A. 香水の判断を直感でするのは間違っていません。むしろ好き・嫌いは一瞬で湧き上がることからも基本的には直感が大事なことは間違いないでしょう。しかし、直感は経験によって磨くことができることに賛同いただけるのであれば、多角的に香水を学び、知識を身につけ、経験を積むことは無駄な行為ではないとお分かりいただけると思います。つまり、直感によって、自分にとってのベストの香水を探すためには、その直感を鍛えることでより辿り着きやすくなるということです。食べ物や音楽、絵画と同じだと考えます。
調香師・業界人の言葉
直観に富んだ人は、何よりもまず観察を心得ている。自分自身と同時に周囲をも観察し、その観察を上手に利用できる。ところで直観が芽生える土壌は、すでに積み重ねられた観察のみが供給できるのである。
エドモン・ルドニツカ
香水の判断とは、第一に嗜好の問題なのである。実際、嗜好は生来の傾向を基盤とするものであるが、磨き上げてゆくものである。香水の嗜好が真に鍛錬されるのは、嗜好一般の練磨、つまりは芸術的な理解への目覚めがなされ、それに伴う場合に限られる。「好きだわ」とか「好きじゃないわ」といってすましていても、主観的な立場からは事足りるかもしれないが、これではあまりに大雑把である。
香水を味わう人間とは、自身の好みがどこに由来するのかを理解しようと努め、できる限りよりよくその好みを基礎づけようとする、考える人間なのである。どんなに事情に通じていても香水の利用者は単に感性、<その人に固有な>美の基準に従って判断するなどと思ったら、教育的な配慮からくる情報、知識の価値、有効性を否定してしまうことになる。それは音楽を学んだ後で、以前よりもよく音楽作品を理解することはないと言い張るようなものである。
エドモン・ルドニツカ
人の趣味、またはセンスは、たえず自分を深く磨くことによって高められます。それは絵画、彫刻に接したり、音楽や文学に心を開くのと同じことではないでしょうか。自分自身を高めること、それが、自分にとってよい香水に出会える道といえるでしょう。自分を深く知れば、自分に一番似合った香りは自然にわかってくるものです。
エドモン・ルドニツカ
直観の訪れを受ける以上に、捉え、検討することこそすばらしい。
アンリ・ドラクロワ 『Psychologie de l’art』より