香水には、心の中で別の場所へ連れていく力があります。鼻をきっかけに、実在する場所や架空の場所への旅が始まるのです。
デービッド・モルツ
デービッド・モルツが香りをつくり、カヴィ・モルツがその視覚表現を担うD.S. & DURGA。ニューヨークの店舗にも、二人の創作が形になっている。コンクリートの重み、鋭いスタッズ、遊び心のある光。自然の風景を思わせる香りを、都会の硬質な空間で試すことができる。
店舗のはじまり
音楽に親しみながら独学で調香を学んだデービッドと、建築を学んだカヴィは、2008年にブランドを始めた。香りと文章はデービッド、デザインはカヴィという分担を軸に、互いの仕事へ意見を交わしながら作品を生み出してきた。
最初の直営店が開いたのは、2019年2月のノリータ。以前は商品を求める客がブルックリンのスタジオを訪れていたが、一般に開ける時間は限られていた。人通りがあり、もっと気軽に香水と出会える場所が必要だった。
カヴィは高校時代からの友人で、K&COを率いるクリスタ・ニニヴァッジと協働した。コンクリートやスチール、商品の背景になるアクリルの突起を使い、ニューヨークらしいパンクの感覚を取り込む。中央には香水を収納するコンクリートの島状什器を設けた。
2021年には、ブルックリンのウィリアムズバーグに2号店が誕生する。現在はニューヨークのマディソン・アヴェニューや、ロサンゼルスのヴェニス、シルバーレイクにも店舗を構える。
店づくりの考え方
物語を、楽しみ方の決まりにしない
香りに込めた物語は、知りたい人が深く入っていくために用意されている。背景を理解しなければ楽しめない、という姿勢をデービッドは望んでいない。
大切なのは探求することです。何より避けたいのは、教え諭すようになること。
デービッド・モルツ
作品名や説明から想像を広げても、まず自分の鼻で好きだと感じてもよい。ノリータとウィリアムズバーグでは、調香師本人の教育を受けたアドバイザーが接客し、対面の香水相談も受け付けている。
コンクリートに、店ごとの表情を与える
カヴィが店舗をつなぐ素材として選んだのは、コンクリートだった。重さがありながら、形や表面の仕上げを変えられる。その荒々しさも、ブランドの表現と相性がよい。最初の店では型枠の跡を残す什器に、次の店では地層のような壁に。同じ素材の扱い方が、それぞれの空間を特徴づけている。
訪れたい店舗
ノリータの最初の店
マルベリー・ストリートの旗艦店では、光の壁と小さな香水ラボが客を迎える。長い間口と高い天井を持つ空間を選んだことで、外を歩く人にも店の存在が伝わりやすくなった。
ウィリアムズバーグの素材実験
2号店の出発点は、カヴィが惹かれた版築の表情だった。土を突き固めてつくる壁のような層を求めたが、ニューヨークの湿気に対応する必要があった。そこで、ニニヴァッジとOso Industriesのエリック・ワイルを交え、コンクリートの配合や仕上げを試すことになった。
小さな空間に、とても大胆な一手を加えたかったのです。
カヴィ・モルツ
生まれたのは、灰色とベージュの層が重なる壁だった。中央の展示台には暗く磨かれたコンクリートを使い、棚にはピラミッド形のスタッズを並べる。ENTLERの曲線的なシャンデリアが、重い素材に軽やかな動きを添えている。

店の奥には、素材を試す制作チームの映像を覗ける小窓がある。ネオンの色は、通常の調光器ではなく音響用のミキサーで変えられる仕掛けだ。壁や照明を鑑賞するだけでなく、その背後の試行錯誤にも出会える。
通り側は、柱を取り除いて開口を広げ、折り畳み式のガラス扉を設けた。扉を開けば歩道と店内がつながり、街に向かって香水の売場が開く。コンクリートに囲まれた店でも、入口は閉じた印象にならないよう工夫されている。

参考文献
- Sixtysix — D.S. & Durga on Injecting Edge into Perfume and Their Brutalist-Inspired Flagship Store
- The Armoury — Talking with David Moltz of D.S. & Durga
- Ministry of Scent — Interview with David & Kavi Moltz
- Interior Design — D.S. & Durga’s Williamsburg Boutique
- Woods Bagot — D.S. & Durga Williamsburg
- D.S. & DURGA — Nolita NYC
- D.S. & DURGA — Brooklyn NYC


