SSENSE(エッセンス)の香水|創業史と選品、モントリオール店と通販の現在

SSENSEの香水選品を表す、バイレード「ムンバイ ノイズ」と布・書籍を配した温かなスティルライフ 香水ショップ

「工学とは、問題を解決するための考え方である。」

ラミ・アタラ、共同創業者、2023年

服を選ぶとき、形や素材だけでなく、その服をつくった人の視点にも惹かれることがある。カナダ・モントリオールを拠点とするSSENSE(エッセンス)は、そうした関心を香水や生活の道具へと広げてきたマルチブランドの小売企業である。

その香水売場は、独立した自社香水ブランドではない。ファッションのデザイナーと香水の作り手を、同じプラットフォームで紹介する場所だ。創業者の工学的な発想、若い才能を見つけるバイヤーの仕事、オンラインの選択を現実の体験につなぐモントリオール店。その歩みから、SSENSEが香りを扱う意味をたどっていく。

基本情報

  • 名称:SSENSE(エッセンス)
  • 創業:2003年
  • 共同創業者:ラミ・アタラ(Rami Atallah)、フィラス・アタラ(Firas Atallah)、バセル・アタラ(Bassel Atallah)
  • 拠点:カナダ・モントリオール
  • 事業:ファッションを中心とするマルチブランド小売、オンライン販売、文化コンテンツの制作。香水は「Everything Else」の取扱分野の一つ
  • 実店舗:SSENSE MONTRÉAL、418 rue Saint-Sulpice, Montréal, Québec
  • 公式サイト:SSENSE

3兄弟の創業と、ファッションから香水への拡張

コンピューター工学の研究から始まった店

アタラ兄弟はシリアのダマスカスで生まれ、10代で家族とともにモントリオールへ移住した。ラミが最初に取り組んだのは、成長し始めていた電子商取引だった。ファッションの二次流通を試すうちに可能性を見いだし、コンピューター工学の学位論文の一環として、SSENSEの初期のプラットフォームを組み立てた。

フィラスは金融と経済を学び終え、バセルは機械工学を学び始めていた。それぞれ異なる知識を持つ兄弟が加わり、2003年に事業を創業。2004年にモントリオールの店舗を開き、2006年にssense.comを立ち上げた。会社の出発と、通販サイトの開設は区別しておきたい。

当初は兄弟自身で仕事を担った。ラミにとってウェブサイトは、既製の仕組みを借りれば完成するものではなかった。サーバーの設置、プログラミング、画面のデザインまで学びながらつくったのである。商品をどう見せ、どう注文につなげるかという小売の問題が、そのまま技術を設計する仕事になっていた。

「私たちは必要最小限の機能を備えた製品をつくる。」

ラミ・アタラ、2023年

完成形を最初から決めず、使う人の反応を確かめて育てる。その考え方は、ウェブサイトにとどまらず、後の実店舗にも及んでいく。

2018年、オンラインの選択を現実の空間へ

2018年5月3日、旧市街に新しい旗艦店SSENSE MONTRÉALが開いた。設計を担当したのはデイヴィッド・チッパーフィールド・アーキテクツのミラノ事務所である。19世紀の建物のレンガと石の外壁を残し、その内側に5層の新しい建築を挿入した。

黒いコンクリートの空間には、ワイヤーで吊るす展示システムを設けた。必要に応じて取り付け、取り外せる仕組みは、売場と文化的な催しを同じ場所で展開するためのものだった。開業に先立つ4月26日には、プラダとともにアルカのパフォーマンスを開催した。商品を並べるだけでなく、人が集まり、作り手の表現に触れる場所として店を始めたのである。

開業時には、オンラインで気になる品を選び、倉庫から店へ取り寄せ、翌日に試着する仕組みも示された。ウェブの豊富な選択肢と、実物に触れて判断する時間を結びつける試みだった。

「私たちは、異なる視点を持つ人々を支えたい。」

ラミ・アタラ、2018年

2020年、「Everything Else」で生活用品と香水へ

2020年12月2日、SSENSEは「Everything Else」を立ち上げた。衣服の外へ選品を広げ、ホームウェア、テクノロジー、セルフケアなどを扱う部門である。立ち上げ時からバイレードが加わり、香水はスキンケアやヘアケアとともに、新しい売場の一部を担った。

「私たちは意図的に、従来の売場部門や商品カテゴリーの分け方を退けている。」

クリシュナ・ニキル、当時のチーフ・マーチャンダイジング・オフィサー、2020年

ニキルは、顧客との関係を基準に、既に知られたブランドと新しいブランドを選ぶ方針を示した。衣服、音響機器、香水を別々の関心と決めつけず、同じ人の暮らしの中で捉える。その広がりが「それ以外のすべて」という部門名に表れている。

創業から現在までの年表

時期 出来事
2003年 アタラ3兄弟がSSENSEを創業。
2004年 モントリオールに店舗を開く。
2006年 ssense.comを立ち上げる。
2018年5月3日 新しい旗艦店SSENSE MONTRÉALが一般公開。
2020年12月2日 Everything Elseを開始。香水やセルフケア、生活用品へ取扱分野を広げる。
2025年 カナダの企業債権者調整法(CCAA)に基づく再建手続きに入る。
2026年2月 創業者側による買収が成立し、事業を継続。
2026年10月15日確認 モントリオール店の営業案内と、カナダ・米国向けサイトの香水販売ページを確認。日本向け香水カテゴリーのURLはセルフケア売場へ転送。

データと直感を組み合わせる選品

編集者の発見を、バイヤーが事業へつなぐ

SSENSEの選品を理解する手がかりに、2019年にウィメンズウェアの買付を率いていたブリジット・チャートランド(Brigitte Chartrand)の仕事がある。モワローラを見つけたきっかけは、編集者から届いたインスタグラムのアカウントだった。チャートランドはバイヤーに連絡を依頼し、パリでの面会へ進めた。

作り手を見つけた後には、原価、販売価格、物流などを支える仕事もあった。掲載する文章と商品を買い付ける仕事が接続し、新しいブランドを読者や顧客へ届ける。これは衣服について語られた具体例だが、SSENSEが単に商品を集めるだけでなく、作り手を紹介する媒体でもあることを示している。

「私たち独自のやり方は、まさに左脳と右脳の組み合わせである。」

ブリジット・チャートランド、2019年

チャートランドは、販売データを使う一方で直感も重視した。数字で反応を読み、人の目で新しさを見つける。創業者の技術への関心と、バイヤーが作り手に向き合う仕事が重なるところに、SSENSEの選品がある。

著名なニッチ香水と、異なる発想のブランドを扱う

香水分野でも複数のブランドを扱っている。2026年10月15日時点のカナダ・米国向け香水カテゴリーには、バイレード、コム デ ギャルソン パルファム、エクス ニヒロ、ジョー マローン ロンドン、ヴァイラオなどが並ぶ。

名前だけのブランド一覧ではない。バイレードの「ムンバイ ノイズ」、コム デ ギャルソンの「CDG」、エクス ニヒロの「Attraction Eau De Parfum Travel Set」には、商品説明とカートへ追加するボタンを備えた販売ページがある。著名なニッチ香水を含む、実際のマルチブランドの取扱いである。

なかでも「CDG」は、商品説明に花の香りとともに工業用接着剤を掲げる作品だ。身近なよい匂いを再現するだけではない発想も、SSENSEの香水売場には含まれる。服の造形に驚く人が、香水の表現にも関心を移せる選択肢といえるだろう。

香水の作り手を、音楽やデザインとともに紹介する

SSENSEは編集コンテンツでも香水を扱う。D.S. & ダーガのデヴィッドとカヴィ・モルツを訪ねた記事では、香りだけでなく、音楽、パッケージ、仕事場に話が及ぶ。デヴィッドが香りをつくり、カヴィが視覚的な表現を担い、作品にはプレイリストも添えられる。その協働を二人の対話から伝えている。

さらに、ハロウィーンに合わせた香りの重ね付けと謎解きのセットにも触れる。香水を、単に花や木の匂いの組み合わせとして説明するのではなく、映像や遊びまで含む創作として見せるのである。作り手の文化的な関心へ近づけることは、ファッションを入口に香水と出会う読者にとっても、この媒体の面白さになる。

モントリオール店とオンライン販売の現在

予約なしで訪問できる旗艦店

SSENSE MONTRÉALは、旧市街の418 rue Saint-Sulpiceにある。現在の公式FAQは、衣服、靴、アクセサリー、生活用品に加えて香水を扱い、予約なしでも店内の品揃えを見られると案内している。

2025年4月の店内紹介でも、5階の黒いコンクリートとステンレスの棚に香水瓶が並ぶ様子が描かれていた。香水だけの独立店舗ではなく、衣服や生活の品と同じ空間で出会う売場なのである。

パーソナルスタイリストとの予約では、ウィッシュリストから選んだ品を試着する仕組みがある。ただし、通販の商品がすべて常時店頭に並ぶわけではない。特定の香水の展示やテスターの有無は、訪問前に店舗へ確認しておくとよい。衣服の試着予約を、そのまま香水専門の試香サービスと読み替えることはできない。

2026年10月15日時点の公式営業時間は、火〜金曜10〜19時、土曜10〜18時、日曜11〜18時、月曜休業である。

通販の香水取扱いは配送先で異なる

SSENSEは2025年にCCAAに基づく再建手続きに入り、2026年2月には創業者側による買収が成立した。現在も店舗の営業案内とオンライン販売を続けている。ただし、国・地域ごとの商品表示は同一ではない。

区分 2026年10月15日時点の公式案内
モントリオールの実店舗 香水を取扱う。予約なしで現在の店頭の品揃えを見られる。
カナダ・米国向け通販 複数ブランドの香水を掲載。個別の商品販売ページもある。
日本向け通販 香水カテゴリーのURLからセルフケア売場へ移動。

日本向けサイトでは、香水カテゴリーのURLからセルフケア売場へ移動する。日本語でサイトを読めることと、海外向けに掲載された香水を日本へ注文できることは別である。配送先ごとの売場と商品ページを分けて見る必要がある。

SSENSEの香水分野に見えるのは、衣服、デザイン、音楽と行き来する選品と編集である。作り手の視点から服を選ぶ人に、香りという別の表現への入口を開く。その関心のつながりに、この店を香水の側から知る理由がある。

ほかの香水店については、「香水の世界を知る」の世界の香水店一覧でも紹介している。

参考文献