「SABONは、テクスチャーと香りへの愛着、ボディケアの楽しさと喜び、そして創造と傾聴から生まれた。忙しい日常の中で、人々にリラクゼーションと魔法のような時間を提供したいという想いから。」
— アヴィ・ピアトク(Avi Piatok)、SABONの創設者
基本情報
- 設立年: 1997年
- 創設者: アヴィ・ピアトク(Avi Piatok)、シガール・コテラー・レヴィ(Sigal Kotler-Levi)
- 本国: イスラエル(テルアビブ)
- 公式サイト(日本): https://www.sabon.co.jp/
- 読み方: 「サボン」。ヘブライ語・セム語族の言語で「石けん(soap)」を意味する
創設者・ブランドの成り立ち
二人の幼なじみ、それぞれの歩み
SABON(サボン)の物語を語るには、まず二人の創設者、アヴィ・ピアトクとシガール・コテラー・レヴィという幼なじみの存在から始めなければならない。
アヴィ・ピアトクは、ごく普通のイスラエルの少年として育った。「子どもの頃はパイロットかサッカー選手になりたかった。そのくらい平凡な男の子だった」と自ら語っている 。だが成長するにつれて、その夢は「ビジネスで成功すること」へと変わっていった 。彼は幼い頃から両親と旅を共にする機会が多く、旅先のホテルで見つけた色も香りもさまざまなソープのサンプルを集めることを楽しんでいた。これが後の事業の原点になったとも言えるだろう 。
イスラエル軍での兵役を終えたピアトクは、何か「お店を開きたい」という強い気持ちを抱いていた。当初は別のパートナーとキャンドルショップを開こうと考えていたが、そのとき彼は、大きなブロック状に作られた天然石けんが欧米でトレンドになっていることを知る。石けんを量り売りするというユニークなコンセプトを見て、「これだ」と感じたのだった 。
一方、シガール・コテラー・レヴィは、ピアトクと高校時代からの友人であった。ピアトクが事業を起こそうと声をかけたとき、彼女はまだ学生だったという 。後にシガールは「私はアーティストや画家になっていたかもしれない」と語るほど、ビジュアルとデザインに対する強い感性を持っていた 。このデザインへの才能は、後にSABONのブランドの重要な柱となっていく。
幼なじみ二人が石けん屋を開いた日――1997年、テルアビブ
兵役を終えた二人は、イスラエルの石けんメーカーに掛け合い、小さなバー状に成形するのではなく、大きなブロックのまま石けんを作るよう依頼した 。そして1997年、二人はイスラエル・テルアビブの中心部にあるシェンキンストリート(Shenkin Street)に、小さな1号店をオープンした 。
その石けんはオーストラリアに70年以上伝わる伝統的なレシピを旅の中で見つけ出し、参考にしたものだったとされる 。
店のコンセプトは、当時のイスラエルでは非常にユニークなものだった。お客は陳列されたブロック状の石けんの中から好みのものを指さし、「このくらいの厚さで」と指定する。すると店員がその場で石けんを切り分け、重さを量って値段を算出し、包んで手渡す。まるで青果市場で野菜を買うような、その「量り売り」のスタイルが人々の心をつかんだ 。
ブランド名の「SABON」はヘブライ語で石けんを意味するセム語族の言葉に由来しており、名前そのものに「シンプルで本物のものづくりを約束する」という真っすぐな想いが込められている 。
「ギフト文化」と運命のバレンタインデー
開店当初のエピソードとして、シガール・コテラー・レヴィは次のように振り返っている。「お店を開いたのがちょうどバレンタインデーの時期で、石けんを美しくラッピングして贈り物として売ったら、とてもよく売れた」 。天然素材の石けんを丁寧に包んでギフトとして提案するというアイデアは、ブランドの「贈り物の文化」の原点となった。
開業当時のイスラエルでは、ボディケアの専門店というカテゴリー自体がほぼ存在しなかった。ちょうどイスラエルの人々が海外旅行からボディショップなどの高品質な天然コスメを買いそろえて帰国するような時代であり、SABONはその国内の空白を埋める存在として登場した 。
1号店の成功ののち、ピアトクはボディケアや化粧品の開発にも着手。開業から約2年後には石けん以外のスキンケア製品も店頭に並ぶようになった 。その後、イスラエル国内で店舗を次々と拡大し、最終的に17店舗を構えるまでになった 。
世界へ――2003年、ニューヨーク・ウエストビレッジへの上陸
イスラエルで17店舗を展開した時点で、ピアトクは国際展開を決意する。きっかけの一つは、イスラエルの顧客たちが海外に住む友人や家族へのプレゼントとしてSABONの製品を送るケースが増えていたことだった 。ブランドへの国際的な需要を実感した二人は、アメリカのパートナー、シャロン・ハッソン(Sharon Hasson)と組んで、2003年にニューヨーク・ウエストビレッジに海外初出店を果たした 。
「多くのイスラエル人が私たちの製品を海外に送り届けていた。国際的な需要があることが明らかになったとき、海外展開を決意した。」
— アヴィ・ピアトク
ニューヨーク進出後、SABONはシカゴ、ロサンゼルス、ヨーロッパ各都市と展開を続けた 。2006年にはローマ(イタリア)に進出し 、2008年には東京・表参道に日本1号店をオープンした 。その後2010〜2011年にフランスとスペインへ、2019年以降は韓国・台湾・香港・シンガポール・中国と、アジアへの展開を加速させた 。
グループ・ロシェによる買収と、現在の体制
2016年、フランスの大手化粧品グループ、グループ・ロシェ(Groupe Rocher)がSABONの株式の約70%(一部報道では51%とも)を取得した。買収額はILS500百万(約1億2900万米ドル)とも報道されている 。当時SABONは175店舗を14カ国で展開しており 、グループ・ロシェは「SABONのグローバルな能力を強化し、海外展開を加速するため」と説明した 。
買収後もピアトクとコテラー・レヴィは経営に残り、2018年にグループ・ロシェが残りの株式を追加取得して完全子会社化が完了した 。その後、両創設者はコンサルタントとして関与を続けたとされる 。2020年には、フランス人のジョフレー・シャルティエ(Joffrey Chartier)がCEOに就任した 。
2025年8月、グループ・ロシェはイスラエル国内のSABON店舗の運営権をイスラエルのゴルフ・グループ(Golf Group)にフランチャイズ形式で売却した。取引額は650万シェケル(約168万ユーロ)で、22店舗・92名の従業員が移籍した 。同時に、イスラエル南部キリヤット・ガット(Kiryat Gat)にあった製造工場と物流センターは2026年中に閉鎖され、生産はフランス・ブルターニュのグループ・ロシェ工場へ集約される予定である 。
ブランドのこだわり
「The Essence of Pleasure(喜びの本質)」という哲学
SABONが一貫して掲げてきたのは、”The Essence of Pleasure(喜びの本質)”という哲学だ 。日々の喧騒の中で、バスタイムをただの「清潔を保つ行為」から「心と体を再チャージする儀式」へと昇華させる。これがSABONの存在意義である。
ブランドの公式メッセージには次のように記されている。
「香りほど気分を変え、エネルギーを高め、自信を与えてくれるものはない。香りは、あなたの感じ方や周囲の環境をどのように体験するかに、大きな影響を与える。」
— SABON公式ウェブサイト
この言葉は、SABONが単なるボディケアブランドではなく、感覚的な体験の全体を設計するブランドであることをよく示している。
死海の恵みと地中海の植物
SABONが創設当初から一貫してこだわり続けているのが、死海(Dead Sea)を中心とする天然由来の素材だ。死海の塩・泥・藻類など、20種類以上のミネラルを含む素材が製品の核に据えられている 。それに加えて、地中海沿岸産のオリーブオイル、シアバター、各種植物や果実から採れたエッセンシャルオイルが贅沢に配合される 。
特に看板製品である「ボディスクラブ」は、「ソルト・イン・オイル(Salt-in-Oil)処方」と呼ばれる独自製法を採用している。ミネラルを豊富に含む死海の塩の一粒一粒を、貴重なボタニカルオイルがくるみ込む構造で、肌をなでるだけで古い角質を取り除きながら同時にオイル成分を補給できる設計だ 。世界中で90秒に1個売れているというのが公式の発表である 。
フレグランスの開発については、ピアトクは「フランスとイングランドで新しい香りを定期的に探している」と語っており 、スクラブをはじめとする各製品には統一した香りが付けられ、体験全体に一貫性を持たせている。
ガラスボトルと「量り売り」の記憶を宿すパッケージ
デザイン面のこだわりも、SABONのアイデンティティの大きな柱だ。シガール・コテラー・レヴィが担当するデザインは、「ヴィンテージ感」と「温かみ」を追求したものだ 。製品のパッケージには、内容物が見えるクリアガラスのコンテナが好んで使われる 。プラスチックではなくガラスを使うことで、内容物の質感や色をそのまま伝え、素材への信頼を視覚的に表現している。
店舗デザインも同様の哲学で貫かれている。ナチュラルな素材を用いたシンプルな内装は、製品そのものを主役に据え、街市(マーケット)のような「豊かさの感覚」を醸し出す 。各店には「エルサレムストーン」で作られたウォータースタンドが置かれ、スタッフが来店客の手に製品を試してもらうという体験を提供する 。これはSABONが「ホームのような居心地のよさ」と「温かいもてなし」を重視していることの象徴である 。
ギフト文化への強いこだわりも特筆に値する。サテンのリボン、シルクペーパー、スティッカーを使った丁寧なラッピングは、製品を「エレガントなアート」へと昇華させるためのもの。「ギフトは愛と感謝の象徴」という言葉がSABONの公式コンセプトとして掲げられている 。
香水ラインナップ
1998年生まれのシグネチャー香
SABONの公式サイトによれば、初の自社オリジナルフレグランス「パチュリ・ラベンダー・バニラ(Patchouli Lavender Vanilla)」は1998年にブランドの共同創設者の手によって作られたとされている 。パチュリのアーシーでエキゾチックな香りがトップノートとなり、ラベンダーが落ち着きと穏やかさをもたらし、アンバー・バニラ・ムスクの温かくスウィートなベースで包まれる、オリエンタル系の香りだ 。
この香りは「甘すぎず、ほのかにバニラが漂う」として日本の香水レビューサイトでも高い評価を得ており 、以来SABONのあらゆるボディケアラインのベースに使われ続けているシグネチャーセントである 。SABONといえばこの香り、といっても過言ではないだろう。
フレグランスラインの構造
SABONの各フレグランスは、ボディスクラブ・シャワーオイル・ボディローション・バスソルト・アロマディフューザー・香水(オーデトワレ)など、ほぼすべての製品カテゴリーにわたって展開される。つまり「同じ香りで全身を統一する」というコンセプトが、ブランド全体の構造を支えている。
現在展開されている代表的なフレグランスは以下の通りである :
- パチュリ・ラベンダー・バニラ(Patchouli Lavender Vanilla) ― シグネチャー。エキゾチックでオリエンタルな温かみのある香り
- デリケート・ジャスミン(Delicate Jasmine) ― ジャスミン、スズランのミドル、ライラックのベース
- グリーン・ローズ(Green Rose) ― ベルガモット・ライム・シトラスのグリーンなフレッシュさと、ローズの花香
- ラベンダー・アップル(Lavender Apple) ― ラベンダーの安らぎとリンゴの清涼感
- ローズティー(Rose Tea) ― 優雅なバラの香りを中心とした穏やかなフローラル
- マンゴー・キウイ(Mango Kiwi) ― トロピカルフルーツの弾けるような甘酸っぱい香り
- ジンジャー・オレンジ(Ginger Orange) ― 爽やかなオレンジにスパイシーなジンジャーを組み合わせた清涼感のある香り
- ムスク(Musk) ― 落ち着いたロマンティックな肌香
- ホワイトティー(White Tea) ― 清潔感のある軽やかなティーフレグランス
- シトラス・ブロッサム(Citrus Blossom) ― さわやかなシトラスフローラル
- パチュリ・シトラス(Patchouli Citrus) ― メンズライン向けフレグランス
「デッドシー(Dead Sea)コレクション」
死海の湖泥(マッド)をテーマにしたコレクションも展開されている。ソルティ・アロマティック・グリーンという共通の香りを持ち、海塩のトップノートからユーカリの清々しさ、最終的にシダーウッドのどっしりとした深みへと展開する 。ボディクレンザー、ボディスクラブ、ボディマスク、バスソルトなどのアイテムで構成されており、デトックスと集中ケアを目的としたコレクションである 。
「3 STEPリチュアル(3-Step Body Care Ritual)」
SABONのラインナップを語るうえで欠かせないのが、この「3ステップ・ボディリチュアル」だ :
- 洗う(Cleanse) ― 4種類のボタニカルオイル(オリーブオイル、アボカドオイル、ホホバオイル、コムギ胚芽オイル)を配合した「シャワーオイル」で、汚れを落としながら同時に保湿する
- 磨く(Exfoliate) ― 死海の塩とボタニカルオイルを組み合わせた「ボディスクラブ」で、古い角質を除去して素肌本来の輝きを引き出す
- 潤す(Moisturize) ― 植物性オイルを豊富に含む「ボディローション」や「ボディバター」で、肌にうるおいを閉じ込める
この3ステップは、SABONが「入浴を儀式(リチュアル)へ」という哲学を体現したものだ。各ステップが同一フレグランスで統一されているため、使用後も香りが層のように重なり合い、長時間持続する。
ちなみに…
- 店舗の94%が女性客:2000年代初頭のイスラエル進出期、SABONのブランドのユニークなデザインと温かい雰囲気が女性客を中心に熱烈に支持され、当時の顧客の94%を女性が占めていたと伝えられている 。
- 「SABON l’Atelier SPA(サボン アトリエ スパ)」が世界で最初に誕生したのは日本:2022年4月13日、ブランド誕生から25周年を迎えた節目の年に、東京・中目黒に世界初のSABONの常設スパ「SABON l’Atelier SPA」がオープンした。廃棄される花々に新たな命を与える活動を行う「RIN」とコラボしたフラワーショップも併設され、その後テルアビブのシェンキン店もこのコンセプトに転換した 。
- CEOは自身のユダヤ系のルーツを持つフランス人:現CEOのジョフレー・シャルティエは、フランス語・英語・スペイン語を操るフランス人だが、ユダヤ教のハラハーによれば自身がユダヤ人でもあると語る。家族の歴史は異端審問時代のスペインまで遡り、ナポレオンの従軍仕立て屋を先祖に持つという家族の物語は、ここでは詳しく紹介しきれないほど興味深い 。
- SABON公式ウェブサイト(イスラエル)「Our Story」 – https://www.sabon.co.il/en/about-sabon/our-story
- SABON公式ウェブサイト(日本)「About SABON」 – https://www.sabon.co.jp/about-sabon
- ISRAEL21c「Sabon – Not your average Israeli soap opera」 – https://www.israel21c.org/sabon-not-your-average-israeli-soap-opera/
- Beauty Rocks Blog「Beauty Rocks Interviews Founder of Sabon」(アヴィ・ピアトク インタビュー)– https://www.beautyrocksblog.com/2014/11/beauty-rocks-interviews-founder-of-sabon/
- Ynet News「’It is truly wonderful to witness the spirit of Israel’: Sabon’s French CEO says」(ジョフレー・シャルティエ CEO インタビュー)– https://www.ynetnews.com/culture/lifestyle/article/sktwx36p2
- Cosmetics Technology「Groupe Rocher acquires Sabon for $129m」 – https://www.cosmetics-technology.com/news/newsgroupe-rocher-acquires-sabon-for-129m-5701685/
- Fashion Network「Groupe Rocher finalise la restructuration de Sabon」 – https://kw.fashionnetwork.com/news/Groupe-rocher-sells-sabon-s-israeli-retail-operations-to-golf,1759135.html
- PR TIMES「世界初のSPA が誕生。『SABON l’Atelier SPA』」(株式会社SABON Japanプレスリリース)– https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000056.000072475.html
- SABON Brand Book「Our History」 – https://www.sabonbook-global.com/blank-16
- SABON公式ウェブサイト(イスラエル)「Patchouli Lavender Vanilla」 – https://www.sabon.co.il/en/plv
- Wikipedia(日本語)「SABON」 – https://ja.wikipedia.org/wiki/SABON

