BDK Parfums(BDKパルファム)

ブランド創業者

私はいつも白い紙から始めます。何も描かれていないキャンバス。そこからストーリーが形づくられていく過程――調香師との共同作業で生まれるその瞬間が、いつも私を突き動かすのです」
── David Benedek(ダヴィッド・ベネデック)、BDK Parfums 創設者

基本情報

  • 設立年:2016年(パリ)
  • 創設者:David Benedek(ダヴィッド・ベネデック、デイヴィッド・ベネデック)
  • 拠点:パリ、パレ・ロワイヤル地区
  • 公式サイトhttps://bdkparfums.com
  • 読み方の補足:「BDK」はBenedek(ベネデック)の略。フランス語読みで「ベーデーカー」と呼ばれることもあるが、日本では「ビーディーケー パルファム」として流通している

創設者・ブランドの成り立ち

香水一家ベネデック家の歴史

BDK Parfumsの物語は、ダヴィッド・ベネデック個人のそれにとどまらない。3世代にわたるベネデック家と香水との深い結びつきから始まる。

ダヴィッドの父方の祖父母は、ルーマニアとハンガリーにルーツを持つ。第二次世界大戦後、共産化した祖国を離れ、1950年代初頭にパリへ亡命した。祖父はかつて弁護士だったが、フランスでは資格が通用しなかった。一方、祖母はエステティシャンとしてパリ在住のハンガリー系女性たちを顧客に持つようになる。裕福なパリジェンヌたちがまとう香水の話に囲まれる日々のなかで、ある日、祖母は祖父に香水をねだった。その価格に驚いた祖父は、ある閃きを得る――フランスの主要香水ブランドの正規販売権を取得し、フランス駐留中の米軍基地で販売するというアイデアだった。

「祖父はある日、ディオールやジャン・パトゥ、ウォルスといったフランスの香水ブランドに掛け合い、米軍基地での販売権を獲得しました。アメリカ兵たちは妻への土産に競って香水を買い、それは大成功を収めたのです」
── The Perfume Society の記事より​

このビジネスは大きな成功を収め、祖父はパリに自身の香水店を開くことを決意する。だが悲劇的なことに、開店のわずか1か月前に心臓発作で急逝してしまう。その後を、祖母と当時20代だったダヴィッドの父が引き継いだ。

こうして誕生したのが、パリのルーヴル美術館の向かい、パレ・ロワイヤル近くに店を構える香水・高級品店「Benlux(ベンリュクス)」である。世界中の観光客が訪れるこの店は、現在もダヴィッドの両親が経営を続けている。

祖母エディットと「香りの教育」

ダヴィッドにとって、とりわけ大きな存在だったのが祖母のエディット(Édith)である。

「7歳か8歳のころ、リビングで香水のボトルの絵を描いていたのを覚えています。祖母が引退してからは、たくさんの時間を一緒に過ごしました。彼女のバスルームにはラリックやレヴィヨン、ディオールなど美しい香水のコレクションがあり、いつもその歴史や香りの機微を教えてくれました」
── David Benedek

祖母のテラスは花に溢れていた。春にはチューリップ、パンジー、ミモザ、マグノリアが咲き誇り、夏のコルシカ島では海風の塩気とカロン(マリン系の合成香料)を思わせる温かく塩辛い香りに包まれた。こうした幼少期の記憶が、のちのBDK Parfumsの作品世界に色濃く反映されている。

ダヴィッドの学びとブランド誕生

1989年、パリに生まれたダヴィッド。父はルーマニア系、母はアルジェリア・モロッコ系のバックグラウンドを持つ。

学業では、2010年に北京とニューヨークで経済学・経営学を学んだのち、2012年にフランスモード学院(Institut Français de la Mode)に進学。修士課程で香水専攻を選択し、約1年間にわたりジボダン(Givaudan)のチームのもとで香料の原料、オルファクティブファミリー(香りの分類体系)とその特性を学んだ。さらに、パリの調香学校サンキエムサンス(Institut Cinquième Sens)でも研鑽を積み、自身の嗅覚的な世界観を磨いていった。

「私は調香師ではありません。クリエイティブ・ディレクターとして、創作プロセスに深く関与し、調香師――つまり専門家――から学び続ける存在です」
── David Benedek

24歳で構想を練り始め、26歳の2016年にBDK Parfumsを正式に発表。最初のコレクションは5作品。香水業界では異例の若さでの独立だった。

「とても若かったことは自分でも認めます。でもこのプロジェクトには絶対の自信がありました。不思議なことに、ずっと頭の中にあったんです」
── David Benedek

ダヴィッドは、あえて家業のBenluxでの販売には頼らず、パリのニッチ香水専門店「Liquides」での取り扱いを勝ち取ることでブランドの独立性を示した。この判断は功を奏し、BDK Parfumsは発売後わずか数年で、ウクライナ、イタリア、スイス、オランダ、ロシア、ハンガリーなど世界各国に展開。現在では30か国以上、200を超える厳選された店舗で取り扱われている。ロンドンのハロッズ、パリのル・ボン・マルシェといった名だたる百貨店にも並ぶ。


ブランドのこだわり

「嗅覚の図書館」というコンセプト

BDK Parfumsは自らを「現代の嗅覚図書館(olfactory library)」と位置づけている。

「BDK Parfumsは嗅覚の図書館として構想しました。香水の箱はまるで本の表紙のように、解釈と想像の余地だけに縛られた物語を内包しているのです」
── David Benedek

実際に、製品の外箱は本の装丁を模したデザインになっており、棚に並べるとまさに「香りの蔵書」のような佇まいとなる。各作品は一つの物語を語り、纏う人の記憶や解釈によってその物語の結末が変わる――そんな設計思想が貫かれている。

創作プロセス:言葉と色彩から香りへ

ダヴィッドの創作は、常に「白い紙」から始まる。言葉を並べ、色を結びつけ、ムードボードを作り上げていく。10代の頃に絵画に親しんだ経験が、香料と色彩を結びつける独自のメソッドに活きている。

「言葉は色であり、場所であり、感情であり、原料でもあります。リストができたら、それを基に香りを組み立てていく。最初に香りを考えるのではなく、言葉と色を先に考えるのです」
── David Benedek

コレクション・パリジェンヌ(後述)ではまず「物語」を構想してから原料を選び、コレクション・マティエールでは逆に「原料」を出発点として物語を紡ぐ。この対照的な二つのアプローチが、BDK Parfumsの多面的な表情を生み出している。

調香師に対しては「全面的な自由」を与えるのがダヴィッドの流儀である。キロ単価の制限も設けず(メゾンによっては400〜500ユーロ/kgまで使用)、大手メゾンにはない贅沢な創作環境を実現している。試作品の評価は友人や家族のみで行い、消費者テストやバイヤーの意見は求めない。「創作は極めてプライベートなもの」というのがダヴィッドの信条である。

メイド・イン・フランスの職人技

BDK Parfumsは、製品づくりの全工程においてフランスの職人技術を重視している。

  • ボトル:ノルマンディーのマスターガラス職人が手がける。再加熱工程により、独特の透明感と輝きを持ち、中の香水の色を美しく見せる
  • キャップ:パリ近郊の伝統的な宝飾職人が制作。パリの象徴的建築物「グラン・パレ」のドーム屋根からインスピレーションを得たデザインで、ミニマルなアール・デコ調のボトルと調和する
  • ラベル:ボルドーの印刷所で生産され、1枚ずつ手作業で貼り付けられる
  • 外箱:サルト県の企業が制作。本の装丁を思わせる仕上げとなっている

香水ラインナップ

BDK Parfumsは、それぞれ異なるテーマと世界観を持つ4つのコレクションで構成されている。

Collection Parisienne(コレクション・パリジェンヌ)

パリの風景、人々、空気感から着想を得たメインコレクション。BDK Parfumsの出発点であり、ブランドの核となるシリーズである。

  • Bouquet de Hongrie(ブーケ・ド・オングリー):祖母エディットへのオマージュ。彼女の名前がパッケージに記されている唯一の作品。祖母のテラスの春の花々を思わせる、クラシカルなフローラルブーケ。調香はSerge Majoullier
  • Pas Ce Soir(パ・ス・ソワール):「今夜はダメ」という意味の、大胆で挑発的なネーミング。マルメロ(カリン)、オレンジブロッサム、ブラックペッパーのスパイシーかつグルマンなシプレ。調香はViolaine Collas
  • Rouge Smoking(ルージュ・スモーキング):イヴ・サンローランが女性のためにデザインしたスモーキングジャケットへのオマージュ。ピガール地区の退廃的な美しさを表現。チェリー、ブラックバニラ、ヘリオトロープ。2019年FiFiアワード・フランスのファイナリストに選出。調香はAmélie Bourgeois(Studio Flair)
  • Gris Charnel(グリ・シャルネル):BDK Parfumsの代表作にして最大のベストセラー。セーヌ川のほとりで踊る二人の官能的な物語。インド産サンダルウッドとバーボンベチバーの二重奏に、フィグとブラックティーが寄り添う。調香はMathilde Bijaoui
  • Nuit de Sable(ニュイ・ド・サーブル):パレ・ロワイヤルの庭園で夏の夜に出会った二人の物語。トルコ産ローズ、ホットサンドアコード、カルダモン。調香はMarie Schnirer

Collection Matières(コレクション・マティエール)

「原料(マティエール)」そのものにスポットライトを当てるコレクション。天然・合成を問わず、一つの主要原料を出発点にして、そこから予想外の表情を引き出すことを目指している。

  • Tubéreuse Impériale(チュベルーズ・アンペリアル):主役はインド産チュベローズ。イランイラン、ジャスミン、アイリスが脇を固める、太陽のように力強いフローラル。調香はCécile Matton
  • Oud Abramad(ウード・アブラマッド):東洋と西洋の架け橋をイメージした「政治的な香り」。サフラン、ローズ、ウード。調香はMathilde Bijaoui
  • Crème de Cuir(クレーム・ド・キュイール):動物的なノートを排した、透明感のあるレザー。ベルガモットやパイナップルの葉とスエードが溶け合う。調香はViolaine Collas
  • Velvet Tonka(ベルベット・トンカ):オレンジブロッサム、アーモンド、バニラ、トンカビーンによるグルマン。モロッコとパリという二つの世界の交差点をイメージ

Collection Azur(コレクション・アズール)

2020年に誕生した、地中海をテーマとするコレクション。フラコン(ボトル)が美しいアズールブルーに染められている。

  • Citrus Riviera(シトラス・リヴィエラ):南仏カップ・ダンティーブでの夏の記憶。柑橘、フィグ、ジャスミン、オレンジブロッサム。調香はRalf Schwieger
  • Sel d’Argent(セル・ダルジャン):コルシカ島ポルティッチョの祖母の家で過ごした幼少期の夏休みの記憶。塩気とムスクのベールが肌に残る「セカンドスキン」のような香り。調香はAnne-Sophie Behaghel

Collection Exclusive(コレクション・エクスクリュシーヴ)

ロンドン・ハロッズでの独占販売からスタートした特別なコレクション。二つの主要原料を対話させ、互いを引き立て合うことで新しいハーモニーを生み出すというコンセプト。

  • Tabac Rose(タバ・ローズ):調香はJulien Rasquinet
  • French Bouquet(フレンチ・ブーケ):1970年代のパワフルなアルデハイドを現代的に再解釈。調香はAmélie Bourgeois
  • Vanille Leather(ヴァニーユ・レザー):マスターパフューマーのDominique Ropion(IFF所属)との協業で誕生した新作。偶然出会ったバニラのアコードに恋をしたことがきっかけ
  • 他に Pas Ce Soir ExtraitGris Charnel ExtraitVelvet Tonka Extrait など、既存の人気作をエクストレ(濃度の高い特別版)として再解釈した作品も展開している


ちなみに…

  • ブランド名「BDK」は、当初から「Benedek」の略として構想された。ダヴィッド本人は「ファミリーネームのカードを切る」ことは避けたかったが、イニシャルには家族の歴史を刻みたかった、という微妙なバランス感覚が窺える・​
  • BDK Parfumsのほぼ全作品にピンクペッパーがトップノートとして使われており、これはブランドの隠れたシグネチャーとなっている。ダヴィッド自身、「ピンクペッパーは柔らかく、官能的で、押しつけがましくないスパイス。味覚的であり、浸透し、溶け合う」と語っている。
  • 祖母エディットの名前は、Bouquet de Hongrieのパッケージに記されている。ダヴィッドが全作品のなかで「最も感情的な作品」と呼ぶ一本であり、唯一、祖母が存命中に香りを嗅ぐことができた作品でもある。
  • 2019年のFiFiアワード(香水業界のアカデミー賞とも称される)では、Rouge Smokingが独立系ニッチブランド部門のファイナリスト3作品に選出された。ダヴィッドは「5年前の自分にこれを教えてあげられたら、どれだけの不安が消えたことか」と振り返っている。

Interview with David Benedek, founder of the niche perfume brand BDK Paris – H Parfums (2019)
https://hparfums.com/blogs/news/interview-with-david-benedek-founder-of-the-niche-perfume-brand-bdk-paris

The BDK Story – ZGO Perfumery
https://zgoperfumery.com/pages/bdk-parfums

Exploring the Limitless Art of Fragrance: An interview with David Benedek – The Fragrance Foundation UK
https://www.fragrancefoundation.org.uk/tff-blog/exploring-the-limitless-art-of-fragrance-an-interview-with-david-benedek-founder-bdk-parfums

Message In A Bottle: The Story Behind BDK Parfums – Forbes (2024)
https://www.forbes.com/sites/laiafarrangraves/2024/11/22/message-in-a-bottle-the-story-behind-bdk-parfums/

Exclusive: David Benedek on the past, present and future of BDK Parfums – Buro247 Malaysia (2023)
https://www.buro247.my/beauty/buro-loves/bdk-parfums-david-benedek-interview.html

BDK Parfums – The Perfume Society
https://perfumesociety.org/perfume-house/bdk-parfums/

La Parfumerie Autrement – BDK Parfums
https://www.parfumerie-autrement.com/marque/bdk-parfums/

​ Interview | David Benedek, CEO of BDK Parfums – The World C
https://www.theworldc.com/interview-david-benedek-ceo-of-bdk-parfums/

La collection Azur de BDK : souvenirs de vacances en Méditerranée – Au Parfum (2020)
https://auparfum.bynez.com/la-collection-azur-de-bdk-souvenirs-de-vacances-en-mediterranee,4784

BDK Parfums 公式サイト
https://bdkparfums.com/en

この記事を書いた人
Root

香りの学び場「ルシェルシェパルファム」の運営者。
元香水販売員で、現在はとあるIT企業の管理職。
香水への愛が抑えきれず、自身の学んだことをはきだすサイトを作ってしまう。エルメス・フレデリックマルを主に愛用。

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