嗅覚の記憶と生い立ち
1962年、ドイツのウェストファリアの田舎、森の近くでラルフ・シュヴィーガーは生まれます。この地域は、降水量が多く、冬はとても寒く、そして緑に囲まれていたため、ラルフは自身の好きな香りはモッシー、ウッディ、グリーンノートだと答えています。子供のころの香りの記憶は、食べ物の香りをよく思い出すそうですが、木の上に落ちる雪の味を確かめようとしていたという抽象的な香りの記憶もあるそうです。また、彼の母親はアルページュ(ランバン、1927、アンドレ・フレイス&ポール・バシェ)を纏っており、その印象が彼の記憶に刻まれているとインタビューで答えています。
ティーンエイジャー時代には、流行していた本に習って自分で化粧品を作ったり、子供ながら何とかローズオイルやオレンジフラワーウォーターを注文して香りを作ったりするほど香りへの探究心がありました。
進学の際、ラルフは科学の道に進むか、芸術の道に進むか、一体何を研究しようかを決めかねていました。最終的には、ベルリンで香水に関する化学を勉強した後、研究ではなく、芸術で何かを表現したいと思い、1992年30歳でベルリンを去り、グラースのルール社の調香師学校に入学することを決意します。
なぜ香水に惹かれたのか、それは「ミステリーがあるから」とラルフは一言で表現します。なぜこんな香りがするのか、何を嗅いでいるのか、どう香りに対して反応するのか…。
香水のミステリーや魅力というのは、纏う人が感情的なつながりを経験するということです。
ラルフ・シュヴィーガー
ベビードールの成功から、引っ張りだこの現在へ
最初の成功は、YSLで学校時代から仲が良かった姉のような存在セシル・マットンとコラボして作ったベビー・ドール(Baby Doll、1999)でありました。ちなみに、ベビードールのボトルデザインは彼が今まで作ってきた中で彼が最も好きなボトルの1つと明言しています。
2000年に、コンペティションで才能を見ぬかれ、フレデリックマルでLipstick Roseを発売すると、2002年にはマークジェイコブスフォーメン、2004年にはエルメスでオーデメルヴェイユ(フローラルを一切使わずに女性らしさを表現した香水)と活躍をしていきます。最近では、アトリエコロン、エタリーブルドランジェ、BDKパルファム、とニッチフレグランスの有名ブランドで引っ張りだこの存在です。
調香師界では、「まるで積み木やブロック遊びのように、香水に対してアプローチする」と言われ、「部分的には知的でありながらも、常に遊び心に富んだ」ラルフの調香スタイルを表しています。ちなみに、面白いことに、彼は昆虫からさえもインスピレーションを得ると言っています。
美しい香水はその中にハッとする新しさを持たなければならないが、簡単に理解できるものでもなければなりません。
ラルフ・シュヴィーガー
現在、ニューヨークに住み、マン社で働いている彼は、最もインスパイアされている調香師はエドモン・ルドニツカとジャーマン・セリエ(ロベール・ピゲのフラカスを作った調香師)と答えています。上記の言葉も、ルドニツカを彷彿とさせる言葉ですね。
ちなみに…
・好きな食べ物→アジア料理、特に日本料理が好き(寿司はダメ)。
・好きなアーティスト→ピナ・バウシュ(Pina Bausch、1940-2009、ドイツの振付師)
・好きな香水→シプレ調の香り。オードゥエルメス(1951、エドモン・ルドニツカ)、No゜19(1970、アンリ・ロベール)、コロンビガラード(2001、ジャン=クロード・エレナ)
・最初に買った香水→アニック・グタールのオーダドリアン(Eau d’Hadrien)
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