LE LABO(ル ラボ)|時を重ねた町家で香りを仕立てる

ル ラボ 京都町家の外観を参考にしたイラスト

ル ラボは、香水づくりの舞台裏を見せるのです。

ファブリス・ペノー

店舗のはじまり

ノリータに開いた小さなラボ

2006年、ファブリス・ペノーとエドゥアール・ロシは、ニューヨークのノリータ地区にル ラボの最初の店を開いた。二人が選んだのは、エリザベス・ストリートの小さな空間。フランス語で研究室を意味する店名のとおり、香水をつくる仕事を客の目の前へ持ち込んだ。

その発想のきっかけは、香水の研究室を案内したときの反応だった。原料や冷蔵設備など、二人には見慣れた道具に、訪れた人々は強く惹かれていた。日々の仕事に埋もれていたものが、香水を知る入口になる。二人は貯金を投じ、友人たちの協力も得て、この気づきを店にした。

当初のノリータは通行量の多い立地ではなく、独特な店の仕組みも周囲には理解されにくかった。それでも開店から半年ほど経つと、店の前に列ができるようになった。ペノーは、香水そのものが評判を広げたことに加え、雑誌や新聞で取り上げられたことも力になったと振り返っている。

日本との関係を育てる

翌2007年には東京・代官山へ進出した。米国外で初めての店舗である。その後、京都にも2020年にエースホテル京都のある新風館へ出店し、2024年には木屋町の町家を新しい旗艦店にした。

町家を見いだしたのは、グローバル・ブランド・プレジデント兼クリエイティブ・ディレクターのデボラ・ロイヤーだった。1879年築の建物は、酒造業を営む一家に使われ、後に花屋となった場所。空いていた家を地域の職人と修復し、香水店へ受け継ぐ計画が始まった。

京都に重要な拠点を持つことは、しっくりきました。

デボラ・ロイヤー

店づくりの考え方

香水を仕上げる手元を見せる

ル ラボのフレッシュ ブレンディングは、注文後に香水を手作業で調合するサービスだ。すでに設計された香りを店頭で仕上げ、ラベルに名前などを添える。客ごとに新しい処方を一から開発するオーダーメイドとは異なり、一本を手にするまでの工程を身近に感じられる仕組みになっている。

店舗には原料や道具を扱うラボが設けられ、ボトルのラベルにも装飾より情報が優先される。一方、百貨店のカウンターを含む全拠点が同じ設備を持つわけではない。日本の店舗でも、調合やリフィルに対応する店と、ラベルの仕上げを中心に行う店がある。

使われてきた素材を残す

むき出しの建築、鉄の什器、使い込まれた家具は、ル ラボの店に繰り返し現れる要素である。ただし、京都の木造町家へ同じものをそのまま持ち込むことはできなかった。設計を担った長坂常とスキーマ建築計画は、ブランド側とともに、和室で靴を脱ぐ位置、立って見る商品台の高さ、古い建物に加える照明まで検討した。

カウンターや棚、階段は町家の構成に合わせ、色は既存の仕上げを踏まえて弁柄や松煙の古色を用いた。日本の古家具と西洋のヴィンテージ照明も組み合わせている。ロイヤーが大切にしたのは、修復の過程で古いものの表情まで消してしまわないことだった。

不完全で、少しひび割れているものが好きです。

デボラ・ロイヤー

日本への敬意を、ロイヤーは職人技の継承や、急がずにつくる姿勢とも結びつけている。京都では、鉄を使った従来のラボに代わり、日本の再生材を用いた木製のラボブースをつくった。土地の材料と建築に合わせて、手仕事を見せる方法そのものを変えたのである。

訪れたい店舗

京都町家

木屋町の京都町家では、1階の香水店の奥に中庭とカフェが続き、2階には畳の二つの部屋がある。香水を選ぶ売場だけでなく、素材や工芸に目を向ける場所を備えた構成だ。

ル ラボ 京都町家の外観を参考にしたイラスト
ル ラボ 京都町家の外観を参考にしたイラスト

2階の「調香の間」には、多数のエッセンシャルオイルや調香師の仕事道具が並ぶ。その隣が「工匠の間」で、日本の職人やアーティストの作品を紹介するオープンアトリエになっている。香りの素材を知る部屋と、人が素材に働きかける技を知る部屋が、隣り合っている。

ル ラボ 京都町家の工芸の間を参考にしたイラスト
ル ラボ 京都町家の工芸の間を参考にしたイラスト

開業時に迎えた職人の一人が、書家の加茂学である。黒谷和紙を用いた作品を制作し、筆でル ラボのラベルに文字を添える仕事も披露した。手書きの筆跡は、均一な印刷とは異なるかたちで、一本の香水に人の手を残していた。

中庭の先には、かつての貯蔵庫を使った小さなカフェがある。コーヒーや抹茶、ヴィーガンのペストリーを扱い、香水を選んだ後にも建物の中で過ごせる。庭、畳の部屋、工芸展示を含めて訪ねられるのが、この町家ならではの特徴だ。

ニューヨーク・ノリータ

エリザベス・ストリートの創業店には、百合紋様をあしらった古いブリキの壁が残る。飾りを抑えた空間の中で、香りを量り、混ぜ、手でラベルを仕上げる仕事が見える。木や畳を生かした京都とは異なる、初期のラボの姿に触れられる店舗である。

東京・代官山と京都新風館

代官山は、日本での歩みの起点となった店舗だ。使い終えたボトルに香水を詰め直す際、古いラベルの上に新しいラベルを重ねることを好む常連もいた。旅を重ねた鞄のように、ボトルにも購入の履歴を残す楽しみ方が育ってきた。

京都新風館は、町家に先立って京都へ開いた店舗で、現在も町家とは別に展開されている。ホテルや店が集まる複合施設の一角で香水に出会う新風館と、工芸や庭まで巡る町家。京都の二つの拠点にも、訪れる時間の使い方に違いがある。

ドバイ・モール

ドバイ・モールのル ラボを訪れる楽しみの一つは、この街に捧げられた「CUIR 28(キュイール 28)」を試すことだ。レザー、ウッド、ムスクにバニラを重ねた、輪郭の強い香り。都市限定コレクションが世界へ紹介される期間を待たず、ドバイのラボでは一年を通して出会える。

共同創業者のエドゥアール・ロシが重視するのは、原料の組み合わせ以上に、仕上がった香りが呼び起こす感情だ。旅先の名を冠した一本を、その街で肌にのせてみる。ドバイでは、香りそのものが店を訪ねるきっかけになる。

Le Labo(ル ラボ)── 「不完全だから美しい」香りのアート
ル ラボ(Le Labo)の創業背景、香りづくりの哲学、ブランド独自の世界観を解説。「不完全だから美しい」とする人気メゾンの魅力に迫ります。

参考文献