書籍情報
書籍名:『匂いの帝王 天才科学者ルカ・トゥリンが挑む嗅覚の謎』
(原題:The Emperor of Scent – A Story of Perfume, Obsession, and the Last Mystery of the Senses – )
著者:チャンドラー・バール(Chandler Burr)
出版年:2003年
出版社:早川書房
人がどうやって匂いを嗅いでいるかを知る者はひとりもいない。
チャンドラー・バール
人間は、じつのところ、匂いを嗅げるはずがないのだ。
書籍レビュー
匂いにはほかの感覚から失われてしまったものが保たれていると思うんだ。音楽を聴けば作曲家を当てられる。独創的な曲でなければ、作曲家がだれからもっとも大きな影響を受けたのかを指摘することだってできる。ところが匂いの有名な作品だと、実は同じ調香師の手になる香水がたくさんあるというのに、作者は当てられないんだ。香水には”署名”がないんだよ。
ルカ・トゥリン
天才的な香りの表現とその辛口な批評で常人を遠ざけるルカ・トゥリン氏に密着取材をし、香水会社・フレグランス業界に激震を与えた本。作者であるチャンドラー・バール氏は、NewYork Timesのフレグランスコラムを書いていた文才の持ち主であります。その巧みな文章力により、ルカ・トゥリンの人柄や香りへの想いだけでなく、彼の研究内容である嗅覚のメカニズムも面白く分かりやすく書かれています。
全編を通して、嗅覚の謎に迫るルカ・トゥリンの研究をベースにしているため、3割くらいの内容は大学レベルの化学の知識があった方がよく理解できますが、それを抜きにして読んだとしても群を抜いて面白い本であり、新しい理論や香りの世界をもっと科学的に深く知りたい方には非常におすすめの本です。本書に書かれている匂いのメカニズムをさらに掘り下げたい場合は『香りの愉しみ、匂いの秘密』(ルカ・トゥリン著)を読むと良いでしょう。
これから何世紀かの生物学の未来は、匂いを完全かつ包括的に解明するまでに要する時間で、かなり正確に予測できるのではないだろうか。匂いは……そのひとつひとつにあらゆる謎を秘めているからだ。
ルイス・トマス
コメント