることに意味を見ていた。

商品の説明ですべてを語り尽くせるわけではありません。

ゲオルク・R・ヴクサ、2020年

その文章に人の顔を与えた一人が、ウルリケ・クネル(Ulrike Knöll)だった。彼女はもともと顧客として、ブルフザールで開かれたフォーラムの集まりに参加した。そこでヴクサと話したことをきっかけにブログを引き受け、プレス文中心だった内容に新しい構想を持ち込んだ。

「香りの日記」は、私たちの会社に顔を与えるのです。

ウルリケ・クネル、2012年

クネルにとって、香水の文章には、書く人の暮らしや関心も入る。読んだ本、音楽、映画、研究中のテーマから、香りとの接点を見つけた。初めて扱う香水は繰り返し試し、肌と試香紙の両方で確かめる。パルフモへのインタビューで語った2012年当時、執筆の題材や時間の組み方には裁量があり、新作だけでなく古い香水も織り交ぜていた。

ここで読者が出会うのは、香料名の一覧だけではない。誰が、どのようなものに関心を持ち、香水をどんな言葉で捉えたのかという視点である。店のブログであることを踏まえて読みながらも、自分では思いつかなかった香水との接点を見つけられる。

サンプルと相談で、自宅の試香につなぐ

小さなスプレーに、実際に試す時間を入れる

現在のサンプルサービスでは、店が香水を手作業で小分けし、ラベルを付ける。スプレー付きの容器は約2ml。公式の「Sample Shopping」には、その時点でサンプルを注文できる香水がまとめられている。文章で候補を知り、自宅で落ち着いて試すという順序をつくる仕組みである。

サンプルだけの注文も可能だが、すべての取扱香水が常時対象になるわけではない。公式FAQは、テスターの補充状況に加え、ブランド側の許可が必要なことを説明する。また、同じ香りの小分けを複数注文できないのは、購入前に試して判断するためのサービスだからである。

小分けの小瓶が担うのは、説明文を信用するかどうかを急いで決めさせることではなく、読んで関心を持った香水を実際に確かめる時間である。オンライン専門店にとって、この最後のひと手間は、画面だけでは埋められない距離を縮める仕事になる。

離れていても、香水選びを相談できる

公式サイトは電話による相談を案内し、現在の問い合わせページではメールやフォームでの連絡を勧めている。商品や注文だけでなく、自分に合う香水を探している場合も相談の対象に含まれる。

サンプルの選び方を人に尋ねること、書き手の視点から香水を知ること、家で確かめること。その三つを結ぶところに、アウス・リーベ・ツム・ドゥフトの面白さがある。遠くの香水を身近にするために必要なのは、配送だけではない。何を紹介し、どう伝え、何を試してもらうかという、店の仕事そのものなのである。

参考文献