Isolée(イソレ)|スペインにまだ届いていない香水を、暮らしのそばへ

Isolée(イソレ)を題材にした編集イラスト。スペインにまだ届いていない香水を、暮らしのそばへ。スペイン・マドリード。

「私たちは、多くのブランドを包む傘なのです。」

ホセ・ルイス・ロブレス、2016年

マドリードのチュエカ地区で、服や食べ物、デザインの品々に囲まれていた、小さな香水売場。そこから香水とビューティーを専門にする店へと育ったのが、Isolée(イソレ)である。初めから完成した香水の哲学があったというより、店に届くブランドと、それを求める人々との出会いが、売場そのものを変えていった。

路面店でじっくり香りを探す人にも、百貨店で偶然知らないブランドに出会う人にも、作り手の個性を届ける。その二つをつなぐ仕事に、イソレの特徴がある。

基本情報

  • 名称:Isolée(イソレ)
  • 会社の始まり:2004年/最初の店舗開店:2005年
  • 共同創業者:ホセ・ルイス・ロブレス(José Luis Robles)、ロドリゴ・メネンデス(Rodrigo Menéndez)ら
  • 発祥:スペイン・マドリード、チュエカ地区
  • 事業:香水・ビューティーの小売、オンライン販売、ブランドの流通
  • 公式サイト:Isolée

複合店の一角から、香水を届ける店へ

デザインとコミュニケーションの仕事から独立

ロブレスとメネンデスは、デザインやコミュニケーションの仕事を経て、自分たちの店を始めた。旅とリサーチから見いだしたのは、スペインではまだ少なかったコンセプトストアの可能性である。2004年に会社が始まり、2005年、インファンタス通り19番地に最初の店が開いた。

当時のチュエカは、独立した店や新しい発想が集まる地区だった。店名は、フランス語で「孤立した」を意味する言葉に由来する。ほかの店々から離れて立つ自分たちの位置を、そのまま名前にしたのである。

建築家テレサ・サペイが手がけた空間には、レストラン、シャンパンバー、グルメ食品、ファッション、ギフトが同居した。香水は主役ではなく、暮らしのさまざまな楽しみの一つとして置かれていた。

わずか10%だった香水売場の成長

2016年、ロブレスは開店当初の香水売場を、店全体の約10%だったと説明している。そこで見えてきたのが、ほかのヨーロッパ諸国では作られているのに、スペインではまだ出会いにくい香水を紹介する余地だった。

2008年にはサラマンカ地区のクラウディオ・コエーリョ通りに二つ目のコンセプトストアを開く。こちらでは香水と化粧品に一つのフロアを用意した。特別な空間で香水や限定版を紹介したいファッションブランドの要望も、その展開を後押しした。

やがて香水と化粧品は売場を広げ、レストラン部分までビューティーのために転換する。異分野の商品を集める店から、香りと美容を深く紹介する店へ。専門化は、店を続けるなかで少しずつ選び取られた道だった。

百貨店の中に、イソレの小さな店を作る

2013年、百貨店エル・コルテ・イングレスのバルセロナ・ディアゴナル店に売場を開いた。単に商品を卸すのではなく、自社のスタッフと運営によるショップ・イン・ショップ、つまり百貨店内の独立した売場である。

メネンデスが重視したのは、知名度の低いブランドを説明できるスタッフだった。

「非常に高い水準の研修が必要なのです。」

ロドリゴ・メネンデス、2014年

百貨店の客すべてが、最初からニッチ香水を目当てに訪れるわけではない。歩いていて初めて売場を見つける人に、何が違うのかを伝える必要がある。路面店へ足を運ぶ動機をすでに持つ客と、偶然通りかかる客。その両方との接点を持ったことが、イソレの紹介する香水の届く範囲を広げた。

ビューティー・ギャラリーへの転換

2022年、マドリードのガレリア・カナレハスに開いた「Beauty Gallery by Isolée」は、約700平方メートルにブランドごとの空間を設けた。複数のブランドを一様な棚に収めるだけでなく、それぞれの世界を見せる形式である。

2024年にはポルトガルの香水・スキンケア専門店スキンライフを買収し、国境を越えた展開へ進む。2026年にはクラウディオ・コエーリョ55番地の旗艦店も改装し、ビューティー・ギャラリーとして再出発した。新たにトリートメント用の個室も取り入れ、香水とビューティーに専門性を絞った体験へ移っている。

「コロナ禍は、私たちに熟考し、重要な決断を下すことを促しました。」

ロドリゴ・メネンデス、2026年

メネンデスは、コロナ禍を、買収やコンセプトストア型からの転換を考え直す契機と位置づけている。かつての複合店の楽しさをそのまま保存するのではなく、店が育ててきた香水・美容の領域をさらに深めたのである。

イソレの歴史年表

年 出来事
2004年 会社が始まる。
2005年 チュエカ地区のインファンタス通りに最初のコンセプトストアを開く。
2007年 マドリードの革新的な商業施設を表彰する賞を受賞。
2008年 クラウディオ・コエーリョ通りに二つ目のコンセプトストアを開く。
2013年 エル・コルテ・イングレスでのショップ・イン・ショップ展開を開始。
2018年 ブルゴス店を開く。
2021年8月 最初のインファンタス店を閉店。
2022年 ガレリア・カナレハスにビューティー・ギャラリーを開く。
2024年 ポルトガルのスキンライフを買収。
2026年5月 クラウディオ・コエーリョ55番地の旗艦店をビューティー・ギャラリーとして改装再開。

選品と接客に表れる店の考え方

店頭の声を、ブランド選びへ戻す

イソレは小売と流通の両方を行う。自分たちの店で客の反応を知りながら、ほかの売場へもブランドを届ける立場である。2014年のメネンデスの説明には、店頭スタッフが毎日、客から尋ねられた未取扱ブランドを記録し、同じ名前が繰り返し現れれば検討するという具体的な仕組みが登場する。

自分たちが好きなものを選ぶだけでなく、店に来る人が何を探しているのかを拾う。その一方、取扱先との継続的な関係も選定に関わる。香水を仕入れて棚に並べた後、どのように育てていくかまでを含んだ選品である。

ロブレスが2024年に語ったのは、少数の客だけに閉じることへの距離感だった。

「誰もが良い映画を楽しめるように、誰もが良い香水に手が届くべきです。」

ホセ・ルイス・ロブレス、2024年

これは一律の低価格を意味する言葉ではない。高級な香水を扱いながらも、それを理解し楽しめる人の範囲を、初めから狭く決めないという姿勢である。

ブルゴスで、地元の香水好きと出会う

旅行者が集まるマドリードの高級商業施設だけでは、イソレの仕事の全体は見えない。2018年に開いたブルゴス店は、旧市街のサン・フアン通り7番地にある。

ロブレスは、この街で、従来の香水の枠から一歩出たいと考える地元の人々との接点を作ろうとした。観光客の既知のブランドをそろえることと、地域の客に新しい好みを見つけてもらうことには、違う役割がある。ブルゴスは、店が新しい香水の受け手を育てる場として選んだ街だった。

作り手に会い、香りを学ぶ催し

2026年のクラウディオ・コエーリョ店では、公式の「Isolée Events」を通じて、ブランド創設者や調香師を招く予約制の催しを案内している。10月15日のゴールドフィールド&バンクス創設者ディミトリ・ウェバー、10月20日のミゼンジール創設者・調香師アルベルト・モリヤス、11月16日のアトリエ・マテリ創設者ヴェロニク・ル・ビアンの会などが、その具体例である。

ボトルを比較するだけでなく、植物や原料、作品を組み立てる考え方を、作り手から聞く機会にもなる。日程や参加条件は催しごとに変わるが、店が香水と人をつなぐ役割を、売場の外側へ広げていることが分かる。

現在の店舗と、香水好きにとっての入口

2026年10月時点、公式の店舗案内には、マドリードのクラウディオ・コエーリョ店とガレリア・カナレハス、ブルゴス店に加え、エル・コルテ・イングレス内のマドリード、バルセロナ、マルベーリャ、パルマ、ビルバオ、セビリアなどの売場が掲載されている。チュエカのインファンタス店は2021年8月に閉店しており、現在の訪問先とは区別したい。

2023年の『Time Out Madrid』は、クラウディオ・コエーリョ店を、衣服や本、生活用品と香水が同居する三層の店として紹介した。それは当時の複合店の姿である。現在は、2026年の改装を経たビューティー・ギャラリーとして、個別の相談や専門的な美容体験へ重心を移している。

オンラインでは香水やブランドを調べられ、店の近くに住まない人との接点にもなっている。好みの香水を再び手に入れる場と、店頭で新しい香りに出会う場が、互いを補う関係である。

英語圏のRedditでも、スペインで香水を探す相談に、イソレをマドリードのニッチ香水店の一つとして挙げる投稿がある。そこから見えるのは、知らない香水を実際に探せる場所としての存在感だ。

イソレを知る面白さは、香水だけを求めて生まれた店ではないところにある。暮らしのさまざまなものを選ぶ店が、客とブランドの出会いを重ねながら、香りの専門店になった。現在の洗練された売場にも、その選び直しの歴史がつながっている。

参考文献